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第三.五章 地下探し編

第五十八話 ウォリアの一週間

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 ホースに乗り、日が沈む前に王国に入ろうと、ウォリアとジシャンは急いでいた。そんな中、ジシャンはウォリアに話しかける。

「ウォリア、あなたはイースで何をするつもり?」
「うーん、回るって言っても、情報屋くらいしかないよなー。ほぼ村みたいなもんだし」
「案外そういう場所に答えって隠されてるものよ。どうせなら母国を一周するのも良いんじゃないかしら」
「なんだ? ホームレスとか貧乏な一般人から地下世界を知ってる奴を見つけろって? そんなことやる気力がわかねぇよ」
「もう、そんなに自分の国が嫌いなの?」
「力こそ正義ってお国柄が苦手だ。生まれが違えば、サウスの魔法学校で優等生になっててもおかしくないであろう賢い奴でも、物理的な力がなければ迫害される。俺は運に運がつもって出来たスーパーラッキー人間だ。俺を妬む眼差しが、そこら中から……」
「じゃあ、その子たちを救ってあげれば良いじゃない。王様に文句の一つも言えないの?」
「そうしたいのは山々だが、今は地下世界を知る奴を見つける方が先だ。なんにせよ力のない者に時間をかけてる余裕はない」
「情報屋だけで一週間は潰れないでしょう? しっかり王様に抗議しなさい。あなたは魔王を倒した勇者一行のメンバーの一人なんだから、多少無理なお願いでも聞いてくれるはずよ」
「時間が余ってたらな」

 二人が話しているうちに、イースの門までたどり着いた。ここでウォリアとジシャンは別れた。

「それじゃあ、また一週間後に会いましょう。ごきげんよう」
「じゃあな。さて、門番の部屋に荷物とホースを置いてくるか」

 ウォリアはホースに乗りながらイースの入り口に近づいた。高い位置にいるウォリアを、門番は顔を上げて見る。

「ウォリア、ホースを買ったのか」
「まあ、そうだな。いるのといないのじゃ移動の楽さが違うぜ。こいつと俺の荷物、全部お前の部屋に置かせてくれ」
「なんだ? また情報屋にでも行くのか?」
「その通り。頼めるか?」
「もちろん良いぞ」
「ありがとう。それじゃあ部屋に全部置いてくる」

 ウォリアはホースから降り、手綱を引きながら門番の部屋に入った。鎧や兜を脱いで、準備万端だ。早速情報屋に向かおうとするウォリア。しかし、後ろから入ってきた門番に呼び止められる。

「ウォリア、お前の兜、ヒビ入ってるぞ。変えなくて大丈夫なのか?」
「大切な兜だからな。少しヒビが入ったくらいで買い替えるのは嫌だ」
「まあ確かにこの角のような部位とかは俺たちの兜にはない特徴だな。その気持ち、少しわかる」
「……もう行っても良いか?」
「ごめんな、ちょっと邪魔しちゃった。じゃあな」

 ウォリアは今度こそ部屋から出て、情報屋に向かった。
 道中、何人もの物乞いに声をかけられた。その度に金貨を一枚渡していった。情報屋を無料で使えるとはいえ、袋の中が少しずつスカスカになっていくのはウォリアにとってあまり気分の良くないことだった。

(力のない奴が、こんなところまで出張ってくるようになったか。前に来たときは全くいなかったはずなのに……誰かが言いふらしてるのか? ここは金持ちが良く通る道だって)
「ウォリア様……どうかお金をください……」
「はいはい。これで満足してくれ」
「ありがとうございます! これで一週間は遊び放題だ!」
(はぁ……せっかくの金を、そういう使い方しちゃうか。その金で、呪文くらい学べば良いのに)

 そうして歩いているうちに、ウォリアはようやく情報屋にたどり着いた。中に入ってみたが、情報屋がいない。

(奥の部屋にいるのかな。ちょっと呼んでみるか)
「おーい! 情報屋ー!」
「ウォリアか! ちょっと待っててくれ!」
(なんだ? いつものあいつならスッと現れるのに)

 日が沈むと同時に情報屋がようやく表に出てきた。

「すまんすまん。ちょっとめんどくさいことがあって遅れた」
「めんどくさいことってなんだ?」
「実は、俺の部下が五人見つからないんだ。ウスト遺跡に行った奴なんだがな。依頼者のお前なら、もしかしてなんか知ってるんじゃないか? 聞いたぞ。俺の部下に優しくしてくれたって」
「うーん、あ、そういえば……」

