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悪い子な義妹と 初デート
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実際のところ、葵と茉莉花の関係はかなり偏っている。
普段は真面目な顔をして教師なんてお固い仕事をしておきながら、葵と一緒にいるときの茉莉花は、堕落的で、狂乱的な、欲望のままに振舞う不貞妻だった。
自分都合で葵を呼び出して、好きなだけ買い物をして、好きなだけ美味しいものを食べて、夫婦のためのはずの寝室に連れ込み、性欲の言いなりになって望むままに求めてくる。
関係の冷え切った夫のことを出汁にして、裏切りの背徳感から滾々と湧き上がる悦楽を浴びるように味わう。それが葵の知る茉莉花の姿だった。
秘密の関係を結んだ以上楽しんでもらいたいところだけど、茉莉花としているようなセックスを紫苑とできるかと言うと、そうは思えない。
どうしたものかと頭を巡らせていたところ、
【私なりの性癖があるので、それをやらせてください。】
と、件の少女から率直なご要望があった。
自分の性欲に正直なあたり、姉妹揃ってよく似ている。
それにしても、性癖とは。
最近の女子高生は、明け透けな表現をする。
茉莉花にこのメッセージを見られたら、浮気の罪と妹に手を出した罪の両方で酷い目に合わされてもおかしくない。
あっけらかんとそんなメッセージを送って来たわりに、彼女なりに勇気を振り絞ったのだと教えてくれたのは、緊張に震える少女だった。
「……澄ました顔であんな誘惑しておいて、なんでそんなに緊張してるの?」
「……葵さんを堕とすのは、自信あったんです。私、自分で言うのはアレですが、可愛い方ですし。
……あのお姉ちゃんが楽しそうに不倫してるあたり、葵さんも大概でしょうし。」
酷い言われようだが、全くもって異論はなかった。
「……ただ、こう、いざ始まると、恥ずかしさと興奮で、訳が分からなくなると言いますか。そもそも殿方とのデートなんて、初めてですし。
……はぁ、やっぱりあの日、勢いに任せて葵さんの部屋まで連れて行って貰うんでした……。」
「なんでそうしなかったの?」
「……これも言わないとダメですか?」
「もちろん」
義兄と義妹が秘密の関係を結ぶにあたって、ふたつのルールを決めていた。
ひとつは、『どちらかが解消したくなったら、きっぱり別れてただの義兄妹に戻ること』。
割り切りは不倫の基本らしい。官能小説を愛読している茉莉花が言うのだから間違いない。たぶん。
そしてもうひとつは、『互いの言いなりになること』。
したいこと。してほしいこと。恥ずかしいこと。
何でも全て、相手の期待に応えなければならない。
なにをしていい。なにをさせてもいい。
互いの性欲を尊重する、誰にも言えない秘密の契約。
理由を言えと命令されれば、答えなければならないのだ。
ふぅ、とひとつ溜息をつき、真っ赤に染まった頬を冬の風に晒しながら、紫苑は小さく呟いた。
「……下着に自信が、なかったので……」
…………ほう。
「うーん……。なんか、ゴメンね」
「……っ……!恥ずかし過ぎますっ……!」
「今日の下着は自信あるの?」
「……!……あっ、あとでわたしのこと剥むくんですから、その時確かめたらいいじゃないですかっ」
剥くって。
「……あの、手、繋ぐのヤメませんか?……その、凄く、熱いんですが……。」
「こうしたくて、誘ったんでしょう?」
「そう、ですけど……」
例の会食から一週間後の日曜日。ふたりでランチデートを楽しんだあと。
紫苑ご所望の目的地には、葵も紫苑も、何度も行ったことがあった。
「あぁ……。興奮であたま、じんじんします。もう、おかしくなりそう……」
「今日が終わる頃には、楽しめるようになってるよ」
「そういうもの、でしょうか……?」
見慣れたアーケードを抜けて、見慣れた市街地へ進む。
ずっと繋いでいた紫苑の手は、じっとりと汗で濡れていた。
あつい、あついと獣が唸る様に呟き、眼をドロドロに溶かしながらゆっくりと歩を進める様子は、自分を罰するための磔台を担いで進む聖女のようだ。
気温一桁の高い空の中、寒がりにも関わらず、歩を進める毎に、マフラーを、ショートコートを脱いでいく。マキシスカートをはしたなく振るう。
服を預かる毎に、スカートが揺れる度に、ふわり、ふわりと、塩を振ったミルクのような、紫苑の甘いフェロモン臭が立ち昇る。少女の発情の証が、公衆の面前に撒き散らされて拡がっていく。自分が季節外れの香木のように淫臭を放っていることに、紫苑は気づいていないようだった。
