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第三章 ウスト遺跡編

第四十二話 爆発呪文

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 昼食を食べているラルドたち。ラルドはさっき聞いたジシャンの言葉に疑問を投げかける。

「ジシャン様、明日頑張りましょって言ってましたよね? 僕的には、今日今から行った方が良いんじゃないかと思うんです」
「あら、そう? どうして?」
「今日を過ぎてしまうと、夢の中に来た何かに記憶を探られて、爆発呪文の対策をしてしまうかもしれません。だから、今日中に行くべきです」
「うーん、確かにそれが良いかもしれないけど、体力と魔力は残ってるの? 疲れてない?」
「このご飯のおかげで満タンまで回復できそうですよ」

 ラルドは空になった皿をジシャンに見せ、にっこり笑う。ジシャンはその様子を見て微笑む。昼食を済ませた一行は、荷物を準備し始めた。

「ウォリア、これだけあるんだけど、全部持てそう?」
「この袋は見たことがないな。何が入ってるんだ?」
「ポーションよ。私とラルド君が疲れたら、グイッと飲むやつ」
「いつの間にこんな大量のポーションを作ったんだ?」
「レイフからのプレゼントよ。ちょっと古いやつだから、ちゃんと効果が出るかはわからないけどね」
「ふーん。それじゃあ、背負うとするか」

 ウォリアはパンパンの袋を背負った。一行はホースに乗り、ウスト遺跡に向かった。

「は、速くて追いつけないぞ……」
「カタラ、ワイバーンで追いかけるのよ!」

 カタラたちはワイバーンに乗り、一行の後を急いで追った。ワイバーンの速度よりも速いホースたちに、追いつくことが出来ない。徐々に差を広げられていく。

「お前、もっと速く飛べないのか?」
(これ以上速度を出すと、お前たちを振り落とすことになるぞ)
「それならしょうがない。この速度でも構わない。どうせ行き先はわかってるんだからな。のんびり行こう」

 一行はウスト遺跡入り口までたどり着いた。ラルドとジシャンは、まずは試しに入り口から爆発呪文をお見舞いすることにした。

「ラルド君、距離の離し方はわかる?」
「目をつむる時間を長くするんですよね」
「そう。だから、出来るだけ相手の多い中央部に届くまで目をつむるのよ」
「わかりました」
「二人ともちょっと待っててくれないか」
「どうしたの? ウォリア」
「情報屋の奴らがあそこにいるだろ? 爆発呪文を使うから、あいつらを別の場所に移さなきゃいけない」
「わかったわ。それが終わったら教えて」

 ウォリアは岩の影で様子をうかがっている情報屋たちの元へ歩き、爆発呪文を使うことを伝えた。

「おお、それはありがたいです。わざわざ依頼者様がそこまでしてくれるなんて」
「感謝は俺じゃなくてあの二人に言ってやれ。さあ、ここから離れるんだ」

 情報屋たちは跳んでどこかへと去っていった。

「さあ、情報屋たちも避難させたことだし、思う存分ぶちかましてやれ」
「わかったわ。まずは私が何発か撃つわ」

 ジシャンは手を前に出し、目をつむる。少し時間が経ったところで、目をカッと開いた。恐らく遠いであろう中央部で爆発が起き、その音がハッキリと聞こえた。

「ふぅ……どうかしら。誰か、様子を見てきてくれない?」
「俺が見てこよう」
「レイフ、気をつけてね。あの何かはまだ生きてるかもしれないから」
「あの大爆発の中、どれだけの奴が生き残ってるかな」

 レイフは剣を引き抜き、前に進んだ。丸焦げになった何かたちが転がっている。しかし、まだ生きているようで、倒れながらも光線を発射してきた。

「ピー……ピー……外敵……確認……」
「おっと、まずいまずい」

 レイフは急いで一行が隠れている岩の影に飛び込んだ。

「死にかけだけど、まだほとんどの奴らが動いてる。あと二、三発撃った方が良さそうだ」
「まだまだいけるわ。とりあえず二発撃ってみる」

 ジシャンはもう一度手を前に出し、目をつむった。そして、二回連続目をパチパチさせた。爆風と爆発音が二回とも来た。

「ふぅ……これでどうかしら?」

 レイフは前に進んでみた。火花を散らしながら、倒れている何かたちを見つけた。もう喋らないので、恐らく死んだのだろう。それを確信したレイフは、一行を呼んだ。

「おーい、みんなー! 変なのが全滅したぞー!」

 一行がワラワラと出てくる。倒れている何かを見て、ジシャンは安堵する。

「良かった……効かなかったらどうしようかと思ってたわ」
「これできっと中央部に行けるようになったはずだ。まだ日は出てるから、急ごう」

 一行は中央部に向かって走り始めた。

「すげぇ……マジで死んでんじゃん。うんともすんとも言わない。変なのをパチパチ出してるだけだ」
「カタラ、感心してる場合じゃないわ。急いでラルドたちを追いかけないと」
「感心なんかしてないぞ。ちょっとこいつがどんな奴か探ろうとしてただけだ」

 カタラたちは一行の後を追った。
 中央部にどんどん進む一行。そこら中に何かたちが倒れている。

「こんなにいたんだな。しかし、このバチバチしてるのは一体なんだ……?」

 レイフが何かの遺体を持ち上げようとした。すると、持ち上げた部分が千切れた。ガタンと音を立てて何かが地面に落ちる。

「ありゃ? なんだ、この線は」

 千切れた部分に、線があった。色とりどりの線がある。

「なんか不思議な奴らだな。俺たちみたいな生物とは何もかも違う」
「身体のことはお医者さんが詳しいだろうけど……」
「こんな身体の奴は治療したことないだろうな。とりあえずは先に進むか」
「ラルド、夢の中で会った変なのは、会話が成立してたんだよな?」
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
「そいつがこいつらのボスなんじゃないか? ボスなだけあって、一人生き残ってるかもしれない。気をつけよう」
「エメ君、確かにその通りだ。ありがとう」

 一行は堂々と進むのではなく、岩に隠れながら進むことにした。中央部の証である紋章の焼きついた岩のところにはまだつかない。そのうち、まだ生きている何かが何体も見つかった。

「おかしいわ。爆発の距離からして、倒れてなきゃおかしいのに……」
「ここの岩が悪さをしてるのかもしれないな。たまたま岩に重なってたとか。まあでも、一匹や二匹くらいどうとでもなるだろ」
「仲間を呼ばれたら危険だわ。私、もう何発か爆発呪文を撃ってみる」

 ジシャンはポーションを一本飲むと、早速呪文を発動させるポーズをとった。何かがどう動いても爆発が当たる位置に狙いを定める。

「すぅー……!!」

 至近距離であるため、少しの待機時間で爆発呪文を発動させた。さっき聞いた音よりも、更に鼓膜を揺さぶる爆発音が聞こえた。間髪入れずに二発目も撃つ。岩から顔を出したレイフが確認すると、視界に入る限りの何かたちは倒れていた。

「よし、これで進めるな」
「中央部まで、あとどれくらいあるでしょうか」
「うーん、まだまだ見えないわね、あの岩が」

 一行は日が沈む前に決着をつけようと、急いで中央部へ向かった。途中何度も生き残りに遭遇し、その度に爆発呪文を放った。そのうちまた何かたちが見当たらなくなり、思い切り駆けた。
 そうして、いよいよ中央部の証が見えた。そして同時に、ただならぬ雰囲気を醸し出す何かも見えた。

「おいラルド、あれは……」
「間違いない。僕の夢に入ってきた奴だ。あいつだけ特別なバッジみたいなのがついてる」
「あれがボスか。ジシャン、爆発呪文、いけそうか?」
「もちろん。まだまだポーションは余りまくってるから、ラルド君にわざわざ体力と魔力を使わせなくても大丈夫だわ」
「一度ぶっ放したら、場所がバレちまうかもしれない。チャンスは一度きりだと思え」
「なかなかプレッシャーをかけるわね。でも、燃えちゃうわ」

 ジシャンはいつものポーズをとった。そして、これまで以上に目を開いた。とびっきりの爆発が起き、一行は事前に耳を塞いでいたので無事だったが、下手をしたら鼓膜が破れるほどの爆発音が響いた。レイフがこっそり覗くと、何かは焦げてはいたが、余裕そうに立っている。

「ついに来たな。さっきから爆発音が聞こえて気になってはいたが、ラルド、お前だな?」

 何かが岩に近づいてくる。一行は何かの反対側に行くように移動した。

「隠れてても無駄だ。じきに反対側から俺たちの仲間が大量に来る。勝負をつけるなら今のうちだぞ」

 一行はそれを聞き、立ち止まった。ついに何かのボスと一行が初めて現実で顔を合わせることとなった。

「ウォリア様、我々も手伝います!」
「おお、情報屋、お前たちも戦ってくれるのか」
「依頼者様ですから、命をお守りするのは当然です」
「おぉおぉ、ワラワラと……まとめてぶっ殺してやる。あーでも、殺しちゃったらなんでラルドが笑っていたかわからなくなるな。ま、どうでも良いや。さっさと始めるぞ」

 一行と何かのボスは、戦いを始めた。

「カタラ、私たちも戦うの?」
「いいや、あいつらが戦い終わった後、あのいかにも怪しい岩に近づく。きっとあそこにサフィア様に関した物があるからな。火事場泥棒ってやつ? はっはっは!」
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