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59、第3王女は宣告する【ウィルヘルミナ視点】
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「なによ、それ……王女の私が、なんで罪に問われなきゃいけないのよ」
「悪いことしたからよ」
「何も悪いことしてないわ!!」
「度重なるドレスの予算超過、これについては王妃陛下の口利きで結局事後承認になっていたから、一応対象外としましょう。
だけど今回、ダンテス兄様がきちんと監査を入れたら、それでもイルネア姉様の持つ衣装や宝石類の金額と合わないのよ」
イルネア姉様の衣装関連への監査は以前から言われていたことだけど、ずっと王妃が止めていた。
おそらくそこに監査が入れば、自分側にも飛び火するのが目に見えていたからだろう。
────それを、王妃の出発後すぐにダンテス兄様が監査を入れ、皆驚いた。
王妃とダンテス兄様はべったりで、絶対に兄様は王妃に対して不利益なことはしないと思われていたからだ。
兄様の本心はそうじゃないことを私は知っていたけれど……王妃の帰国後、どうなるのかは正直恐い。
それはともかく。
「まず、姉様の関係する公務から、だいぶお金が流れていたみたいね。
水増し計上も相当酷かった」
「そんなの!
自分のドレスにいくらかかってるかなんて王女が把握する必要あるの!?
周りがお金を用意したんだから、勝手にやった周りのせいでしょ!!」
「お金は上の人間こそ把握するものよ……?
それに、どんな手を使っても用意しろ、って言ったのはあなただという証言もとれている。
加えて、イルネア姉様の産みの母君の実家の手引きで、かなり多くの貴族から高価な品を贈られてるそうね。そのかわりにそれらの貴族に便宜を図ってる」
「便宜を図るって何?」
「……相手にとって利益になるようなことや、特別な計らいをすることよ」
「え? 宝石やお金をくれたのだから、それはお礼ぐらいはするわよ?」
「それを収賄って言うのよ……」
「知らないし、それの何が悪いの?」
「収賄のうえ便宜を図るっていうのはね、王家の権威、国民が納めたお金、王政を動かす人々の労力……国全体のためのものであってあなたの所有物でもなんでもないものを、一部の人のために使ってしまうということよ。
構図がちょっと複雑に見えるだけで、やってることは泥棒と変わらないわ」
「知らない知らない知らない!!
そんなの教わってないし、誰も言ってくれなかったし、私は悪くないわ!!」
「悪いのよ」
私はそこで切った。
たぶんこれ以上対話しても今の彼女に届く言葉はない。
「私はあくまで兄様の代理でつたえているのよ。
横領と収賄だけじゃないわ。
多くの貴族や領主から、あなたのもとに侍女として上げた娘たちへの暴力暴言に対して、強い抗議があがっているの。
中にはトラウマで家から出られなくなった女性、婚約が破談になった女性もいるわ」
「そんなの、精神的に弱いのが悪いのよ……それに男爵とか貧乏領主とかの娘でしょ?」
「貴族たちの過半数の承認を得て、ダンテス兄様が正式に決定したわ。
第2王女イルネア。あなたの王族籍を剥奪の上、裁判まで引き続き収監します」
「は!!?? まって、なにそれっ」
「今日の日付をもって、あなたは王女ではなくなります。裁判を受けられることには感謝するのね」
「なんでっ!? なんでよっ!??」
「あなたが悪いことをしたからよ」
イルネア姉様────改め、元王女イルネアは私に掴みかかろうとして、部屋に待機させていた兵士に止められた。
「離しなさいっ!! 私を誰だと思ってるのっ!?」
「大丈夫よ、誰でもないわ。手はず通り、特別牢に連れていって」
「嫌よ、せっかく出られたのに、また牢だなんてっ!!
