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清楚な義妹と おいしいお酒
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「美味しいって知ってるモノを我慢するのって、難しいですよね。年齢確認が厳しくて買えないし、流石に寮には持ち込めませんから。結局、お店で飲むしかないんですよ。」
つまりこれは、貴重な一杯というわけです。と、ひょいと徳利を持った彼女が葵の持つ猪口に透明な甘露を注いでくれた。
「でも、ひと月前に日帰り温泉に行ったときは、飲んでなかったよね?」
「………あのときは、まぁ、猫かぶってましたから」
「もうかぶらなくていいの?」
「まだ、かぶっていて欲しいですか?」
澄ました顔で応えた紫苑。笑みのかたちを取った唇は、桃色のグロスで艶めいていた。
清楚な優等生、という印象はどこへやら。
綺麗な花には棘があるとかなんとか言うが、可憐な少女の意外な一面を目の当たりにすると、なる程、怖いくらいに魅力的だ。
葵が手を伸ばすと、更に笑みを深めて徳利を明け渡し、自身も猪口を持つ。
秘密の共犯関係の完成だった。
「それでは、わたしたちの出逢いを祝して」
「なんだよ、それ?」
両手で猪口を支える姿も、露をすいと含む姿も、とても女子高生には見えないほど大人びて。
胸の部分が立体的に張り出した葡萄酒色の薄手のセーターに、薄暗い個室に映える、透き通るような白い肌。深い黒色の髪は、シルクの滝のように艷やかに煌めいて。横座りのスカートから覗く黒タイツに包まれた美脚がその清楚な雰囲気に色香を加え、赤みののった唇がなまめかしい。
未成年といえばそうだし、成人していると言われればそう見える。
心の奥底に沢山の秘密を隠し持っていそうな、ミステリアスな少女だ。
「一緒に飲んでくれるのは、家族だけ?」
「と言うか、お姉ちゃんだけですね。最初に飲ませてくれたのも、お姉ちゃんですし。……これからは、葵さんも付き合ってくださいね?」
10個歳下の妹に酒の味を教えるとは、とんでもない女教師だ。
それを言えば、3個下の女子高生と一緒に飲む義兄も、大概なのだが。
「歳上の彼氏でも作れば、いつでも飲めるんじゃない?」
ちょっと呆れながらの義兄の問いに、ゴキゲンな義妹はにこやかに答えた。
「わたし、そう言う相手居たことないので。それに、赤の他人の男に弱味を握らせるなんて、怖いじゃないですか。」
「……………………………へぇ、モテそうなのに。意外だね。」
「まぁ、通ってるの女子校ですからね。」
オレに弱味を握らせるのは別に良いのか、と思いながらも、その動揺は隠して世間話を続けていく。実質身内という事か?
……男と言うヤツを、甘く見過ぎだ。何せ今の発言で、葵の心の中に小さな火が灯ってしまった。
彼女より少しだけ大人な葵は、その欲望を慌てて吹き消す。
無邪気な笑みを浮かべる世間知らずな少女に、なんとか、笑い返す。
紫苑に手を出すのは流石にマズイ。
何にせよ、面白い娘だな、とこれまでにない印象が葵の中に芽生えた。
物静かで、清楚な少女のこれまで知らなかった一面に、心が綻ぶ。
人生、面白いと思えるひとと知り合えることなんて、そうそうない。
「お姉ちゃんが居ないとお金の心配もしないといけませんね。飲み過ぎに注意しないと。」
「まるで財布みたいな扱いだな。……まぁ、今日は僕が出すよ。」
「学生さんなのに、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。今度、茉莉花さんに会ったときに請求するから」
「あはは。ドタキャンしたからには、そのくらいしてもらわないとですね?」
くだらない冗談で笑い合う。
紫苑の笑顔は、歳相応の幼さがあった。
そこからは、取り留めなく如何でもいい話が続いた。
料理の話。お酒の話。学校の話。最近読んだ本の話。
「へぇ、高校生であの小説読んだんだ。周りで読んでる子、居ないでしょう?」
「まぁ、そうですね、結構重い話ですから。私もお姉ちゃんにオススメされなかったら、手にも取らなかったと思います。……葵さんも、読まれたんですか?」
「読んだ読んだ。茉莉花さんに凄い推されて。おもしろかったよ。こんな作品、世の中にあるんだなって」
「そうですよね。お姉ちゃん、ホントにおもしろいこといっぱい知ってて。小説だけじゃなくて、美味しいお店とか、素敵なブティックとか、いっつも教えてもらってるんですよ?」
「あぁ、わかるよ。この間連れて行かれたバーなんて、水族館みたいな水槽があってね……」
「えっ?私、そこまだ連れて行ってもらってないです……」
話題の中心には、いつも茉莉花がいた。
結局のところ、葵と紫苑を繋いでいるのは茉莉花で。
紫苑にとって、歳の離れた姉は憧れの女性像そのものみたいだった。
なかなか堂に入ったシスコンである。あながち茉莉花の言うところの『両想い』と言うのも間違いではないのかもしれない。
紫苑は話し上手で聞き上手だった。
お酒に瞳を潤ませながら姉を語る紫苑は饒舌で、愛に溢れていて。
淀み無く流れるような声は、独特の甘い響きを持っていて、耳に心地良い。
話して楽しいひとと食べる料理はこころを満たし、お酒はこころを澄ますものだ。葵は最高の出逢いに巡り合えたことを心の底から喜んでいた。
「葵さんは、私の知らないお姉ちゃんをいっぱい知っているみたい。
……ねぇ?もっと教えて、くださいませんか?
