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第三.五章 地下探し編

第五十五話 地下世界を知る者

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「おう、お前たち、起きたか」

 三人が目を覚ますと、エメの顔が近くにあった。

「早く夢の内容をレイフ様たちに教えなきゃ……って、どこにいるんだ?」
「ああ。あいつらなら、今は病院にいるはずだ。さっき派手にやりあったからな」
「夢の世界からでも大きな音が聞こえたぞ。どんだけ激しく戦ったんだ」
「うーん、色々凄かったが、一番凄かったのはそうぞうしんが干渉してきたところだな。カタラがスーパーノヴァを唱えようとしたんだよ。それを止めに入ったんだ」
「スーパーノヴァだと! あれは今は使い方がわからない呪文じゃないのか」
「カタラは情報屋を操って聞き出したとか言ってたな。なぜそんな努力をするのか俺にはわからんな。お前のためなのか、お前の姉ちゃんのためなのか、それとも……自分自身のためなのか」
「まさか。僕のためにスーパーノヴァを覚えるなんて考えられない。きっと、ただひたすらに強さを求めただけだ。その力を振るう場所が良くなかったけど」
「じゃあ、早速病院へ向かってレイフたちに会いに行こう。夢の内容は、俺は歩きながら聞いてやるから」

 そのために立ち上がったラルドとニキスだったが、歩こうとしたところをダイヤに呼び止められた。

「待てよ。俺はここから出られないから先に昔の創造神から訊いた話を教えてくれ」
「あ、忘れてた。実はな……」

「ふーん。地下世界について詳しく知ってそうな奴か……確かに見つけるのには苦労しそうだ。教えてくれてありがとう。お前たちの仲間たちに会いに行け」
「私たちがいぬ間に心当たりがないか考えておいてくれ。王族時代の記憶を取り戻した今なら、一人や二人くらいは出るだろう」
「じゃあ、ダイヤ、また後で」

 ラルド、ニキス、エメは病院へと向かっていった。
 ベッサ王国の病院に着いた三人は、戦った者たちのいる病室へ案内された。中では、ウォリアが割れた兜を必死に直していた。他二人は、未だ眠っているカタラたちを見ている。

「ウォリア様、その兜は?」
「ザメって奴の棍棒で砕かれちまった。見た目からは想像もつかん威力だった。今でも頭が痛い」
「不意打ちですか」
「いや、カタラの撃った風の呪文で急接近してきたんだ。俺の反射神経じゃ避けられなかった。ジシャンはギリギリ結界で助かったみたいだが。まったく情けない話だぜ。俺としたことが油断しちまった」
「カタラ、ついに風の呪文を使えるようになったのか。たった数日の修行でそこまで出来るって、やっぱり凄いや」

 ラルドはカタラの元へ行く。そこでカタラの顔をジッと見つめていたレイフがラルドの方を見る。

「ラルド君、夢で訊いたことを教えてくれ。こいつらの目が覚めないうちに」
「はい。実は……」

 ラルドは夢の内容を話した。

「なるほど。地下世界を知る者を見つけ出さなきゃいけないんだな」
「はい。ですが、昔のそうぞうしん様でさえ地下世界を知る者を知らないと言うのです。この時代に果たしているのでしょうか……」
「そもそも、地下世界に実際に行ってたら簡単には帰ってこれないはずだものね。中々見つからないと思うわ」
「とりあえず、ダメ元で知ってる奴らから片っ端に地下世界を知る者を知らないか訊いてみようか。よっこいしょ」

 レイフは椅子から立ち上がると、眠っているカタラを一瞬見て、すぐにラルドに視線を戻した。

「そんなに心配しないで良いよ。呼吸はしてるし、じきに起きるさ」
「エメとウォリア様から聞きました。カタラとザメが、凄く強くなってること。人って、なんのために強くあろうとするのでしょうか」
「ラルド、お前らしくもない疑問だな。誰であろうと強くあろうとする理由なんかとっくの昔から知ってるだろ?」
「エメ……」
「さあ、考え事をする暇があるなら行動しろ。この世界を回り回って、地下世界を知ってる奴を見つけるんだ」
「私はスカイ王国と天界を回ってみよう」
「ニキス、ありがとう」

 一行は病院の外へと出て、各々別行動をとることにした。

「ニキス君はスカイと天界。俺はベッサ、ジシャンはサウス、ウォリアはイース、ラルド君とエメ君はツカイ村とシリョウ村を回ろう。一週間後、俺の家に集まって成果を報告しあうことにしよう。それで良いか?」
「レイフ様、御言葉ですが、僕たちだけ村二つだと一週間もしないで探索しきれてしまうと思います。それに、並の嗅覚を保ったままシリョウ村に入ったら……」
「ラルド君、腐臭に関しては私が呪文を教えてあげるから、それを使いなさい。でも、確かに村二つだと少ない気もするわね……ウスト遺跡も回ってみるのはどうかしら? オークがあれだけいるなら、一匹くらいは地下世界を知ってる子に会えるかもしれないわ」
「じゃあ、ラルド君とエメ君は、ツカイ村、シリョウ村、ウスト遺跡の三つを回ってもらおう。ジシャン、嗅覚を弱める呪文は教えるのにどのくらいかかる?」
「待っててね。ラルド君、良く見ていてちょうだい。同じ手順を踏めば、出来るようになるわ」

