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第一章 地上編
第十一話 竜
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「どうせ勝つのは私だから、貴様らに先手を譲ってやろう。さあ、どこからでもかかってくるが良い」
戦闘態勢に入っているレイフたちに、竜は言う。門番二人とサフィア捜索会の三人はいっせいに動きだす。
「ちょこまかと。一掃してやろう」
「一掃だと? 俺の前で良く言えたな」
「なっ、私の尻尾を受け止めるとは……」
尻尾でなぎ払おうとした竜だが、それをウォリアが受け止める。全く動じていない。尻尾を強く掴んだウォリアは、レイフたちに話しかける。
「お前たち、今だ! 袋叩きにしろ!」
「ぐうぅ……離せ、離せ!」
竜は必死に尻尾を振ろうとする。もがく竜をレイフたちは襲う。
「レイフ、竜の目玉のところに飛ばすから、そこに思い切り剣を刺して」
「わかった。早速飛ばしてくれ。門番たちは、ウォリアに加勢するんだ」
「「了解しました!」」
竜は尻尾を掴まれてはばたくことも走ることも出来なくなっている。その隙をついて、竜の弱点である目玉を攻撃しようとする。
「いくわよ、えい!」
「よし、これならいける」
ジシャンの呪文で高く飛んだレイフは、目玉めがけて剣を突き立てる。グサッと音が鳴り、竜が悲鳴をあげる。
「ぐあああ! 私の右目が……」
「どうだ? 少しはこりたか?」
目から剣を引き抜き、目元をおさえる竜にレイフは聞いた。
「ふ、ふふふ、人間のくせに、やるではないか。今回は撤退してやるが、次は目の仇、取ってやるからな」
飛び去ろうとする竜を、ラルドは止めた。
「竜、待ってくれ! 僕と仲間にならないか?」
「はしっこで見てただけのお前と仲間になる道理など無い。貴様自らが力を示すなら、考えてやっても良いがな」
「じゃ、じゃあ、決闘しよう。僕一人でお前を倒したら、仲間になってくれ」
「決闘の場所はどこだ」
「……ツカイ村で戦おう。すぐそばに戦いやすい場所がある」
「そうか。じゃあ一週間後、そこで殺り合おう。楽しみにしているぞ、いたた……」
右目をおさえながら、竜はどこかへと飛んでいった。
「ラルド、なんて約束してるんだ。お前一人であんなでかいのと戦えるのかよ」
「仲間にすることを提案したのはお前だぞ」
「す、すまなかったな。あんなにビビってたし、まさか本気でやるとは思ってなかった」
「でもエメ、大丈夫だ。僕はこの一週間で強くなれるから。ジシャン様から呪文を教えてもらえれば、きっとね」
「あらラルド君、呪文を教わる気になってくれたのね。良いわよ、明日から練習しましょ?」
「ジシャン様、よろしくお願いします」
ジシャンとラルドは手を握り合った。その様子をレイフは腕を組みながら見ていた。
(果たして、呪文だけで大丈夫なのだろうか。剣術も教えてやった方が良いような……)
「ん? レイフ、どうした?」
考え事をしているレイフに、ウォリアは話しかける。
「いや、なんでもない。みんな、今日は遅いから、シリョウ村のそばの休憩所で寝よう。明日からはツカイ村へ急いで行くんだ」
「スカイへ行くのに竜を使うのは確定なんだな」
「スカイ直下に行くのはここから一週間以上はかかる。どの道同じなら、仲間が増えてくれた方がありがたいからな。さあ、行こう」
一行は休憩所へと歩いていった。
「ふう、今日も疲れたな」
「お前はただ歩いただけじゃないか」
「日頃の運動不足が響くぜ……」
休憩所に着いたエメは真っ先に床に横になった。目もほとんど閉じかかっている。
「エメ、もう寝るのか?」
「魔王スゴロクは一周、門番の部屋で出来たし、今日は満足だ。あとは寝て明日を待つのみだ」
「エメ君は睡眠のプロフェッショナルだもんな」
「羨ましいわ。私に睡眠の奥義、教えてもらえないかしら?」
「ラルドを強く出来たら教えてやるよ。じゃあ、おやすみ」
エメは目をつむり、完全に寝始めた。
エメを除いた一行は、これからについて話し合っていた。
「ジシャン、ホントに一週間で竜に勝てるほど上手く教えられる自信はあるのか?」
