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第二章 空中編

第二十四話 スカイ王国国王主催トーナメント予選 三

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「さあ、二ブロック最終戦。ここまで勝ち残ったのは、サフィア捜索会とアンチ翼組だ。準備は良いか?」

 両者とも武器を構え、王に向かってうなずく。それを確認した王は、試合開始の音を鳴らした。

「死ねぇ!」

 アンチ翼組の長い槍がすさまじい速さで伸びる。狙いはジシャンのようだ。すっかり怯えきっているジシャンは、間一髪のところで防御呪文をかけたため、無事だった。

「ふぅ、ふぅ……危なかった」
「ちっ、防ぐなよな。いちいち元に戻すの大変なんだぞ」
「あのリーチじゃ、呪文も物理攻撃もまともに通らないな……」
「いいえ、一つ、近づく手があります」
「ラルド君、もしかして、ホースか?」
「メジスの速さなら、きっと槍が伸びるより早く攻撃出来るはずです。一人ずつ確実にやっつけます。それまでは、守りを固めていてください」
「ラルド君、一人で大丈夫か?」
「大丈夫です。任せてください」
(ラルド、いつからあんな自信家になったんだ? ま、根暗なのよりはマシか)
「いでよ! メジス!」

 掛け声とともに、メジスが現れた。ラルドは急いで乗った。

「ふん、デカいホースに乗っただけか。お前ら! あのガキを集中狙いだ!」

 メジスの方にあらゆる方向から槍が伸びる。その全てを避け、ラルドは剣を振る。

「ぐはぁ!」

 アンチ翼組のうちの一人を斬る。胸部を斬られ、その場に倒れ込む。

「まずは一人目。次はどいつをやってやろうか」
「お前たち、地上人ごときにリードを許すな! あっちで固まってる奴らも攻撃しろ!」
「ふふふ。お前たち、私の後ろにいなさい」
「ニキス君、笑っちゃって、どうしたんだ?」
「狂人どもを相手にするのだ。人間を殺してもお咎め無しだから、愉快でしょうがない」
「コクリュウ! お前の弱点は知っているぞ!」

 アンチ翼組は、揃ってニキスの目玉に槍を伸ばす。ニキスは首を傾けそれを避ける。その隙に、ラルドは二人を斬った。

「ぐぅ!」
「ぎゃあ!」
「ふぅ。あと二人か」
「リーダー! このままじゃ俺たち、殺されちゃいますよ」

 ニキスの吐くブレスを避けながら、アンチ翼組の二人は作戦を練る。

「しょうがない。分身で奴らを惑わそう」

 二人は分身をし、人数を三倍に増やした。

「かかれ! 相手はあのガキとコクリュウだ!」
「ちっ、面倒な。焼き払ってやろうか」
「メジス、まだいけるか」
「ヴィヒーン!」

 ニキスとラルドは四方八方から伸びる槍を避け、反撃する。殺せど殺せどそれが全て分身で、アンチ翼組は何度もまた新しい分身を生み出す。流石にニキスとメジスに疲れが見え始めた。

「今だ! コクリュウの目をやれ!」
「ニキス君、危ない!」
「ぬぉ!? ギリギリだったな……」

 ニキスの目の前に、防御呪文が張られる。あとちょっとのところで、槍を受け止めた。

「今のをやったのはあの女だ! 女を狙うぞ!」
「私も隠れてばっかりいちゃダメね……」
「お、おいジシャン、大人しく隠れてろって」
「彼らの狙いは私ただ一人よ。その間に本物を倒せる時間は作れるはずだわ」

 ジシャンはリングの真ん中に座り込んだ。

「へへ、姉ちゃん、随分と肝が据わってるじゃねぇか。俺たちの槍を、受け止められるとでも?」
「……」

 一方分身を倒し続けていたラルドとニキスは、本物の見わけ方について話し合っていた。

「ニキス、本物はどれだ?」
「それは、服の背中の部分を破いてみないとわからないな。スカイ人の分身には、翼がはえていないんだ。本物ならきっと翼がはえてるだろう」
「でも、あいつらに翼なんてあるのか?」
「奴らが翼組をあんなに嫌ってた理由を考えれば、どんな翼かは想像つくだろう。とにかく、背中を狙うんだ」

