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第三章 ウスト遺跡編

第五十話 モンド

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「ようやく気がついたか。かなり時間がかかったな」
「しかし、俺は王を父親として認識出来ない。なぜだ……」
「勝手に話が進んでいるが、未来の俺ってどういうことだよお前」
「こういうことだったんだな……まさか、夢が現実になるとは」
「おい! 俺の話を聞けよ!」
「ハハハ! 懐かしいなぁ。思い出せば、そんなこともあったな」
「お前、良い加減にしろよ……」

 一号は武器を全開にし、ダイヤに襲いかかった。

(懐かしい。この攻撃には、このように対処したんだよな)

 ダイヤは一号の攻撃を片手で受け止めた。トゲトゲしい一号の拳は、ダイヤにかすり傷さえ与えることが出来なかった。それを見た一号は、少し動揺する。

「そ、そんな丸っこい見た目で、俺の一撃を受け止めるだと……? ありえない、そんなことがあるか」

 一号は何度もダイヤを殴ろうとする。しかし、全ての攻撃を防がれてしまう。一号は電気を激しく消耗し、徐々に動きが鈍っていく。

「はぁ……はぁ……」
「まあ、お前はまだ戦い慣れてないからな。いくら武器を持っているとはいえ、今は雑魚同然だ」
「お、俺はどうしたら強くなれる? 未来の俺なら知っているだろ?」
「まあ、そう遠くない未来、戦わなければならなくなる。そのときに学ぶんだな」
「そ、そう、か……プシュー……」
「おっと、一号の電源が切れてしまいました。やはり戦闘では電源量が足りないですね」
「バッテリーの強化を急げ。私は、未来の一号と話をしたいから出ていく。騒がせてすまない」

 三人は研究所から出て、応接室に向かった。どうやら王は、二人を大事な客人として捉えたようだ。応接室に着いた三人は、ダイヤ、ラルドと王が向かい合う形で座った。

「いやー、まさか未来の息子が会いに来るとはな。夢の世界というのは不思議なものだ」
「王、俺は確かにあなたの息子、モンドの人格が入ってますが、あなたを父親として認識出来ません。どうしてこのような現象が起きるのですか?」
「まあ、人格システムと言ってもプロトタイプだったから、そこらへん上手く機能しなかったのかもしれない」
「王はなぜ、モンドを人格システムにしてしまったんですか?」
「おや、そこまでは思い出していないのか。あるいは、システムのバグか。人格システムというのは王族全員分の物が造られているのだ。死んでしまったときの対策としてな」
「ということは、俺は一度死んでいると。なぜ死んだのか、なぜ庭園ロボットに俺の人格を入れたのか、教えてくれませんか?」
「死因は……魔物による殺害だ。我が国と戦争を始める前だったサウスに護送中、オークの大群が押し寄せた。王国指折りの実力者たちをもってしてもお前を守りきることは出来なかった。護衛の一人が早めに連絡をよこして、なんとか遺体を回収することは出来た。国中は悲しみに包まれ、お前の遺体は紋章の岩の下に埋めた。思い出さないか? オークに襲われたこと」
(紋章の岩……あの下に、ダイヤの人格の元になったモンドという王族が埋まっているのか)
「……思い出せません。そもそも、人格システムと本人はリアルタイムで繋がっているものなのですか?」
「ああ。繋がっている。一号にモンドの人格を搭載した理由は、戦いが嫌いだったモンドのことを思ってのことだ。庭園ロボットは、よほどのことがない限り戦争には参加しない。平和を強く想っていたお前にはピッタリだと思わないか?」
(まあその、よほどのことが起きるのはそう遠くない未来なんだがな)

 そんな話をしていると、ラルドとダイヤは少しずつ身体が消え始めた。それは、目が覚める合図だった。

「おお、二人とも、目覚めるか。本当はもっと話を聞きたいんだが、仕方ない。また遊びに来てくれ。そのときは歓迎しよう」
「王、あなたのおかげで俺は記憶を取り戻せました。この恩は忘れません。さようなら、さようなら」
(あ、口まで消えてしまった。僕もお別れの挨拶くらい言いたかったのに。まあいっか。なんだか現実に戻るのが久しぶりな気がする)
「ああ、最後に一つ。興味本位で未来の世界の紋章が刻まれた岩から遺体を掘り起こしたりするなよ。じゃあな」