「もちろん。私の教え方の上手さは二人とも知ってるでしょう?」
「まあ、元々サウス魔法学校の教師だもんな。そういえばお前、サウス王国に挨拶には行ったか?」
「私もウォリアと同じ。行く途中で引き返して来たわよ」
「挨拶ついでにスカイに向かった方がやっぱり良いんじゃないか?」
「ウォリア、あなたどうしても竜から遠ざけたいのね」
「ラルドが竜と戦う姿を想像出来ない。きっとボロボロになって俺たちにすがりつくのが関の山さ」
ウォリアにそう言われ、ラルドはしゅんとする。
「すみませんジシャン様、やっぱり僕には無理です……」
「ウォリア、謝りなさいよ。せっかく真面目に呪文を教わろうとしてる子に向かってその言い方はないわよ」
「俺はラルドの命のために言っているんだ。一週間なんて無理がありすぎる」
「その不可能を可能にしてきたのが私たちじゃない。やってみないとわからないわよ」
(うぅ……喧嘩が始まってしまったな。こんなときサフィアならすぐなだめてたけど、俺に出来るかな……)
「な、なあ二人とも、まずは落ち着いて……」
「俺はいたって冷静だ。冷静に判断を下しているだけだ」
「私の方が感情的になってるって言いたいわけ?」
「そんなこと一言も言ってないだろ」
(しまった、逆にヒートアップさせてしまった……ラルド君も涙目だし、一体どうしたら……)
「二人とも一旦外で頭冷やしてきたらどうだ?」
「ええそうね。私はそうさせてもらうわ」
「俺も。これ以上いくとラルドを傷つけてしまうかもしれないからな」
(もう十分傷ついてるけどな)
二人は休憩所の外へ頭を冷やしにいった。涙目になっているラルドを、レイフはなぐさめる。
「すまないな。予想外かもしれないが、俺たち、実はそんなに仲良くないんだよ。だからたまに喧嘩とかが起きてしまうんだ」
「いえ、良いんです。元々悪いのは弱い自分ですから」
「ちょっと、読んでた本を貸してくれないか?」
「え、どうしてですか」
「いや、少し気になることがあってな」
ラルドはカバンから本を取り出すと、レイフに渡した。竜の載っているページを開いたレイフは、そのページを良く見る。
「……テイマーが呼び出した仲間は加算されないって書いてあるぞ。さっき仲間にしたオーク軍団を使って良いなら、今のラルド君でも十分倒せるんじゃないか?」
レイフはラルドに向かって本を差し出し、該当する文章を指でなぞる。
「彼ら、手伝ってくれますかね……。いざテイムしたのは良いけど、手伝ってくれる気がしません」
「きっと手伝ってくれるさ。テイマーの権利を使えば。絶対服従なんだろ?」
「そうですが、僕、縛れるのはエメだけなんです。果たしてフンスたちを縛れるかどうか」
「試しに呼んでみたらどうだ? あの二人をなだめにいってくれって」
「やってみますか」
ラルドはフンスを召喚し、命令を下した。
「フンス、外で喧嘩してる二人をなだめにいってくれないか」
「それをして俺たちはサフィアの首をもらえるのか?」
「そのうちね」
「まあ、待ってるのも退屈だし、手伝ってやるよ」
「本当か!? ありがとう」
「首のためだからな。なんだってしてやるぞ」
「じゃあ、竜と戦うのも一緒にやってくれるか?」
「俺のオーク脈を使えば、竜をも討伐できるくらいのオークの量がいるから、それもできるな」
「す、凄い。こんなあっさり言うことを聞くなんて……」
ラルドは驚いている。最弱テイマーである自分がここまで成長出来ていることに。
「流石サフィアの弟だ。君にはやっぱり潜在的な能力が秘められているに違いない」
「ラルド、そろそろ二人をなだめにいって良いか?」
「良いぞ、よろしくな」
フンスは休憩所の外へ行くと、すぐに中へ二人を引き連れ戻ってきた。二人とも真っ赤だった顔が元に戻っている。
「ラルド、その、さっきはすまなかったな」
「私たち、年甲斐も無く喧嘩しちゃって、ごめんなさい」
「二人とも落ち着いたか。ジシャン、ウォリア、とりあえず今回は呪文を教えなくても良いから、安心しろ」
「え、じゃあ、竜はどうするんだ?」
「そこは俺と仲間たちでどうにかする。しかと見てろよ、オークの意地を」
役目を終えたフンスは、元の場所へ帰っていった。
「さあ、今日は色々あって疲れただろ。もう寝よう」
「そうだな、もう寝るか」
「みなさん、おやすみなさい」
一行は眠りについた。
戦闘態勢に入っているレイフたちに、竜は言う。門番二人とサフィア捜索会の三人はいっせいに動きだす。
「ちょこまかと。一掃してやろう」
「一掃だと? 俺の前で良く言えたな」
「なっ、私の尻尾を受け止めるとは……」
尻尾でなぎ払おうとした竜だが、それをウォリアが受け止める。全く動じていない。尻尾を強く掴んだウォリアは、レイフたちに話しかける。
「お前たち、今だ! 袋叩きにしろ!」
「ぐうぅ……離せ、離せ!」
竜は必死に尻尾を振ろうとする。もがく竜をレイフたちは襲う。
「レイフ、竜の目玉のところに飛ばすから、そこに思い切り剣を刺して」
「わかった。早速飛ばしてくれ。門番たちは、ウォリアに加勢するんだ」
「「了解しました!」」
竜は尻尾を掴まれてはばたくことも走ることも出来なくなっている。その隙をついて、竜の弱点である目玉を攻撃しようとする。
「いくわよ、えい!」
「よし、これならいける」
ジシャンの呪文で高く飛んだレイフは、目玉めがけて剣を突き立てる。グサッと音が鳴り、竜が悲鳴をあげる。
「ぐあああ! 私の右目が……」
「どうだ? 少しはこりたか?」
目から剣を引き抜き、目元をおさえる竜にレイフは聞いた。
「ふ、ふふふ、人間のくせに、やるではないか。今回は撤退してやるが、次は目の仇、取ってやるからな」
飛び去ろうとする竜を、ラルドは止めた。
「竜、待ってくれ! 僕と仲間にならないか?」
「はしっこで見てただけのお前と仲間になる道理など無い。貴様自らが力を示すなら、考えてやっても良いがな」
「じゃ、じゃあ、決闘しよう。僕一人でお前を倒したら、仲間になってくれ」
「決闘の場所はどこだ」
「……ツカイ村で戦おう。すぐそばに戦いやすい場所がある」
「そうか。じゃあ一週間後、そこで殺り合おう。楽しみにしているぞ、いたた……」
右目をおさえながら、竜はどこかへと飛んでいった。
「ラルド、なんて約束してるんだ。お前一人であんなでかいのと戦えるのかよ」
「仲間にすることを提案したのはお前だぞ」
「す、すまなかったな。あんなにビビってたし、まさか本気でやるとは思ってなかった」
「でもエメ、大丈夫だ。僕はこの一週間で強くなれるから。ジシャン様から呪文を教えてもらえれば、きっとね」
「あらラルド君、呪文を教わる気になってくれたのね。良いわよ、明日から練習しましょ?」
「ジシャン様、よろしくお願いします」
ジシャンとラルドは手を握り合った。その様子をレイフは腕を組みながら見ていた。
(果たして、呪文だけで大丈夫なのだろうか。剣術も教えてやった方が良いような……)
「ん? レイフ、どうした?」
考え事をしているレイフに、ウォリアは話しかける。
「いや、なんでもない。みんな、今日は遅いから、シリョウ村のそばの休憩所で寝よう。明日からはツカイ村へ急いで行くんだ」
「スカイへ行くのに竜を使うのは確定なんだな」
「スカイ直下に行くのはここから一週間以上はかかる。どの道同じなら、仲間が増えてくれた方がありがたいからな。さあ、行こう」
一行は休憩所へと歩いていった。
「ふう、今日も疲れたな」
「お前はただ歩いただけじゃないか」
「日頃の運動不足が響くぜ……」
休憩所に着いたエメは真っ先に床に横になった。目もほとんど閉じかかっている。
「エメ、もう寝るのか?」
「魔王スゴロクは一周、門番の部屋で出来たし、今日は満足だ。あとは寝て明日を待つのみだ」
「エメ君は睡眠のプロフェッショナルだもんな」
「羨ましいわ。私に睡眠の奥義、教えてもらえないかしら?」
「ラルドを強く出来たら教えてやるよ。じゃあ、おやすみ」
エメは目をつむり、完全に寝始めた。
エメを除いた一行は、これからについて話し合っていた。
「ジシャン、ホントに一週間で竜に勝てるほど上手く教えられる自信はあるのか?」
「もちろん。私の教え方の上手さは二人とも知ってるでしょう?」
「まあ、元々サウス魔法学校の教師だもんな。そういえばお前、サウス王国に挨拶には行ったか?」
「私もウォリアと同じ。行く途中で引き返して来たわよ」
「挨拶ついでにスカイに向かった方がやっぱり良いんじゃないか?」
「ウォリア、あなたどうしても竜から遠ざけたいのね」
「ラルドが竜と戦う姿を想像出来ない。きっとボロボロになって俺たちにすがりつくのが関の山さ」
ウォリアにそう言われ、ラルドはしゅんとする。
「すみませんジシャン様、やっぱり僕には無理です……」
「ウォリア、謝りなさいよ。せっかく真面目に呪文を教わろうとしてる子に向かってその言い方はないわよ」
「俺はラルドの命のために言っているんだ。一週間なんて無理がありすぎる」
「その不可能を可能にしてきたのが私たちじゃない。やってみないとわからないわよ」
(うぅ……喧嘩が始まってしまったな。こんなときサフィアならすぐなだめてたけど、俺に出来るかな……)
「な、なあ二人とも、まずは落ち着いて……」
「俺はいたって冷静だ。冷静に判断を下しているだけだ」
「私の方が感情的になってるって言いたいわけ?」
「そんなこと一言も言ってないだろ」
(しまった、逆にヒートアップさせてしまった……ラルド君も涙目だし、一体どうしたら……)
「二人とも一旦外で頭冷やしてきたらどうだ?」
「ええそうね。私はそうさせてもらうわ」
「俺も。これ以上いくとラルドを傷つけてしまうかもしれないからな」
(もう十分傷ついてるけどな)
二人は休憩所の外へ頭を冷やしにいった。涙目になっているラルドを、レイフはなぐさめる。
「すまないな。予想外かもしれないが、俺たち、実はそんなに仲良くないんだよ。だからたまに喧嘩とかが起きてしまうんだ」
「いえ、良いんです。元々悪いのは弱い自分ですから」
「ちょっと、読んでた本を貸してくれないか?」
「え、どうしてですか」
「いや、少し気になることがあってな」
ラルドはカバンから本を取り出すと、レイフに渡した。竜の載っているページを開いたレイフは、そのページを良く見る。
「……テイマーが呼び出した仲間は加算されないって書いてあるぞ。さっき仲間にしたオーク軍団を使って良いなら、今のラルド君でも十分倒せるんじゃないか?」
レイフはラルドに向かって本を差し出し、該当する文章を指でなぞる。
「彼ら、手伝ってくれますかね……。いざテイムしたのは良いけど、手伝ってくれる気がしません」
「きっと手伝ってくれるさ。テイマーの権利を使えば。絶対服従なんだろ?」
「そうですが、僕、縛れるのはエメだけなんです。果たしてフンスたちを縛れるかどうか」
「試しに呼んでみたらどうだ? あの二人をなだめにいってくれって」
「やってみますか」
ラルドはフンスを召喚し、命令を下した。
「フンス、外で喧嘩してる二人をなだめにいってくれないか」
「それをして俺たちはサフィアの首をもらえるのか?」
「そのうちね」
「まあ、待ってるのも退屈だし、手伝ってやるよ」
「本当か!? ありがとう」
「首のためだからな。なんだってしてやるぞ」
「じゃあ、竜と戦うのも一緒にやってくれるか?」
「俺のオーク脈を使えば、竜をも討伐できるくらいのオークの量がいるから、それもできるな」
「す、凄い。こんなあっさり言うことを聞くなんて……」
ラルドは驚いている。最弱テイマーである自分がここまで成長出来ていることに。
「流石サフィアの弟だ。君にはやっぱり潜在的な能力が秘められているに違いない」
「ラルド、そろそろ二人をなだめにいって良いか?」
「良いぞ、よろしくな」
フンスは休憩所の外へ行くと、すぐに中へ二人を引き連れ戻ってきた。二人とも真っ赤だった顔が元に戻っている。
「ラルド、その、さっきはすまなかったな」
「私たち、年甲斐も無く喧嘩しちゃって、ごめんなさい」
「二人とも落ち着いたか。ジシャン、ウォリア、とりあえず今回は呪文を教えなくても良いから、安心しろ」
「え、じゃあ、竜はどうするんだ?」
「そこは俺と仲間たちでどうにかする。しかと見てろよ、オークの意地を」
役目を終えたフンスは、元の場所へ帰っていった。
「さあ、今日は色々あって疲れただろ。もう寝よう」
「そうだな、もう寝るか」
「みなさん、おやすみなさい」
一行は眠りについた。
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