8 / 73
第二章
第七話 銀の価値
しおりを挟む
ケンギとロウコが大酒場に着くと、なにやら大きな声が聞こえた。騒がしいと言えば騒がしいが、歓喜の声とは思えない。
「なんだか歓迎ムードって感じではなさそうだ。」
「あ! あそこにトールじいさんと銀兄弟がいるわ!」
なにやらやたらと大きい声で喧嘩をしていたのは、やはり銀兄弟であった。恐らく金ランクに昇格させてもらえなかったのだろう。
「近くに行こう。俺らも説得するんだ。」
「はぁ!? あなた、トールじいさんに逆らおうって言うの!? そんなことしちゃいけないわ!」
「多分、金ランクがダメなのは俺らが手伝っちゃったのもあると思うんだ。だから、倒したのは銀兄弟だって当事者の俺らが伝えれば、金ランクに昇格してもらえるはずだ。」
「……あなたは本当にあの二人が好きね。そこまでして金ランクに上げてあげたいなんて。」
「あの声が聞こえてから、ずっと助けなきゃって思いが続いてるんだ。未だほとぼりが冷めないなら、最後まで手伝って冷ますしかないだろ。」
「もしその声の主が悪魔か何かで、助けると良くないことが起きるとしても行くの?」
「……よほど助けたくないんだな。でも、俺は助ける。悪魔に乗せられてようとな。」
「もう、しょうがないわね。それじゃ、さっさと助けに行きましょ。」
二人は観衆の隙間を通って、銀兄弟の元へ歩く。かなりの人数がひしめき合っており、とても移動しづらい。銀兄弟の大声が近づいてくる。そこからもう少し歩くと、漸くたどり着いた。
「だーかーらー! あの二人に手伝ってもらったのは事実だけど、首を切り落としたのも核を叩き割ったのも俺ら二人だけでやったんだよ! 頼むから金ランクに上がることを認めてくれよ!」
「倒したことは認めるが、ランク昇格は認めん。せめてちゃんとした武器くらい持ってから物を言うんだな。」
「トールさん、僕らもう草むしりとか道具の配達とかやるの嫌なんですよ! でっかいドラゴンをいっぱい倒したり、未開の地を開拓したりしたいんですよ! だからお願いしますよぉー!」
誰かが止めねば無限に続きそうな言い合い。そこにケンギとロウコが割って入る。
「トールさん。こいつらは金でも十分に戦えるはずです。」
「む、ケンギとロウコか。本当に金でも通用するほどこやつらは強かったのか?」
「ドラゴンの鱗は普通の剣では切れません。それを糸だけで切り落としたのは間違いなく彼らが強い証拠です。」
「核だって、パンチで破壊できるほどです。私、てっきり核の破壊まで任されると思ってたのに、銀兄弟自身がやれるなんて驚きましたもん。」
「……だとしたら尚更上げられないな。」
「どうしてだよトールじいさん! あいつらだって俺らを認めたのに、なんでだよぉ!」
「そもそも、金ランクの方が銀より上と考えるのが良くない。立場的には上かもしれぬが、どちらもかかせない存在なのじゃ。」
「それはどういうことなのですか? トールじいさん。」
銀兄弟にはさっぱり理由がわからない。昇格するんだから金の方が銀より何もかも上であるはずではないか。そこで、トールがもう一度口を開く。
「お主らが薬草を摘まなかったら、誰が薬草を摘むんだ? 誰が魔物の肉を解体するんだ?」
「それは、銀と銅ランクの奴らだろ?」
「そやつらの希望になっているのがお前たち銀兄弟なんじゃ。わかるか?」
「それはそうだけど、ランクを上げない理由にはなってないぞ!」
「お主らが金に上がるとどうなるかわかるか?」
「……そうか。俺たちが金になったら、やる仕事がまるで変わってしまう。そうなったら、銀や銅の奴らがつらくなる。」
「そういうことじゃ。お主らはお主らにしかできないことをやればいい。銀の価値とは、金にできないことができることじゃ。」
「それじゃあ俺ら、昇格しなくても良いんだな! じゃあお前ら、俺たち銀兄弟はこれからも銀ランクとして、お前らをサポートしていくからよろしくな!」
(ふぅ……なんとか説得できたわい。)
おおー! という歓声とともに、大酒場は元の活気を取り戻した。張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
「そうか、トールさんはそこまで考えて敢えて銀で止めていたのか。」
「でも、私もちょっと厳しくしすぎちゃったから、これからは優しくしてあげなくちゃいけないわね。」
「さあ、もう俺たちは寝る時間だ。早く家に帰ろう。」
二人は、大酒場を後にした。
「なんだか歓迎ムードって感じではなさそうだ。」
「あ! あそこにトールじいさんと銀兄弟がいるわ!」
なにやらやたらと大きい声で喧嘩をしていたのは、やはり銀兄弟であった。恐らく金ランクに昇格させてもらえなかったのだろう。
「近くに行こう。俺らも説得するんだ。」
「はぁ!? あなた、トールじいさんに逆らおうって言うの!? そんなことしちゃいけないわ!」
