けだものどもの孕み腹

ソウ

文字の大きさ
上 下
299 / 367

24-(8) 

しおりを挟む

「私の一言が、どれほど波風を立てるかわかっています。上奏もせず、陛下の御心と、朝議を騒がせた罰は甘んじて受け入れます。ですが、孕み腹に関しては引く気はありません。ルトに関心を持たれ、陛下も薄々はお気づきになられたはず。我が国を堕落させる孕み腹は、いずれは廃止しなければならないことを」

 人間への認識が変わらぬ今は、時期尚早とわかっている、それでもだ。腐ったしきたりは膿み続け、気づかぬ間にすべてを呑みこむ。いつか、取り除かなくては。

 歴代の皇帝は、人間に見向きさえしなかった。以前の皇帝と同じ。だが今、この時代に、何の運命の導きか。皇帝は奴隷である人間のルトを、この世に置きとどめようとしている。たとえそれが愛情ではなく、執着からくるものだとしても。

 長い暗黒の歴史に終止符を打てるなら、これほど与えられた機会はない。皇帝が自ら動いた、それが好機だ。

「無礼を承知のうえで申し上げます。陛下はルトをどうしたいので? 此度ルトが、ラシャドの二人目の子を無事に出産したとして、再び夜伽に召せば、ルトはまた幾度となく激しい蹂躙にあいましょう。これではルトが持ちますまい。陛下がルトの命を摘みたいのなら、誰であろうと止められはしません。ですが、そうではないでしょう」

 死を目前にしたルトは、コルネーリォたち魔術師の力でどうにか生き延びた。六日間も昏睡しながら助かったのは、エスマリク宮殿に住まう皇帝自身の命めいであったからに他ならない。風前の灯の命など、他の腹ならば、捨て置かれたはずだ。

 皇帝が一言「生かせ」といえば魔術師たちは懸命に生かす。まさしくルトは生かされた。

「このままでは堂々巡りにしかなりません。もはや精も根も尽き果てて、ルトは今では、死に向かう一方です。身も……心も」

 身体は助かった。けれど心は、もう死んでいるかもしれない。消えそうな命だけを、必死に繋ぎとめたとして何になろう。過酷な運命に翻弄されるだけなのに。目覚めたルトは、あのまま死んでしまいたかったと、嘆くかもしれないのに。

 ルトをこの世に繋ぎとめるものは、グレンの、ラシャドの、皇帝の、身勝手な思いだけだ。死の誘惑にかられるルトの身体と心を、皇帝が感じ取れないはずがないのだ。

 真正面に対峙する、グレンの隠された言葉に皇帝がぴくりと眉を上げた。金色の双眸を険しく細め、苛立ちとともに空気が軋む。

 排除か共存か。皇帝のなかでわき上がる、相反する心がひしめく、ざわめきにも思えた。押し負けそうな圧迫のなか、だがグレンも譲らなかった。

「あなたがルトを生かしたいのならば、あなたは未来を変えるべきです」



しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...