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第2話 回復士と、追放
しおりを挟む「おお! やったぜ勇者!」
「すっごーい! まさか始めからこれを狙ってたの!?」
魔王の体が崩れ落ちた後、戦士のゴードンと魔導士のアリシャが勇者へと駆け寄る。
二人の顔に浮かぶのは一片の曇りもない笑顔だった。
どうやら、先程の勇者の行為を止めようとしたのは私だけだったらしい。
「どうして……、こんなことをしたんですか……」
「あァん?」
腕の中にあるぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、私は歓喜に酔いしれる勇者たちに向けて声を絞り出す。
勝利の余韻に水を差されたのが不快だったのか、勇者はこちらへヅカヅカと歩いてきた。
「何だよ、俺のやり方に文句でもあるってのか、回復士。ちゃあんと敵である魔王を倒しただろうが」
「その魔王は、本当に倒すべき敵だったんですか……?」
「何だと……?」
勇者は私の言葉にピクリと眉を動かす。
そして、明らかに見て取れる嘲笑を浮かべると、ゴードンとアリシャの二人に振り返りわざとらしく肩をすくめた。
「おいおい、コイツは残念だ。俺たち勇者パーティーの中にどうやら魔王の魔法で脳ミソをやられちまった奴がいるらしいぜ」
「別に魔法なんかにはかかってません。貴方はどうして敵かどうかも分からない相手を攻撃できたんですか」
「馬っ鹿だなぁ、お前。敵かどうか、なんてのは重要じゃねえんだよ」
「……は?」
「魔王を討ち倒せば莫大な恩賞が貰える。なのにいちいちそのための『手段』を吟味していてどうするよ?」
「……」
ああ――。この人はさっきの魔王の言葉通り、阿呆だ。
金を得るために手段を選ばない。
これでは人を攫い金銭を得ようとする輩などと同じではないか。
私は諦めにも似た感情を胸の内に感じて、それ以上言葉を続けるのをやめた。
代わりに、深い侮蔑の意を込めた目を向ける。
「何だよその目は? お前は恩賞が欲しくねえってのか? ……いや、待てよ。そうだな、元々四人で分けるのもちょっともったいねぇって思ってたんだ」
阿呆が何か言っていた。
そうして、阿呆はそのお仲間二人と何やら打ち合わせをし始める。
その後、私を勇者パーティーから追放し、その分の恩賞を三人で山分けしようという話がまとまるまで大した時間はかからなかった。
***
「お、よく見てみたら魔王が付けていたこの腕輪とか冠、高く売れそうじゃねぇか」
「むむ、本当だな勇者よ」
「これ、王都に持ち帰ったら売っちゃいましょうよ」
勇者たちの嬉しそうな声が聞こえてくる。
どうやら魔王の身に着けていた装飾品を漁っているらしい。
うへぇ、と。
先程、一瞬一部でもこの人たちと思考が被ったことを思い出し、凄く嫌な気分になった。
「それじゃ回復士ちゃんよぉ。テメェとはここでオサラバだ」
そうして私は束縛魔法をかけられる。
稚拙な術式だったため、その場ですぐに解除してやっても良かったが、とにかくこの人たちには早く満足してここを去って欲しいと思って、私はその束縛魔法を受け入れた。
「恩賞は俺たちで貰っておいてやるからよ。せいぜい魔族たちと仲良く暮らすんだな。ああ、それよか魔族の残党どもに食い殺されちまうかもしれねぇなあ! ケヒャヒャヒャヒャッ!」
童話に出てくる悪役か何かか、お前は。
そんなことを考えたが言わないでおいた。
とりあえず今は早くこの場から去ってくれ。
そうして胸に抱えたものの存在を気づかれたくなくて、勇者たちの気配が消えるまでひたすら待った。
そういえば、一度も名前で呼んでもらえたことはなかったなと、そんなことを思いながら――。
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