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しおりを挟む「そう言うなって。もうすぐ俺も、ツエルディング後宮の警護にあたるんだ。だから、もしかしたら、どこかで見るかと思ってな」
ツエルディング後宮には専用の護衛兵がいない。後宮の警護は担当がなく日替わり制だ。もしも問題が起こったとしても、人間の少年の力など知れている。
ときどき荒くれものの獣人が乱闘騒ぎを起こすこともあるが、飛報石があれば駆けつけられる。たいてい下っ端の近衛兵が何人かで孕み腹を見張り、兵が出払っていれば役人でも良かった。
グレンは日々の鍛錬を重ねてこその腕前だが、普段は警護に当たらない。近衛兵が足りないときだけ穴埋めに担当する程度だった。
くくくと頬を緩めて面白がるグレンに、ラシャドはちっと舌打ちした。
***
「勅命を受けよ、ラシャド・ロウゼ。昨夜、お前は招集命に背き任務を放棄した。アドニス・セドラーク・シーデリウム皇帝陛下の御前で深く反省の意を示し、態度を改めよ。三カ月の減俸処分とする」
「皇帝陛下の寛大な処遇を賜り、ご恩情に感謝する。…………で。皇帝陛下。俺、いや、私への用件はこれで終わったか?」
「ラシャド! 無礼だぞ!」
勅命を読み上げたムイック隊長が唾を飛ばす。皇帝陛下の執務殿で両膝をついたラシャドは、許可も取らず目線を上げた。
中央の奥に居座る皇帝の傍には、精鋭兵のムイック隊長が右側に控える。ラシャドとともに入殿したグレンが左側に付き添った。甘い瞳が仕様のない奴だと苦笑している。
皇帝を前にしてもまったく態度を改めないラシャドに、気が収まらない隊長の苦言が続く。彼は虎の獣人で気前が良く腕もいい。部下に慕われる隊長だが、頭が固いのがいただけない。
両膝をついて、片手の甲に手のひらを乗せて肘を張り、顔を伏せる。この体勢は肩が凝るのだと、ラシャドは早々に顔を上げた。
目の前に坐するのは、輝く金色の若獅子だ。黄金を溶かしたのかと錯覚させる、見事な金の瞳と髪を持つ。
父王であった先帝が急逝し、若い皇太子が王位について早数年。ラシャドより一つ下だが、さすがは帝王だ。口を閉ざしたままでも威圧を感じる。
天界の神が気まぐれに、彫刻で造ってみせたように整った造形だった。さらには幼い頃より、選りすぐりの師から教養と武芸を嗜む。立ち居振る舞いの気高さは、遠目にあっても誰であろうと一目置いた。
ラシャドに負けず劣らずの均整の取れた体躯といい、間近に仰げば、尻込みするほど圧巻だった。
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