カクテル

中野リナ

文字の大きさ
上 下
1 / 6

ウィンターカクテル

しおりを挟む
 しとしととそぼ降る雨が降り続いている。11月の雨は冷たく、氷を含んでいるように身体を芯から冷やす。
夜の空はどんよりと曇って、さきほど終電が発車する音が遠く聞こえた。
軒先に入って、木田《きだ》冬夜《とうや》はジーンズポケットを叩く。フロントポケットを叩き、バックポケットを叩き、ライダースのあらゆるポケットをさぐり、ため息をする。黒い前髪片側を軽くバックに流して全体的にふんわり持ち上げた髪型、片耳にはシルバーのリングピアスをして、黒ぶちのダテ眼鏡をしている。
ああ、ついてねぇ……。
 そう思った時、すぐ傍にあったドアがりりん、と透明な音を鳴らして開いた。
顔を出したのは、このバーの店主・成島《なるしま》哲《さとる》だった。成島はカギを閉めるついでに外の雨の様子を見ようと思ったのか、すぐ、木田に気付いた。
 成島は木田と目が合うと、にこり、と笑った。
「待ち合わせ?」
「なわけねぇだろ」
 木田はつまらなそうに返す。
「だよね」
 成島はふんわりと柔らかく微笑する。少し癖のある短い黒髪をラフに整えて、目元がきりっとしている。
白シャツに黒ベスト、黒いボウタイのところをみると、バーテンダーなのだろう、と木田は見当をつける。自分と同じくらいの年齢な気がした。二十代後半か。服装からかっちりした印象を得たが、笑った様子は優しそうだった。
「どうしたの?」
「サイフと定期すられた。そのときタバコとライターも落としたみてぇ」
「警察は?」
「行きたくないね。俺、一度ケンカしてパクられたことあるから」
 木田はそう言うと、夜空を見上げながら、口淋しそうに右手の人差し指を曲げて、唇を擦った。成島は、ふーん、と木田を見ている。
「雨止んだら、歩いて帰るから。それまで悪いけど、軒先貸してくれって店長に言っておいて」
 木田が言うと、成島は首を傾げた。
「店長は僕なんだけど」
「あ、そ」
 木田はあまり興味なさげにそう言って、寒そうに足踏みをして両手をさすった。
「つまり、そーゆーことなんで。軒先借りるわ」
木田が話を切り上げるように言うと、成島は少し遠慮がちに口を開いた。
「この上のマンションに僕の部屋があるけど」
「あ?」
「もしよかったら、雨宿りしていく?」
 木田はびっくりしたように成島の顔を見つめる。
「おまえ、頭おかしいひと?」
 木田のもの言いに、成島がふふふと笑う。
「なんで。親切で言ったのに」
「都会で見知らぬやつを家にあげていいわけ?」
「いいかどうかはわからないけれど。僕は君は大丈夫だと思うな」
 成島は黒い眸で木田をまっすぐに見つめて言った。
木田の胸がどきり、とする。
そんなふうに他人を信じて、他人を信じる自分を信じられることに、木田はびっくりする。
 自分は、他人も自分も信じられなくて、職を転々とし、気付けば26歳でまだフリーターだ。将来どころか明日の生活もままならない時もある。特に、全財産入った財布を落とした今なんかは。
こんなやつ、いるんだ。
そう思って、少しびっくりした。
「まだ夜明けまで時間があるし、もしお望みなら暖かい部屋でおいしいカクテルをごちそうするけど」
 成島はちょっと首をかしげて誘うように目を細めた。
その眼差しに、弦が震えるみたいに身体の奥が共鳴したのを感じる。
雨に濡れた身体は冷たくて仕方がない。目の前のバーテン店長は悪い奴には見えない。それに今日飲んだ酒の酔いは醒めていて、もう少し飲みたい気持ちもあった。気持ちはぐらぐらと揺らぐ。木田はためらいつつも、うん、と頷いた。

