加藤と、大野。

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体育倉庫と、あいつ。

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 高校二年生、春。5月中旬。春の昼時は、暖かくて、心地いい。腹減った。今は体育の授業中。種目はバレーボール。球技は割と得意だから、めっちゃ楽しい。俺のクラスの男バレは一人、大野だけだ。

「うっわ、やば。」

 思わず声が漏れた。大野が飛んだ。大野は身長が高いから、飛ぶともうめっちゃ高くなる。空中の姿勢がすっげぇ綺麗だ。俺は口を間抜けに開いて見惚れてしまった。

 大野が打ったスパイクがすごいスピードで飛んでいく。レベル違いすぎだろ。体育だしあれ多分手加減してんだよな、化けもんかよ。うっわ、着地してく姿も綺麗。

 バァンッ

 音がして驚く。え?待ってあれ誰が受けたん?と思ってそちらに目をやると、河南だった。いや、やば。逆にこいつ以外考えられねぇけどさ。いっつもふざけてちょろちょろしてるけど、運動してる時のあいつは、まじで生き生きしてて、かっけぇわ。

「っ!」

 思わず息を飲んだ。

 打ち上がったボールを見た大野が、すっげぇ楽しそうに笑ったから。

 大野の瞳が輝く。あ、こいつ、今、心底楽しんでるんだ。バレーを。お前、気づいてる?運動してる時のお前って、めっちゃ暑苦しい顔してんだよ。そんで、汗かいて苦しそうなのに、ずっと瞳は楽しそうで、まじで眩しい。心臓がドクドクと音を立てた。

 ふと、後ろから誰かが肩を組んできて、我に返る。

「お、やってんな。」
「やってんな、じゃねぇわ!どんだけ時間かかってんだよサボってただろ!」
「いや、ミカちゃんに会って「あ、もうわかったから!!!」

 柿本だった。また女子といちゃこらしてたのかよ。体育は楽しいだろ。サボるなよ。

「えらく熱い瞳してたけど?」
「え!?はぁ!?」
「え、めっちゃ動揺すんなお前、どうした?」
「いや別に何も見てねぇから!!!」
「いや、ちゃんと見とけよ。何のためにそこに立ってんだよ。」」
「え?あっ!そうだな!!」

 うっわめっちゃ変な奴になってんじゃん俺。いやだって熱い瞳とか言うから!わかってるよ!ちゃんと見るよ!俺点数係だから!!あーもう馬鹿だろ俺、まじで。


 *


 授業後、大野が一人で得点板を二つとも転がして行こうとするのが目に入った。え、いや、二人の方がいいだろ。自然と体が動く。

「そっち運ぶわ。」
「加藤!ありがとう。」

 大野が爽やかに微笑む。うわ、何かのCM出てるだろお前。制汗剤とか。二人で倉庫の中に向かう。なんか、倉庫っていいよな。秘密基地っぽくね?でもちょっと独特の匂いするよな。

 大野が倉庫の扉を閉めた。え?他にも片付けるもんあるから開けといたほうがいいだろ。

「加藤ってさ、馬鹿だろ。」
「は?」

 いきなり馬鹿とか言われたし、声低いし、ちょっと半笑いだし、急にどうした。何?

「俺、加藤のこと好きって言ったよね?」
「なっ!!お、おう。」
「・・・誘ってる?」
「はぁ"ぁ"!?!?」

 いやなんで!?何を誘ってんの?お前頭いかれたんか!?大野の顔が俺の耳元に近づく。

「うるさい。」
「ひっ!」

 耳に息を吹きかけられる。え、もう何こいつ!やめろって。首がぞわっとしたんだけど!!とりあえず早く誰か来い!

「ふふっ、やっぱ色気ねぇ声。」
「へ!?何!?」

 大野に低い声で揶揄られる。色気もクソもあるわけねぇだろ!もう心臓バクバクして死にそう。よし、逃げよう。

 ドアに向かったが、大野に手首を掴んで引っ張られ、壁に押し付けられる。え?何この状況。大野の顔が近づいて、何故か動けなくなる。そのまま、大野は俺の耳元に顔を寄せた。

「でもさ、耳、敏感だよね。」
「な”っ!」

 甘い声で囁かれる。大野がどこか楽しげに笑う。え?めっちゃ恥ずかしいんだけど。てかもう無理!なんかもう無理だって!最近ずっとこういうんなかっただろ!

