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王子と私。それから、王と王妃と、愛人と…… 2
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「アリス……、会えてうれしいよ」
王子は私の姿を見るなり、抱きしめます。
私もうれしいですけど。でも、王様も王妃様もいらっしゃるのに、なんてことするんですか! ちょっと、離れてくださいって。
私の声の出ない悲鳴……。
でも、王子の体温が伝わってきて、なんとなくほっとする自分がいます。
ええと、婚約破棄は無効だから、婚約継続中ってことだから、大丈夫よね。不敬とか不義理とか、なんか悪いのには、当たらないよね。
私の心配をよそに、王妃はやさしそうに微笑んでいます。
「思いを通じ合わせてる恋人を引き裂くなんて言語道断。あなたは父親なんですか」
王妃は冷たく王を見つめます。
ええと、まさか。ここは修羅場ですか。ちらりと王子をみると、「うん」とうなずきます。
「……。カトリーヌと王子が結ばれれば、ハトラウス王国のためになると……」
王はぼそぼそとうつむき加減に返事をします。
「ほんとうにそうお思いなんですか? カトリーヌもリリアーヌも、副教皇も赤の王国、ヘカサアイ王国と通じているのに? あなた、自分の欲望のためだけに動いたのよ」
王妃様はじろっとにらみました。
「決して私利私欲ではない……。これが両国のためだ」
王は小さな声でつぶやきます。
「あなたは、自分の恋を優先して、王子の未来をつぶそうとしたのですよ。わかっていらっしゃるの?」
「……」
王は唇をかみしめます。
「どなたに言い含められたのでしょうね。両国のためだなんて……。あなたはハトラウス王国の王なのですよ。肥沃な大地をもち、飢えることのない王国。その民を守る者なのです。ここ何十年も平和で、均衡が保たれていたはずです。ロドニエル、あなた、ヘカサアイ王国へ侵攻したいというわけでもありませんよね?」
王妃が確認すると、王は静かに肯いた。
静かな緊張感が漂います。私達はだれも口を開きません。
しばらくして、王妃が小さなため息をつきました。
「リリアーヌ様との恋。お気持ちはよくわかります」
「……オリヴィス」
王はつうっと視線を王妃は戻しました。
「私たちは小さいころから友だちで……、この国を守る仲間のような、同士のような関係で、穏やかな気持ちで結婚したと思っていますわ」
王妃は王の反応をみて、話を進めた。
「お互い、熱い、燃えるような感情はなかったと思いますが……、この国を導くために二人で頑張ろうとしてきましたね。そこには激しい恋の感情はなくても、お互いを想いあう愛はあったと……」
「ああ、オリヴィス。私は君を穏やかに愛してはいたんだ。それは確かだ」
王は辛そうに話します。
王妃は黙ってうなずきました。
お二人は理解しあっているのに……。それではダメだと言うのですか。ハラハラして私は自分の両手を強く握ります。どうか、うまくいきますように。
「ただ、リリアーヌに一目見た時からどうしようもなく惹かれてしまったのだ」
「ええ、わかっているわ。あなたは恋に落ちたのね。生まれて初めて」
「わかるのか? 結果としてこのようになってしまったが、いまも私は彼女を愛している。その気持ちはオリヴィスとは違う愛……なのだ。王子と君への愛とはまったく違う気持ちなのだ。決して消えることのない……」
「ええ、わかるわ」
王妃は瞼を伏せて、静かに答えました。
「リリアーヌの奔放なところ、自由なところ……。どうしようもなく、どんどん惹かれていって……」
「あの、聞くに堪えないので、その辺で終わりにして下さらない?」
王妃はぴしゃりと王に告げました。
王はハッとしたようでした。
「例えそうだとしても……。そのことがハトラウス王国を売ることにはならないでしょ」
王妃の追及に王は青ざめます。
「この国では離婚は認められておりません。リリアーヌ様に結婚を迫られても、できないのです。だからと言って、あなたはヘカサアイ王国の宗教……、重婚ができる、離婚ができるものにハトラウス王国の宗教を変えようとしましたね」
「……」
「そのことが、何を意味するか、王としてわかっておいでですか?」
