旅人ケンギ

第八章

第三十二話 スイテイ

　ケンギたちは魔の泉にて、スイテイに出会った。不気味な笑みを浮かべながら、彼女は話しかけてきた。

「ヒイデ、まさか忠誠心のあるあなたが裏切るとは思ってなかったです。所詮はカテイの部下といったところでしょうか。」

スイテイがカテイを侮辱する。

「スイテイ、それ以上カテイ様を悪く言ったらどうなるかわかってるな？」

怒りに震えるヒイデ。スイテイは、三対の腕を鳴らしている。

「スイテイ、必ず倒してやる！」
「雷の呪文ね。簡単には打たせないわよ。」

真っ先にケンギは雷の呪文を唱え始めた。スイテイが雷の呪文の踊りを止めようとする。

「ホラホラ！　私の水の呪文であなたを動けなくしてやるわ！」

スイテイが水を飛ばすと、その水が氷となりケンギを拘束してしまった。

「くっ、こんなくらいの氷で動けないなんて……。」
「ホホホ、その氷は私を倒さなければ溶けないわよ。さぁ、残り二人も氷漬けにしてやるからいらっしゃい。」

ヒイデの震えは、武者震いから恐怖による震えに変わっていた。

「あれだ。カテイ様はあの呪文で脅されて、ネツを襲ったんだ……。」
「脅しだなんて、失礼ね。この呪文を見たカテイが勝手に私にひれふしていただけよ。」
「ギッ！　スイテイ、カテイ様の仇だ！　燃やし尽くしてやる！」
「あらー？　仇はこっちでしょう？」

スイテイは自分の核の前に動けないケンギを持ってくる。

「なにっ！　お前、汚いぞ……！」
「あなたの師匠だって同じ手を使っていたわよ。私の場合、絶対に逃げられないけどね。さあ、二人とも大人しくしなさい。拘束してあげるから。」
「……ケッ。仕方がない。」
「ケンギ君、ごめんね。護れなくて。」

ヒイデとロウコが武器をしまい両手をあげる。

「アハハハ！　まさか本当に従うとは！　この子はそれほど大事なのですね！」

高笑いをするスイテイ。二人を氷で拘束すると、ヒイデの前へ子供を集めた。

「さあ私の子供たち、悪い奴を懲らしめちゃうわよ！」

抵抗できないヒイデは、執拗に攻撃される。

「グッ。カテイ様に嫌がらせができない憂さ晴らしか？」

ヒイデの煽りが、より彼女たちをヒートアップさせる。

「フフッ。まだ減らず口を叩く余裕があるのね。私の子供たち、もっと本気で痛めつけなさい。」

ヒイデは暴力を受けながらも、必死に対抗策を考えていた。

（クソッ。一体どうすればいいんだ……。）
「やめろ！　それ以上ヒイデを傷つけるな！」

ヒイデの身には限界が迫っていた。核はひび割れ、体もボロボロで、生きているのが不思議な程だ。

「減らず口さえ叩かなければ私たちも熱くなったりしなかったのに、もったいないわねぇ。オーッホッホ！」
（熱い……燃える……そうか！）

ヒイデは策を思いついたようだ。

「ケンギ！　俺に火の呪文を当てろ！」
「は！？　そんなことしたらお前死んじゃうぞ！」
「いいんだ、大丈夫！　早く俺に火の呪文を！」

ケンギは戸惑いつつも指ライターをつけ、ヒイデの方へ放った。

「あらぁ？　私に火なんか一切効かないわよ？」

火は見事ヒイデにつき、その体を燃やし始めた。

「カテイ様が教えてくれた、火属性最強の切り札！　お前を焼き尽くすために使ってやる！」

火ダルマとなったヒイデは、自分を拘束している氷を一瞬で溶かした。

「なっ、私の氷が溶かされるなんて！　行きなさい私の子供たち！　あの火を今すぐ鎮めるのよ！」
「はぁぁ！（カテイ様、一瞬でもいいから、俺に力を貸してください！）」

水の攻撃を受けるたびに、火は鎮まるどころかどんどん強くなっていく。

「な、なぜ鎮まらないの！？」
「ウォォ！　蒸発してしまえ！　スイテイー！」
「ギャアアアア！」

ヒイデの身を燃やす火は、スイテイを核ごと一瞬で蒸発させてしまった。しかし、ヒイデ自身も燃え尽きそうになっていた。

「ありがとうヒイデ！　お前のおかげで氷が溶けた！　その火、今すぐ消してやる！」

ケンギが指をはじくと、ヒイデを焼き尽くそうとした火が消えた。

「ヒイデ、大丈夫か！」
「今すぐラウンラをかけるわ！　じっとしてて！」
「あと少しで燃え尽きそうだった。助けてくれてありがとう。」

ヒイデはただれた皮膚にラウンラをかけられ、なんとか一命を取り留めた。

「ヒイデ、立てるか？」
「あぁ。もうすっかり元気になった。さぁ、早く帰ろう。」

空は既に星が輝き始めていた。