上 下
16 / 81
第一章 地上編

第十五話 ダークホース

しおりを挟む
「ヴィヒーン!」

 カタラたちとラルドたちの間に、その魔物は現れた。巨大な馬のような見た目の魔物だ。

「うわ、デカい馬だ。こいつもテイム出来るかな」

 ラルドは本を見る。しかし、それを待たずに魔物は襲ってくる。

「ラルド、危ない!」
「あっ」

 ラルドは間一髪、魔物の突進を避けた。木々の隙間から、カタラたちが覗いているのが見えた。

「カタラじゃないか。なんでこんなところに?」
「話してる場合かよ。あの魔物はやべーぞ……」

 ラルドは後ろを見る。魔物はこちらをじっと見つめている。

「カタラ、あいつの名前はなんて言うんだ?」
「その本は……多分あいつの名前はなんとかホースだ。きっと、妖精を食ったホースが闇に侵されたんだ」
「ヴィヒーン!」
「ちっ、何回も突進しやがるから、調べる隙が無い……」
「ラルド、あいつの情報がわかるまで俺が引きつける。出来るだけ早く見つけてくれよな」
「ふん。ゴブリン一匹ごときでさばける相手じゃないだろ。俺たちも加勢する」
「サトリ、あいつの心の声は聞こえる? ……やった、聞こえるみたいね。みんな、サトリの言う通りにして!」
「ハッチたち、俺たちもいくぞ」
「……お前たちに助けられるのは不服だが、文句を言ってる暇は無さそうだな」

 暴れ狂う魔物を、エメとカタラたちは引きつける。その隙にラルドは本のページを何度も何度もめくる。ホース種の魔物の部分を見るが、ぴったりな魔物が見つからない。

(こやつら、あの小僧のために俺を引きつけているのか。だったら、小僧に突進すりゃあ良いわけだ)
「ラルド! 避けて!」
「へっ? うわ!」

 またも間一髪避ける。魔物は完全にラルドだけに狙いを定めている。本を読む隙が無くなってしまった。困ったラルドは最終手段にでる。

「しょうがない。いでよ、フンス!」

 フンスが魔法陣から現れる。

「おや、ラルド、サフィアの首が見つかったのか?」
「悪いが、今はそれどころじゃない。あのデカい馬の魔物を止めてくれ。そうしないと、僕が死んでしまう」
「そうか。止めれば良いんだな。みんな、集まれ!」

 大量のオークがどこからともなく現れた。魔物の足をオークたちが掴み、移動を封じる。

「けっ、あんな真似ができるなら最初からやってくれよな」
「おいゴブリン、あのオークの大群は一体なんなんだ」
「道中でラルドがテイムした奴らさ」
「おかしい。あいつはお前しかテイム出来ないはずだろ?」
「どういうわけだか、あの本を読むと不思議といけるみたいたな。とんでもない本だ」

 カタラたちは戦いの様子をただ傍観している。必死にページをめくるラルドのために、大量のオークが魔物を食い止める。

「ラルド、まだ見つからないのか。俺たちも無限には持たないぞ」
「もうちょっとだ……はっ、あった。あいつの名前はダークホース。仲間にする方法は……餌付けだと? 何か餌になる物はないか」

 ラルドはカバンをさぐる。すると、端に大蛇の肉を見つけた。

「これで満足してくれるかな」
「ラルド、もう止めないで良いか。そろそろ、限界だ……」
「もう大丈夫だ。ありがとう」

 ラルドはダークホースの前に立ち、大蛇の肉を目の前に出した。

「こ、これで、僕の仲間にならないか……?」

 大蛇の肉を見つめるダークホース。しばらく沈黙が続いた。

「おいザメ。あの魔物なんか言ってないか?」
「なんも言ってないわね。ただ無言でラルドを見つめてる」

 オークの大群とカタラたちはただ見ている。そのとき、サトリの耳がピクピクする。

「サトリ、何か言ったの?」

 サトリは全員にダークホースの心の声を届けた。

(……中々美味そうな肉だ。ほれ小僧、足を握れ)

 ダークホースは前足を上げる。それを見たラルドは、仲間になってくれることを確信した。

「僕の名前はラルド。これからよろしく」

 ラルドがダークホースの前足を握ると、ラルドの手の甲が光った。それと同時に、ラルドの手に乗っていた大蛇の肉を食べた。

(ふむ、中々美味いではないか。では、必要になったら呼んでくれ)
「あ、ちょっと待ってくれ」

 去ろうとするダークホースを、ラルドは止めた。

「お前、名前はなんて言うんだ」
(俺に名は無い。お前がつけてくれないか)
「うーん、そうだなー。メジス、とかどうだ?」
(メジス、確かに良い名だ。これからはそう名乗らせてもらおう。それでは、さらばだ)
「もう妖精を食っちゃダメだぞー」

 遠方からカタラがメジスに言う。メジスは振り返り、うなずいた後、森の中へ消えていった。遠くから眺めていた者たちがラルドの元へ駆け寄る。

「ラルド、お前、いつの間にゴブリン以外をテイム出来るようになったんだ」
「きっとこの本のおかげだ」
「その本、サフィア様が作った本だよな。俺にも貸してくれないか」
「ダメだ。これは僕の物だ」
「へっ、その本が無いと不安でしょうがないってか。やっぱりお前は最弱のまんまなんだな」
「カタラ、良いじゃないか。僕は最弱だからこの本に頼る。お前は最弱じゃないから本無しで多くの魔物や動物をテイムする。それで良くないか」
「あっそ。最弱って言われても怒らないんだな」
「この本を使うことにちょっと罪悪感はあるからな」
「まあそれはどうでも良いや。お前、なんでここに来てたんだ?」
「移動用の動物が欲しくてな。あと、ツカイ村で竜と戦うことになってるから、地の利を活かせるようにあそこを見にいってたんだ」
「はー。その竜もその本に書いてある方法でテイムすると。竜なんてもん引き連れてどこへ行くつもりだ?」
「スカイ王国さ。僕の見た夢によると、姉さんはスカイにいる可能性が高いんだ」
「夢? そんなもの参考にならんだろ」
「そうは言っても、地上での姉さん捜索は既にお前含めて多くの人たちがやってるから、なんにせよスカイに行くのが一番良いんだ」
「俺たち以外にも捜してる奴らが? それなら俺たちもスカイへ行こう」
「カタラ、どうやってスカイに行くつもりなのよ」
「ワイバーンでも捕まえてちゃちゃっと行っちまうつもりだ。こっから南に行けば、ワイバーンの一匹くらいいるだろうしな」
「じゃあ、僕はレイフ様の家へ戻るから、また反対になるな」
「お前より早くスカイに行って、サフィア様を連れ戻してやる。本頼りの最弱なんかに、俺は遅れはとらんぞ」
「……じゃあ、また会おう」
「じゃあな」

 ラルドたちとカタラたちは別の道を歩き始めた。
 ベッサに着く頃、ラルドはとあることを思い出した。

「あ、そうだ。メジスと三匹のホースの手綱とくらを買わなきゃな」
「ラルド、金は持ってんのか?」
「うーんと、お、これがまだあったよ」

 ラルドが手を開くと、大蛇の目が二つ乗っていた。

「あれからずーっと売らずに取っておいたけど、そろそろ使おうかな。かさばるし」
「どこで売ってるのかはわかるのか?」
「冒険者ギルドに行けば多分売ってるだろ。メジスに合う物があるかは怪しいけど」

 二人は冒険者ギルドへと向かった。
 扉を開け、ギルド内へ入る。受付嬢にラルドは話しかける。

「すみません、手綱と鞍を四つずつください」

 ラルドは手に持っていた大蛇の目を受付嬢に渡す。

「わかりました。大きさはどのくらいですか?」
「えーっと、普通のサイズが三つずつで、デカいサイズが一つずつ欲しいです」
「大きいホースなんですね。実際に見せてくれますか?」
「わかりました。いでよ! メジス!」

 メジスがギルド内に召喚される。あまりの大きさに、受付嬢は怯む。

「うわぁ、なんて大きさ……こんな巨大なホースがいるなんて」
「こいつに合う手綱と鞍、ありますかね」
「一応探してみます」

 受付嬢は裏方へ入っていった。ラルド二人分のメジスの大きさに、周りの冒険者たちは驚いている。

「あの、これが一番大きいサイズです。一旦付けてみますね」
「よろしくお願いします」

 受付嬢が何人も集まって、メジスに手綱と鞍を付ける。偶然にも、ほぼピッタリ合っていた。

「受付嬢さん、ありがとうございます」
「あと、これは普通のホース用の手綱と鞍です。三つずつ用意しました」

 ラルドは手綱と鞍をもらうと、ギルドを出ていった。
しおりを挟む

処理中です...