 ジシャンは嗅覚を弱める呪文を唱えた。その様子を見たラルドも真似をする。すると、ラルドの鼻が効かなくなった。

「一度かけるといくらかは効果が持続するわ。多分村を回り切るには十分な時間だと思う」
「ジシャン様、ありがとうございます」
「よし、それじゃあみんな、これから別行動になるけど、その中で死んだりしないようにな。まあ、国や村の中だから死ぬってことはないだろうけど」
「ラルド君、ホース、借りてっても大丈夫かしら? 歩きより移動が迅速に出来るから、私とウォリアは使いたいの」
「はい、大丈夫ですよ。確かみんなレイフ様の家にいるから、そこから連れていってください」
「これで話すことは全部話したかな。みんな、また一週間後に会おう」

 一行はそれぞれの場所に移動を始めた。ジシャン、ウォリアはホースに乗り、ニキスはベッサから出て空へ、そしてラルドとエメはツカイ村へ向かった。
 二人がツカイ村に入ると、トパーが駆け寄ってきた。

「最近良く帰ってくるわね。サフィアの捜索に手間取ってるの?」
「母さん、今、僕たちは地下世界のことを知ってる、見たことがある人を捜してるんだ。姉さんに会うために。誰か知ってそうな人はいない?」
「へー、世界って、地下にもあるのね。私知らなかったわ」
「それじゃあ、母さんの知ってる人で地下世界を知ってる人はいないな。そうなると、ツカイ村の探索は終わったも同然かな」
「うーん、良くわからないけれど、力になれなくてごめんね。代わりと言ってはなんだけど、今日はうちに泊まっていきなさい。もうすぐ日が暮れるから。最近村の子たちがたくさん狩りをして、肉が腐るほどあるのよ。だから、ラルドとエメ君に食べてほしい」
「わかった。今日はもう休むよ。寝てばっかりだったけど、ちょっと疲れちゃったから」
「よーし、私、張り切っちゃうわよ。洗濯物を畳んだら、急いで料理を作らなくちゃ。二人は先に家で待っててちょうだい」

 二人はラルドの家に入った。そして、ラルドの部屋へ行った。
 二人は布団の上に寝転び、思い切り背伸びをした。

「ふーん! はあ、久しぶりだなあ、母さんのご飯食べるの」
「それまで暇だなぁ。なあラルド、魔王スゴロクしないか?」
「うーん、ちょっとやる気が湧かないな。布団でゴロゴロするのが気持ち良すぎて」
「そうかぁ。そう言われると、この時間は至福の時間に感じるな。今にも寝ちまいそうだ」
「まだ寝るには早いからな。絶対……寝たらダメ……だぞ」
「そう言ってるお前が一番眠りそうじゃないか」
「……はっ! 危ない危ない。危うく寝るところだった。もう身体は起こしておこう」

 ラルドは上体を起こし、カバンを漁り始めた。カバンの中から取り出したのは、魔王スゴロクだった。

「これしかやることないから、やるか、エメ」
「今回こそは最短ルートで進んでやる」

 二人は魔王スゴロクで暇を潰すことにした。
 まだまだ途中の白熱しているとき、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「二人ともー、ご飯出来たわよー」
「はーい、今行くー」
「続きは飯を食ってからだな」

 リビングに行くと、ルビーが座っていた。ラルドの方を見て、何か言いたそうにしている。食事が始まった瞬間、ルビーがラルドに話しかけた。

「なあラルド、お母さんの飯を食ってて、ずっとここにいたいとか思わないか?」
「父さん、前に言ったじゃん。僕は姉さんを見つけて帰ってくるんだって」
「ラルド、お父さんはずーっとあなたのことばかり考えているのよ。可愛い我が子を危険な旅路に出すのはやっぱり苦しいって」
「毎回聞いてるよそれは。そんなに僕は頼りない?」
「だってなぁ、お前はまだテイマーとして未熟者なんだぞ? そんな子をほっておけるか?」
「なんでだよ。竜をテイムしてる時点で十分熟してるだろ」
「でも、本人の強さは「父さん、僕はたくさん呪文を覚えた。片手では数え切れないほどに」
「そうか……じゃあ、この家にとどまらないと言うのなら、この旅でもっと強くなってこい。俺くらいは軽く超えてくれ。それが父さんの願いだ」
「わかった。でも、父さん、レイフ様に負けるくらいだから大して強くないんじゃないの?」
「もう歳だからな。全盛期よりは弱くなってるさ。全盛期の俺は凄かったんだぞ。例えば……」

 結局久しぶりの家での食事は、ルビーの武勇伝を語るだけで終わってしまった。

「はぁ……嗅覚を弱める呪文を使ってたから、味がしなかった……」
「それは残念だったな。さあ、さっさと再開するぞ」

 二人は部屋に戻り、魔王スゴロクを終わらせた後、眠りについた。
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