せめて、服をっ、化粧品を、私の宝石をっ」
「国庫のお金で買ったものでしょう? いったんすべて差し押さえよ。適正に監査が入って適宜処分されるわ」
「やめてよ!! 泥棒!! ぜんぶ、わたしの……」
兵士たちに両腕を拘束され、引きずられるように姉様は連行されていった。
それを見つめるエルミナの顔に、いつもの馬鹿にしたような笑みはない。むしろ顔はひきつり、やや青ざめている。
少なくとも、エルミナはわかっているようだ。
次は自分だということが。
「あのう……おねえさま??」
「収賄はあなたの方がひどかったでしょう。あなたは悪事だと自覚してるわよね、エルミナ」
「あ、あのっ!? 王都に撒かれた新聞の記事、あれは私が指示したものじゃなくて……」
「……何者かにすり替えられたんでしょう?」
「そ、そう!! そうなんですわっ」
「で、元の内容は?」
「……………………」
これまでもエルミナは記事がすり替えられたと主張してきた。
その内容はダンテス兄様の出生のみ暴露するというものだったという。
嘘をついていたのは王家であって、新聞で暴露されたのは真実だから、私はこれを以ってエルミナを重罪に問うのは違うのじゃないかと兄様に意見したけれど……彼は首を横に振った。
「少なくとも収賄の件、それから内部情報の漏洩と、これまでの虚偽の新聞記事掲載、そして今回の新聞記事が王家の危機を呼んでいる点。
あなたもまた王族籍の剥奪、財産類の一時的差し押さえと監査、そして裁判までの収監となるわ」
エルミナは舌打ちしてにらんだ。
「だったらなんで、牢から出して希望を持たせたのよ……」
「あのまま不衛生な状態で長くおいたら、裁判までに病気で死ぬかもしれないから、という国王代行の判断です」
「ふざけないでよ……!!」
エルミナの両腕も、兵士に拘束される。悔しげにこちらを睨み付けるエルミナ。
「あ、それから……」
「何よっ!?」
「あなたの例にならうということで、裁判終了後、イルネアとエルミナの今回の一連の顛末については、一度大々的に発表することになるわ」
「はぁぁぁ!?」
エルミナは裏返った声で叫ぶ。
「な、なんでよ、それっ!! やめてよ!!
せっかく一生懸命つくった私の可愛い王女としてのイメージがっ!! 壊れるじゃないっ!!」
「……王女として何をなすかより、イメージが大切だったの?」
「やめて!! お願い、お願いだからっ……!! それだけはやめてっ……せめて悲劇の王女として……」
本気で死ぬほど嫌がりながら、エルミナもまた引きずられるように連行されていった。
……嫌な役目は終わった。
どっちも大嫌いな姉妹だったけど、それでも今日から姉妹じゃなくなるのだと思うと複雑だ。
(それにしても、兄様……)
王妃がいなくなったとたん、大きく動いた。
王妃が帰ってきたら……反旗を翻すつもりなのだろうか?
(……殺されないかしら?)
正直、王妃の魔力は未知数だ。アルヴィナ姉様でさえ勝てなかった。
王妃はダンテス兄様を愛している分、裏切りは絶対に許さないだろう……。
これから先、いったい何が起こるんだろう?
◇ ◇ ◇
「悪いことしたからよ」
「何も悪いことしてないわ!!」
「度重なるドレスの予算超過、これについては王妃陛下の口利きで結局事後承認になっていたから、一応対象外としましょう。
だけど今回、ダンテス兄様がきちんと監査を入れたら、それでもイルネア姉様の持つ衣装や宝石類の金額と合わないのよ」
イルネア姉様の衣装関連への監査は以前から言われていたことだけど、ずっと王妃が止めていた。
おそらくそこに監査が入れば、自分側にも飛び火するのが目に見えていたからだろう。
────それを、王妃の出発後すぐにダンテス兄様が監査を入れ、皆驚いた。
王妃とダンテス兄様はべったりで、絶対に兄様は王妃に対して不利益なことはしないと思われていたからだ。
兄様の本心はそうじゃないことを私は知っていたけれど……王妃の帰国後、どうなるのかは正直恐い。
それはともかく。
「まず、姉様の関係する公務から、だいぶお金が流れていたみたいね。
水増し計上も相当酷かった」
「そんなの!
自分のドレスにいくらかかってるかなんて王女が把握する必要あるの!?
周りがお金を用意したんだから、勝手にやった周りのせいでしょ!!」
「お金は上の人間こそ把握するものよ……?
それに、どんな手を使っても用意しろ、って言ったのはあなただという証言もとれている。
加えて、イルネア姉様の産みの母君の実家の手引きで、かなり多くの貴族から高価な品を贈られてるそうね。そのかわりにそれらの貴族に便宜を図ってる」
「便宜を図るって何?」
「……相手にとって利益になるようなことや、特別な計らいをすることよ」
「え? 宝石やお金をくれたのだから、それはお礼ぐらいはするわよ?」
「それを収賄って言うのよ……」
「知らないし、それの何が悪いの?」
「収賄のうえ便宜を図るっていうのはね、王家の権威、国民が納めたお金、王政を動かす人々の労力……国全体のためのものであってあなたの所有物でもなんでもないものを、一部の人のために使ってしまうということよ。
構図がちょっと複雑に見えるだけで、やってることは泥棒と変わらないわ」
「知らない知らない知らない!!
