カクテル

中野リナ

文字の大きさ
上 下
3 / 6

サマーカクテル1

しおりを挟む
 春先からの原材料の値上がりにより、木田はバーのメニューを減らすことを提案した。しかし、それに反対したのは意外にも成島だった。
「そのメニューを楽しみに来てくれるお客さんもいるわけだから。簡単にメニューを削除しちゃうのは、ちょっといただけないな」
 成島は顔を傾げるようにして目を細めて言った。
「でも、このまますべてのメニューを続けていたら、店やっていけないぜ」
 木田が片眉を持ち上げる。
「悠斗はどう思う?」
 厨房で下ごしらえをしながら二人の様子を興味深げにうかがっていた岡本は、突然名前を呼ばれて「はぁ……」と声を出した。
「メニュー減らすこと、どう思う? 悠斗」
 聞いてなかったと思ったのか木田がもう一度訊いた。
 ちなみに、もっと盛大に喧嘩しろ、と岡本が思って聞いていたのは内緒である。
「たしかに材料を今のまま仕入れて料理してたら難しいですね。でも、安易にメニューを減らすのは俺も反対ですね」
 岡本はいつでもどこでも完全に成島の味方をするつもりだった。
 ほらね、という風に成島が両手を広げた。
「じゃ、どうする?」
 木田が呟くように言う。
 成島が珍しく意地悪気に言った。
「それを考えるのがチーフの仕事だよね」
「わぁってるよ、俺がいつ仕事を投げ出した? そういう言い方やめろよ」
「投げ出したなんて言ってない」
「遠回しにそう言っただろ。俺は店のためを思って言ってるんだぜ。おまえも少しは考えろよ」
「僕の考えを言ったら、君に強要することになる。そういうやり方は本意じゃない。チーフは君だ。君が考えなきゃ」
「言ってみろよ、参考にするから」
「いやだ、言わない」
「なんで言わないんだよ」
「君が考えるべきことだよ」
 岡本は、うへぇ~と内心面白おかしく思いながら、ふたりのやりとりを見ている。普段ふやふや~っとして貞操の観念すら怪しいような成島が仕事に厳しいのは知っている。でも、木田相手にここまで言うとは思わなかった。というよりも、もしかしたら、何かここまで言わせる理由が他にあったのかな? と岡本は疑う。
「大体君は……僕にすべてを言わせないと気が済まないの?」
 成島の言葉の論点がずれてくる。
 岡本は、お? お? と思って、ふたりを見ている。
「どういう意味だよ?」
 木田の目が鋭く成島をにらむ。
 岡本だったら、ここまで言われてそんな風に睨まれたら涙目になっちゃいそうな怖さである。
「昨日も、女の子と映画行く約束してたでしょ」
 う、と木田が息をのんだのがわかった。
 岡本は、へぇ~と冷たい視線を送る。
 もっと言ってやってよ、成島サン、の心地である。
「サキさんはそういうんじゃなくて……あのひとの紹介してくれる映画は特別なんだ……」
 珍しく、木田がしどろもどろになる。
「そうなんだ、特別なんだ。サキさんだかアキさんだか知らないけど、そのひとと行くことないでしょ。僕と行ってよ。僕と見たらいいでしょう」
「俺は……」
 木田が言いかけて止める。
「なに」
 成島が言葉を促す。
 木田はうつむいて、唇を噛みしめる。
「もう、いい」
 一言そう言うと、木田は厨房を出て、店のドアを押し開けて外に出て行ってしまった。
 岡本は、あらあら~と内心笑いながら思っている。
 岡本の気持ちとしては、このままふたりが別れたら、成島さんは俺のもの、である。
「成島さん、チーフ、もう帰ってこないんじゃないですかぁ。鍵かけちゃいましょうか」
 岡本が言うと、成島はなんだか染み入るような悲しい微笑みを浮かべて、言った。
「いいや。冬夜は必ずもどってくるから」
 成島は少しうなだれるようにして厨房を出て行った。
 岡本は、このまま二人がどうなるか見てたいなーと思ったけれど、自分の担当の下ごしらえが終わると、二階に上がり、帰宅しようと成島に声をかけた。
「成島さん、俺、帰ります。戸締りお願いします」
 のぞきこむと、リビングのソファに頭を抱えて座っていた成島はぼんやりとした表情で振り返った。
 なんとなく、チャンスだと思った。
 岡本は、靴を脱いで上がると、リビングに入り、成島の隣に座った。
「チーフ、ひどいですよね。成島さんの言うこともよく聞かないで」
 岡本はそう憤慨してみせる。
 成島は何も言わなかった。
 岡本は大きく息を吸いながら、成島の様子を見る。
 唐突に、ぎゅ、と腕を回して自分より幾分おおきなその背中に頬を寄せる。
「成島さん、俺のものになってよ」
 岡本は言うと、成島はびっくりしたように振り返った。
「悠ちゃん?」
「俺、成島さんと一度寝た時から、あなたのことが忘れられないんだ。ねぇ、もう一回、俺と寝て? 俺、誰よりも大事にあなたを抱くよ」
 成島は震えるような目で岡本を見ていた。
 感覚的に、もう一押しだ、と岡本は思う。
 人間は、弱っている時、人肌を欲す。
「だれよりも優しく、してあげる。成島さん、俺と寝た時、名前で呼んでくれたでしょ。また、呼んでよ。俺、あなたに名前で呼ばれるの、好きなんだ」
