旅人ケンギ

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第十三章

第五十六話 一人で

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 シグマの家へ来たケンギは、扉をノックした。

「シグマさん、ケンギです。開けてください。」

ケンギが呼びかけると、シグマは扉を開けた。

「ケンギ、おはよう。夢の内容は覚えているか?」
「……やっぱりあのシグマさんは本人だったんですね。」
「あぁ。ああいう夢をたまに見るんだ。それで、なんでケンギがあの夢の中にいたんだ?」
「闇の結晶の前に立ったら、いつの間にかあの夢を見ていました。」

ケンギがそう言うと、シグマは顔を少ししかめた。

「闇の結晶の前か……あそこは無闇に近づいていいところじゃないぞ。」
「ワンデさんの依頼で、調べていたんです。なんでもハーピーとワンデさんは仲が良いみたいで、家に直接依頼が来たんです。」
「そうか……ワンデも酷いことをしたな。お前らを結晶の前に立たせるなんて。」
「いや、力が足りなかった俺が悪いんです。シグマさんのおかげで助かりましたが、あのまま核を貫かれてたら、夢とはいえ何かが起きそうでしたから。」
「本当にラッキーだったな。あそこでもし核を貫かれていたら、この世に戻ってこれなかったかもしれない。」
「でも、今晩また、あの夢を見そうな気がするんです。目覚めるときにドイデの言葉が聞こえたんです。『次来たときが最期だ』って。だから俺、この少しの時間だけでも強くなる修行がしたいんです。」
「心配するな。俺がまた助けてやるから。」

慰めようとするシグマを、ケンギは拒んだ。

「ダメです。俺一人で強くならなくちゃいけないんです。」
「どうしてだ? 協力して戦うのがそんなに嫌か?」

ケンギの考えに、シグマは困惑している。

「考えてみれば、俺は今まで一人で魔物を倒したことがほとんどないんです。スイテイ、キンテイ、モクテイ、全員誰かに助けられて勝ってるんです。俺は誰にも迷惑をかけたくかいから、強くなりたいんです。」

卑下するケンギを、シグマはより慰めようとした。

「ケンギ。旅人は群れた方が強いんだ。だから、そんなに自分を悪く言うな。」
「それを抜きにしても、俺は強くなりたいです! シグマさん、どうか俺に稽古をつけてください……!」

頭を下げるケンギ。彼からの本気を受け止めたシグマは、稽古をつけてやることにした。

「いいよ、稽古をつけてあげる。だが忘れるなよ。周りに迷惑だと思って孤高を目指すと、ろくな目にあわないからな。」
「なぜ、孤高を目指すのは良くないのですか?」
「……そのうちわかるさ。今はとにかく修行に専念するんだ。」
「わかりました。シグマさん、よろしくお願いします。」

ケンギは、今日という日の全てを修行に費やした。

 「はぁぁ! ☆2°○! 雷拳!」

日がすっかり沈んだ頃、ケンギは二つの技を新たに習得していた。

「はぁ、はぁ……シグマさん、どうでしたか?」
「まさか一日でこれだけ強くなるなんて、凄いぞ。」
「これで、ドイデは倒せますか?」

ケンギが問うと、シグマはうなずいた。

「そうだな。それだけの力と俺の力があれば、奴らを倒せるはずだ。さぁ、ザンプウで家まで送ってやろう。」
「シグマさん、あの夢のどこから始まるのとかは、決まっているんですか?」
「多分前回より少し時間が経ったあとの場所に出るはずだ。例えばケンギなら、あの建物に降りたときの場所からだな。

「わかりました。シグマさん、今日は本当にありがとうございました。」
「じゃあな。また夢の中で会おう。はー……ザンプウ!」

 ケンギが家に帰ると、既にロウコは家の中にいた。

「ケンギ君、お帰りなさい。修行はどうだった?」
「順調だ。前のときより確実に強くなった。ロウコはどうだったんだ?」
「母に紙を渡したあと、お姉さんをヤニチさんの病院で診てもらうことにしたわ。帰ってくるのが遅すぎて、少し叱られちゃったけどね。」

ロウコが舌を出して笑う。

「……じゃあ、寝ようか。また夢の中で会おう。おやすみ。」
「えぇ。……ケンギ君、ずっと私のそばにいてね。」
「え?」

ケンギが聞き返すと、ロウコは慌てた。

「あっ! いや、その……夢の中の話よ! ささ、おやすみおやすみ!」

ロウコは恥ずかしがりながらベッドにもぐった。

(そうだよな。俺がそばにいればロウコが偽者に入れ替わることもないだろうし、しっかりそばにいなくちゃな。)

ケンギも布団にもぐると、二人は夢の中へと誘われていった。
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