 ウォリアはカタラが語っていた情報屋を操ったということを話した。その話を聞いた情報屋は、更に詰め寄る。

「その後そいつらをどこにやったか訊いたか!?」
「それは知らん。そんなことより、俺も訊きたいことがあるんだ。頼めるか?」
「そんなことだと……? 俺の部下をバカにしたな?」
「黒服の数は死ぬほどいるだろ。五人消えたくらいじゃ変わらんだろ」
「お前、それでも人間かよ……」
「なんだ? 俺に捜せって言うのか?」
「……お前とその仲間に頼るより他ないだろう」
「じゃあ、交換条件だな。俺がもし五人見つけてきたら、代わりに俺の知りたいことを必死こいて探せ」
「嘘じゃないな?」

 情報屋は手を差し出した。ウォリアはその手を握ると、上下に力強く振った。

「早速今日から捜してやる。心当たりはあるからな」
「夜だから、無理はするなよ。休憩所までしっかり行け」
「おう。それじゃあな。三日くらいでちゃちゃっと見つけてきてやる」

 そう言ってウォリアは情報屋を出た。急ぎ足で門番の部屋に向かう。
 部屋についたウォリアは急いで支度を済ませ、ホースを外に出した。そして外に出ようとしたとき、寝ていた門番に止められた。

「ウォリア……今から、どっか行くのか?」
「ベッサに行くんだ。情報屋を助けてやるためにな」
「そうか。俺が言えたことじゃないが、魔物には気をつけろよ」
「もちろん。それじゃあな」

 ウォリアは真夜中、ホースを走らせベッサに向かった。眠くて何度もホースの上で寝かけるが、その度にハッとして目を覚ます。

(休憩所の光が見えてきた。俺、もう少しだぞ)

 ラストスパート、ホースの速度を最大限にまで上げ、急ぐ。眠気との最後の戦いだ。その戦いに勝利したのは──

「ふう。間に合った。さあ、ホース、入るぞ」

 眠気が限界まで迫っていたウォリアは、休憩所にホースを入れるとすぐにベッドに向かった。この日はそのまま爆睡し、翌日、起きた。

(はあ、良く寝た。さて、時間の方は……)

 ウォリアが時間を確認すると、朝八時だった。しかし、朝八時は朝八時でも、それは一日中寝てしまった後の朝八時だった。つまり、一週間のうちの一日は、全て寝てしまったのだ。

「……やっちまった。明日までには情報屋の手下五人を見つけなくちゃいけない。そもそも、地下世界を知ってる奴を捜さねばならない。しまったな……」

 ウォリアは爆速でベッサに向かった。
 ベッサに着いたウォリアは、ベッサ中を回り、カタラたちを捜した。そして、昼頃、ようやくカタラたちを見つけた。そこは、ベッサ城のすぐ近くだった。

「おい、お前たち、訊きたいことがある。この間操ったって言ってた情報屋、どこにいるんだ?」
「ウォリア……今の俺たちがその質問に簡単に答えると思うか?」
「ウォリア、その人たちは既に操っていない。きっと、ツカイ村らへんの森の中で気絶してる」
「お、おいホーネ。なんで言っちゃうんだよ。こんな雑魚に」
「困ってるときはお互い様だ。いくら嫌いな奴でも、助けてやるのが武士道というものだ。それに、俺は別にウォリアに恨みを抱いてない。恨みを抱いているのは、お前とザメだけだ」
「ホーネ、ありがとうな。すぐに起こしに行ってくる」
「お前まで俺を無視するのか! 待ちやがれー!」

 ワイバーンに乗ったカタラに追いかけられるウォリア。腰にかけていた煙幕をまき、カタラの視界を封じた。

「き、汚ねぇぞ! 後で覚えてろよ!」
(……めんどくさい奴だな)

 ウォリアは急いでツカイ村の森まで進んだ。

(ラルドやレイフに鉢合わせなくて良かったぜ……サボってるって取られかねないからな。さて、捜すか)

 ウォリアは森中を回り、倒れている情報屋を次々と起こした。
 五人全員見つける頃には、昼になっていた。全員お腹が空いていたため、森の中で食事をした。

「ウォリア様、ありがとうございます。あなたが見つけてくれなければ、私たちは死んでいました」
「なんてことはない。急いでイースまで行って、情報屋を安心させてやってくれ。じゃないと、俺の依頼を受けてもらえないからな」
「はっ。では、これにて」

 情報屋は瞬時にウォリアの視界から消えた。昼食を食べ終えたウォリアも、急いで情報屋へ向かった。
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