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夏休み その7

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「何故、ここに連れてきたのよ……」


「その方が楽しいじゃない♡ここにいてもさやかが落ち着かないのも知ってたけど……。何より私が会ってみたかったから!」

「さやかったら学校の友達の話とか全然してくれないんだもの!それだったら連れてきた方が早いじゃない!」


つまりは……ここに連れてこさせたのも切符を入れたのも母がただ会ってみたかったからということなのか……。


やはり母の思いつきか……。


「つべこべ言わずにさぁ!行ってらっしゃい!!」


そう言われると後ろに待機していたリムジンに乗せられ私達は駅に送り出された。


「ごめんね……お母さんいつもそうなの。移動ばかりになって大丈夫?」


「我か?我はむしろ楽しいぞ!宝探しというかスタンプラリーというか……そんな感じがしてな!」


「そう……ならいいけど」


別荘の最寄り駅までの1時間半程の間は体を休めることにした。


「賀川さん……起きてください。着きましたよ……」


「おう。着いたか!」


この景色はいつぶりだろうか……。

おそらく最後に来たのは3年ほど前の中学一年生の頃だと思われる……。

目の前に広がる透き通ったエメラルドブルーの海と潮風に乗って香ってくる潮の香り。

私はこの潮の香りがすごく好きだった。


お母さんが用意してくれた思い出の別荘は影の上にあり、水平線上に見える海がこれまた綺麗だ。


「着きましたよ」

「ここが今日泊まる別荘です」


「デカっっ、これは本当に家なのか!?」


「ここは海は近いけどプライベートビーチになっているから静かに過ごせるわね、これは勉強が捗るわ!」


私がこの家を使うのは3年ぶりだけれどもちょこちょこお手伝いさんが管理をしに来ていたそうで家の中はホコリひとつない綺麗な状態で保たれていた。

「この部屋を今日は使っていいからここに荷物を置いておきなさい」

「早速合宿のカリキュラム始めるわよ」


「え?その前にこうするのでは無いのか?」


そう言うと賀川さんは来ていた服を脱ぎ、下から出てきたのは私が選んだ水着だった。


「ほれ!さっさと着替えるぞ!さやか殿!白波の浅葱界(ターコイズ・タスネリタ)に行かねければならないだろう!」


「それより、今日ずっと水着着て過ごしてたの?」


「まぁそういうことになるな」


「海に行くとは限らなかったじゃない」


「まぁその時はその時で着替えるつもりだったぜ」


まぁ、勉強は夜でもできるし、潮も満ちてくると入るのは危険になるしまぁ今回は良しとするか……


「その代わり、夜するのよ?」


そう言って後ろを振り向くと賀川さんの姿はもう無かった。


真夏のプライベートビーチは静かで透き通った海は火照った身体を冷やしてくれた。


賀川さんの大量の荷物はどうやら遊ぶための道具が入っていたらしく、浮き輪にビーチボールにシュノーケルに、水鉄砲……と彼女のカバンは異次元ポケットのように道具がぽんぽん出てきた。


まぁ……どれも楽しかったけど……。


いつの間にか日も暮れ、満潮も近くなったため私達は撤収することにした。

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