 二人は夢の世界から姿を消した。

「……ド、……ヤ、……ろ」
「う、うぅーん……はあ。夢は終わりか」
(どうだろう。夢の中で訊いた話はこいつらにすべきことなのだろうか)
「ほら、二人とも起きただろ? 殺してなんかいねーよ」
「ちっ、たまたまだろ? 本当は気絶させたんだろ? 正直に言え」

 二人が目覚めると、レイフたちとカタラたちが対峙していた。どうやら、ラルドが倒れていたことでカタラは誤解してしまっているようで、既に剣を引き抜きウルフとワイバーンも呼んでいる。起き上がったラルドは、カタラに語りかける。

「カタラ、僕たちは夢の世界で色々話を訊いてきただけだ。決してレイフ様に後ろからどつかれたとかじゃない。エメの催眠で眠っていただけだ」
「……そうか。お前がそう言うなら本当なんだろうな」

 カタラは剣を納めた。そして腕を組み、頭を傾けた。

「……悪いことをした。レイフ、許してくれ。でも、忘れるなよ。さっきまではたまたま見ていなかったが、今度は意地でも後を追う。常に睨んでいるからな」
「わかったわかった。戯言は良いから、早く帰れ」
「いいや、帰らない」
「まあ良いや。ラルド君、ダイヤ君、その岩の情報は何か手に入れたか?」
「い、いえ、何も……けど、それ以外のことをたくさん知りました(下手に下に埋まってるモンドのことを言ってはいけないよな……あ、しまった! 心の声が)」
「……ラルド、油断したね」
「ぜ、絶対やめてくれ! 何が起きるかわからない」

 ラルドの説得虚しく、カタラは紋章の岩の前に立った。

「ほほう、この岩の下に、王族が眠っているのか」
「ラルド、なぜバレたんだ?」
「あいつ、人の心の声が聞けるんだ。あのサトリという魔物のせいで」
「ふふーん、絶対ダメって言われるとやりたくなっちゃうんだよなぁ」
「ラルド君、一体なんの話を?」
「レイフ様、カタラとザメを止めてください。あのままではまずいことになるかもしれません」
「わかった。みんな、かかれ!」

 一行は地面を掘ろうとするカタラとザメを止めに入った。

「おっと! せっかく剣を納めたのに、また抜かなくちゃならないな!」
「カタラ、ザメ、頼むからやめてくれ! 王に掘り起こさないように言われてるんだ。興味本位でやって良いことではない! それに、わざわざ争いなんかしたくない……」
「ラルド君、戦いには慣れたんじゃないの? 夢の世界でおかしくなっちゃったの?」
「ふむふむ。夢の世界で見た争いで少し争うのが嫌になったんだな」
「ダイヤ! 心の声を漏らすな!」
「そ、そんな急に言われたって心の声を閉ざすことは簡単なことじゃないだろ」
「お得だ。何もせずにラルドたちが見てきた世界が想像出来る。良くわからない物も色々とあるけど……」
「ラルド、私たちを止めたいなら、久しぶりに本気でやりあいましょう?」
「……本気、か。フンス! 今すぐこいつらを気絶させるんだ!」

 ラルドの一声でオークの大群がカタラたちを襲った。死なない程度に手加減しながら棍棒で殴られまくるカタラたち。抵抗するが、数の暴力には勝てず、すぐにカタラたち四人は気絶してしまった。

「これで良いか? ラルド」
「うん。ありがとう」
「皮肉なものだな。俺を殺したオークが俺の墓を守るとは」
「ラルド君、夢で見た本当のことを教えてもらおうか」
「……はい」

 ラルドは黙っておこうとしていたことを全て話した。タクシーやら研究者やらの言葉は伝わらなかったが、紋章の岩の詳細は伝わったようだ。

「つまり、これはただの墓だったわけか。でも、コンパスは相変わらずこの岩をさしている。もしや、モンドという者が埋まってるここに何かあるんじゃないか?」
「でも、掘り起こすわけにはいきません。一体どうしたら良いのでしょう……」
「ラルド、もう一度夢の世界に行って、この岩について訊いてきたらどうだ? さっきは邪魔が入って起こさざるをえなかったが、今なら寝放題だぞ」
「そうだな。気絶したカタラたちをツカイ村まで運んでから、もう一度夢の世界へ行こう。また居場所がバレたら、起きなくちゃならないからな」

 一行は気絶したカタラたちを背負い、ツカイ村へ向かった。
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