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第三章 ウスト遺跡編

第四十九話 ダイヤの真実

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「ラルド、門番や兵士たちを歪められるか? 城ってだけあって、警備機械や人間の兵士がたくさんいる」
(やってみる……)

 ラルドは城門に着く前に強く念じた。すると、門番は消え、自由に入れるようになった。城の中に入る二人。たくさんいると言われた兵士や機械たちがいなくなっている。そのままスムーズに玉座の間へ歩むことが出来た。ラルドは堂々と扉を開いた。

「ほう……警備の者たちはどうしたのかな? 力ずくで突破してきたのか?」
「幸運なことに警備の者には会いませんでした。最高にラッキーなタイミングです。それより王、訊ねたいことがあります」
「ふん。ろくに許可も取らずに入ってきた侵入者と話すと思うか? それに、そんなふざけた格好の少年を庭園機械ごときが連れてきやがって」
(ダイヤ、僕、こいつ嫌いだ)
「我慢しろ。なんとか話してもらえるようにしてくれ」
「さあ、帰った帰った」
(腹立つな。こうなったら意地でも歪めてやる)
「ん? 何をしているんだ」

 ラルドは強く念じた。その姿を見て、王は玉座から立ち上がりラルドに近づいた。

「そのポーズは……」
「王、なんでしょうか」
「まさか、サウスでもそれが可能になったと言うのか!?」

 王は念じるラルドの肩を握り、前後に揺らす。気が散ってしまったラルドは、怒りをあらわにした。

(やめろ! 集中出来ないじゃないか! それに、僕はサウスの人間じゃない)
「その服装でサウスの住民じゃないのなら、一体何者だ」
(しまった。未来人なんて言っても信じてもらえないよな……どうしよう、どうしよう)
「王、こいつはれっきとしたウスト人です。ほら、手の甲にサウスの紋章はついてないでしょう」

 ダイヤはラルドの手首を掴み、王に手の甲を見せる。納得したのか、王は再び玉座に座った。

「……まあ良いだろう。サウスからの民じゃないなら答えは一つ。さあ、訊きたいことを言え」
「え? よろしいのですか?」
「特別だ。なんでも訊いてくれ」
「それじゃあまず一つ、なぜこの国は戦争をしているのですか?」
「はぁ……お前たち庭園ロボットにもバレてしまったか。絶対にバレないと思ったんだがな。良いか? この戦争で正しいのは当然私たちの方だ。私たちの宝である、夢装置をサウスの民に盗まれたのだ」
(盗まれると何か不都合なのか?)
「奴らには使いこなせないように呪いをかけておいたから今はまだ大丈夫だが、このままでは夢の中に第二の王国をつくることが出来なくなってしまうのだ。お前があのポーズをしたのを見て必死になったのはそれが原因だ。夢装置の使い方そのものだったからな」
「おいラルド、この話って本当なんだよな? 夢だけど、現実なんだよな?」
(君の記憶を基に出来た世界だ。本当に決まってる)
「この戦争は正しい戦争だ。しかし、夢装置の存在を国民に伝えるのはまだ段階が早すぎる。だから、誰にも戦争の理由を民に黙っているのだ」
「なぜ俺たちにはその話をしたのですか?」

 王は再び玉座から勢い良く立ち上がり、拳を握った。

「ズバリ、ここは夢の世界なのだろう? どの時代かはわからないが、ファンタジーな力が牛耳っている世界から来たのだろう? つまり、何かを知りたくて私たちの時代に夢として侵入してきたってことだよな。未来か? 過去か?」
(未来人だ!)
「なぜファンタジーの牛耳る世界になってしまったのだ?」
(それは歴史を変えてしまうかもしれないから言えない)
「む、そうか……しかし、未来の世界はファンタジーな世界になっているとして、どうやって夢の世界に侵入したんだ?」
(こいつの力を借りた。こいつには人の夢に入り込める特技があるんだ)
「なるほど……ロボットに夢装置をつければ、外国に対して夢を通して牽制しやすくなるな。直ちに庭園ロボット一号につけるとしよう」