王妃様は続けます。
「宗教改革を、いいえ、全く違う異教に宗旨替え……したら、国民はどうなるのです。考えたのですか? ヘカサアイはあなたを骨抜きにして、ハトラウス王国の精神的な、宗教の柱を壊し、乗っ取ろうとしていたんですよ」
王は俯いて黙っている。唇を、噛み締めて……。
ヘカサアイの侵攻、知っていたんだ……。王様は。全部わかっていたんだ。それなのに、リリアーヌ様を選んだということなんだ。
悲しくて、寂しい気持ちが胸に訪れます。
王妃様は王様がただ黙していることにショックを受けているようでした。王妃様の顔色は青白というよりも、真っ白になっています。
「……否定はなさりませんのね。とても残念です。また、王家の護符の損傷から、リリアーヌ様があなたに魅了の魔法をかけていたのは明白です。魔法の痕跡が残っています。それでも、リリアーヌ様をお庇いになりますか」
王妃は傷がついた護符を見せました。
「そこまで、オリヴィスは知っていたのか……」
王は寂しそうに言いました。
「ええ、教皇様がお持ちでした。副教皇に証拠を隠滅させられる前に保管しておいてくれたのです」
「魅了をかけられたのは最初だけだ。私も気がついていた。護符があるから、はじいてくれたしな」
王は寂しげに笑います。
「父上……、そんなことをされても、リリアーヌ様がお好きなのですか!?」
王子は悲痛ともいえる声を出して問います。
「ああ、リリアーヌを愛している。もう魅了など小賢しい真似はしないと約束させた。ヘカサアイがハトラウスを狙っているのも知っている。カトリーヌがアンソニーを好いて、手に入れようとしたのも。ただ……、被害を最小限にして、みんなが丸く収まるにはこれしかなかった」
王は一拍置いて「アンソニー、すまない」と目を伏せた。
「宗教を変え、僕の婚約者を変えさせ、母上と離婚し、ヘカサアイの侵略を許すのが、被害最小限? 国民を大混乱へと導き、それが平和への第一歩というわけですか?」
王子は拳を震わせます。
「勝手と思うだろうが、それしかなかった」
王は悲痛な面持ちで俯いた。
「リリアーヌは王に魅了をかけ、カトリーヌは私に毒を盛ったというは事実。ヘカサアイの縁者が王と私に危害を加え、王家転覆を図っていたと見做されますが、それでよいですか」
王子は王に詰め寄ります。
「そして、王は、ハトラウスの王はそれに加担したと……、そう見做していいのですね」
「……」
王様は目を伏せています。
「父上……、私のことが嫌いでしたか? 母上のことが嫌でしたか? 私達は、この国は、そんなに恨まれていたのですか」
王子は小さくつぶやきます。
「そなたたちを疎ましく思ったことなどない。ただ、愚かにも恋に落ちただけだ」
「宗教改革、国家転覆、ヘカサアイの侵攻の一端を担っていたことは、王として許されることではない。父上には王の座を退いていただきます」
王子は悲しそうに告げました。
「ああ、覚悟はできている」
王は肯きました。
「あなた、バカね……。リリアーヌは、もう逃げたかもしれないわよ」
王妃は呆れたようにつぶやきます。
「カトリーヌとリリアーヌはヘカサアイに戻っただろう」
王は吐露した。
「副教皇もですよ……おそらく」
王子はため息をつきました。
「信じられないわ……、バカ、バカよ。あなたは……」
王妃様は扇子を広げ、扇ぎます。王妃様の目には涙が浮かんでいます。
「母上は父上のことが許せるの?」
王子は王妃様を見つめます。
「家族だからね……。小さい時から一緒だもの。何をしでかしても、見捨てられないわ」
王妃は仕方ないと微笑みます。
「僕は……、父さんのことは、いまは許せないよ。信じられない。信じられなかったよ。僕は父上のことを尊敬していたんだ……。僕らはいつまでも仲の良い家族だって思っていたかった……」
王子の目にも涙がたまっています。
「最後に、王として、父としての仕事がしたい」
王は王妃と王子の顔を見ます。
「ここにカトリーヌとの婚約は無効を宣言する。さあ、アンソニー、アリスと幸せになるといい」
王子の顔が一瞬、綻びます。でもすぐに厳しい顔になりました。
「父上……」
「ああ、アンソニー、わかっている。辛い仕事をさせてすまんな」
王はアンソニーを優しく見つめます。
