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しおりを挟む「私の一言が、どれほど波風を立てるかわかっています。上奏もせず、陛下の御心と、朝議を騒がせた罰は甘んじて受け入れます。ですが、孕み腹に関しては引く気はありません。ルトに関心を持たれ、陛下も薄々はお気づきになられたはず。我が国を堕落させる孕み腹は、いずれは廃止しなければならないことを」
人間への認識が変わらぬ今は、時期尚早とわかっている、それでもだ。腐ったしきたりは膿み続け、気づかぬ間にすべてを呑みこむ。いつか、取り除かなくては。
歴代の皇帝は、人間に見向きさえしなかった。以前の皇帝と同じ。だが今、この時代に、何の運命の導きか。皇帝は奴隷である人間のルトを、この世に置きとどめようとしている。たとえそれが愛情ではなく、執着からくるものだとしても。
長い暗黒の歴史に終止符を打てるなら、これほど与えられた機会はない。皇帝が自ら動いた、それが好機だ。
「無礼を承知のうえで申し上げます。陛下はルトをどうしたいので? 此度ルトが、ラシャドの二人目の子を無事に出産したとして、再び夜伽に召せば、ルトはまた幾度となく激しい蹂躙にあいましょう。これではルトが持ちますまい。陛下がルトの命を摘みたいのなら、誰であろうと止められはしません。ですが、そうではないでしょう」
死を目前にしたルトは、コルネーリォたち魔術師の力でどうにか生き延びた。六日間も昏睡しながら助かったのは、エスマリク宮殿に住まう皇帝自身の命めいであったからに他ならない。風前の灯の命など、他の腹ならば、捨て置かれたはずだ。
皇帝が一言「生かせ」といえば魔術師たちは懸命に生かす。まさしくルトは生かされた。
「このままでは堂々巡りにしかなりません。もはや精も根も尽き果てて、ルトは今では、死に向かう一方です。身も……心も」
身体は助かった。けれど心は、もう死んでいるかもしれない。消えそうな命だけを、必死に繋ぎとめたとして何になろう。過酷な運命に翻弄されるだけなのに。目覚めたルトは、あのまま死んでしまいたかったと、嘆くかもしれないのに。
ルトをこの世に繋ぎとめるものは、グレンの、ラシャドの、皇帝の、身勝手な思いだけだ。死の誘惑にかられるルトの身体と心を、皇帝が感じ取れないはずがないのだ。
真正面に対峙する、グレンの隠された言葉に皇帝がぴくりと眉を上げた。金色の双眸を険しく細め、苛立ちとともに空気が軋む。
排除か共存か。皇帝のなかでわき上がる、相反する心がひしめく、ざわめきにも思えた。押し負けそうな圧迫のなか、だがグレンも譲らなかった。
「あなたがルトを生かしたいのならば、あなたは未来を変えるべきです」
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