 岡本はそう言うと、撫でるようにして成島の頬に手をかけて、唇を近づけた。成島は拒否しなかった。その従順な態度に、岡本の心臓が鳴る。唇をさらに寄せ、接すると思った瞬間、ぐいと身体が押し離された。
「だめだよ。僕には冬夜がいる」
 誰とでも寝るような成島さんから、そんな言葉がでると思わなかった。
 岡本はびっくりし、そしてカッとなった。
 成島の両肩を掴むとすごい力でソファに押し付けた。
「悠ちゃんっ…!」
 成島が怯えるような声をあげた。それが岡本の頭をさらに熱くする。
「俺、男ですよ。成島さんのこと、好きにしたい気持ち、わかります?」
「僕も男だよぉ」
 成島が泣いてるみたいな声をあげる。
 それが岡本の気持ちを煽る。
「成島さん、俺のものになってよ」
 懇願するみたいに呟いて、無理やり唇を寄せようとしたその時だ。
「悠斗、なにやってる」
 頭上からすごい威圧感とともに殺しかねないような凄みのある声が落ちてきて、岡本は動きを止めた。
 ゆっくりと振り返る。
 木田が鬼の形相で仁王立ちしていた。
 殺される……!
 岡本は跳ね上がるようにして、成島から身体を離した。
「チーフ、これは……」
「成島は俺の、だぞ」
 当然とでも言いそうな物言いに、岡本はかちんときた。
「知ってます! でも、あんたが来る前は、成島さんは俺のものだったんだ!」
 木田の鋭い目が細まる。
 そうなのか? という疑問を含めて成島を見る。
 成島はちょっと困惑した表情をした。
「違うみたいだけど」
 その表情を見て、木田が言う。
「違うけど、俺のものだったの!!」
 岡本は俄然言い張る。
「おまえ、ちょっとバカなんじゃないのか」
「チーフに言われたくありません」
 岡本は憮然と返す。
 木田は岡本を気にせず、成島を見た。
 すごく穏やかな優しい目だった。
「成島、俺、今、仕入れ先まわって、仕入れ値をさげてもらえるように直接交渉してきたんだ。交渉の結果、値段を下げてもらえることになって、メニューを減らさなくても済みそうだ」
 木田が言うと、成島は表情を緩めた。
「冬夜……ありがとう。僕は、君が自分で考えて自分で動いてくれるて信じてた」
 成島が岡本を押しのけてソファから立ち上がり、木田をハグする。
 岡本は断然おもしろくない。
「で? 木田さんの恋人のサキさんだかアキさんだかはどうなったんですか」
 岡本は焚きつけるような言い方をした。
「サキさんは映画友達だよ。サキさんと映画をみてるとき、ずっと成島のこと考えてる。成島とこの映画見たいなって思って、映画見てる。でも、おまえは忙しいだろ。映画なんて誘ったら迷惑だろ……でも、おまえがいつか暇になったとき、一緒に見る映画を俺はリストアップしてるんだ」
 木田は珍しく遠慮するような物言いをした。
 成島はふわりとこの上なく柔らかく微笑んだ。
「冬夜がそんな風に考えてくれてたなんて、僕、嬉しいな。今度、サキさんを僕にも紹介してよ。時間のある時、三人で一緒に映画行こうよ」
「俺も行きます」
 岡本が手をあげる。
 木田が片眉持ち上げた。
「なんでお前が入ってくんだよ」
「いいじゃないっすか」
「悠ちゃんも一緒に行こうね」
 成島からしたら岡本は完全にかわいい弟扱いだ。
 岡本が、ぐぬぬ、と歯を食いしばる横で、どちらからともなく木田と成島はキスをし始めた。
「だめだよ、冬夜……待って……悠ちゃんが見てる……」
「待てねぇよ……」
 木田の手が成島のシャツの中にすべりこむ。
 成島のきめ細かく吸い付くように滑らかな肌の感触を思い出して、岡本は唾をのむ。
 シャツの下、木田の手が成島の胸の突起をいじっているのがわかる。
「悠斗、知ってるか? 哲は乳首で気をやるんだ」
「やめて、冬夜」
 そう言いながら、成島は木田にされるがままになっている。
 岡本は息をのむ。
 乳首でイくってこと? それ、すごい。すごい、見たい。
「すごいな、悠斗に見られてるからか? 乳首、すごい勃起してきたぜ」
 木田が囁く。
 その声は岡本に丸聞こえである。
 岡本の身体がむずむずしてくる。
「あっ……乳首、じんじんするっ……」
 成島がかすれた声で言う。
 成島さん、そんなこと言われたら、俺、収まりつかないっす。
 岡本は口元を抑える。
 木田の手が、成島のシャツのボタンを外していき、薄紅色の乳首が垣間見える。それは小粒なのに張りつめるようにして勃起していた。
「こんなにうまそうな乳首、ねぇよなぁ」
 木田がそう言って垂れた前髪を耳にかけながら顔を寄せ、ベロンと舐めた。
「あぁぁっ」
 成島が手で口を抑えながら喉元をのけぞらせる。
 木田は成島のシャツを脱がせて背後から手を回し、岡本に見せつけるようにして乳首を揉みしだいた。
「ほら、悠斗。哲の乳首、すごいだろ。おまえに見られて、感じてるみたいだぜ」
 ほの白い肌にパールピンクの乳首が楚々と突き立ち、木田の指先にいじられている。親指と人差し指で上下に挟むようにして、くりくりされる。
