けだものどもの孕み腹

ソウ

文字の大きさ
上 下
147 / 367

13-(10)

しおりを挟む

「なんでですか」

 間違ってなどいない。村のみんなには大切な家族があった。ひとりぼっちのルトを育ててくれた優しい人たちだ、ルトは正しい道を選んだ。どうしてそんなことを言う。

 ルトは目線だけで先を促す。グレンはルトから目を逸らさずに、はっきりと言い切った。

「俺は人間がどうなろうと気にはしない。だが、君の存在だけは……俺にとっては特別のようだ。君がいらない存在だとは、思えない」

 人間は卑しいものだ。だがルトと会って人間の慈悲深さに触れた。咲くだけの花を慈しむ小さな姿は、グレンの心に淡い炎を灯した。

「俺の目の前に現れてくれた人間が、君で良かったと俺は思う。獣人の俺が言えた義理ではないが……ルトにとっては、耐えがたい選択だった、かもしれないが……」

 それでもルトがここにいなければ、グレンはずっと人間を誤解していた。皇帝に付き従い、呪いともいえる因果に囚われたまま。目を曇らせたまま、本質を知ろうとしなかった。

「ルトがここにいてくれて、少なくとも俺は感謝しているよ」

 どこにいても己を見失わないルトは、誰よりも輝いて見える。そう言ったグレンは困った笑みを浮かべ、ルトの頬に指を滑らせてきた。

「あ……」

 頬を伝う何かを拭われた感触がして、ルトは、いつの間にか自分が涙をこぼしているのだと気づく。一度自覚したらもう止めることなんてできなかった。

 ツエルディング後宮にきてからずっと張りつめていた。緊張の糸がぷつんと途切れたように、ルトの頬に幾筋もの涙が伝う。よりにもよって、本当に、どうして。ルトを苦しめるグレンが……獣人が、そんなことを言う。

 本当は心のどこかでずっと誰かに言ってほしかったのだ。ルトも大切な存在だと。ルトだって、ちゃんと生きてる。

 ひとりぼっちは寂しいし、安い命なんかじゃないし、ときには優しい温もりに包まれたい。自分で歩けないほど身体や心が疲れ果てたときは、誰かにうんと甘えて、大丈夫だと守ってほしい。

 子が親の情を求めるように、ただ純粋に、安らかな腕に包まれていたい。

「う…っ、うぅ……っ」

 泣き続けるルトを、グレンはぐっと胸に抱いた。

「すまない、ルト。君にとったら、俺こそが……いないほうが、いいのだろうな……。俺は、獣人で、君は人間で。俺は人間の君に何も、できなくて。俺たち獣人は君を…、君の大切な人間を、苦しめている。それなのに俺は」




しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...