 店内は薄暗い照明の下、亜麻色のカウンターが光る。壁には青銅のフクロウを模したオブジェが飾られている。スツールが七席とカウンター向こうに広めの厨房がある。ここは酒だけでなく料理も出すらしい。上品な雰囲気はオーセンティックではあるが、重苦しくない。客は他にはいないらしい。
「閑古鳥じゃねぇかよ」
 木田が言うと、成島は微笑んだ。
「こんな雨じゃ人も来ないよ。どうぞ座って」
 カウンターの中に入り、成島は席を指す。
 木田は指で示された、真ん中の席に座った。
「なに飲む?」
 成島が目を細めて木田を見る。
 木田はちょっと考えた。
「身体温められるやつ」
「オッケー」
 ばちん、と成島はウィンクして、グラスを取る。
 身体を温めるためのアイリッシュコーヒー、ウィスキーベースのラスティネイル、シェーカーを使ってパイナップルジュースとウィスキーで作ったケンタッキー……そこまでご馳走になったのは覚えている。あとは記憶がない。
 朝起きたら、見知らぬベッドの上で一人だった。
 頭を掻きつつ、見慣れない部屋を出ると、キッチンに成島がいて、徐々にゆっくりと昨晩のことを思い出す。
「シャワー浴びてきていいよ」
 湯気立つ鍋に青菜をいれながら、成島が振り返る。その表情には酔いの残滓もない。俺と同じくらい飲んでたはずなのにな、と思い頭を掻きながら、木田はバスルームへ向かう。
 シャワーを浴びて、さっぱりしたあと、成島の用意した、ほうれん草のおひたし、焼鮭、野菜の煮物、きゅうりとかぶの漬物、味噌汁、ご飯を頂く。どれも実家の母親が作ったみたいに、懐かしくて、身体を思いやった優しい味がした。自分も料理をするから、簡単な料理で絶妙な味付けをするのがなかなか難しいのは、わかる。
「うめぇわ……」
 木田が食べながら呟く。成島はそれをにこにこ見ている。
「あの、さ。もしよかったら、また来てよ」
「俺、ここで同居するわ」
 木田が軽く冗談で言って、味噌汁を飲む。
「いいよ」
「へ?」
 木田がびっくりして箸を止める。
「部屋、空いてるし。家賃タダにしておくよ。その代わり、食事作るのは当番」
 確かに、寝室とリビングダイングの他にも二部屋ほどある様子で、しかも玄関からリビングダイニングにつなぐ廊下の途中には窓際にバーカウンターがあるというお洒落な設えだったが、木田はいやいやと首を横に振る。
「なに冗談真に受けてんだよ。俺は……」
「盗まれた財布に八万くらい入ってたって聞いたけど、今月の家賃払えるの?」
 成島はにっこりと首を少し傾げる。
「いや……まぁ……でも、そういう問題じゃない」
「じゃぁ、身体が目当てって言ったら、納得する?」
 成島は毒のない笑顔で言う。木田は鼻で笑った。
「おまえみたいに女に好かれそうなのに言われても、説得力ないね」
「僕、男にも好かれるんだ」
 夜の街で働いていれば、そういうこともあるのかもしれない。
「へぇ。そっちもいけるんだ」
「試してみる?」
「いやだよ」
冗談めいて笑って応え、木田はしばらく考え込んだ。成島も軽いやりとりに笑っている。
たしかに、今月の家賃は厳しい。生活も厳しい。今更バイトを増やすのも大変だ。昨晩飲んで話してみて、それは記憶が途切れるまでのわずかな時間だったが、成島と過ごす時間は嫌ではないと思った。
「まぁ、家賃はなんとかなんだろ……」
 ぼんやり木田が呟いた。

