旅人ケンギ

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第一章

第二話 加入試験

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 旅人の国【ラーベ】。様々な種族が入り乱れる明るい国で、特に大酒場は夜でも眠らない非常に活気溢れる場所である。そんな国を、ケンギとアチナは歩く。大酒場にまでは少し距離があるため、急ぎ足で歩く。

「ここが大酒場……。とてつもなく大きい建物だ。」
「さあ入りましょ。あのヒトが待ってるわ。」

 大酒場に着いた二人は、早速扉を開け中へと入った。

「おはようございますー……。」
「お、あの坊主がカテイの分身を倒したって噂のやつか。」
「分身って、ちゃんと食べられるのかな?」

様々な種族の旅人が、ケンギを観察する。普段注目を浴びることがないため、ケンギはドキドキしていた。
緊張するケンギをよそに、アチナはどんどん進んでいく。

「あ、アチナ様。少し速いです……。」
「一秒でも早く旅人になりたいでしょう?なら、急がなくちゃいけないわ。」

 しばらく歩いて、漸く目的地に到着した。そこは、初代旅人兼旅人の国の代表【トール】の部屋であった。

「こ、この部屋にトールさんがいるんですね。とても緊張します。」
「大丈夫よ。いつも通りな感じで行きなさい。」
「はぁ~……すぅ~……んくっ。」

ケンギは固唾を飲み込むと、扉を開けて中へ入った。

「失礼しま「遅ーい! すっごく遅かったわよ!」

真っ先にケンギを出迎えたのは、ハーピーの女の子だった。青い瞳をカッと開き、ケンギを見つめる。

「え、お前は誰だ?」
「これこれ、やめんか【ロウコ】。すまんのう、この子もお前さんと同じカテイの偽者を倒した子なんじゃよ。」
「あなたが私と同じくらい強いようには見えないけど、本当に大丈夫かしら?」
「う、うるさいなぁ。お前だって、そんなに強そうには見えないぞ。」
「なにをー!」
「お前こそ何様のつもりだー!」
「二人とも落ち着きなさい。トール、後はよろしくね。」
「わかりました。ここまでケンギを送ってくださりありがとうございました、アチナ様。」
「何よ、大袈裟ね。ただあの道を案内しただけよ。それじゃあ、いい知らせを楽しみにしてるわね。」

 アチナが去ると、早速二人の加入試験が始まった。加入試験と言っても、やることは最初のランクを決める魔物退治だけである。試験は、野外で行われる。

「さて、二人とも偽者とはいえカテイを倒しているのだ。そこそこ難しい試験でも、当然耐えられるな?」
「「はい!」」
「うむ、その意気じゃその意気じゃ。では始めるぞ。二人がかりで倒すのを目標に頑張ってくれたまえ。」
「え!? トールじいさん、私、こんな奴と組まなくちゃいけないの!?」
「旅人は群れた方が有利だからのー、出来る限り協力しあわねばならぬぞ。」
「だ、だからと言ってこいつはちょっと……。」
(なんでこいつ、こんなに俺のこと嫌ってるんだろ……。)
「トールさんがそう言うなら俺はそうします。ロウコが合わせてくれるかはわかりませんが。」
「な、いきなり王女の私を呼び捨てなんて、平民のくせして生意気よ! さんをつけなさいよこの赤髪めが!」
「え、そのなりで王女様なのか!? 冗談はよしてくれよ。」
「ケンギよ、この子は本当に王族の一員じゃよ。いくら旅人として同期になるとはいえ、身分はお前の方が低い。さん付けくらいはした方がいいだろう。」
「はいはい、わかりましたよロウコさん。……足手まといになるなよ。」
「なによ! あなたこそ私の邪魔をしないでよね!」
「では、始めるぞ。南の方の狩場で狩りの妨害をしているというドラゴンを倒しにいってもらう。場所はわしが案内するから、しっかりついてきなさい。」

 大酒場を後にした三人は、ドラゴンが現れるという狩場へ向かい始めた。ドラゴンが発しているのか、ケンギとロウコの不仲が発しているのかわからないどんよりした風が吹いている。

「ドラゴン……、翼を持つ魔物の頂点に君臨する魔族で、金ランク以上しか討伐依頼を受けられないほど強い。何度か本で読んだことはあるけど、実際戦うのは初めてだ。勝てるかな……。」
「ふーん! 実物を見てる私から言わせれば、あなたなんかよりよっぽど強いわよ!」
「……なんでお前、そんなに俺に当たり強いんだ?」
「私たちハーピーの間では、黒い翼と赤髪は不吉なものと伝えられているの。あなたが隣にいるだけで、あぁ、寒気が……やっぱりこんな奴と組めるきが全くしないわ。」
「赤髪が悪いって、ロウコさんはそういう人になんかされたことあんのかよ? ないなら、伝承とはいえその相手に失礼だと思うぞ。」
「うるさい! とにかく! あなたと組むのはこれが最初で最後! これ以降は一切私に関わらないでね!」
「……わかった。」

話をしているうちに三人は狩場へたどり着いた。

 「ほれ、着いたぞ。ここが南の狩場じゃ。そしてあれがドラゴンじゃ。」

トールが指を指した先には、大酒場並に背の高いドラゴンが居座っていた。こちらをじっと見つめ、臨戦態勢に入っている。

「では、二人ともしっかり協力して、倒すように。……始め!」
「「はぁっ!」」

合図とともに、二人がドラゴンのいる場所に飛び込んでいく。しかし、ドラゴンは二人の攻撃を軽く躱してしまった。

「もう! あなたが遅いから逃げられちゃったじゃない!」
「剣を振るのは俺の方が速かった!だからロウコさんは後ろから援護してくれればいい!」

また口喧嘩を始めるも、それはドラゴンの吐く炎によって遮られた。今、喧嘩なんかしている場合ではない。二人に緊張が走る。

「……ケンギ君、だったかしら。今回だけはあなたに協力してあげる。でもとどめは私。あなたは後ろから援護する役に勤めてもらうわよ。」
「……まあ、いいよ。わかった。」
「じゃあ、そうと決まればサクッと倒しちゃうわよー!はあぁー! 【バラーク】!」

彼女はそう唱えると、音を超える速さで動き始めた。

「バラーク? 速くなる呪文か何かか?」
「ほーらドラゴンさーん! 私に攻撃を当ててみなさーい!」
「グルァァァ!!」

ドラゴンは執拗にロウコを追いかけ回す。ロウコは、核を探しているようだ。

「ほら! ケンギくんも早く攻撃しなさい! うぐっ!」

そう言うと彼女は突然苦しみだした。

「ロ、ロウコさん!? 大丈夫か!?」
「ま、まだまだ、まだ戦えるわ!」
「グオォォォ!!」

ドラゴンはより簡単に倒せそうなロウコに視線を向け、攻撃を準備をする。ロウコの人生はここまでかと思われた次の瞬間、ドラゴンの攻撃ははずれていた。

「う……ケンギ君……。」
「もう無理をするな。あの呪文は、通常より速く動けるようになる代わりに体力消費も増える魔法だろ?」
「……ふふ。この呪文、お姉さんにしか見せたことないのに、よく見破ったわね。」
「あとは俺に任せてくれ。必ずあのドラゴンを倒す。」
「……核は、炎を吐く瞬間にお腹に少しだけ露出するから、そこを狙って。もしこのドラゴンを倒せなかったら、私だけじゃなくてあなたも恥をかくんだから、本当に……頼んだわ……よ。」

ケンギは気絶したロウコをトールに預け、ドラゴン討伐を再開した。

「さあこいドラゴン、炎を吐け!」
「グリュアァ!!」

炎を待つケンギ。だが、いつまで経っても来ない。もしや、炎の後に核を攻撃されることを恐れているのではと、ケンギは考えた。

「それなら、これはどうだ!」

ケンギはとある地点まで走り、手につかんだものを見せびらかせた。

「止まれ! この卵が目に入らないのか!」
「グリィィィ!?」
「これ、お前の子供の卵だろう? もしお前が炎は吐かないなら、こんなもの今すぐにでも握り潰してやる……! さあ、速く核を出すんだ。」
「グ、グオォ……。」

子供たちの未来のために、ドラゴンは核を露出させた。このままならばドラゴンは倒せる。しかし、ケンギは剣を鞘にしまった。

「グゥ?」
「……ごめん。こんな方法でお前を倒しても全く喜ばしくない。」
「グ、グガァ?」
「俺の両親も同じ方法で殺されたんだ。俺をかばうための壁になって、翌朝には灰になってた。俺は、自分自身でそんなことをしたくない。だからどうか、卵を持ってここから出て行ってくれ……。」
「……グアァ。」

約束通りドラゴンは有精卵を別の場所へ運んだ。どこへ行くかはわからないが、誰もいない場所でひっそりと生きていくことだろう。
 夕方の南の狩場、そこにはドラゴンを倒せなかったことをトールとロウコに詫びるケンギがいた。

「ごめんなさい! ごめんなさい! 俺には、あいつを倒せませんでじた……! 失格でも文句はありません! では……!」
「これこれ待たんか。二人とも合格じゃよ、合格。」
「「……本当ですか!?」」
「あぁ、本当じゃ。しかも、ランクは金からのスタートじゃ。」
「えぇ!? 金って、とてつもなく高いランクですよね!? 本当にいいんですか!?」
「君たちみたいな二人で何かをやり遂げられる旅人はあまりいないんじゃ。だから、期待を込めての金だ。」
「水をさすようで悪いですが、俺とロウコさん、そんなに良いコンビでした? 中々仲良くできないし、あまり良くない気もしますが……。」
「……それは私が保証するわ。」
「ロウコさん……。」
「さんは無しで、呼び捨てでいいわよ。赤髪なのに他者、しかもドラゴンに優しくできるなんて、とても凄いことだもの。ハーピーたちから見れば伝説的存在よ。」
「……ありがとうロウコ、俺を認めてくれて。」
「まだ優しさしか認めてないわ。実力は、どう頑張っても私を越えられないわ。」
「な、なんだと!? 命の恩人の方が弱いってのか!」
「ええそうよ。何が問題なのかしら?」
「まあまあ落ち着きなさい。さあ、明日から金ランクしか受けられない依頼をこなし、どんどんこの世界の地図を埋めていこうぞ!」
「おおー!」
「お、おお……。」

三人は大酒場へ歩き始めた。
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