私の知らないお姉ちゃんを。全部。」
──少女の心の内も知らずに。
つまりこれは、貴重な一杯というわけです。と、ひょいと徳利を持った彼女が葵の持つ猪口に透明な甘露を注いでくれた。
「でも、ひと月前に日帰り温泉に行ったときは、飲んでなかったよね?」
「………あのときは、まぁ、猫かぶってましたから」
「もうかぶらなくていいの?」
「まだ、かぶっていて欲しいですか?」
澄ました顔で応えた紫苑。笑みのかたちを取った唇は、桃色のグロスで艶めいていた。
清楚な優等生、という印象はどこへやら。
綺麗な花には棘があるとかなんとか言うが、可憐な少女の意外な一面を目の当たりにすると、なる程、怖いくらいに魅力的だ。
葵が手を伸ばすと、更に笑みを深めて徳利を明け渡し、自身も猪口を持つ。
秘密の共犯関係の完成だった。
「それでは、わたしたちの出逢いを祝して」
「なんだよ、それ?」
両手で猪口を支える姿も、露をすいと含む姿も、とても女子高生には見えないほど大人びて。
胸の部分が立体的に張り出した葡萄酒色の薄手のセーターに、薄暗い個室に映える、透き通るような白い肌。深い黒色の髪は、シルクの滝のように艷やかに煌めいて。横座りのスカートから覗く黒タイツに包まれた美脚がその清楚な雰囲気に色香を加え、赤みののった唇がなまめかしい。
未成年といえばそうだし、成人していると言われればそう見える。
心の奥底に沢山の秘密を隠し持っていそうな、ミステリアスな少女だ。
「一緒に飲んでくれるのは、家族だけ?」
「と言うか、お姉ちゃんだけですね。最初に飲ませてくれたのも、お姉ちゃんですし。……これからは、葵さんも付き合ってくださいね?」
10個歳下の妹に酒の味を教えるとは、とんでもない女教師だ。
それを言えば、3個下の女子高生と一緒に飲む義兄も、大概なのだが。
「歳上の彼氏でも作れば、いつでも飲めるんじゃない?」
ちょっと呆れながらの義兄の問いに、ゴキゲンな義妹はにこやかに答えた。
「わたし、そう言う相手居たことないので。それに、赤の他人の男に弱味を握らせるなんて、怖いじゃないですか。」
「……………………………へぇ、モテそうなのに。意外だね。」
「まぁ、通ってるの女子校ですからね。」
オレに弱味を握らせるのは別に良いのか、と思いながらも、その動揺は隠して世間話を続けていく。実質身内という事か?
……男と言うヤツを、甘く見過ぎだ。何せ今の発言で、葵の心の中に小さな火が灯ってしまった。
彼女より少しだけ大人な葵は、その欲望を慌てて吹き消す。
無邪気な笑みを浮かべる世間知らずな少女に、なんとか、笑い返す。
紫苑に手を出すのは流石にマズイ。
何にせよ、面白い娘だな、とこれまでにない印象が葵の中に芽生えた。
物静かで、清楚な少女のこれまで知らなかった一面に、心が綻ぶ。
人生、面白いと思えるひとと知り合えることなんて、そうそうない。
「お姉ちゃんが居ないとお金の心配もしないといけませんね。飲み過ぎに注意しないと。」
「まるで財布みたいな扱いだな。……まぁ、今日は僕が出すよ。」
「学生さんなのに、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。今度、茉莉花さんに会ったときに請求するから」
「あはは。ドタキャンしたからには、そのくらいしてもらわないとですね?」
くだらない冗談で笑い合う。
紫苑の笑顔は、歳相応の幼さがあった。
そこからは、取り留めなく如何でもいい話が続いた。
料理の話。お酒の話。学校の話。最近読んだ本の話。
「へぇ、高校生であの小説読んだんだ。周りで読んでる子、居ないでしょう?」
「まぁ、そうですね、結構重い話ですから。私もお姉ちゃんにオススメされなかったら、手にも取らなかったと思います。……葵さんも、読まれたんですか?」
「読んだ読んだ。茉莉花さんに凄い推されて。おもしろかったよ。こんな作品、世の中にあるんだなって」
「そうですよね。お姉ちゃん、ホントにおもしろいこといっぱい知ってて。小説だけじゃなくて、美味しいお店とか、素敵なブティックとか、いっつも教えてもらってるんですよ?」
「あぁ、わかるよ。この間連れて行かれたバーなんて、水族館みたいな水槽があってね……」
「えっ?私、そこまだ連れて行ってもらってないです……」
話題の中心には、いつも茉莉花がいた。
結局のところ、葵と紫苑を繋いでいるのは茉莉花で。
紫苑にとって、歳の離れた姉は憧れの女性像そのものみたいだった。
なかなか堂に入ったシスコンである。あながち茉莉花の言うところの『両想い』と言うのも間違いではないのかもしれない。
紫苑は話し上手で聞き上手だった。
お酒に瞳を潤ませながら姉を語る紫苑は饒舌で、愛に溢れていて。
淀み無く流れるような声は、独特の甘い響きを持っていて、耳に心地良い。
話して楽しいひとと食べる料理はこころを満たし、お酒はこころを澄ますものだ。葵は最高の出逢いに巡り合えたことを心の底から喜んでいた。
「葵さんは、私の知らないお姉ちゃんをいっぱい知っているみたい。
……ねぇ?もっと教えて、くださいませんか?
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──少女の心の内も知らずに。
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