 王は急いで玉座の間から出ていった。その後を二人は追った。
 やがて庭園に着き、王は一号を探し始めた。

「一号には人格システムを組み込んであるから、大声を出せばきっと来るだろう。おーい! 一号ー!」
「一号ってもしかして、俺のことか……?」
「はいはい、王、なんでしょうか」

 出てきた一号は、武器を奪われる前のダイヤそっくりだった。

「お、俺だ! 王、なぜあいつにだけ人格システムを搭載したんですか?」
「後で話す。今はとにかくこいつに夢装置をつけなければ。一号、ちょっと電源を切るぞ」
「はっ。わかりました」

 王は電源の切れた一号を、研究所まで運ぶことにした。二人は王についていきながら、話を訊いた。

「ほう。未来の一号がお前だと言うのか。人格システムを入れた理由を訊きたいと言っていたな」
「はい。俺、ロボットのままでいたかったってわけじゃないですけど、なんで俺にだけ人格システムを入れたのか気になって……」
「お前だけに入れようとしたわけじゃないのだ。本当は全ロボットに人格システムを入れるつもりだった。しかし、人格システムを初めて入れたお前がなかなか仕事をしなくてな。これではダメだと思って、それ以降のロボットには人格システムを搭載することをやめたんだ」
「そうでしたか……一体俺は、誰の人格なのですか?」
「自分で覚えていないのか?」
「昔のことだから、記憶がないです」
「そうか……そんなに遠い未来なのだな。それまで人間というのは生き続けているのか」
(まあ、一応(この後、滅びることになるんだけどな。あれ? でも、滅びたなら、どうやって人間は生き残ったんだ? 現実に戻ったら、そうぞうしんに訊いてみるか))

 やがて研究所に着いた三人は、扉を開け、中に入った。ラルドの生きる時代には存在しない物だらけで、ラルドは興味深そうに周りを見渡す。それをダイヤは咎めた。

「あんまり深入りしすぎると創造神に消されるぞ」
(喋らなければオーケーじゃないか。あの人の仮面はちゃんと見えてるのかな?)
「研究者たちよ。これから一号に夢装置を取り付けてくれ。そして、自分に夢装置が付けられたことを認識させてくれ」

 王は抱き抱えていた一号を机の上に置いた。研究者たちは早速取りかかった。一号をうつ伏せにし、背中を開き、接続部に夢装置を取り付けた。

「これで一号は夢装置が使えるようになったはずです。一度起動して、その話をしましょう」
「ほほーう、俺はこうして夢の世界に侵入できるようになったんだなぁ」

 研究者の一人が一号の電源を入れる。一号はうつ伏せの状態から起き上がり、机から降りた。

「なんだか身体に違和感がある。何かとりつけたな?」
「夢装置を取り付けたんだ。これでサウスに夢の世界を盗られる前に支配できる。お前ほどの強さがあればな」
「えー。俺はあの花畑でのんびりしたいんだけどなー」
「ほら、人格システムを入れるとこうなってしまう。この怠けた姿を見て何かを思い出さないか? 未来の一号」

 ダイヤは一号をじっと見つめる。静寂が広がり、ただ一号とダイヤが見つめ合い、時間が過ぎていく。痺れを切らしたのか、一号がダイヤに話しかけた。

「お前は、誰だ? その辺のロボットと違って、妙に丸っこいが」
(うーん、話し方を聞いていてもわからないな。俺の人格の元になった人間は、一体誰なんだ?)
「何か言えよ。ロボットでも喋れるだろう?」
「俺は……ダイヤだ。お前の人格システムの元になった人間を教えてくれないか」
「それをお前に教えて何かメリットはあるのか?」
(ああ、そうだ。俺は一度丸っこい変なロボットに会ったことがあった。そして、そのとき俺は……)
「俺は、未来のお前だ。そして、入っている人格は……」

 核心に迫ろうとしているダイヤ。王の方を見て、喋った。

「俺は、王の息子であるモンドだ」
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