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番外編 奮闘を強いられている <フィリップ目線>

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お姉さまが婚約破棄されたらしい。アンソニー王子もバカな奴だ。お姉さまほど美しく、聡明で、優しくて、素晴らしい人はいないのに。

ここは僕の出番だな。
思わず悪い笑みがこぼれる。

もちろん、お姉さまが傷つけられたことには怒りを感じるし、お姉さまの将来を考えると王家を滅ぼしてやりたいくらいの気持ちは湧いてくる。

でもね、僕がお姉さまのそばにずっといます。アリス、好きだよ。うう、言えない。

あと、8年くらい待ってくれたら……。堂々とお姉さまに結婚を申し込めるのに。8年は長い?
お姉さまが究極魔法の修行や本を読んでいたら、きっとすぐだよ。僕、急いで大人になるからね。

魔法薬の実験も順調。
ラッセル領のクスリの備蓄も完璧だ。余った分は、いつも通り王都に売ればいいかな。
自分用の帳簿を持ち出し、確認する。

大丈夫、僕の薬で順調に黒字だ。
お父様に内緒で、お姉さまに好きな本を買って差し上げることも、壊してしまった家具も直してあげられるくらい余裕である。ここの領地経営の勉強も完璧だ。

扉の外に大きな魔力を感じた。
ああ、マカミだ。
「マカミ、入ってもいいよ」
ここは実験をするところなので、他の人の立ち入りは禁止してあるのだ。マカミはヒトの言葉もわかるので、滅多なことでは違反したりしない。来るとしたら、すべてお姉さまのためだ。

マカミはゆっくりと僕に近づいた。
マカミのふわふわの毛がすぐそこにある。
「ねえ、撫でていい?」

お姉さまの守護神だから、一応聞く。断られたことはほとんどないけどね。嫌がられたのは、昔、マカミの白い毛をベリーやいちごで染めてみようとした時くらいだ。いやあ、純粋な興味からだけど、ごめんよ。

マカミとその件に関してはすでに和解済み。
今は、お姉さまを守る同盟で固い友情が結ばれている。

「君が来てくれたのは、お姉さまの婚約破棄の件だね」
「ワフ!」
マカミが首を縦に振る。

「心配だよね……。でも大丈夫。僕がお姉さまと結婚するから」
フィリップはマカミの両手を持ってにぎにぎする。ようやくチャンスが回ってきたのだ。絶対8年後に結婚だ!

あいかわらず、マカミの肉球はぷにぷにして気持ちがいい。うっとりしながら、僕はマカミに説明する。

「これからお姉さまは少し悲しい期間があると思う。なるべく僕はそばにいてあげるつもり。婚約破棄されたせいで、お姉さまにはきっと男の人があまり寄ってこなくなるはずだ。少なくともしばらくの間は……」
マカミはうんうんとうなずいた。

「その間に、僕は今よりももっと勉強して、背もお姉さまより高くなって、お姉さまを守ろうと思う」
マカミは大きく同意したようで……、「ワフウ!」と吠えた。

「僕の味方になってくれるのかい? うれしいよ。お父様とお母様にいつ言おうかな。アリスお姉さまと、僕は結婚したいって。やっぱり、少しお姉さまが落ち着いてきてからがいいよね?」
フィリップはにやりと微笑んだ。

*
なんでこんなことになったんだろう。
お姉さまを助けにお父様とお母様と一緒にヘカサアイ王国に乗り込んだのだけど……。

なんで、元婚約者のアンソニー王子がいるんだ?
どうして、タウルス様がいて、お姉さまがヘカサアイ王国の赤の王子に口説かれているんだろう。
おかしいよね?
僕にとって悪いフラグでしかない。

さすが、僕のアリス……、お姉さま。

僕のライバルは、みんな王子なのか! どうしてこうなった?
マカミをちらっと見ると、マカミも苦笑しているように見えた。

はああ。僕が大人になるまで、アリスお姉さまが独身でいるってことはあり得なさそうだ。
心に寒い風が吹く。

ああ、こんなヘカサアイ王国なんて消し飛んでしまえばいい。

クイクイ。
僕の服を引っ張るのは誰?
失恋した自分を慰めるのをやめて、下を見る。
小さい女の子だ。
大きな目で僕をじっと見つめている。

誰? 知らないんだけど。可愛い子だなとは思うけど。お姉さまとは違うかわいらしさだけどね。

「綺麗……。天使様みたい。好き」
え? なになに? なんて言った?
驚いて、僕はガン見する。
ふふふと笑いながら、女の子はさらに小さくつぶやいた。

「わたし、あなたと結婚するわ。ダメ?」
はあ? んんん? これって、プロポーズ?

女の子は微笑んだ。意志の強いはっきりとした笑み……。まさか、僕、今モテているってこと? みんなの前で口説かれて、顔が思わず赤くなる。

君は、ヘカサアイ王国の小さな姫君か!
赤の王子が憤怒しているぞ。

僕は天使の微笑みを浮かべ、お姉さまの顔を見るけど……。
お姉さまは、ぜんぜん僕に嫉妬する様子もない。残念ながら、今はお姉さまに男としてみてもらえてないらしい。なんだかがっくりだ。

仕方ない。僕はまだ10歳なんだから。
お姉さまが仮に誰かと婚約しても、結婚するまで、時間がかかるだろうし、そいつと結婚しても家庭がうまくいくとは限らない。僕はその間に大きくなればいい。

お姉さまがそいつにちょっと不安になったり、不満になったら、僕がすぐ幸せにしてあげる。

さてさて。ここは、少しでもお父様やお母様、お姉さまの役に立つように、大人になって振る舞うしかないかな。

僕は少しかがんで、小さな姫君の手をとって、手に軽くキスするふりをした。
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