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12、王女は命を狙われる
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◇ ◇ ◇
「────街並みが美しいですね」
汽車がベネディクト王国内に入ると、思わずため息が出た。
街の作り方が洗練されている。
建築技術も高い。
遠目に見ても衛生的だ。
流れている川も治水工事をきちんとされていて、水も綺麗……。
「伝染病なんか少ないんでしょうね……」という感想を思わず漏らしてしまった。
「いえ。4、5年に一度ぐらいは流行ります」
「……その頻度がうらやましいです」
しょっちゅう伝染病対策で息つく間もなかった時のことを思い出すと、思わずひきつり笑いが出る。
(…………ここがベネディクト王国。
イーリアス様の生まれ育った国)
どんな国なんだろう。知りたい。
汽車は夕刻、終着駅に着いた。
「ここからまた馬車でまる2日移動すれば王都です。
荷物を下ろして支度をしている間に、蒸気機関車をお見せしましょう」
「は、はい! ではっ」
「あ、お待ちください殿下!!
私が先に……!」
(やっと謎のジョウキキカンが見られる!)
これだけ多くの車両をあれだけのスピードで牽いていたのは、どんな機械なんだろう?
私は、イーリアス様に先んじて、勇んで汽車を降りた。
──────その時。
私の前に大きな影のようなものがかかった。
と、思ったら!?
─────ズガガガガガガッ!!!
轟音が連続して響いて私は思わず耳を覆った。
私をすっぽり覆うように、大きな楯を持った人が立っている。
……背が高くて軍装、だけど若い女性だ。
私より少し年上ぐらいだろうか?
地面に転がる金属片が目に入る。
これは、撃たれた後の弾丸?
ということはさっきのは銃声。
狙われたのは私だ。
「〈身体強化〉」
楯を持つ女性の光る手が、私の身体に何か魔法をかけた。
(!!)
車両から手を掴まれ中に引き込まれた。
イーリアス様だ。
私に低く覆い被さりながらドアを閉める。
「ライオット!!」
「2時の方向狙撃者2名、10時の方向3名!!
これより確保いたします!」
イーリアス様が私の頭上で叫び、外で答える女性の声。
「……お怪我はありませんか!?
殿下!!」
(─────!!)
緊急事態と、突然発生したイーリアス様の接触。
床にへたり込みながら、身体がガチガチに固まる。
落ち着いて、呼吸を整えなきゃ。
「……い、いえ。
申し訳ありません。
私が先んじて出てしまったので狙われたのですね」
あれだけ徹底して私の身体に触れなかったイーリアス様が、抱きすくめるようにぴったりと覆い被さっていることが、いまの事態の深刻さを物語っている。
「こちらの警護の不手際です。
危険な目に遭わせて、申し訳ない。
どうぞ身を低くしてお待ちください」
いつも変わらないイーリアス様の顔が、私にも変化がわかるぐらい険しくなっていた。
激しい狙撃が続いている。
イーリアス様の肩越しに、車両の外に恐る恐る目をやる……。
楯の人は、嘘のように姿を消していた。
(……あの女性は?)
狙撃手を確保すると言っていたけれど、いつの間に移動したの?
危険はないのかしら?
考えているうちに、狙撃は止んだ。
捕まえたの?
弾丸が尽きたの?
状況はまだわからない。
……と……車両の外で、衛兵の間を突っ切って2人の男性が、農具らしいものを振り上げてこちらに走ってくるのが見えた。
通気孔からか声が聞こえる。
「トリニアスの犬畜生めが!!!」
「ゼルハン島で息子を殺された恨み!!! 死をもって償え!!」
(────!!)
あの人たち、農具でガラスを割って侵入しようというの?
イーリアス様の服を握る手に力が入った、その時。
車両の上から?ロングスカートの女性が2人の前に飛び降りる。
両手に持った鎖つきの武器を見えないほど速く振るい、あっという間に2人とも倒してしまった。
(え、なに!? 見えなかった??)