「多分、金ランクがダメなのは俺らが手伝っちゃったのもあると思うんだ。だから、倒したのは銀兄弟だって当事者の俺らが伝えれば、金ランクに昇格してもらえるはずだ。」
「……あなたは本当にあの二人が好きね。そこまでして金ランクに上げてあげたいなんて。」
「あの声が聞こえてから、ずっと助けなきゃって思いが続いてるんだ。未だほとぼりが冷めないなら、最後まで手伝って冷ますしかないだろ。」
「もしその声の主が悪魔か何かで、助けると良くないことが起きるとしても行くの?」
「……よほど助けたくないんだな。でも、俺は助ける。悪魔に乗せられてようとな。」
「もう、しょうがないわね。それじゃ、さっさと助けに行きましょ。」
二人は観衆の隙間を通って、銀兄弟の元へ歩く。かなりの人数がひしめき合っており、とても移動しづらい。銀兄弟の大声が近づいてくる。そこからもう少し歩くと、漸くたどり着いた。
「だーかーらー! あの二人に手伝ってもらったのは事実だけど、首を切り落としたのも核を叩き割ったのも俺ら二人だけでやったんだよ! 頼むから金ランクに上がることを認めてくれよ!」
「倒したことは認めるが、ランク昇格は認めん。せめてちゃんとした武器くらい持ってから物を言うんだな。」
「トールさん、僕らもう草むしりとか道具の配達とかやるの嫌なんですよ! でっかいドラゴンをいっぱい倒したり、未開の地を開拓したりしたいんですよ! だからお願いしますよぉー!」
誰かが止めねば無限に続きそうな言い合い。そこにケンギとロウコが割って入る。
「トールさん。こいつらは金でも十分に戦えるはずです。」
「む、ケンギとロウコか。本当に金でも通用するほどこやつらは強かったのか?」
「ドラゴンの鱗は普通の剣では切れません。それを糸だけで切り落としたのは間違いなく彼らが強い証拠です。」
「核だって、パンチで破壊できるほどです。私、てっきり核の破壊まで任されると思ってたのに、銀兄弟自身がやれるなんて驚きましたもん。」
「……だとしたら尚更上げられないな。」
「どうしてだよトールじいさん! あいつらだって俺らを認めたのに、なんでだよぉ!」
「そもそも、金ランクの方が銀より上と考えるのが良くない。立場的には上かもしれぬが、どちらもかかせない存在なのじゃ。」
「それはどういうことなのですか? トールじいさん。」
銀兄弟にはさっぱり理由がわからない。昇格するんだから金の方が銀より何もかも上であるはずではないか。そこで、トールがもう一度口を開く。
「お主らが薬草を摘まなかったら、誰が薬草を摘むんだ? 誰が魔物の肉を解体するんだ?」
「それは、銀と銅ランクの奴らだろ?」
「そやつらの希望になっているのがお前たち銀兄弟なんじゃ。わかるか?」
「それはそうだけど、ランクを上げない理由にはなってないぞ!」
「お主らが金に上がるとどうなるかわかるか?」
「……そうか。俺たちが金になったら、やる仕事がまるで変わってしまう。そうなったら、銀や銅の奴らがつらくなる。」
「そういうことじゃ。お主らはお主らにしかできないことをやればいい。銀の価値とは、金にできないことができることじゃ。」
「それじゃあ俺ら、昇格しなくても良いんだな! じゃあお前ら、俺たち銀兄弟はこれからも銀ランクとして、お前らをサポートしていくからよろしくな!」
(ふぅ……なんとか説得できたわい。)
おおー! という歓声とともに、大酒場は元の活気を取り戻した。張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
「そうか、トールさんはそこまで考えて敢えて銀で止めていたのか。」
「でも、私もちょっと厳しくしすぎちゃったから、これからは優しくしてあげなくちゃいけないわね。」
「さあ、もう俺たちは寝る時間だ。早く家に帰ろう。」
二人は、大酒場を後にした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~
gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。
なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。
一人称視点、独り言多め、能天気となっております。
なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。
ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A
ご指摘あればどんどん仰ってください。
※2017/8/29 連載再開しました!
【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる