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第一章 地上編
第四話 あいつ來訪(らいほう)
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「エメ、起きろ。朗報だぞ朗報」
「んー。何か良いことでもあるのか?」
「お前は寝てたから聞いてないと思うが、キャイによると明日に一時的にここから出られるみたいなんだ」
「おお、そのときに剣とかも回収できるな。ところで、明日っていつ頃来るんだ?」
「確かに外が見えないから今の時間もわからないな」
「こういうときはひたすら寝るのに限るんだよな。ラルド、お前も寝てたらどうだ?」
「父さんが寝具を持ってきてくれたらそうするよ」
「そうか。じゃあ、おやすみ」
エメはもう一度眠りについた。それと同時に、足音が響き始めた。
(父さんか?)
「おーい、ラルドー」
(この声は……トパー母さん! 顔向けできないな……)
「はあ……こんな所にいたのね。もっと出入り口に近くても良いじゃないの」
寝具を持ったトパーがラルドの入る牢の前に着くと、愚痴をもらした。
「母さん、あの、その……」
「話は後。まずはこれをその中に入れなくちゃね。……鍵が開いた瞬間逃げるとかしちゃあダメよ」
「わ、わかってるよ」
トパーは牢の鍵を開け、寝具を中に入れた。硬く冷たい土の上よりもはるかに寝やすいだろう。
「母さん、ありがとう」
「どういたしまして」
「ごめんなさい、家出なんかしちゃって……」
「良いわよ。本当は牢にも入れないつもりだったけど、捜索隊の人たちがどうしてもって言うから、あなたを牢に入れてもらったの。にしても、ここ以外誰もいないんだから、もっと出入り口近くに入れれば良いのに、なんでこんな遠い場所にしたのかしら」
「あいつらはきっと僕を警戒してるんだ。隙をついて逃げだすんじゃないかって。母さんもさっき言ってただろう?」
「そうだね。でも、寝具も軽くないんだからもうちょっと手前にして欲しかったわ」
「ははは……。ところで母さん、今の時間ってわかる?」
「ちょうど夕飯くらいの時間ね。夕飯も持ってくるわね」
トパーはそう言うと、早足で家へ向かっていった。
ラルドは早速寝具に横になる。
(はあ……ふかふかで気持ち良い)
「ぐー、ぐー。スーパー……ソー……」
(エメの奴、どんな夢を見てるんだ?)
ラルドは床に寝ているエメを不思議そうに見つめる。しばらく見ていると、早い足音が聞こえてきた。
「エメ、エメ、飯だぞ」
「……んー、時間はわかったのか?」
「母さんによると、夕飯くらいの時間らしい。もうすぐ母さんが夕飯持ってここへ来るんだ」
「そうか。まだ明日にはなってないんだな」
「ああ、そうだ。今日のところは飯を食べてさっさと寝よう」
「はいよ」
「ラルドー、エメちゃーん、ご飯持ってきたわよー」
二人で話していると、トパーがやってきた。鉄格子越しに夕飯が入れられる。
「ありがとう、母さん。いただきます」
「俺もいただきます」
「食器は食べた後に外に出しておいてね」
「わかった」
「それじゃあね。また朝になったら朝食も持ってくるわね」
トパーは外へ出ていった。
ラルドとエメは、久しぶりの食事にがっついていた。
「むしゃむしゃ……ごくん。あー、美味しい」
「大蛇の肉、すごく美味いな」
「捕まっちゃったのは悔しいけど、悪いことばかりじゃないな」
二人はトパーの料理を堪能する。あっという間に食べ終えてしまった。
「「ごちそうさまでした」」
「さあ、食器を外へ出そう」
食器を出し終えると、早速睡眠の準備に入った。
「エメ、土の床で大丈夫か?」
「全然大丈夫だ。寝具はお前が使えよ」
「ありがとう。明日が来たら外へ出られるだろうから、楽しみだな」
「あまりワクワクしてると、睡眠の質に影響するぞ」
「……そうだな。妄想が膨らむ前に寝ちゃおう。おやすみなさい」
「へい、おやすみ」
二人は眠りについた。
(ここは……夢の中か)
ラルドは夢の世界をさまよっていた。周りを見渡すと、紫色の壁が見える。後ろから何やら音がしたので後ろを見ると、そこには魔王と魔王討伐隊がいた。
(うわー。夢の中とはいえリアルだなー)
「フハハハ! 貴様らが噂の魔王討伐隊か。我を倒せるかな?」
「魔王! 俺たちは必ず貴様を倒す!」
(レイフ様、かっこいいなー……。あ、姉さんもいる)
「俺とジシャンは左から行く。サフィアとウォリアは右を頼む」
「オッケー。私に任せておきなさい」
(夢だけど姉さんの本気が見られる……ごくり)
ラルドはサフィアを目で追った。サフィアのまたがるティラノサウルスはとてつもない速さで魔王に近づく。
「テイマーの小娘には荷が重いんじゃないかあ? 我も舐められたものだな」
「舐めてるのはあなたの方じゃない? 私の武器は無限大よ。みんな、行くよ!」
サフィアがそう言うと、大量の魔物や動物が現れた。魔物動物たちは魔王の四方八方から攻撃する。
「くっ、雑魚どもめが……」
(姉さん、すごいや。魔王に動く隙を全く与えてない)
「魔王、トドメだ! お前の心臓を貫く!」
「なに! ぐわあああ!」
レイフは魔王にトドメをさした。魔王の身体が少しずつ崩れていく。
「我を倒すとは……み、見事だ……」
「サフィアのおかげだ。もしいなかったら、お前にも勝機があったかもしれないな」
「そうか、テイマーの小娘が強かったのか。……ククク、フハハハハ!」
「なんだ? いきなり笑い出して」
「サフィアと言ったか。その小娘だけここに置いていけ。少し話がある」
「何をする気だ?」
「大丈夫だ。傷つけたりはしない」
「……いまいち信用できないな。俺たちの監視下で話せ」
「まあ、いいだろう。貴様らに聞かれたところで問題が起きることもないだろうしな」
(魔王の奴、どんな話をするつもりなんだ?)
「小娘よ、お前は……」
魔王がサフィアに語りかけようとしたそのとき、ニワトリの声が聞こえた。
(この声は……)
「コッケコッコー」
ルビーの使役するニワトリが村に訪れた朝を告げる。その声は牢の中にまで聞こえた。
「ん……もう朝か(魔王の話したいことって、一体なんだったんだろう?)」
夢の内容を思い浮かべていると、少ししてエメも目を覚ました。
「ふわーあ。ようやく朝か」
「エメ、おはよう。飯はもう置いてあるみたいだ」
牢の外に朝食とトパーの置き手紙が置いてあった。置き手紙の内容は、罪人でもないのに牢に入れてしまい申し訳ないというものだった。
「お前の母ちゃんは優しいな。優しすぎるくらいだ」
「……まあ、色々考え事をしてもしょうがない。ご飯をいただこう」
二人は朝食を取ると、黙々と食べ始めた。完食までそう多くの時間はかからなかった。食べ終わると、食器を外に出した。少しして、トパーが食器を回収しにきた。
「ごめんね。私からはこのくらいのことしかできなくて」
「いいよ、母さん。ご飯まで抜きになったら生きることすらできなくなってしまうんだから」
「ラルド……」
トパーは食器を全て持つと、地上へと出ていった。
二人は今日訪れるという一時的な脱出のチャンスが一体何かと話し合っていた。
「人が来るのか、何か事件が起きるのか、はたまたそれ以外か……」
「キャイを百信用していいのかわからないが、多分何か事件が起きるんだろうな」
「今日のいつ頃かも気になるな」
そう話し合っていると、足音が聞こえてきた。ルビーともトパーとも違う足音が二つ聞こえる。二人は小声で話し合う。
「人が来るが正解だったみたいだな」
「誰が来るんだろうな。レイフとかかな」
「こら。様をつけろよ」
そんな話をしているうちに、牢の前に二人の男性が立った。ラルドとエメは牢の外を見る。そこには、見覚えのある人物が立っていた。
「あ! お、お前は……」
「あのときのBランク冒険者か」
「んー。何か良いことでもあるのか?」
「お前は寝てたから聞いてないと思うが、キャイによると明日に一時的にここから出られるみたいなんだ」
「おお、そのときに剣とかも回収できるな。ところで、明日っていつ頃来るんだ?」
「確かに外が見えないから今の時間もわからないな」
「こういうときはひたすら寝るのに限るんだよな。ラルド、お前も寝てたらどうだ?」
「父さんが寝具を持ってきてくれたらそうするよ」
「そうか。じゃあ、おやすみ」
エメはもう一度眠りについた。それと同時に、足音が響き始めた。
(父さんか?)
「おーい、ラルドー」
(この声は……トパー母さん! 顔向けできないな……)
「はあ……こんな所にいたのね。もっと出入り口に近くても良いじゃないの」
寝具を持ったトパーがラルドの入る牢の前に着くと、愚痴をもらした。
「母さん、あの、その……」
「話は後。まずはこれをその中に入れなくちゃね。……鍵が開いた瞬間逃げるとかしちゃあダメよ」
「わ、わかってるよ」
トパーは牢の鍵を開け、寝具を中に入れた。硬く冷たい土の上よりもはるかに寝やすいだろう。
「母さん、ありがとう」
「どういたしまして」
「ごめんなさい、家出なんかしちゃって……」
「良いわよ。本当は牢にも入れないつもりだったけど、捜索隊の人たちがどうしてもって言うから、あなたを牢に入れてもらったの。にしても、ここ以外誰もいないんだから、もっと出入り口近くに入れれば良いのに、なんでこんな遠い場所にしたのかしら」
「あいつらはきっと僕を警戒してるんだ。隙をついて逃げだすんじゃないかって。母さんもさっき言ってただろう?」
「そうだね。でも、寝具も軽くないんだからもうちょっと手前にして欲しかったわ」
「ははは……。ところで母さん、今の時間ってわかる?」
「ちょうど夕飯くらいの時間ね。夕飯も持ってくるわね」
トパーはそう言うと、早足で家へ向かっていった。
ラルドは早速寝具に横になる。
(はあ……ふかふかで気持ち良い)
「ぐー、ぐー。スーパー……ソー……」
(エメの奴、どんな夢を見てるんだ?)
ラルドは床に寝ているエメを不思議そうに見つめる。しばらく見ていると、早い足音が聞こえてきた。
「エメ、エメ、飯だぞ」
「……んー、時間はわかったのか?」
「母さんによると、夕飯くらいの時間らしい。もうすぐ母さんが夕飯持ってここへ来るんだ」
「そうか。まだ明日にはなってないんだな」
「ああ、そうだ。今日のところは飯を食べてさっさと寝よう」
「はいよ」
「ラルドー、エメちゃーん、ご飯持ってきたわよー」
二人で話していると、トパーがやってきた。鉄格子越しに夕飯が入れられる。
「ありがとう、母さん。いただきます」
「俺もいただきます」
「食器は食べた後に外に出しておいてね」
「わかった」
「それじゃあね。また朝になったら朝食も持ってくるわね」
トパーは外へ出ていった。
ラルドとエメは、久しぶりの食事にがっついていた。
「むしゃむしゃ……ごくん。あー、美味しい」
「大蛇の肉、すごく美味いな」
「捕まっちゃったのは悔しいけど、悪いことばかりじゃないな」
二人はトパーの料理を堪能する。あっという間に食べ終えてしまった。
「「ごちそうさまでした」」
「さあ、食器を外へ出そう」
食器を出し終えると、早速睡眠の準備に入った。
「エメ、土の床で大丈夫か?」
「全然大丈夫だ。寝具はお前が使えよ」
「ありがとう。明日が来たら外へ出られるだろうから、楽しみだな」
「あまりワクワクしてると、睡眠の質に影響するぞ」
「……そうだな。妄想が膨らむ前に寝ちゃおう。おやすみなさい」
「へい、おやすみ」
二人は眠りについた。
(ここは……夢の中か)
ラルドは夢の世界をさまよっていた。周りを見渡すと、紫色の壁が見える。後ろから何やら音がしたので後ろを見ると、そこには魔王と魔王討伐隊がいた。
(うわー。夢の中とはいえリアルだなー)
「フハハハ! 貴様らが噂の魔王討伐隊か。我を倒せるかな?」
「魔王! 俺たちは必ず貴様を倒す!」
(レイフ様、かっこいいなー……。あ、姉さんもいる)
