1 / 36
1、聖女、王女に追放される
しおりを挟む「────“聖女”ルイーズ!
女王となるべきメアリー王女殿下を国外に追いやろうとした罪、万死に値する!」
……王城の執務室で政務中だった。
突然、兵に取り囲まれ、わけもわからないまま執務室から引き出されると、険しい表情の宰相からそう宣告され、状況がつかめずポカンとする。
居並ぶ重臣たちが私に冷たい視線を注ぐ。
つい昨日まで私を『猊下』と呼んでかしずいていた者たちが、クーデターを起こした?
奥に、姪の姿を見つけた。
私が大好きだった亡き兄王子に良く似た、光輝く金髪に抜けるように白い肌の、美貌の17歳の少女が。
「メアリー! ……いったいどういうことなの!?」
彼女は怒りをこめて私を睨みつける。
「殿下と呼びなさい、逆賊が。
自分の胸に手を当ててよく考えてみるのね」
「『今のあなたじゃ実力不足。王位に就くなら聖地の大学に行ったら』そう言ったわ。
でもそれを追い出そうとしていると解釈されるのは心外よ。
15年もこの地位にいたのよ、私。
追い出すつもりならとっくに私が王になっているわ」
「お父様は大学になど行っていなかったわ。
宰相たちの言うとおり、私が王位に就くのを阻止して外国に追い払う口実でしょう!!」
「だってお兄様は……前の王太子殿下は、子どもの頃から勉強熱心でデキる方だったもの(あなたと違って)」
「最後何か言った!?」
「いえ? でも、結局国内で学べることには限界があったとお兄様はおっしゃってたわ。
聖地は大陸の学問の最先端だし、各国の王族も高位貴族も集うから、人脈だってできる。まぁ、他の国の大学でもいいけど……。
あなた国外の王族に知り合いいる?
というか、そもそも何かまともに話せる外国語ある?」
「わ、私はもう成人しているわ! 大人よ!
本当ならもっと前に私が王になっていたはずだったのよ。
早く結婚して跡継ぎを産まねばいけないのに、何年も大学に使う時間なんてないわ」
────私は宰相の方を見た。
早くメアリーを王位に就けて、結婚させて跡継ぎを産ませろ……というのは、宰相がここしばらく私に主張してきたことだった。
……王配の最有力候補として、自分の息子を提案しながら。
『失礼ながら……猊下はすでに35歳でいらっしゃいますし』
聖職者として、結婚しない子どもも産まない道を自ら選んだ私を、どこかうっすら小馬鹿にするように話してきて、不快感を覚えたものだ。
「そうだそうだ!!
王位に就くのを邪魔しようというのは、若くお美しいメアリー殿下への嫉妬だろう!」
「光輝くメアリー殿下こそ、いま最も女王にも聖女にもふさわしいのだ!!」
「女王ならばともかく、35歳の年増聖女など……(笑)」
同調する男たちの罵声。
メアリーは私を指差し、こう宣言する。
「15年間私の代わりを務めてくれた功績を認めて、命は奪わないであげる。
明日から私が女王と聖女を兼任するわ。
あなたは国外追放よ」
***
「………………育て方、間違えたのかしら」
────追放刑の当日。
トランクひとつの荷物を抱え、とぼとぼと1人国境に向けて荒野の道を歩きながら、私は深くため息をついた。
私ことルイーズ・バルキリー・ディアナ・ヨランディア35歳はこの国、ヨランディア王国の前国王と2番目の王妃の間に生まれた。
南国の王女だった母に似た、琥珀色の肌と栗色の髪、ヘーゼルの瞳の持ち主である私は、これも母に似て、生まれつき飛び抜けて強い魔力を持っていた。
『おまえの素晴らしい魔力は神から与えられたものだ。ぜひ、この国を聖職者として支えて欲しい』
そう父に望まれ、私自身も政略結婚などで国を出ていってしまうよりは、自分の力で愛着ある国を支えたいと思った。
ただヨランディア王国では、修道女はいても女性聖職者の前例はなかった。
そのため父の勧めで、16歳のときに聖地にある大陸最高峰の大学に入学した。
父も若い頃学んだこの大学には、各国の王族が集う。
私も毎日朝から晩まで懸命に勉強した。
ところが卒業直前の20歳の春。
両親と兄がともに事故で亡くなり、私は、急いで帰国した。
大事な人を3人一度に失い、悲しみのどん底だったけど、悲しむ暇もなく、私は大きな問題に直面する。
ヨランディア王国の高位貴族令嬢だった最初の王妃(故人)を母に持ち、本人も公爵令嬢と結婚していた兄には、当時2歳になる娘メアリーがいた。
本来なら王と王太子が亡くなればその子が王位に……ということになる。
が、さすがに2歳の子を王位につけるわけにはいかない、というのが重臣たちの大半の意見。
一方、メアリーの母(前王太子妃)とその実家である公爵家は、年齢など関係なくメアリーを王位につけるべきだと主張した。
結果、折衷案として、聖職者になるべく勉強中かつ生まれつき強い魔力を持つ私が、“王”ではなく、他国にならって祭祀を司る“聖女”という地位につき、実質的には祭祀と政務を両方こなして、メアリーが王位に就くまでヨランディア王国を統治する、ということになったのだ。
政教両方に関わってきたこの15年間、死ぬほど忙しかった。
だけど、次期国王となるべきメアリーの教育もがんばったつもりだ。
育児、という面では前王太子妃(が選んだ養育係)に任せざるを得なかったけど、メアリーが王としてやっていけるよう最高の教育係をそろえ、こまめに本人とも面談して教育を進めてきた。
ただ、まだ17歳と若い。
実力もまだまだだし、それ以上に前王太子妃とその実家とべったりすぎて……。
私の目からみると、今のメアリーが王位に就くのはかなり不安がある。
王として十分な素養をつけてもらいたい。そう思って、私の母校であり各国の王位継承者・王族が集う、聖地の大学への進学を勧めたのだけど……。
(……それで、逆に私を追放って……)
ただ、賢い王になってほしかった。娘を利用して実権を握ろうとする身内にも操られず、しっかりと国を治められる王に。
私が望んだのはそれだけだったのに。
3
お気に入りに追加
636
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる