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第四章 地下編

第七十話 地下世界で出来ること

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「あー、やっと起きた。今日はいつもより一時間起きるのが遅かったわよ」
「なんだ、無理やり起こして。何かあったのか?」

 目覚めた一行は、ジシャンを見つめる。ジシャンは後ろを指差した。そこにいたのは、サフィア捜索隊だった。

「……悪いが、今構ってやる暇はない。帰れ」
「待て待て。話くらい聞いてくれたって良いだろ。俺たちは、お前たちとチームを組みたいんだ」
「ダメだ。帰れ」
「そう言わずに。昔のことはお互い水に流して、仲良くやろうじゃないか」
「レイフ、カタラ、仲良しが良いって言ってる。仲良くしよう」
「どうせリップサービスだ。真に受けるな。世の中で信頼して良いテイマーなどほとんど存在しない」
「そんなこと言わずにさぁ。俺たちそれなりに強いから、役に立つぞ」
「何のために合流すると言うんだ。ラルド君のことを第一に考えるなら、口論などせず、別の場所で活躍すれば良いだけじゃないか。なぜわざわざ自分からラルド君からの評価を下げようとする?」
「ラルド、お前はどう思う? 俺とレイフ、どっちが正しい?」

 ラルドは黙って俯いている。

「そんなことを言って困らせるな。ラルド君はお前たちも俺たちも大事に思っている。だからって、板挟みにするのは良くない。今すぐギルドにでも戻って、地道にサフィアを捜せ」
「……けっ。やっぱりベッサ人はクズばっかりだ。こんな奴に倒された魔王が可哀想に思えるぜ。さ、帰るぞ」

 カタラたちはワイバーンに乗って去っていった。それと同時に、俯いていたラルドが顔を上げる。

「……もう、喧嘩はやめてください。仲良くしてくださいとまでは言いませんが」
「俺たちが何もしなくても、あいつらから何かをしてくるからしょうがない。さあ、あいつらのことは放っておいて、俺たちが夢の世界で出来ることを考えよう」

 夢の中で何も出来なかった組は、そのままフンスのテントへ向かっていった。ラルドはその場に立ち尽くす。そうしていると、シンジュが心配そうに話しかけてきた。

「ラルド、元気ない。あの喧嘩見てて、気分悪くなった?」
「……なんでこの世は差別が溢れてるんだろうな。互いに憎み合うなんて、どう考えても間違ってるよ。世の中おかしい……」
「なんか難しいこと言ってる。私じゃ励ませない。誰か呼んでくる」

 シンジュはその場を離れ、ジシャンの元へ向かった。

「ラルド、元気ない。ジシャン、励まして。私には、無理だった」
「シンジュちゃんに無理なら、私にだって無理だと思うわ。一応やってみるけど」
「お願い。あんなラルド、見たくない」

 ジシャンはラルドを励ましにいった。
 一方レイフたちは、自分が夢の中で出来ることを話し合っていた。

「怨念って、そもそも攻撃は効くのかな。まだ試してないからわからんよな」
「効くならホウマが最初から効くって言うだろ。効かないんじゃないか」
「私の場合、炎のブレスを出せるが、それは果たして効果があるのだろうか」
「それも怪しいだろうな。熱いってくらいだし。エメは何か思いつくか?」
「うーん……眠らすくらいしか思いつかない。しかし、夢の世界で眠らせるって意味がわからんから出来ないかな」
「なんとか今日中に考え出さないと、ラルドたちに迷惑をかけてしまう。出来るだけ案を出しまくるんだ」

 レイフたちはさまざまな案を出しては却下することを繰り返した。念のためレイフがメモを取っているが、どれもこれも失敗しそうなものばかりである。
 レイフたちが作戦を練る中、ラルドはジシャンと岩に座って話していた。

「良い? ラルド君、今、世界はとっても平和なのよ。差別とかは確かにあるけれど、魔王がいたときよりは平和と言えるわ」
「それでも、僕にとってはこの世界は平和じゃありません。というか、平和になるには人間がいなくなるのが一番な気がします。姉さんはそれに気づいて、それでもこの世を救うことが出来なくて、それで謝っていたのだと思います」
「じゃあ、サフィアちゃんは人間を滅ぼす方法を探しているってこと? そんなはずがないわ。彼女は人間の良さを知っているから……」
「昔のはかいしんの行動はきっと正しかったんです。あのときに人類を一人残らず殺してしまえば良かったのです。しかし、あの人はそこまではしなかった。愚かな人間を、わざわざ生かしたんです」
「ラルド君、あなたちょっとおかしいわよ。ポーションあげるから、ちょっと頭を冷やしなさい」