 財布をすられ、貯金もなく、アパートの管理会社に家賃の支払いを待ってもらえないとのことで、部屋を追い出された木田は路頭に迷った。
 寒い。
 行政の窓口に行くにも、もう夜だ。
とりあえず頭に浮かんだ行き先が先日会った成島のマンションだった。スーツケースひとつを引いてきた木田を、成島は笑顔で迎えた。
「身軽でいいね」
「いつでも夜逃げできるようにしてるんだ」
「逃げられないように気を付けないと」
 成島のその言葉に木田はおかしそうに笑った。
「一晩だけ部屋貸して」
 木田は控えめに言った。
 しかし、あまりの居心地の良さに、翌日木田は出て行く足をしぶった。成島はそれを静かに受け入れた。
そして、二人の同居生活が始まる。

 木田は料理が好きだったし、飲食店の厨房で働いていたこともあった。休みが合うと、二人で朝から料理をして、テラスでビールとワインで乾杯をした。夜になると廊下の窓際のバーカウンターで成島のカクテルを楽しんだ。
 簡単なお弁当を作って、近くの代々木公園へ行くこともあった。冬の天気のいい日、二人で芝生に横になって陽にあたりながら、ビールを飲みつつ、なんとなく時間を過ごすことも気持ち良かった。
 最初は仕方なく成島のマンションに来たが、次第に木田は成島と時間を過ごすことを楽しむようになった。何も話さなくても、何もしなくても、ただ二人でいるだけでも心地いい。そういう感覚は初めてだった。
成島がいるとき木田は忘れたように煙草を吸わなかった。さすがに居候させてもらっている部屋で吸うのも気が引けて、マンションにいるときは吸わないようにしているのもある。
 あんなにも病のように煙草を手放せなかったのが、不思議な気がした。

 成島と同居を始めてからも、木田はバイトを転々とした。木田の仕事はどこでも長続きしなかった。人間関係、職場の雰囲気、残業手当、時給……さまざまなことを理由にして木田は職場をやめた。
「俺、ひとつところに身を固められないんだよね」
 缶ビールを飲みながら、木田がぼんやりと成島に言った。
「僕のところにはずっといられてるじゃない」
「おまえは特別だよ」
 木田がさらりと言うと、成島はびっくりしたような顔を向けてきた。
「なんだよ、そのツラァ」
 木田が言うと、成島は少しうつむいておかしそうに笑った。
「嬉しかったんだ」
 成島はそう言って、ほんとうに嬉しそうに微笑んだ。
「俺はさ、きっと、自分も他人も信じられないんだよ。だから、仕事が長続きしないんだ。言い訳みたいだけど」
 木田が言うと、成島は少し考えた。
「でも君がここに僕と住んでるってことは、僕のこと、信じてくれてるんだよね?」
「あったりまえだろ」
 木田が言うと、成島は、ふふふ、と控えめに笑った。
「それならきっと、仕事も何とかなると思うよ」
 成島が軽い口調で言うと、木田は懐疑的な風に言った。
「そうかねぇ」
「そうだよ。大丈夫。とりあえず、大丈夫な君に乾杯」
 成島がビール缶を持ち上げる。
 木田が仕方なさげに笑ってビール缶をぶつけ、二人は乾杯した。

 男でも女でも、フラットに付き合える人間、というのはいる。
 木田のバイト先にいるサキさんはそういうひとだった。
「冬夜くん、『ガタカ』見たことある?」
「ねぇっすねぇ」
「それ、人生、損してるよ」
 サキさんは断言した。
「俺、べつに、損してていいっスよ。興味ねぇ物に時間割く方が損っす」
 サキさんは、『天空の城ラピュタ』に出てくる女海賊ドーラみたいに豪快に笑った。(サキさん自身は小柄で華奢なひとだ)
「新宿武蔵館でリバイバル上映やってるから、行こう」
 サキさんはそう言った。
「いや、俺、帰りたいっす」
 木田ははっきりと断ったつもりだった。
「いや、君は、『ガタカ』を見た方がいい。君の人生を変えるはずだ」
 サキさんは譲らなかった。
 断るのもパワーがいる。今日、木田は、倉庫の片づけを朝から晩までしてへとへとに疲れ切っていた。
「いや、待ってるやつがいるんで」
 まるで妻子でもいるかのように、言った。
 思い浮かべるのは成島だ。
「待っているやつがいるからこそ『ガタカ』をみるのだ」
 サキさんは頑強に言い張った。
 木田はため息を吐いた。
「はいはい、行きます」
 結局、バイト帰りにサキさんと映画を見に、新宿武蔵野館へ行った。
 映画館で初めて見た『ガタカ』は近未来の切なく美しいSF映画だった。
 ずっと、成島のことを考えていた。
 成島と見たらよかったと思った。
 映画館を出て駅まで、サキさんは木田の手を握ってきて、つないで歩いた。
 木田もなんとなく、されるままにしていた。
 新宿のビル街からのぞく小さな夜空を見つめながら、成島と手を繋ぎたいと思った。
 そして、駅でサキさんとは別れた。
 サキさんと映画を見たのは、それっきりである。

