捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

十六年前のメイド

メイドのナディアは皇女ソフィアに言えなかった。
「…ただ一言でも『お帰りなさい』と言えたら…」
男性入浴の側に来た時灯りが点いているのに気がついたナディアはメイドが三人いる方へ顔を向けた。
「…入浴は旦那様なの？」
「はい、ナディアさん」
「そう…」
（…旦那様は皇女様とどんな話を…今までの奥様にしてこられた事を話されたのかしら…）
「旦那様の入浴が終わったら後はお願いね」
「「「はい」」」
メイドのナディアは入浴場を離れようとした時メイド三人の話し声が聞こえた。
「アルフォンス様の入浴を任された皆は良いよね」
「でも、背中を流す事も濡れた髪の毛を乾かす事はなかったと残念がっていたけど？」
「それでも、アルフォンス様の見た事もない姿が見れたんだから羨ましいわよ」
「そうよね…くじ引きで負けた私達は旦那様の所だし…はぁ」
メイドの一人は残念でため息をはいていた。
「旦那様がもう少し若くて素敵だったら、背中を流したり髪の毛を乾かしてあげても良かったけど…」
「旦那様に聞かれたら気を落とされたらどうするの？」
「でも、若い頃の旦那様ってモテていたとお母様から聞いたわ」
「貴女のお母様って、昔ここでメイドをしていたのよね！？」
「ええ、まだ結婚なんて考えてなかったからお母様にパルリス家を紹介してくれてメイドの職に就いたの」
（…そう言えば…先輩のメイドがあの子の母親だったわね…）
「旦那様がモテていたなんて信じられないわ…髪の毛に艶もないし、目元には隈か出来て痩せて…昔の旦那様を見てみたいわ」
「肖像画があるから分かるんじゃないの？」
「でも、肖像画のある部屋は簡単には入れないでしょう？」
母親が働いていたと話していたメイドが側にまだいるナディアに声をかけた。
「あ！ナディアさんは私の母は知っていますか？」
「ええ、仕事を教えて貰っていたから…お母様は元気？」
「はい、屋敷はメイドがいらないみたいに掃除を一人でするので母から逃げ出すのが大変でした。」
「ふふふ、そのようね」
メイドのナディアは昔を思い出し会話が弾んでいた。
「あの…母から聞いたのですが、旦那様にはお子様がいると聞いたのですが…」
「え！」
「でも、お子様の姿が見えませんでしたので不思議に思っていたんです」
「そうよね、私も見た事がないわ」
「私もよ」
メイドの母親は、ソフィアが亡くなった時アレックがエミリーを妻に迎えると知って屋敷を辞めた一人だった。
「…お母様は旦那様の子供の事は貴女にどの様に話されたの？」
「え、あ…」
メイドの反応を見てメイドのナディアは息を吐いた。
「この話しは終わりにしましょう…旦那様がもうすぐ出て来られるわ。後はお願いね」
「…はい、分かりました」
メイドのナディアは、エミリーが流産をした話を聞き当時屋敷にいたメイドや使用人は可哀想だと話す者もいたが、内心産まれなくて良かったと話す者もいたのを思い出し、メイドのナディアもその内の一人だった。