 ラルドはメジスを敵の後方へまわらせ、アンチ翼組の服の背中を破る。翼がはえているものはヒットしなかったが、四人ともはえていなかったため、実質の本体は理解した。

「ニキス、わかったぞ。あいつとあいつが本物だ」
「私は分身を焼き払う。本物を見過ごすなよ」

 ラルドはメジスを走らせ、本物のうち一人を攻撃する。胸部を斬られた男は、うつ伏せになる。うつ伏せになった男の翼を見る。

「……なるほど。翼が小さいからか」
「ま、待ってくれ……俺たちはまだ死ぬわけにはいかないんだ……」

 ラルドの心は揺さぶられる。翼をちぎれば終わりだが、それをするとこのスカイ人は死んでしまう。

「ラルド! 早くトドメを刺せ!」
「頼むぅ……」
「……わかった。翼はもがないよ」

 ラルドは男の背中に剣を突き刺し、リングの床にまで押した。これで残るは一人になる。

「ちっ、舐めてんのか、ガキ? 戦場に情けは無しだぞ」
「じゃあ、お前は翼をもいで殺す」

 再びメジスに乗ったラルドは、リーダーの男に近づく剣が無いため、呪文での攻撃を試みた。火の玉を発生させ、男のすぐ近くで爆発を起こした。しかし、その場に既に男はいなかった。

「なっ、どこに逃げたんだ」
「ふはは! ガキ、こっちを見ろ!」

 ラルドが声のする方を向くと、男がジシャンの喉に槍を当てていた。

「この女の命が惜しいなら、今すぐ降参しろ。もしそこから一歩でも動いたら、この女は殺す!」
「汚いぞ。そんな戦法、恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしくはないな。勝つためには必要なことなのだから」
「メジス、アレ、出来るか?」
「ヴィヒーン!」
「さあ、早く降参しろ。あと十秒数えたら、この女の首をはねるからな。十、九、八……」

 男がカウントダウンを始めたそのとき、メジスは超速でかけより、ラルドが剣で男を斬る。斬撃を受けた男は槍を落とし、ジシャンも解放された。

「はぁ……はぁ……俺の負けだ、ガキ。さっさと俺の翼をもげ」
「……良いんだな?」
「ああ。この世に未練はない。むしろ死ねてラッキーだ」

 男は目を閉じうつ伏せになり、トドメを刺されるのを待つ。

「じゃあ、いくぞ……?」
「どっちからでも良い。早く抜いてくれ」

 ラルドは片方の翼に手を伸ばす。しかし、途中で手を引っ込めてしまった。

「どうした? 早くやれよ」
「……やっぱり僕には出来ない。翼をもがれて味わう痛みは、さっきの戦いを見てわかった」
「そうか……試合が終わる前に言っておこう。その優しさは、いつか後悔することになるぞ」
「後悔?」
「ああ。俺はその優しさ、ありがたく受け取るが、世の中そうじゃない奴がいることを忘れるなよ」
「三、二、一……試合終了! 勝者、サフィア捜索会! サフィア捜索会は本戦に向けて準備したまえ。他のブロックの戦いを見るのも良し、地上に出て待っているのも良しだ」
「それじゃあ、他の奴らの戦いを見にいこう」
「なーに、どうせ普通の戦いだろ? 見る価値無しだ」
「コクリュウよ。そうとは限らんぞ」

 王はいつの間にかサフィア捜索会の近くに来ていた。

「王、どういうことだ」
「実はもう一組地上人のチームがあってな、それは見にいった方が良いと思うぞ」
(もしかして、カタラたちか?)
「王様、是非見させてください」
「……ふん。まあ、地上人の戦い方を見るのも参考になるかもな。私からも頼もう」
「俺たちも賛成だ」
「奴らは七ブロックにいる。七ブロックはあそこだ」

 一行は王の杖が差した方向に向かった。すると、そこにはラルドの予想通りカタラたちが戦っていた。

「カタラたちも決勝まで進んだんだな。もしかしたら本戦の最後の相手かもしれない。良く観察しなくちゃ」
「あいつら、いつ王から紙をもらったんだ?」

 しばらく戦闘を観戦した一行。長い時間をかけて、ようやく決着がついた。

「勝者、サフィア捜索隊!」
「なるほど。ワイバーン以外はいつも通りだな。ワイバーン対策だけはしっかりしておこう(というか、まだサフィア捜索隊の名前を使ってたのか……)」

 王は、全てのブロックで決着が着いたことを告げた。

「皆の衆、これで予選は終了だ! 本戦は地上の闘技場で行う。参加者は、すみやかに移動したまえ」

 一行はその言葉を聞き、地上へ戻っていった。
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