ある水曜日の夜だった。水曜日は成島の店が休みで、木田のバイトも早く終わる日だったので、成島当番で夕食を作る話になっていた。
 木田は八時ごろには部屋に帰って来ていたが、成島が帰ってこない。連絡もつかない。
階下の店舗かな、と思って、鍵を持ってそっちを見に行ったりもした。でもいない。そのままテレビを見たり、雑誌を読んだりしているうちに、夜半過ぎ1時になった。既に木田はビールを何缶かあけている。成島とは連絡がつかないなんてことは今までなかった。遅くなる時はラインかメールがいつも入った。男がその時間までふらつくのは問題ないが、連絡がつかないことに心配しだしたころ、インターフォンが鳴った。マンション玄関のオートロックゲートモニターを見ると、べろんべろんに酔っ払った成島だった。
 慌てて木田は部屋を出、エレベーターを使い、成島を迎えに行く。近くへ行くと、アルコール臭がすごかった。肩を抱えて、部屋に連れて帰る。
こんなに酔っ払った成島を見るのは初めてだった。なにかあったのだろうか、と不安になる。
 水を飲ませ、コートを脱がして、ソファに横にさせる。
「大丈夫か」
 木田が訊くと、首を横に振る。いつものふんわりした笑顔もなく、元気のない様子に、木田は胸が痛む。
「何があったんだ?」
 木田が成島を抱えると、成島は目を潤ませて木田を見つめた。
「僕、失恋した」
「え?」
「君も、僕といるのはもう、嫌なんだろ?」
 成島は泣きそうな顔で木田を見ると、すぐうつむき、目元を拭った。
「何……言ってるんだ?」
 木田は頭が混乱する。
「君にはもう僕なんて必要ないんだ……いや、いいんだ。僕を利用してくれていい。好きなだけ利用してよ。でも、僕は……僕には君が必要なんだ……」
 成島はおいおい泣き出し始めた。
「おい、何言ってるんだ? 全然わかんねーよ。言ってみ? どういうことだ?」
 木田は困惑しつつ成島の肩をさする。
「見たんだ。君が、女の子と手を繋いでるところ。お店が早めに終わって……夕飯の買い出しにでたときに……」
 女の子、と聞いて思い出す。
 サキさんだ。
「違うよ、成島」
 木田は慌てる。
「それ、恋人じゃないし、べつに好きな人でもねぇよ。ただのバイト先のひとだ」
 木田が言うと、成島は動きを止めた。
「え?」
 はぁぁぁ~と木田は盛大にため息を吐く。
「誤解だよ。俺はサキさんとはなんの関係もないよ。ただ、ふたりで映画みただけだ」
 木田が言うと、成島は呆けたようにしばらく穴が開くほど木田を見ていた。
「ほんと?」
「ほんと」
 成島は息を飲み、そして、俯いた。
「木田が欲しい」
 木田の動きが止まる。
「成島……?」
「ねぇ、何もしないから、そばにいて」
 成島が木田を見上げる。
木田は頷いた。
「いいよ」
腕が、ぎゅ、と身体にまわった。成島のつけている奥深いウッディな香りがふわりとした。
「おまえ、何もしないって……」
 言いかけた木田の唇が塞がれる。角度を変えて、何度もキスされる。木田は驚かなかった。むしろ、こうなるのはわかっていた気がした。キスがあまりに切ないほど懸命だったので、木田も応えるように舌をこじ入れた。
 互いの舌が絡む。水音が響く。木田は音立てて成島の唇を吸った。成島の目はうっとりと木田を見ている。その表情に木田はたまらなくなる。かちり、とタガが外れる音が頭の奥でする。
 木田は成島の鼻先、耳朶にキスをして、首筋に舌を這わす。肩先をあんむ、と甘咬みした。
 は、と成島が吐息して震えた。
 その情欲を含んだ息の音に、木田の下肢が反応する。
 成島は以前、男にも好かれる、という話をしていた。多分、そっちの経験もあるのだろう。
「なぁ、いい?」
 木田の言葉に、成島が頷く。
「いいよ」
 木田の手が成島のシャツボタンを外していく。外しながら、木田は成島の喉元、鎖骨とキスをしていき、胸の突起をちゅぷりと含んだ。
