旅人ケンギ

文字の大きさ
上 下
57 / 73
第十三章

第五十六話 一人で

しおりを挟む
 シグマの家へ来たケンギは、扉をノックした。

「シグマさん、ケンギです。開けてください。」

ケンギが呼びかけると、シグマは扉を開けた。

「ケンギ、おはよう。夢の内容は覚えているか?」
「……やっぱりあのシグマさんは本人だったんですね。」
「あぁ。ああいう夢をたまに見るんだ。それで、なんでケンギがあの夢の中にいたんだ?」
「闇の結晶の前に立ったら、いつの間にかあの夢を見ていました。」

ケンギがそう言うと、シグマは顔を少ししかめた。

「闇の結晶の前か……あそこは無闇に近づいていいところじゃないぞ。」
「ワンデさんの依頼で、調べていたんです。なんでもハーピーとワンデさんは仲が良いみたいで、家に直接依頼が来たんです。」
「そうか……ワンデも酷いことをしたな。お前らを結晶の前に立たせるなんて。」
「いや、力が足りなかった俺が悪いんです。シグマさんのおかげで助かりましたが、あのまま核を貫かれてたら、夢とはいえ何かが起きそうでしたから。」
「本当にラッキーだったな。あそこでもし核を貫かれていたら、この世に戻ってこれなかったかもしれない。」
「でも、今晩また、あの夢を見そうな気がするんです。目覚めるときにドイデの言葉が聞こえたんです。『次来たときが最期だ』って。だから俺、この少しの時間だけでも強くなる修行がしたいんです。」
「心配するな。俺がまた助けてやるから。」

慰めようとするシグマを、ケンギは拒んだ。

「ダメです。俺一人で強くならなくちゃいけないんです。」
「どうしてだ? 協力して戦うのがそんなに嫌か?」

ケンギの考えに、シグマは困惑している。

「考えてみれば、俺は今まで一人で魔物を倒したことがほとんどないんです。スイテイ、キンテイ、モクテイ、全員誰かに助けられて勝ってるんです。俺は誰にも迷惑をかけたくかいから、強くなりたいんです。」

卑下するケンギを、シグマはより慰めようとした。

「ケンギ。旅人は群れた方が強いんだ。だから、そんなに自分を悪く言うな。」
「それを抜きにしても、俺は強くなりたいです! シグマさん、どうか俺に稽古をつけてください……!」

頭を下げるケンギ。彼からの本気を受け止めたシグマは、稽古をつけてやることにした。

「いいよ、稽古をつけてあげる。だが忘れるなよ。周りに迷惑だと思って孤高を目指すと、ろくな目にあわないからな。」
「なぜ、孤高を目指すのは良くないのですか?」
「……そのうちわかるさ。今はとにかく修行に専念するんだ。」
「わかりました。シグマさん、よろしくお願いします。」

ケンギは、今日という日の全てを修行に費やした。

 「はぁぁ! ☆2°○! 雷拳!」

日がすっかり沈んだ頃、ケンギは二つの技を新たに習得していた。

「はぁ、はぁ……シグマさん、どうでしたか?」
「まさか一日でこれだけ強くなるなんて、凄いぞ。」
「これで、ドイデは倒せますか?」

ケンギが問うと、シグマはうなずいた。

「そうだな。それだけの力と俺の力があれば、奴らを倒せるはずだ。さぁ、ザンプウで家まで送ってやろう。」
「シグマさん、あの夢のどこから始まるのとかは、決まっているんですか?」
「多分前回より少し時間が経ったあとの場所に出るはずだ。例えばケンギなら、あの建物に降りたときの場所からだな。

「わかりました。シグマさん、今日は本当にありがとうございました。」
「じゃあな。また夢の中で会おう。はー……ザンプウ!」

 ケンギが家に帰ると、既にロウコは家の中にいた。

「ケンギ君、お帰りなさい。修行はどうだった?」
「順調だ。前のときより確実に強くなった。ロウコはどうだったんだ?」
「母に紙を渡したあと、お姉さんをヤニチさんの病院で診てもらうことにしたわ。帰ってくるのが遅すぎて、少し叱られちゃったけどね。」

ロウコが舌を出して笑う。

「……じゃあ、寝ようか。また夢の中で会おう。おやすみ。」
「えぇ。……ケンギ君、ずっと私のそばにいてね。」
「え?」

ケンギが聞き返すと、ロウコは慌てた。

「あっ! いや、その……夢の中の話よ! ささ、おやすみおやすみ!」

ロウコは恥ずかしがりながらベッドにもぐった。

(そうだよな。俺がそばにいればロウコが偽者に入れ替わることもないだろうし、しっかりそばにいなくちゃな。)

ケンギも布団にもぐると、二人は夢の中へと誘われていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...