そんなの教わってないし、誰も言ってくれなかったし、私は悪くないわ!!」
「悪いのよ」
私はそこで切った。
たぶんこれ以上対話しても今の彼女に届く言葉はない。
「私はあくまで兄様の代理でつたえているのよ。
横領と収賄だけじゃないわ。
多くの貴族や領主から、あなたのもとに侍女として上げた娘たちへの暴力暴言に対して、強い抗議があがっているの。
中にはトラウマで家から出られなくなった女性、婚約が破談になった女性もいるわ」
「そんなの、精神的に弱いのが悪いのよ……それに男爵とか貧乏領主とかの娘でしょ?」
「貴族たちの過半数の承認を得て、ダンテス兄様が正式に決定したわ。
第2王女イルネア。あなたの王族籍を剥奪の上、裁判まで引き続き収監します」
「は!!?? まって、なにそれっ」
「今日の日付をもって、あなたは王女ではなくなります。裁判を受けられることには感謝するのね」
「なんでっ!? なんでよっ!??」
「あなたが悪いことをしたからよ」
イルネア姉様────改め、元王女イルネアは私に掴みかかろうとして、部屋に待機させていた兵士に止められた。
「離しなさいっ!! 私を誰だと思ってるのっ!?」
「大丈夫よ、誰でもないわ。手はず通り、特別牢に連れていって」
「嫌よ、せっかく出られたのに、また牢だなんてっ!!
せめて、服をっ、化粧品を、私の宝石をっ」
「国庫のお金で買ったものでしょう? いったんすべて差し押さえよ。適正に監査が入って適宜処分されるわ」
「やめてよ!! 泥棒!! ぜんぶ、わたしの……」
兵士たちに両腕を拘束され、引きずられるように姉様は連行されていった。
それを見つめるエルミナの顔に、いつもの馬鹿にしたような笑みはない。むしろ顔はひきつり、やや青ざめている。
少なくとも、エルミナはわかっているようだ。
次は自分だということが。
「あのう……おねえさま??」
「収賄はあなたの方がひどかったでしょう。あなたは悪事だと自覚してるわよね、エルミナ」
「あ、あのっ!? 王都に撒かれた新聞の記事、あれは私が指示したものじゃなくて……」
「……何者かにすり替えられたんでしょう?」
「そ、そう!! そうなんですわっ」
「で、元の内容は?」
「……………………」
これまでもエルミナは記事がすり替えられたと主張してきた。
その内容はダンテス兄様の出生のみ暴露するというものだったという。
嘘をついていたのは王家であって、新聞で暴露されたのは真実だから、私はこれを以ってエルミナを重罪に問うのは違うのじゃないかと兄様に意見したけれど……彼は首を横に振った。
「少なくとも収賄の件、それから内部情報の漏洩と、これまでの虚偽の新聞記事掲載、そして今回の新聞記事が王家の危機を呼んでいる点。
あなたもまた王族籍の剥奪、財産類の一時的差し押さえと監査、そして裁判までの収監となるわ」
エルミナは舌打ちしてにらんだ。
「だったらなんで、牢から出して希望を持たせたのよ……」
「あのまま不衛生な状態で長くおいたら、裁判までに病気で死ぬかもしれないから、という国王代行の判断です」
「ふざけないでよ……!!」
エルミナの両腕も、兵士に拘束される。悔しげにこちらを睨み付けるエルミナ。
「あ、それから……」
「何よっ!?」
「あなたの例にならうということで、裁判終了後、イルネアとエルミナの今回の一連の顛末については、一度大々的に発表することになるわ」
「はぁぁぁ!?」
エルミナは裏返った声で叫ぶ。
「な、なんでよ、それっ!! やめてよ!!
せっかく一生懸命つくった私の可愛い王女としてのイメージがっ!! 壊れるじゃないっ!!」
「……王女として何をなすかより、イメージが大切だったの?」
「やめて!! お願い、お願いだからっ……!! それだけはやめてっ……せめて悲劇の王女として……」
本気で死ぬほど嫌がりながら、エルミナもまた引きずられるように連行されていった。
……嫌な役目は終わった。
どっちも大嫌いな姉妹だったけど、それでも今日から姉妹じゃなくなるのだと思うと複雑だ。
(それにしても、兄様……)
王妃がいなくなったとたん、大きく動いた。
王妃が帰ってきたら……反旗を翻すつもりなのだろうか?
(……殺されないかしら?)
正直、王妃の魔力は未知数だ。アルヴィナ姉様でさえ勝てなかった。
王妃はダンテス兄様を愛している分、裏切りは絶対に許さないだろう……。
これから先、いったい何が起こるんだろう?
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