 ラルドはジシャンから受け取ったポーションの入った瓶の蓋を開け、がぶ飲みした。すると、ラルドから紫色の煙が出てきて、そのまま空に消えた。

「今の紫の煙って……」
「間違いないわ。怨念か悪魔ね。ラルド君、あなたあのままじゃ魔王になりかけてたわよ」
「す、すみません……ですが、僕は人間という生物の存在が間違いなんじゃないかという考えは捨てきれません」
「ラルド君、そんなことはありませんよ」
「そうぞうしん様?」
「確かに父は人間は失敗作だと罵っていましたが、私はそうは思いません。というより、全ての存在は、光と闇が必ずあります。ラルド君はここ最近怨念に触れたりギスギスした空気に長くいたのが原因で闇の部分を見すぎてしまっただけです。一週間ちょっと前のラルド君からそんな感じはしませんでした」
「そうですか……でも、僕は怨念たちと戦わなくちゃいけません。地下世界にいるあの方とやらを見つけるのです。そうして、そいつを倒したら姉さんの居場所を訊き出します」
「ラルド君、無理はしないでください。あなたが怨念になってしまったら、本末転倒ですからね。他の者たちにもそう言っておいてください。それでは、仕事に戻ります」
「はい。ありがとうございました、そうぞうしん様」

 コンパスから声が聞こえなくなった。黙ってその様子を見ていたジシャンが再び喋り始める。

「ラルド君、どうかしら? 人間に対する見方、少しでも変わった?」
「すみません。僕、おかしくなってましたよね。確かに人間にだって良いところはあります。それをすっかり忘れていました」
「良かったわ、元気になったみたいで。さあ、シンジュちゃんが心配してたから、もう大丈夫だよと言ってあげなさい」
「わかりました。ジシャン様も、わざわざ僕のネガティブな話に付き合ってくれてありがとうございました」
「元々教師をやってたから、そういう考え方に対して強く出られるのよ。それじゃ、いってらっしゃい」

 ラルドは岩から立ち上がると、そのままシンジュ、ダイヤ、ホウマのいるところへと戻っていった。ジシャンは、フンスのテントを覗きにいった。
 テントの中には、横になってくたくたになったレイフたちがいた。ジシャンが叱ると、レイフたちは慌てて作戦会議を再開した。

「しかしなージシャン。もう案は出尽くしてしまったんだ。これ以上話すことなんかないぞ」
「私は伝言を伝えにきただけよ。それでも話し合いはしててほしいけどね」
「伝言……? 誰からだ?」
「そうぞうしん様からよ。無理はするなって」
「じゃあ、作戦会議なんかしてないで横になってなくちゃな」
「もう、バカ!」

 ジシャンはレイフの頭を思い切り殴った。レイフはたんこぶをさすりながら、作戦会議を再開させた。

「はい、今出てるやつ以外で案がある奴はいるか?」
「ジシャンはああ言っていたが、やっぱりなんもないよな……」
「創造神で思い出したんだが、創造神は夢の世界にいけるのだろうか? もしいけるなら、かなり強力な助っ人になってくれると思うのだが。怨念だってへっちゃらでしょ、きっと」
「それじゃあニキス君、ラルド君に訊いてきてくれ」

 ニキスはテントを出て、ラルドたちのいるところへ向かった。ラルドたちは、さっきまでの静かな雰囲気から一転、明るい雰囲気の中話し合っていた。

「ラルド、創造神様と話がしたい。いちいち天界に行くのも面倒だから、コンパスから呼んでくれ」
「わかった。試してみる。そうぞうしん様ー」

 ラルドはコンパスに向かって呼びかける。すると、創造神が応えた。

「ラルド君、コクリュウにこのコンパスを渡してください。話し終わったら返させます」
「わかりました。ニキス、はい」

 ラルドは手を伸ばし、ニキスに渡した。ニキスはコンパスを握り、創造神と話を始める。

「その様子だと、訊きたいこともわかってるんですよね?」
「ええ、もちろん。私が夢の世界についていけるかどうか気になるんでしょう?」
「はい。教えてください。それが出来るのか出来ないのか」
「コクリュウは知らないかもしれないけど、私って寝ないのよ。つまり、私に夢の世界は存在しないわけ。だから無理よ」
「そうですか。それは残念です」
「ごめんね、役に立てなくて」
「いえいえ、可能かもしらずにそんな案を出した私が悪いです。それではまた」
「サフィアちゃん見つけるの、頑張ってねー!」

 声が聞こえなくなったコンパスを、ニキスはラルドに返した。そのままニキスはテントへと戻っていった。
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