捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ

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月明かりの夜④

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『妻のソフィアと別れるには俺達の間に子を授かる事だ』
アレックはエミリーに話した事を思い出した…夫婦として会話がなかったがソフィアには感謝はあった。別れる事は考えてはいなかったが、エミリーの側にいると声に出してしまっていた。
「……」
「……」
ソフィアは窓をじっと見たまま何も話さず、アレックはエミリーとの会話を聞かれていたとは知らず何も言えずにいた。
ソフィアは、十六年前の事だから昔の事を言われたらアレックも戸惑うのは分かっている…自分が生きていたら離婚をした時、今までの事を夫だったアレックに話せていたかもしれない 、エミリーにも話せていたかもしれない…でも、それは生きていた頃の話で…死んで生まれ変わって当時夫だったアレックと再会して昔の事を言われても戸惑うのは分かってはいた…
「…ごめんなさい…」
「え…」
「昔の話をされたら旦那様が戸惑うのは分かっているのに…」
「…君が謝る事はない…俺が君にしてきた事なんだ…今でも君を苦しめていると分かった時胸が押し潰されそうだった…」
アレックは離れていたソフィアの隣に立ち、身分や姿が替わってしまった元妻の手を掴み指の甲にキスをした。
「ええっ!?」
ソフィアの驚いた顔と真っ赤になる姿を見てアレックは笑みを見せていた。
(貴族の男性は皆手にキスをするのが習慣なの?)
「…眠たくはないのか?」
「私は一度目が覚めると眠れないんです…だから、学園に行く事ができないの…」
「学園!?…じゃあ、今は…」
「家庭教師に勉強を習っています」
「……君は勉強をしなくても…家庭教師が君から習っているような気がするが…」
「ふふっ、たまに私が先生に違う答えを直す事もありますけど…」
ソフィアの笑みを見てアレックは一緒に仕事をしていた日々を思い出していた。
「俺は君と一緒に仕事をしてどれだけ助かった事か…君がいなくなって思い知ったんだ…君に頼りすぎていた事も…」
「…私は、旦那様と一緒に仕事ができた事が嬉しかったんです…会話が無くても私を頼ってくれるのが嬉しかった…」
「……ソフィア…」
ソフィアはアレックから名前を言われ驚いた顔で見上げていた。
「…私の事はいつもの『君』で呼んで貰えないですか?」
「…これから、そういうわけにはいかないだろう…」
「それもそうですが…」
「……君の名前を呼ばないと俺の側から離れてしまいそうで…」
「え?」
「…まだ、大丈夫か?」
「あ…はい…」
「君に見せたい物があるんだ…それを見たら君は嫌な事を思い出すかもしれないが…」
「沢山思い出していますから、何を見ても大丈夫です」
「……わかった…俺と一緒に来てくれ」
アレックはソフィアの手を繋いだままそのまま奥の廊下へと歩いて行った。






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