汗ひとつかいた様子なく、重量感のある金属棒と長い鎖でできた武器を手に提げてこちらを振り返った女性の顔には、見覚えがある。
「カサンドラ様っ!?」
ガラス窓越しに見えた、黒髪に褐色肌のその美人の名を、私は顔を上げてつい呼んだ。
────ほぼ同時に、同じ車両のなかで崩れるような派手な大きな物音がした。
……いつの間にか後方車両から侵入して来た男性たち。
その1人が、ついさっきまで私に覆い被さって守っていたはずのイーリアス様に殴り飛ばされて壁に背をぶつけた音だった。
(……人って拳で飛ぶんだ)と変な感想を抱いている間に、あと2人がイーリアス様に殴り倒されていった。
◇ ◇ ◇
「────街並みが美しいですね」
汽車がベネディクト王国内に入ると、思わずため息が出た。
街の作り方が洗練されている。
建築技術も高い。
遠目に見ても衛生的だ。
流れている川も治水工事をきちんとされていて、水も綺麗……。
「伝染病なんか少ないんでしょうね……」という感想を思わず漏らしてしまった。
「いえ。4、5年に一度ぐらいは流行ります」
「……その頻度がうらやましいです」
しょっちゅう伝染病対策で息つく間もなかった時のことを思い出すと、思わずひきつり笑いが出る。
(…………ここがベネディクト王国。
イーリアス様の生まれ育った国)
どんな国なんだろう。知りたい。
汽車は夕刻、終着駅に着いた。
「ここからまた馬車でまる2日移動すれば王都です。
荷物を下ろして支度をしている間に、蒸気機関車をお見せしましょう」
「は、はい! ではっ」
「あ、お待ちください殿下!!
私が先に……!」
(やっと謎のジョウキキカンが見られる!)
これだけ多くの車両をあれだけのスピードで牽いていたのは、どんな機械なんだろう?
私は、イーリアス様に先んじて、勇んで汽車を降りた。
──────その時。
私の前に大きな影のようなものがかかった。
と、思ったら!?
─────ズガガガガガガッ!!!
轟音が連続して響いて私は思わず耳を覆った。
私をすっぽり覆うように、大きな楯を持った人が立っている。
……背が高くて軍装、だけど若い女性だ。
私より少し年上ぐらいだろうか?
地面に転がる金属片が目に入る。
これは、撃たれた後の弾丸?
ということはさっきのは銃声。
狙われたのは私だ。
「〈身体強化〉」
楯を持つ女性の光る手が、私の身体に何か魔法をかけた。
(!!)
車両から手を掴まれ中に引き込まれた。
イーリアス様だ。
私に低く覆い被さりながらドアを閉める。
「ライオット!!」
「2時の方向狙撃者2名、10時の方向3名!!
これより確保いたします!」
イーリアス様が私の頭上で叫び、外で答える女性の声。
「……お怪我はありませんか!?
殿下!!」
(─────!!)
緊急事態と、突然発生したイーリアス様の接触。
床にへたり込みながら、身体がガチガチに固まる。
落ち着いて、呼吸を整えなきゃ。
「……い、いえ。
申し訳ありません。
私が先んじて出てしまったので狙われたのですね」
あれだけ徹底して私の身体に触れなかったイーリアス様が、抱きすくめるようにぴったりと覆い被さっていることが、いまの事態の深刻さを物語っている。
「こちらの警護の不手際です。
危険な目に遭わせて、申し訳ない。
どうぞ身を低くしてお待ちください」
いつも変わらないイーリアス様の顔が、私にも変化がわかるぐらい険しくなっていた。
激しい狙撃が続いている。
イーリアス様の肩越しに、車両の外に恐る恐る目をやる……。
楯の人は、嘘のように姿を消していた。
(……あの女性は?)
狙撃手を確保すると言っていたけれど、いつの間に移動したの?
危険はないのかしら?
考えているうちに、狙撃は止んだ。
捕まえたの?
弾丸が尽きたの?
状況はまだわからない。
……と……車両の外で、衛兵の間を突っ切って2人の男性が、農具らしいものを振り上げてこちらに走ってくるのが見えた。
通気孔からか声が聞こえる。
「トリニアスの犬畜生めが!!!」
「ゼルハン島で息子を殺された恨み!!! 死をもって償え!!」
(────!!)
あの人たち、農具でガラスを割って侵入しようというの?
イーリアス様の服を握る手に力が入った、その時。
車両の上から?ロングスカートの女性が2人の前に飛び降りる。
両手に持った鎖つきの武器を見えないほど速く振るい、あっという間に2人とも倒してしまった。
(え、なに!? 見えなかった??)
汗ひとつかいた様子なく、重量感のある金属棒と長い鎖でできた武器を手に提げてこちらを振り返った女性の顔には、見覚えがある。
「カサンドラ様っ!?」
ガラス窓越しに見えた、黒髪に褐色肌のその美人の名を、私は顔を上げてつい呼んだ。
────ほぼ同時に、同じ車両のなかで崩れるような派手な大きな物音がした。
……いつの間にか後方車両から侵入して来た男性たち。
その1人が、ついさっきまで私に覆い被さって守っていたはずのイーリアス様に殴り飛ばされて壁に背をぶつけた音だった。
(……人って拳で飛ぶんだ)と変な感想を抱いている間に、あと2人がイーリアス様に殴り倒されていった。
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