 舌先でれろれろと舐めると、淡く発色して乳首が突き立つ。
「あ……とーや、そこ、やだ……」
 成島が腰をよじる。白い肌が殊更になまめかしい。口に含んだ突起を、甘く、噛んだ。
「あっ」
 びくん、と成島が背中を反らせる。
木田は成島の唇にキスをしながら、両手で乳首を掴んで、親指と人差し指でくりくりと弄る。時々引っ張る。
「はぁんっ」
 成島は切なそうに目を細めて、息を荒げる。
木田は成島を傷つけたくなくて、あのさ、と成島に額をくっつけて口を開いた。
「俺、男って、抱いたことねーんだけど……」
「大丈夫、僕が、教えてあげる」
 そう言って、成島は木田の手を自分の下肢へ持っていく。
「自分でやるみたいに、触って」
 成島はふんわりと笑って、木田の手の上からスラックス布地ごと自分のものを揉みこんだ。
「あっ」
 成島の白い首がのけぞって、喉仏が露わになる。
木田ははっきりとしてくるその形を指でなぞり、擦り、撫でる。
「んんっ……んっ……」
 成島は淫靡な吐息をする。
木田の手に触られているのが、たまらないみたいな、気持ち良さそうな表情だった。
「いいのかよ?」
 ん、と薄眼を開いて、恥ずかしそうに成島が顔をうつむかせて頷く。耳が赤くなっている。
それにたまらない気がした。
木田は成島のベルトのバックルを外し、スラックスを下着ごと脱がす。
まろび出て、半ば頭をもたげているのは、明らかに男のそれなのに、木田は何も抵抗なく、舌をつけた。
「あんっ」
 成島の腰が震えながら浮く。
「冬夜、ちょっと……」
 木田は無言で喉の奥まで咥えこみ、舌を使ってじゅぶじゅぶ扱きだす。
自分も男だから、気持ちいいやり方はよくわかっている。
根元を掴み、舌を押し付けて、唇をすぼめて、吸うように顔を上下させる。
最初は木田に咥えられることに抵抗があった成島も、次第に快楽に声が蕩けていく。
「あ、あっ」
 成島が眉を八の字にして目を細め、甘い声をあげる。
木田は陰嚢に舌を這わせ、はりつめたそれを唇で舐め扱く。
「は、あぁっ、あ……」
 成島のうっとりとした気持ち良さそうな表情に、木田の下肢も疼きだす。
ひくつく成島の先端にべろべろ舌を這わせ、小さな穴を舌先で刺激し、横笛を吹くみたいに根元から唇で何度も扱く。
「はぁん、あ、あんっ……」
 ぐいっと木田は成島に顔を近付ける。
「なぁ、成島、入れてぇ。おまえのこと、もっと、あんあん喘がせてぇ」
 木田の貪欲な獣めいた目に、成島は身体が熱くなる。
「ちょっと……待って」
 そう言ってソファから起き上がると、壁際の棚の引き出しから、小さな蓋つきの容器を取り出してきた。
「これを手に掬って、塗って。あんまり塗りすぎると、どろどろに溶けだしちゃうから、気をつけて」
 成島は四つん這いになると、秘所を木田に向けた。
全てを木田に任せるような卑猥な格好だった。
木田は情欲めいてくらくらしながら、成島の淡い色素のきれいな秘部を見、こんなところに自分のものが入るのかと思う。
 とりあえず容器のものを人差し指に掬い、ゆっくりと挿し入れる。女のあそこをほぐすときみたいに、丁寧に優しく、指でなかを掻きまわし、ゆっくり出し入れする。自ら濡れているみたいに、ぐちゅりぐちゅりとエッチな音がする。色々刺激していると、ひぃっと掠れ声をあげて、成島の身体が跳ねた。
「え?ここか」
 探りながら、木田は人差し指の関節をまげて、腹側のところを刺激する。
「ひぃ、あ、あ、うぁぁっ」
 びく、びく、びく、と丘に上がった魚のように、成島が身体を痙攣させる。四つん這いで腕を支えておられず、顔をソファに突っ伏した。
「やだぁ、そこぉ……」
 女みたいな声を上げて、潤んだ目で成島が木田を振り返る。
「おまえ、やぁらしぃぞ」