汗を全くかかない体質、という自己申告に反して、首筋には細かな水滴が浮いていて、ねずみ色のブラウスは、脇がべっちょり濡れて染みになっている。運動の暑さを和らげる汗腺と、発情の熱さに励起するフェロモン腺が、異なる制御の元に置かれていることがよくわかる。
「火照ったカラダを風に晒すの、気持ちいいでしょ?」
「えぇ、すごく……。でも、次会うときはもっと薄着で来ることにします。」
「それがいい。どうせ、酒を飲むか、やらしいことをするかのどちらかだからな」
そうこうするうちに、目的地に辿り着いた。
最寄り駅から徒歩10分の、十階建てのマンション。
オートロックを合鍵で開けて、エレベーターで八階へ。
「家主が不在の家に上がり込むのって、ドキドキしますよね……?」
「しかもそこで、家主に黙ってイケナイコト、するわけだからね?」
「……もう、そんなこと言って……。はぁ……。あつい……。」
玄関を開けると、そこは広々とした2LDK。
「あぁ……。お姉ちゃんの、匂いがする……。」
茉莉花の、部屋だった。
モノトーンを基調としたモデルハウスのような部屋には、誰も居ない。
当たり前だ。茉莉花は仕事で、旦那は単身赴任の別居中。
旦那の出向に茉莉花が付いて行かなかった事が、夫婦関係の亀裂を致命的なものにしたと聞いている。
茉莉花の意思も、茉莉花の生活あるのに、勝手な男だ。
部屋はこざっぱりしているが、これは葵が今朝掃除したからだ。普段はもっと荒れている。片付けが出来ないのも、茉莉花の欠点であり、可愛らしいところのひとつだ。
元々旦那の寝室だった部屋は既に片付けられていて、紫苑が月一で通う別荘にしている。
そして茉莉花の寝室は、葵が週一以上で呼び出されるヤリ部屋、なのだった。
「お姉ちゃん、今日は何時に帰って来るんですか……?」
「部活の指導の日だって言ってたし、大体18時くらいかな。
……だから、6時間くらい楽しめるね。」
今日は、茉莉花がドタキャンした食事会の仕切り直しの宅飲みを、この部屋で行う予定だった。
そして。
【お姉ちゃんの帰ってくる、お姉ちゃんの部屋で、お姉ちゃんにするみたいにやらしいことをしてほしいです。】
宅飲み前に、茉莉花のいない彼女の部屋でえっちなことをしたい。
寝取られ不倫妻を自分に投影して、気持ち良くなりたいというのが、紫苑の望みだった。
普段は真面目な顔をして教師なんてお固い仕事をしておきながら、葵と一緒にいるときの茉莉花は、堕落的で、狂乱的な、欲望のままに振舞う不貞妻だった。
自分都合で葵を呼び出して、好きなだけ買い物をして、好きなだけ美味しいものを食べて、夫婦のためのはずの寝室に連れ込み、性欲の言いなりになって望むままに求めてくる。
関係の冷え切った夫のことを出汁にして、裏切りの背徳感から滾々と湧き上がる悦楽を浴びるように味わう。それが葵の知る茉莉花の姿だった。
秘密の関係を結んだ以上楽しんでもらいたいところだけど、茉莉花としているようなセックスを紫苑とできるかと言うと、そうは思えない。
どうしたものかと頭を巡らせていたところ、
【私なりの性癖があるので、それをやらせてください。】
と、件の少女から率直なご要望があった。
自分の性欲に正直なあたり、姉妹揃ってよく似ている。
それにしても、性癖とは。
最近の女子高生は、明け透けな表現をする。
茉莉花にこのメッセージを見られたら、浮気の罪と妹に手を出した罪の両方で酷い目に合わされてもおかしくない。
あっけらかんとそんなメッセージを送って来たわりに、彼女なりに勇気を振り絞ったのだと教えてくれたのは、緊張に震える少女だった。
「……澄ました顔であんな誘惑しておいて、なんでそんなに緊張してるの?」
「……葵さんを堕とすのは、自信あったんです。私、自分で言うのはアレですが、可愛い方ですし。
……あのお姉ちゃんが楽しそうに不倫してるあたり、葵さんも大概でしょうし。」
酷い言われようだが、全くもって異論はなかった。
「……ただ、こう、いざ始まると、恥ずかしさと興奮で、訳が分からなくなると言いますか。そもそも殿方とのデートなんて、初めてですし。
……はぁ、やっぱりあの日、勢いに任せて葵さんの部屋まで連れて行って貰うんでした……。」
「なんでそうしなかったの?」
「……これも言わないとダメですか?」
「もちろん」
義兄と義妹が秘密の関係を結ぶにあたって、ふたつのルールを決めていた。
ひとつは、『どちらかが解消したくなったら、きっぱり別れてただの義兄妹に戻ること』。
