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「……ふ」
俺は体を壁に凭れ両手をユリウス父さんに握りしめられ、柔らかい唇が重なり俺は動けないでいた。
赤ん坊のカイトの時のキスとは違う、激しく舐め回すような舌を俺の舌と絡ませ合う、大人のキスをユリウス父さんはしていた。
「ん……んん……」
「……カイ……」
一瞬離れた唇から俺の名前を呼ばれ体がゾクゾク…と震える感じがした。そして俺は……
ガリッ!
「!!っ……!」
ユリウス父さんの下唇を噛み、ユリウス父さんは押さえていた俺の両手を放し少しヨロッ…と体が動きそして俺の体から離れ、手で唇を押さえていた。
俺は唇をグイッ…と指で拭き取り、口の中にユリウス父さんの血の味が少ししていた。
「お前、何勝手に俺にキスしてんだ!同情か?哀れみか?泣いているからキスで今までの事を許して貰う為か?ふざけんな!俺の胸の痛みがお前には分かるか?俺がどんな思いでお前達夫婦を見ていたのか分かるか?分かんないよな……俺の目の前で、お前達夫婦がヤっている処を見せられ、声を聞かされ、お互い見つめ会い喜ぶ顔を見せられ……お…俺が……どんな思いで……ううっ…」
「……に…兄ちゃん……」
俺は泣きながら話終わると、ユリウス父さんの顔を睨み話した。
「これから先俺が誰と付き合い、誰と寝てもお前には文句言われる筋合いは無いよな!」
「!?……そ…」
ユリウス父さんの顔が驚き、俺に言い返せ無いでいる姿を見て俺は部屋の扉に立った。
「今日は赤ん坊のカイトは居ない!お前の方で適当に話を作って皆に言え!」
「な!?……兄……」
バタン!
俺は部屋を出て廊下で深呼吸をして、廊下を歩き出した。
俺はユリーナ母さんの部屋に近づくと、学校から帰って来たルカリオ兄がユリーナ母さんの部屋から出てくるのが見えた。
赤ん坊のカイトを見に来たのだろう…カイトが部屋に居ないと分かり、ユリウス父さんの方へ歩こうとした時、俺と目があった。
俺の今の姿は18歳の大人の体で、この国では珍しい黒髪に黒い目をしている。
ルカリオ兄は俺の姿で驚いているように見え、顔を反らし下を向いてユリウス父さんの所へ歩き出した。
俺は赤ん坊の時のカイトとは違うルカリオ兄が普通の子供に見えて思わずフッ…と笑ってしまった。
俺の横を下を向いて通り過ぎようとしたルカリオ兄が俺の声を聞いたのかパッと顔を上げ俺の顔を見た後俺の右手に気付き話し掛けてきた。
「……あ、あの…手にケガをしています。」
「え、ああ、有難うたいした事ないよ」
ニコッと俺は赤ん坊のカイトの時と同じ様な笑顔でルカリオ兄を見ていた。
ルカリオ兄は何故か俺の笑顔を見て驚いた目をして、そして俺の黒い服を掴んで来た。
「え?」
「あ……ご、ごめんなさい…あの…良かったら僕の部屋で手の傷を治してあげます…」
俺は驚きはしたが、そうだな…手の傷をこのままにして置くには…さっきのユリウス父さん…勇樹とのやり取りを思い出すのも嫌だし、ルカリオ兄が心配してるから甘えるか…。
「お願いしても良いかい?」
「はい、僕の部屋はこっちです。」
俺は小さなルカリオ兄と一緒に部屋に案内して貰う事にした。




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