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しおりを挟む「なに、これ……不思議。綺麗な空気が、体中を流れてくる……? すごい。すごく……居心地がいい」
「俺の力だよ。魔術師の血が入ってるらしくて。ヌプンタに捨てられたのを、村の人が育ててくれたんだ。恩返しに、ここに来たんだけど……」
そこで一度言葉を切る。口を閉ざしたルトは、瞳をあげてエミルを見た。ずっと、言わなければならなかった。でもどうしても言いだせなくて。ルトの力で、ふたなりになった事実を今ここで。
「エミルが核種胎で、生死の境をさまよってたときにね。ずっとこの力を注いでたんだ。それでエミルは」
完成形で生き残ってしまった。だが続けようとした言葉は、エミル自身によってかき消された。横から、エミルが勢いよく飛びついてきたのだ。座るルトの上半身が、二人一緒に倒れてしまう。
声を紡ぐどころか、二人分の重みで、けほっとむせた。息を止めるルトを下敷きにして、エミルはルトの首へ伸ばした腕を絡ませてくる。ルトの細い首が軽く締まって、ちょっと苦しい。
「じゃあ僕は、ルトの力にずっと助けてもらってたんだ」
「ち、が……エミル、俺は」
「ありがとう、ルト。ずっと僕を、守ってくれて」
ルトの耳元で、エミルがふわりと声を出す。ぎゅうぎゅうと、なおさらしがみつかれた。ルトへ伸しかって離れないエミルに、次第にくすくすと笑い声が響きだす。
「あぁーあ、エミルのルト大好き攻撃が始まったよ。さすが、ルト信者一号だな」
からかい交じりのユージンの声がする。張り詰めた空気がとたんに和らいだ。だがエミルは、全体重でルトに抱きついて動かなかった。
困った、と思ったところで、ラザがエミルを引き剥がした。
「ほらほら、エミル。ルトが好きなのは知ってるから。そろそろどいてあげて。ルトが動けなくて困ってるだろ」
完全に言いそびれた。首根っこを掴まれたエミルと一緒に、ルトもやっと起き上がる。和やかになった雰囲気を、再び暗くさせられずに押し黙った。
どうしようかと悩んでいれば、捕まったエミルをユージンが覗く。少し間を置いて、思考を巡らしたのか、男前がとんちをする形相になって腕を組んだ。
「でもエミルってさ。ふたなりになったんだったよな。それってさぁ。ヌプンタに帰ってもそのままなのか? だったらもしかしたら、人間の男とも子ができる?」
「えー。さすがにそれはないんじゃないー? あーでも、どうだろう。ルトは人間の子ができたんだよね? もともとは核種胎の力で……エミルの身体と融合してるわけだから……やっぱり妊娠するとか?」
ユージンの疑問にパーシーが素早く答える。みんな首を傾げるなか、ユージンがさらに続けた。
「じゃあ、核種胎でできた偽子宮ってさ。相手が獣人じゃなくて、人間の子種でも、子ができるもんだと思う?」
「うー……、わかんないよっ。なんなのユージン。変なことばっか。核種胎に興味でもあんのー?」
すぐさま飛んだ突っこみにユージンが頭を掻く。何食わぬ顔で、理知的で冷静な男前は、さらりと爆弾発言をした。
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