「俺とジシャンは左から行く。サフィアとウォリアは右を頼む」
「オッケー。私に任せておきなさい」
(夢だけど姉さんの本気が見られる……ごくり)
ラルドはサフィアを目で追った。サフィアのまたがるティラノサウルスはとてつもない速さで魔王に近づく。
「テイマーの小娘には荷が重いんじゃないかあ? 我も舐められたものだな」
「舐めてるのはあなたの方じゃない? 私の武器は無限大よ。みんな、行くよ!」
サフィアがそう言うと、大量の魔物や動物が現れた。魔物動物たちは魔王の四方八方から攻撃する。
「くっ、雑魚どもめが……」
(姉さん、すごいや。魔王に動く隙を全く与えてない)
「魔王、トドメだ! お前の心臓を貫く!」
「なに! ぐわあああ!」
レイフは魔王にトドメをさした。魔王の身体が少しずつ崩れていく。
「我を倒すとは……み、見事だ……」
「サフィアのおかげだ。もしいなかったら、お前にも勝機があったかもしれないな」
「そうか、テイマーの小娘が強かったのか。……ククク、フハハハハ!」
「なんだ? いきなり笑い出して」
「サフィアと言ったか。その小娘だけここに置いていけ。少し話がある」
「何をする気だ?」
「大丈夫だ。傷つけたりはしない」
「……いまいち信用できないな。俺たちの監視下で話せ」
「まあ、いいだろう。貴様らに聞かれたところで問題が起きることもないだろうしな」
(魔王の奴、どんな話をするつもりなんだ?)
「小娘よ、お前は……」
魔王がサフィアに語りかけようとしたそのとき、ニワトリの声が聞こえた。
(この声は……)
「コッケコッコー」
ルビーの使役するニワトリが村に訪れた朝を告げる。その声は牢の中にまで聞こえた。
「ん……もう朝か(魔王の話したいことって、一体なんだったんだろう?)」
夢の内容を思い浮かべていると、少ししてエメも目を覚ました。
「ふわーあ。ようやく朝か」
「エメ、おはよう。飯はもう置いてあるみたいだ」
牢の外に朝食とトパーの置き手紙が置いてあった。置き手紙の内容は、罪人でもないのに牢に入れてしまい申し訳ないというものだった。
「お前の母ちゃんは優しいな。優しすぎるくらいだ」
「……まあ、色々考え事をしてもしょうがない。ご飯をいただこう」
二人は朝食を取ると、黙々と食べ始めた。完食までそう多くの時間はかからなかった。食べ終わると、食器を外に出した。少しして、トパーが食器を回収しにきた。
「ごめんね。私からはこのくらいのことしかできなくて」
「いいよ、母さん。ご飯まで抜きになったら生きることすらできなくなってしまうんだから」
「ラルド……」
トパーは食器を全て持つと、地上へと出ていった。
二人は今日訪れるという一時的な脱出のチャンスが一体何かと話し合っていた。
「人が来るのか、何か事件が起きるのか、はたまたそれ以外か……」
「キャイを百信用していいのかわからないが、多分何か事件が起きるんだろうな」
「今日のいつ頃かも気になるな」
そう話し合っていると、足音が聞こえてきた。ルビーともトパーとも違う足音が二つ聞こえる。二人は小声で話し合う。
「人が来るが正解だったみたいだな」
「誰が来るんだろうな。レイフとかかな」
「こら。様をつけろよ」
そんな話をしているうちに、牢の前に二人の男性が立った。ラルドとエメは牢の外を見る。そこには、見覚えのある人物が立っていた。
「あ! お、お前は……」
「あのときのBランク冒険者か」
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