「だって……」
 木田が、くいくいと人差し指を曲げる。
「ひぃぁっ、あん、あん、あぁっ」
 成島は身体をしならせ、喉をのけぞらせて声を上げる。 
指を咥えこんでいる秘所がひくひくと木田の指を食い締める。
成島の下肢は血管を浮かせて、張り詰めている。
木田は指で内側を弄りながら、成島の下肢を扱いた。
「いやぁんっ、ひんっ、ひぁっ」
 ひぃ、ひぃ、と成島の掠れた吐息が荒くなっていく。
木田は一度指を引きぬき、容器の中身を塗りつけた中指も挿し込む。するっと入り込んだ。それがいやらしい。ぬっぷりぬっぷり音を立てて二指を出し入れする。成島は、もっともっととでもいうみたいに腰を前後させる。
 内側は潤滑剤でとろとろに溶けていて、熱い。奥まで入れた指先で奥襞を刺激する。
「あぁんっ、あぁっ」
 成島の声が掠れる。腰を微震させて浮き上がらせる。
 誘うようなその仕草に木田の下肢が熱くなる。
「なぁ、もう、いい?」
 ん、と泣いているような声で、成島が頷く。
木田はデニムを下着ごと下ろすと、露わになったそれに容器の潤滑剤を塗り込んで、成島の秘所に押し当てた。ぐぷり、と咥えこませる。溶けた潤滑剤が秘部からこぼれて成島の肌を伝った。木田はゆっくりと身体をすすめる。悪くはない。女のあそこよりもずっときつくて、すべすべしていて、潤滑剤のせいか濡れている。むしろ気持ちいい。
 奥まで収めて、木田は成島の尻を撫でた。
「あぁ……やべぇ、これだけで、出そう…」
「動いてよ」
 成島が蕩けるような目で振り返って、腰を揺すった。
様子を見るみたいに、木田はゆっくりと腰を前後させる。次第に小刻みに素早く動き出す。
「あ、あ、はぁっ」
 押し出されるみたいに、成島の口から吐息がこぼれる。
 木田は大きく腰を引いて、ずん、と奥を突きあげる。どぷり、と潤滑剤が滑り落ちる。
 そのわずかな感覚にすら成島は感じる。
「あぁっ」
 成島の身体が、大きく前のめりになって、顔をソファに突っ伏した。そのまま木田は腰を抑えて、ずぶずぶと突きこむように動かす。
「あん、あん、あぁっ」
 成島の声がソファのクッションに阻まれて、くぐもって聞こえる。
じゅくじゅくと音を立てながら、木田は腰を突きこむ。ぐるり、と掻き回す。
「んあぁっ」
「立って」
 ふらふらする成島を支えながら繋がったままソファから立たせ、成島の片足を持ち上げ角度を変えて、腰を突き入れる。ずんずん突きあげると、成島の甘い声が間歇に響いた。
「はぁん、は、はぁ、はっ」
成島の内股を溶けた潤滑剤が滴っている。
成島は感じて仕方ないみたいに、肩を揺すって身体をよじっている。
「いい?」
 ん、ん、と喘ぎともつかない返事が成島から返ってくる。
腰をしゃくる様に奥まで突き入れて、腹側を擦る。
「ひぁっ、あん、あん、あぁんっ」
 成島が頭を横に振って乱れる。屹立して涎をこぼす前を擦ると、その乱れが激しくなった。
「いやぁん、それ、あぁん、あ、あん」
 成島の身体が蕩けてぐったりしてきたので、床に背中を倒し、再び、突き入れると、艶っぽく喘ぎ出す。
 木田はぐぐっと奥まで突きこんで、素早く腰をぶつける。ぶちゅぶちゅ水音が響く。
大きくグラインドしてから、激しく腰を前後させる。うねり合わせるように成島も腰を揺さぶる。二人でひとつになったように身体を揺らめかす。繋がったところをよじり擦り合わせる。
「あぁ、あ、あ、あ」
 成島の腹の奥で快楽が大きく膨らみだす。指先や足の先が快感でひくひくする。
「あぁぁっ」
 どちらともなく腕を絡めてぎゅっと抱き合う。成島が前を解放すると同時、木田も熱い飛沫を奥に放った。キスを交わす。はぁはぁと荒い息が続く。
「好きだ」
 木田が荒い息の合間に言うと、成島はふふふと笑った。
「ありがとう」
 そう言って、成島は木田の唇にキスをした。