割り切りは不倫の基本らしい。官能小説を愛読している茉莉花が言うのだから間違いない。たぶん。
そしてもうひとつは、『互いの言いなりになること』。
したいこと。してほしいこと。恥ずかしいこと。
何でも全て、相手の期待に応えなければならない。
なにをしていい。なにをさせてもいい。
互いの性欲を尊重する、誰にも言えない秘密の契約。
理由を言えと命令されれば、答えなければならないのだ。
ふぅ、とひとつ溜息をつき、真っ赤に染まった頬を冬の風に晒しながら、紫苑は小さく呟いた。
「……下着に自信が、なかったので……」
…………ほう。
「うーん……。なんか、ゴメンね」
「……っ……!恥ずかし過ぎますっ……!」
「今日の下着は自信あるの?」
「……!……あっ、あとでわたしのこと剥むくんですから、その時確かめたらいいじゃないですかっ」
剥くって。
「……あの、手、繋ぐのヤメませんか?……その、凄く、熱いんですが……。」
「こうしたくて、誘ったんでしょう?」
「そう、ですけど……」
例の会食から一週間後の日曜日。ふたりでランチデートを楽しんだあと。
紫苑ご所望の目的地には、葵も紫苑も、何度も行ったことがあった。
「あぁ……。興奮であたま、じんじんします。もう、おかしくなりそう……」
「今日が終わる頃には、楽しめるようになってるよ」
「そういうもの、でしょうか……?」
見慣れたアーケードを抜けて、見慣れた市街地へ進む。
ずっと繋いでいた紫苑の手は、じっとりと汗で濡れていた。
あつい、あついと獣が唸る様に呟き、眼をドロドロに溶かしながらゆっくりと歩を進める様子は、自分を罰するための磔台を担いで進む聖女のようだ。
気温一桁の高い空の中、寒がりにも関わらず、歩を進める毎に、マフラーを、ショートコートを脱いでいく。マキシスカートをはしたなく振るう。
服を預かる毎に、スカートが揺れる度に、ふわり、ふわりと、塩を振ったミルクのような、紫苑の甘いフェロモン臭が立ち昇る。少女の発情の証が、公衆の面前に撒き散らされて拡がっていく。自分が季節外れの香木のように淫臭を放っていることに、紫苑は気づいていないようだった。
汗を全くかかない体質、という自己申告に反して、首筋には細かな水滴が浮いていて、ねずみ色のブラウスは、脇がべっちょり濡れて染みになっている。運動の暑さを和らげる汗腺と、発情の熱さに励起するフェロモン腺が、異なる制御の元に置かれていることがよくわかる。
「火照ったカラダを風に晒すの、気持ちいいでしょ?」
「えぇ、すごく……。でも、次会うときはもっと薄着で来ることにします。」
「それがいい。どうせ、酒を飲むか、やらしいことをするかのどちらかだからな」
そうこうするうちに、目的地に辿り着いた。
最寄り駅から徒歩10分の、十階建てのマンション。
オートロックを合鍵で開けて、エレベーターで八階へ。
「家主が不在の家に上がり込むのって、ドキドキしますよね……?」
「しかもそこで、家主に黙ってイケナイコト、するわけだからね?」
「……もう、そんなこと言って……。はぁ……。あつい……。」
玄関を開けると、そこは広々とした2LDK。
「あぁ……。お姉ちゃんの、匂いがする……。」
茉莉花の、部屋だった。
モノトーンを基調としたモデルハウスのような部屋には、誰も居ない。
当たり前だ。茉莉花は仕事で、旦那は単身赴任の別居中。
旦那の出向に茉莉花が付いて行かなかった事が、夫婦関係の亀裂を致命的なものにしたと聞いている。
茉莉花の意思も、茉莉花の生活あるのに、勝手な男だ。
部屋はこざっぱりしているが、これは葵が今朝掃除したからだ。普段はもっと荒れている。片付けが出来ないのも、茉莉花の欠点であり、可愛らしいところのひとつだ。
元々旦那の寝室だった部屋は既に片付けられていて、紫苑が月一で通う別荘にしている。
そして茉莉花の寝室は、葵が週一以上で呼び出されるヤリ部屋、なのだった。
「お姉ちゃん、今日は何時に帰って来るんですか……?」
「部活の指導の日だって言ってたし、大体18時くらいかな。
……だから、6時間くらい楽しめるね。」
今日は、茉莉花がドタキャンした食事会の仕切り直しの宅飲みを、この部屋で行う予定だった。
そして。
【お姉ちゃんの帰ってくる、お姉ちゃんの部屋で、お姉ちゃんにするみたいにやらしいことをしてほしいです。】
宅飲み前に、茉莉花のいない彼女の部屋でえっちなことをしたい。
寝取られ不倫妻を自分に投影して、気持ち良くなりたいというのが、紫苑の望みだった。
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