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第2章 地獄編 第1階層 鬼神島〜運命の糸編 まで

第1話 最初の戦い

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船に乗って地獄の岸にたどり着いて早数時間。俺は深い森の中をただただ歩いていた。上陸時はまだ真っ暗ではなかったが今はもう真っ暗だ。不気味な虫の声と葉音がする。だが俺は絵本で読んだ悲惨な地獄とは違い、ただの森だったことに少し驚いていた。しかしどうしたものか。勢いで地獄に来てしまったがこれからどうするか。そもそも地獄とはどんな場所でどんな奴がいるんだ。しかも俺と同じ時に地獄に入った奴らは今どこにいる。俺はとにかく戸惑っていた。そしてこの不気味な空気が俺をさらに不安にさせる。と、その時だった。森のどこかで女の悲鳴がした。
「キャーーだれかお願い、た、たす……け、て」
女の人が誰かに襲われている。俺は急いで声の聞こえる方へ走る。が、しかしそこには大きな大樹よりもさらに数メートルでかい黒い鬼がいた。そして鬼の足元には声の源と考えられる若い女の人がいた。俺は咄嗟に草むらに隠れて2人を見た。鬼は足2本、腕2本で全身真っ黒にギョロっとした大きな目玉が二つあった。鬼はその手で女の人を掴むとそのまま食べてしまった。俺は何も出来なかった。最初は声を上げていた女だったが徐々に女の人の声は小さくなりやがて鬼が女の体を食べる気持ち悪い音だけがあたりに響いた。怖い。いやもうこのまま死んでしまいたいぐらい怖い。
そういえばシェルジャは言っていた。生き物には二つの死があると。一つは現世での死。そして二つ目は魂の死すなわち存在の消滅。だから地獄で死んだら俺は完全に消滅する。ちくしょ。こんなところで終わるわけにはいかねぇのに。そんな思考がさらに俺の心と筋肉を力ませる。そしてその力みは最悪なことに………
「うふッン」
あまりの恐怖に俺は一瞬だけ声を出してしまった。やばいぞ! やばいぞ!  すると鬼はその音に気づいてしまった。マズイ。きづかれてしまう。俺は今にも悲鳴を上げそうな口を手で必死に抑えて草の影に隠れる。鬼はその目でこちらをじっと見つめてくる。心臓の鼓動があいつに聞かれしまうのでは? と思うぐらいドクドクと胸が鳴る。俺はもうその緊張に我慢できなくなり、咄嗟に立って走ってしまった。そして今までにないぐらいの速さで走る。鬼はこちらに気づいたものの、気づいた頃には遅い。俺は一瞬にしてその場所から数m移動することができた。「よし、なんとか、なんとか、出し抜けた!」俺は一瞬、一瞬だけそんなことを思いながら走った。しかしその走りは鬼にとってはアリが必死に人から逃げるのと同じくらい意味のないことらしい。鬼はその足と体の大きさを利用して俺の元にすぐ追いついた。もう俺のすぐ後ろにいる。鬼の
どすん どすん どすん という足音を感じる。と、後ろに気を取られていた俺は前方に大きな井戸があることを確認することができなかった。気づいた頃には俺の体はその深い井戸に落ちていた。びっくりしたのも束の間、深い井戸の底に叩き落とされた。頭が痛い。目眩がする。俺の目には必死に井戸の中の俺を食おうと手を伸ばす鬼が見える。
もう嫌になってしまった。開始早々、鬼に出会ってこんな深い井戸に落ちてしまった。鬼の手が井戸の底に追いついて、俺を捉えるのも時間の問題。俺はこの絶望的な状況に諦めの気持ちを抱いてしまった。千聖との眩しい日々が懐かしく感じる。「もう、死ぬのか。食われて死ぬのか」そう呟いた瞬間だった。
「あの、私にその体を貸してくれませんか?」
ふと女の声がした。俺はすぐに体を起き上がらせて女の方を見た。その女は貞〇そのものだった。服は白くて、髪が長く、顔が全く見えない女だった。
「体を貸す? どういうことだ?」
「このままいけば2人とも鬼に食われてしまいます。だから、その、もしあなたが私に体を貸してくれれば一時的にあなたは私の術が使えます。その術を使って鬼を倒すのです」
「そんなことができるのか? いや、でも、、」
俺は状況がまるで理解できなかったが、もう仕方ない。どうせ死ぬぐらいなら悪あがきでもしてやる。
「頼む、力を貸してくれ!」
「わかりました」そう女は言うと俺の体に抱きついた。すると体は白い光に覆われて俺の体の中になにか、気のようなものが入ってくる。光が消え、女の姿が見えなくなった。俺の外見はこれといって変化がなかったが、俺の右手には大きな刀があった。しかし俺の体にそんな変化はなく、術など使えそうもない感じに俺は不安を覚えた。と、その時だった。体の中からあの女の声がする。
「今のあなたは人智超えた身体能力持っています。おもっきりジャンプしてください!」
そんなことをできるわけないだろ、と思ったがもうやってみるしかない。俺は足に力を入れて井戸に手を伸ばす鬼の手のひらをめがけて名一杯飛んだ。すると一瞬にして俺の足の筋肉は膨張し、地面を揺らすほどの蹴りで空高く舞い上がった。それと同時に鬼のコンクリのように硬く岩石のように厚いゴツゴツした手を貫通した。鬼はものすごい金切声を上げた。井戸を出ると、無意識に右手にあった刀を引いた。
「もう一度飛んで、今度はその刀で鬼の首を切ってください」女がそう言ったので
一か八かでその刀の刃を鬼に向け、もう一度飛んだ。
「固有霊刀術 冷血火殺(れいけつひさつ)!」
俺は無意識にそう叫ぶと刀から青い炎がでてそのまま電光石火のごとく鬼の首を討ち取ったのだった。鬼の顔と体は灰のごとく消え、俺はその時勝利を確信した。するとまたもや体が白い光に包まれるとさっきの女が体から出てきた。
「倒してくれてありがとうございます」
「いえこちらこそあなたがいなければ今頃俺は鬼の腹の中でした。本当にありがとうご、ご、ざ……い……」バタン。急に頭がくらくらした。そして俺はそのまま倒れてしまった。
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