「うひゃっ!」

 大野がいろんな角度から耳に息を吹きかけて、反応を観察するようにじっと見つめてくる。いやくすぐってぇわ!待って、なんかそれずっとされてると、やばい。見られているとやけに緊張して、体が熱くなる。

 大野がいたずらにもう片方の耳もくすぐる。あ、気持ちいい。甘い瞳で見つめられて、どんどんおかしな気分になってくる。

 そのままもう片方の耳にも同じように息を吹きかけられる。大野が小さく笑い声を漏らすから、その吐息がくすぐってぇ。なんていうか、たまにすごい変な感じがする。よくわかんねぇけど、なんかやだ。こう、ぞわぞわする。

「ふふっ、感じてんの?」

 何言ってんの!?いや何も感じてねぇわ!ちょっとくすぐってぇだけだって!俺は大野をキッと睨みつける。大野は何故か満足したように笑って、俺の耳を優しく甘噛みした。大野の熱い吐息が漏れて、ぞわっとする。小さく体を震わせると、大野がくすっと笑って耳を食む。先程より強い刺激に、甘い痺れが走る。

「んっ、まじでお前さ「しっ。」

 耐えきれず上擦った声が漏れて、抗議の声を上げようとすると、口を塞がれた。おい塞ぐな。てか何今の俺の声!?何度も瞬きをすると、口を解放され、大野がどこか楽しげに微笑む。

「こーんなとこ、見られたくないだろ?」
「は?」

 大野に低い声で揶揄られて、自分の置かれた状況に気づく。あ、俺、今、こいつに壁に追いやられて、好き勝手やられてんのか。え、俺だっさ。かっこ悪。羞恥に顔が熱くなる。お願いだから誰も来んな。てかもう全部こいつのせいだろ。大野を睨みつけるが、甘く微笑んで一蹴される。

「加藤、それ、煽るだけだよ?顔真っ赤で、目潤んでて、エロい。」
「っ!」

 は?何言ってんのこいつ!?大野が甘く微笑んで、熱を帯びた瞳で俺を見つめる。え、お前も顔赤くね?てか、ここ熱くね?なんかやばい。大野がまた耳に顔を寄せる。反射的に体が震えた。大野が小さく笑いをこぼす。その吐息に、何故か体が甘く疼く。

「っ!」
「ふふっ、俺の息だけで感じるの?」

 必死に唇を噛んで堪えると、楽しそうに揶揄られた。だから、感じてねぇから!笑ってんじゃねぇよ!馬鹿!大野が優しく微笑んで、手で俺の耳をくすぐる。あ、これは嫌じゃねぇ。気持ちいい。思わず笑みをこぼすと、大野が耳に舌を這わした。耐えきれず小さく声が漏れる。

「んっ、はぁ、ちょっ待って。はぁ、」

 耳の輪郭をなぞられて、何が堪らない気持ちになる。なんかこう、焦らされてるみたいな。いやもうよくわかんねぇしやめてほしい。勝手に息が荒くなって、声が上擦って、堪らず大野の服を掴む。

「ん?」
「んはぁ、やだ、なぁ、無理だって。」

 耳元の甘い吐息に、堪らず甘い声が漏れる。ん?ってなんだよ!ん?って!!もうなんかやばいって。こいつの声だけで、もう無理。

「・・・・あぁっ、」
「ふふっ、あんま声出すと、聞こえるよ?」

 大野にまた甘噛みをされてふっと熱い吐息を感じ、上擦った声が出た。え、待ってやだ。こんなん聞かれたら恥ずかしすぎるだろ。口を塞ぎたいけど、手は大野の服を掴むのに精一杯だ。必死に声を堪えるが、羞恥で顔が赤く染まる。

「んっ・・・・なぁ、さっきからなんか、、」

 刺激されていない方の耳もいたずらにくすぐられるから、もういっぱいいっぱいになる。また耳の輪郭を舌でなぞられる。なんか、さっきからそれ、嫌なんだけど。大野が楽しげに微笑み、からかうように甘く尋ねる。

「なに?」
「・・・んっ!やっ、」

 耳に軽く歯を立てられる。強い刺激に甘い声が漏れる。声抑えらんないから、やめろってそれ。堪らず小声で抗議しようとすると、大野がまた耳の輪郭を舌先で舐めていく。

「んんっ、はぁ、はぁ、」

 耳の穴を舌でくすぐられて、堪らなくなって、声が上擦る。あ、それやばい。きもちいい。大野の肩に顔を埋める。

「ん?ふふ、」

 大野が嬉しそうに笑って、両耳を手でくすぐる。あ、それは気持ちいい。思わず大野の手に耳を擦り寄せて、目を瞑ってしまう。が、耳に熱い吐息がかかって、急いで目を開けた。

「なぁ、もう、まじでやめっ!はぁ、んんっ、」

 耳の穴を執拗に舐められる。待って、これやばい。ピチャピチャという水音が耳に響いて、羞恥で顔が熱くなる。いつのまにか、耳がびっくりするほど敏感になっていて、少しの刺激だけで甘く声が漏れてしまう。

「ん、・・・はぁ、はぁ、んっ!」

 耳の穴を貪るように舐められたと思ったら、ふいに優しくキスされて、大野の熱い吐息が漏れて、甘噛みされて、舌先でなぞられて、歯を立てられて、耳の溝を舌で刺激される。的確に与えられる快感に、どんどん頭がおかしくなって、声が抑えられない。熱い。もう無理。きもちいい。

「はぁ、大野、、」

 何も考えられなくなって、助けを求めるように大野に縋り付いた。大野が何処か苦しげな声を出す。

「お前、たまんない。」
「ん、」

 大野が低い声で囁くだけで、勝手に甘い声が漏れた。それが堪らなく恥ずかしくて、全身が熱くなる。もうやだ。大野がやっと俺の耳を解放した。

 大野に優しく抱きしめられる。熱くて堪らない。大野、いい匂い。汗?って待て!しっかりしろ俺!正気に戻れ!必死に息を整えると、急速に頭が冷える。危ねぇ。まじで危ない。もうちょっとでやばかった。

 大野がパッと離れた。

「あははっ!どう?良かった??」
「はぁ、まじでお前、何なの?もう疲れたわ!」

 大野が爽やかに微笑む。さっきまでの熱い雰囲気が嘘のようだ。俺、大野といるともう頭おかしくなるわ!!壁にもたれて耳を押さえ、大野を睨みつけた。


 *


 倉庫を出ると、背の高い人に声をかけられた。

「あ、大野、ありがとな。そっちの子も。」
「いえ!お疲れ様です。」
「へ?あ、はい?」
 
 大野と俺にくしゃっと微笑むと、そのままコートに駆けていく。いや大野お前冷静すぎだろ。てかポールとかネットとか全部そのままなんだけど。何で?全然理解が追いつかん。みんな帰ってるし。いや、そりゃそうなんだけど。

「先輩。たまに自主練してんの。」
「へ?あ、なるほど。」

 あ、自主練するから全部そのままなんか。そういや先生がなんか言ってたわ。一人で納得する。

「んっ、」

 完全に油断していると、耳に軽く息を吹きかけられて、変な声が出た。確実に今までと違う声が。ふざけんなよお前。耳を押さえてじろりと睨むと、大野が甘く微笑んで囁く。

「耳、弱いね?」
「だ、誰のせいだよこの馬鹿!!!」
「あははっ、じゃ、俺も自主練してくる。」
「あ"ー、もう、頑張れよ!!!」
「ありがとう!」

 大野は、爽やかに、どこか楽しそうに微笑むと、先輩の方に駆けていった。


 ・・・耳が、耳がぁ~

 耳を押さえて悶絶しながら廊下を全力疾走して、先生に怒られた。あ、これ、なんとかの城、の大佐みたいだな。ってそんなことはどうでもいいんだよ。もう何あれ!むしろ前より凶暴化してるだろ!!大野なんて嫌い、じゃねぇしいい奴だと思う。けど、やっぱ嫌いだぁぁぁぁ。


 *


「次の休み時間、中庭。」
「っ!」

 耳元で囁かれる合言葉が甘く疼いて、体がピクリと震えた。あー、大野のせいだ!!

 大野に耳を好き勝手弄られた次の日、俺は怒りをぶつけるために中庭に急いだ。ベンチに腰掛けて待つと、焦った様子で大野がやってきて、俺の隣に座る。

「ね、怒ってる?」
「怒ってる。」
「俺のこと、嫌いになった?」
「・・・別になってねぇよ。」
「耳、気持ち良かった?」
「うるせぇよ!」
「ふふっ、たまに、触っていい?」
「嫌だ。」
「ねぇ、触るだけ。二人の時だけ。」
「・・・・・別にいい、けど。」
「ありがとう。」
「っ!耳元で喋んな!馬鹿。」
「あ、甘いやつ。」
「はぁ?」
「ふふっ、あはははっ、、」
「あははっ!あーもう何なんだよお前は。」

 まじで駄目だ。簡単に許してしまった。

 それから大野は、よく耳をくすぐってくるようになった。大野の手は正直気持ちいいし、好きだ。大野に耳を触られると、自然と目を瞑って、耳を擦り付けてしまう。


 

ー「・・・・・耳が弱い子、とか、可愛いと思う。」
 
 ふと、大野の甘い声が蘇る。あーもう、思い出すな。まじで俺、馬鹿だろ。俺はぐでーっと突っ伏して、熱くなった頬をひんやりとした机につけた。
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