「あ、やっ……冬夜、だめだよっ……!」
 言いながら、もっとというみたいに成島は木田の首に片腕をもちあげて絡めてきた。のけ反るように乳首がそそりたつ。それを木田の指先が上下に弾く。小粒の乳首は、震えるように突き立った。
 木田は親指と人差し指でつまんで押しつぶすようにする。
「あぁぁ……」
 人差し指でびろんびろん弾き続けて、勃起したそれをむぎゅっと引っ張る。
「あ~っ……」
 赤く充血して勃起するそれをぐりぐり押しつまんで潰す。
 執拗に木田の手は乳首を責める。
 掌で転がすように乳首を弄び、びょーんとその乳首を引っ張って、押しつぶす。
「あ、だめっ」
 びくん、と身体を一際大きく跳ねさせて、成島はイった。
 呆けるようにとろけた目で、黒髪を乱して、成島がはぁはぁ息を荒げている。
「どうだ? 悠斗。これが俺の哲だ」
 ごくり、と岡本は唾をのむ。
 成島の痴態に岡本はデニムの下肢が張りつめてぎんぎんになっている。いや、もしかしたら、ちょっとイったかもしれない。
 渇望するように、成島に触りたいと思う。
 滾るような目で成島を見つめて、岡本は口を開く。
「チーフ……俺にも、触らせてください……」
「だめだ。おまえは見てろ」
 木田はそう言うと、成島のトラウザーズを下着ごとおろした。
 達して濡れそぼった成島のそそる形をしたそれが、あらわになる。イったばかりなのに、それは再びゆるく勃起していた。淫乱だ。
「や、やめてよ、冬夜っ……悠ちゃんが、困ってる……!」
「どうかな」
 木田は愉しむような目で岡本を見ると、その屹立を揉みこんだ。
 ぐにゃり、と陰嚢が手の中でひしゃげて張りつめる。
「あ、あぁ……」
 成島は、卑猥に腰をしゃくりだす。
「冬夜ぁ……僕、たまんないっ……」
「淫乱だなぁ、成島」
 岡本は体が熱くなってくる。
 木田の手に下肢を揉みしだかれながら、成島はひっこひっこと腰を揺らす。それがあの行為を想起させて殊更に淫猥だ。
「成島さん……すごい、やらしいです……」
 揶揄ではなくて、褒めるような気持で岡本は呟く。
「や、やだっ、見ないで……」
 木田の手に与えられる悦楽に耽っていた成島は、岡本の視線に気づいたように、動きを止めて身体を赤くした。
「ここも見てもらうか? 哲」
 そう言って木田は成島の身体とぐるりと向かい合う。
「冬夜……」
 成島はたまらないみたいに木田にキスをする。舌と舌を絡め合わせて啜りあう、濃厚なディープキスだ。その体をたどるように木田の手が伝い、岡本に向けている成島の尻肉を手でわけた。
 ゆっくりと目の前にさらされたそれに岡本は息をのむ。
 成島のあらわになったそこは、少しほの暗い口を開いてヒクついている。
 欲しがっている、と形容するに的確なその穴は、男を求めていた。
 木田とキスをしながら感じているのか、成島は匂うように尻穴を震わせている。
「混ざるか? 悠斗」
 成島から唇を離して、その屹立を揉みこんで喘がせながら、木田が視線を寄越してくる。
「はい」
 成島に触りたい一心で、岡本は熱っぽく返事をする。
 岡本は自分が経験したこともない悦楽の世界に自分が踏み込んだのを感じた。





サマーカクテル2へつづく
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

器のおかしい先輩とオカン科スパダリ属な後輩くん

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:123

飼い主と猫の淫らな遊び

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:135

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:15

ケツ穴風俗に体入したらハマちゃったDDの話

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:187

激闘!アナニー一本勝負!!

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:28

喘ぎ短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:39

【 理想のKA・RA・DA 】完

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:5

何でもアナニーのオカズにするDK君のモテ期

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:72

あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

BL / 連載中 24h.ポイント:4,866pt お気に入り:156

処理中です...