けだものどもの孕み腹

ソウ

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 かしこまったグレンの物言いに、無表情だった若草色の瞳が小さく片眉をあげる。獣人の帝王が住まう王宮では、獣人のほうが立場は上だ。ましてやここはシーデリウム帝国だ。下位である魔術師に対し、本来ならかしこまった言い方はしない。

 しかし獣人という地位と権力で、無理やり従わせては意味がない。互いの間では獣人も魔術師も対等だ。そのうえで目の前の魔術師が、自らの意思で力を貸そうと思えなければ。

「ある孕み腹を助けたい。その少年は今、子を孕んで菖蒲殿にいる」
「助けるですと?」

 グレンの第一声に、若草色の瞳が歪んだ。魔術師コルネーリォは要求を吐き捨てる素振り。敵意も露わな視線を、グレンは真っ向から受け止めた。

「そうだ。孕み腹を助けたい」
「おかしなことを。孕み腹を繁殖の道具として扱うのはあなたがた獣人では? 他国から、奴隷として連行した孕み腹が孕んだのなら、喜べばよろしいでしょうに」

 獣人であるグレンを蔑み、冷たい視線が刺すようだ。コルネーリォの感情に引きずられまいと、グレンは静かに拳を握り締めた。

「君の言うとおりだ。俺たち獣人は、人間を……道具として、踏みにじっている。何を言われようと受け入れよう。だが、だからこそ、一つずつ、目の前の歪みを正していきたい。頼む。あの少年を助けてくれ。あのままだと死んでしまう。俺たち獣人は、孕み腹の宮殿には近寄れない。君の助けがいるんだ」
「私は魔法省が操る盤上の駒に過ぎませんぞ。その魔法省が、貴殿ら獣人のしきたりに従えと言っている。しきたりによれば、孕んだ腹を助けろとは申しておらぬはず。警告がなされない限り助けは無用。それを承知で破り、宮殿付きでもない魔術師が手出しするということは、すなわち魔法省の目を欺けということだ。私に、属する魔法省を裏切れと?」

 できない相談だ。グレンの説得に背を向けて、無機質な声音で立ち去ろうとする。後ろを向いた背に、グレンはすかさず声を荒げた。

「君と孕み腹の境遇は! とても酷似している。そうだろう、コルネーリォ・ヴェナンツオ!」

 若草色の瞳が険も露わに振り返った。整った唇の端を歪め、再びグレンに向き直る。憎しみともいえる感情を乗せた表情で、コルネーリォが口を開いた。

「私を調べたのか」
「だから君を選んだ、コルネーリォ。おそらく君は能力の高さゆえ、親に売られたな。帝国シーデリウムが支配する魔法省へと。実績も見た。確かに、君の実力はずば抜けている。さぞや、高く売れただろう。君を売りさばいたおかげで、君の親兄弟はずいぶん楽な暮らしができただろうな」



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