 翌朝、木田が朝食の支度をした。ベーコンとキャベツのスープ、オレンジサラダ、ウィンナーとスクランブルエッグを並べ、近所のパン屋で買ってきたクロワッサンを二人で食べながら、成島が口を開いた。
「あの、さ。もし冬夜さえよかったら、うちで働かない?」
「へ?」
 木田はコーヒーを飲んでいた手を止める。
「その、バイトじゃなくてさ。正社員として。厨房に一人、チーフとしてひとが欲しいんだ。君ならできると僕は思う」
 成島はじっと木田を見ている。
「冬夜がさ、以前、自分も他人も信じられなくて仕事が続かなかったって話をしていたけれど。僕のこと、信じてみない?」
 木田は少し痛そうな表情で指を曲げて唇をこすった。しばらく、二人の間に沈黙が落ちる。ゆっくりと木田が口を開く。
「俺、ずっと煙草やめられなかったんだ」
「え?」
 突然の切り出しに、成島がすこし目を見開く。
「ずっと煙草やめたくてやめられなかったんだけど、ここに住みだしたらさ、おまえとの暮らしが楽しくて、煙草かんたんにやめられたんだよ。不思議な話」
 成島は瞬きしながら木田の話を聞いている。木田がにやり、と笑った。
「おまえとならやっていける気がする。俺は、おまえを信じられる。おまえを信じる俺自身も信じられる。それだけで、前に進める気がする」
 そう言い置いて、木田は表情柔らかくした。
「働かせてくれよ」
 成島がふわり、と笑う。
「よろしく」
「こちらこそ」
 二人はじんわりと笑い合う。
窓の外はきんと冷えて澄んだ青空が広がっている。冬の朝の眩しい光がきらきらと輝いていた。






第二章スプリングカクテルへつづく
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

器のおかしい先輩とオカン科スパダリ属な後輩くん

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:123

飼い主と猫の淫らな遊び

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:135

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

BL / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:15

ケツ穴風俗に体入したらハマちゃったDDの話

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:187

激闘!アナニー一本勝負!!

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:28

喘ぎ短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:39

【 理想のKA・RA・DA 】完

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:5

何でもアナニーのオカズにするDK君のモテ期

BL / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:72

あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

BL / 連載中 24h.ポイント:4,723pt お気に入り:154

処理中です...