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1、聖女、王女に追放される

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「────“聖女”ルイーズ!
 女王となるべきメアリー王女殿下を国外に追いやろうとした罪、万死に値する!」


 ……王城の執務室で政務中だった。
 突然、兵に取り囲まれ、わけもわからないまま執務室から引き出されると、険しい表情の宰相からそう宣告され、状況がつかめずポカンとする。

 居並ぶ重臣たちが私に冷たい視線を注ぐ。
 つい昨日まで私を『猊下げいか』と呼んでかしずいていた者たちが、クーデターを起こした?

 奥に、姪の姿を見つけた。
 私が大好きだった亡き兄王子に良く似た、光輝く金髪に抜けるように白い肌の、美貌の17歳の少女が。


「メアリー! ……いったいどういうことなの!?」


 彼女は怒りをこめて私を睨みつける。


「殿下と呼びなさい、逆賊が。
 自分の胸に手を当ててよく考えてみるのね」

「『今のあなたじゃ実力不足。王位に就くなら聖地の大学に行ったら』そう言ったわ。
 でもそれを追い出そうとしていると解釈されるのは心外よ。
 15年もこの地位にいたのよ、私。
 追い出すつもりならとっくに私が王になっているわ」

「お父様は大学になど行っていなかったわ。
 宰相たちの言うとおり、私が王位に就くのを阻止して外国に追い払う口実でしょう!!」

「だってお兄様は……前の王太子殿下は、子どもの頃から勉強熱心でデキる方だったもの(あなたと違って)」

「最後何か言った!?」

「いえ? でも、結局国内で学べることには限界があったとお兄様はおっしゃってたわ。
 聖地は大陸の学問の最先端だし、各国の王族も高位貴族も集うから、人脈だってできる。まぁ、他の国の大学でもいいけど……。
 あなた国外の王族に知り合いいる?
 というか、そもそも何かまともに話せる外国語ある?」

「わ、私はもう成人しているわ! 大人よ!
 本当ならもっと前に私が王になっていたはずだったのよ。
 早く結婚して跡継ぎを産まねばいけないのに、何年も大学に使う時間なんてないわ」


 ────私は宰相の方を見た。
 早くメアリーを王位に就けて、結婚させて跡継ぎを産ませろ……というのは、宰相がここしばらく私に主張してきたことだった。

 ……王配の最有力候補として、自分の息子を提案しながら。

『失礼ながら……猊下はすでに35歳でいらっしゃいますし』

 聖職者として、結婚しない子どもも産まない道を自ら選んだ私を、どこかうっすら小馬鹿にするように話してきて、不快感を覚えたものだ。


「そうだそうだ!!
 王位に就くのを邪魔しようというのは、若くお美しいメアリー殿下への嫉妬だろう!」

「光輝くメアリー殿下こそ、いま最も女王にも聖女にもふさわしいのだ!!」

「女王ならばともかく、35歳の年増聖女など……(笑)」


 同調する男たちの罵声。
 メアリーは私を指差し、こう宣言する。


「15年間私の代わりを務めてくれた功績を認めて、命は奪わないであげる。
 明日から私が女王と聖女を兼任するわ。
 あなたは国外追放よ」


     ***


「………………育て方、間違えたのかしら」


 ────追放刑の当日。
 トランクひとつの荷物を抱え、とぼとぼと1人国境に向けて荒野の道を歩きながら、私は深くため息をついた。


 私ことルイーズ・バルキリー・ディアナ・ヨランディア35歳はこの国、ヨランディア王国の前国王と2番目の王妃の間に生まれた。

 南国の王女だった母に似た、琥珀色こはくいろの肌と栗色の髪、ヘーゼルの瞳の持ち主である私は、これも母に似て、生まれつき飛び抜けて強い魔力を持っていた。


『おまえの素晴らしい魔力は神から与えられたものだ。ぜひ、この国を聖職者として支えて欲しい』


 そう父に望まれ、私自身も政略結婚などで国を出ていってしまうよりは、自分の力で愛着ある国を支えたいと思った。

 ただヨランディア王国では、修道女シスターはいても女性聖職者の前例はなかった。
 そのため父の勧めで、16歳のときに聖地にある大陸最高峰の大学に入学した。
 父も若い頃学んだこの大学には、各国の王族が集う。
 私も毎日朝から晩まで懸命に勉強した。

 ところが卒業直前の20歳の春。
 両親と兄がともに事故で亡くなり、私は、急いで帰国した。
 大事な人を3人一度に失い、悲しみのどん底だったけど、悲しむ暇もなく、私は大きな問題に直面する。

 ヨランディア王国の高位貴族令嬢だった最初の王妃(故人)を母に持ち、本人も公爵令嬢と結婚していた兄には、当時2歳になる娘メアリーがいた。
 本来なら王と王太子が亡くなればその子が王位に……ということになる。
 が、さすがに2歳の子を王位につけるわけにはいかない、というのが重臣たちの大半の意見。
 一方、メアリーの母(前王太子妃)とその実家である公爵家は、年齢など関係なくメアリーを王位につけるべきだと主張した。

 結果、折衷案として、聖職者になるべく勉強中かつ生まれつき強い魔力を持つ私が、“王”ではなく、他国にならって祭祀を司る“聖女”という地位につき、実質的には祭祀と政務を両方こなして、メアリーが王位に就くまでヨランディア王国を統治する、ということになったのだ。

 政教両方に関わってきたこの15年間、死ぬほど忙しかった。
 だけど、次期国王となるべきメアリーの教育もがんばったつもりだ。

 育児、という面では前王太子妃(が選んだ養育係)に任せざるを得なかったけど、メアリーが王としてやっていけるよう最高の教育係をそろえ、こまめに本人とも面談して教育を進めてきた。

 ただ、まだ17歳と若い。
 実力もまだまだだし、それ以上に前王太子妃とその実家とべったりすぎて……。
 私の目からみると、今のメアリーが王位に就くのはかなり不安がある。

 王として十分な素養をつけてもらいたい。そう思って、私の母校であり各国の王位継承者・王族が集う、聖地の大学への進学を勧めたのだけど……。


(……それで、逆に私を追放って……)


 ただ、賢い王になってほしかった。娘を利用して実権を握ろうとする身内にも操られず、しっかりと国を治められる王に。
 私が望んだのはそれだけだったのに。
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