「これより王は遠隔地で療養にはいる。私、アンソニーが王位を継承するとここに誓う」
王子は王を真っ直ぐに見つめます。
「大丈夫だ、アンソニー。お前ならできる。オリヴィスとともにハトラウスを頼んだぞ。それから、幸せになってほしい」
王は私を見て、微笑みました。
王子は私の姿を見るなり、抱きしめます。
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でも、王子の体温が伝わってきて、なんとなくほっとする自分がいます。
ええと、婚約破棄は無効だから、婚約継続中ってことだから、大丈夫よね。不敬とか不義理とか、なんか悪いのには、当たらないよね。
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王妃は冷たく王を見つめます。
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「決して私利私欲ではない……。これが両国のためだ」
王は小さな声でつぶやきます。
「あなたは、自分の恋を優先して、王子の未来をつぶそうとしたのですよ。わかっていらっしゃるの?」
「……」
王は唇をかみしめます。
「どなたに言い含められたのでしょうね。両国のためだなんて……。あなたはハトラウス王国の王なのですよ。肥沃な大地をもち、飢えることのない王国。その民を守る者なのです。ここ何十年も平和で、均衡が保たれていたはずです。ロドニエル、あなた、ヘカサアイ王国へ侵攻したいというわけでもありませんよね?」
王妃が確認すると、王は静かに肯いた。
静かな緊張感が漂います。私達はだれも口を開きません。
しばらくして、王妃が小さなため息をつきました。
「リリアーヌ様との恋。お気持ちはよくわかります」
「……オリヴィス」
王はつうっと視線を王妃は戻しました。
「私たちは小さいころから友だちで……、この国を守る仲間のような、同士のような関係で、穏やかな気持ちで結婚したと思っていますわ」
王妃は王の反応をみて、話を進めた。
「お互い、熱い、燃えるような感情はなかったと思いますが……、この国を導くために二人で頑張ろうとしてきましたね。そこには激しい恋の感情はなくても、お互いを想いあう愛はあったと……」
「ああ、オリヴィス。私は君を穏やかに愛してはいたんだ。それは確かだ」
王は辛そうに話します。
王妃は黙ってうなずきました。
お二人は理解しあっているのに……。それではダメだと言うのですか。ハラハラして私は自分の両手を強く握ります。どうか、うまくいきますように。
「ただ、リリアーヌに一目見た時からどうしようもなく惹かれてしまったのだ」
「ええ、わかっているわ。あなたは恋に落ちたのね。生まれて初めて」
「わかるのか? 結果としてこのようになってしまったが、いまも私は彼女を愛している。その気持ちはオリヴィスとは違う愛……なのだ。王子と君への愛とはまったく違う気持ちなのだ。決して消えることのない……」
「ええ、わかるわ」
王妃は瞼を伏せて、静かに答えました。
「リリアーヌの奔放なところ、自由なところ……。どうしようもなく、どんどん惹かれていって……」
「あの、聞くに堪えないので、その辺で終わりにして下さらない?」
王妃はぴしゃりと王に告げました。
王はハッとしたようでした。
「例えそうだとしても……。そのことがハトラウス王国を売ることにはならないでしょ」
王妃の追及に王は青ざめます。
「この国では離婚は認められておりません。リリアーヌ様に結婚を迫られても、できないのです。だからと言って、あなたはヘカサアイ王国の宗教……、重婚ができる、離婚ができるものにハトラウス王国の宗教を変えようとしましたね」
「……」
「そのことが、何を意味するか、王としてわかっておいでですか?」
王妃様は続けます。
「宗教改革を、いいえ、全く違う異教に宗旨替え……したら、国民はどうなるのです。考えたのですか? ヘカサアイはあなたを骨抜きにして、ハトラウス王国の精神的な、宗教の柱を壊し、乗っ取ろうとしていたんですよ」
王は俯いて黙っている。唇を、噛み締めて……。
ヘカサアイの侵攻、知っていたんだ……。王様は。全部わかっていたんだ。それなのに、リリアーヌ様を選んだということなんだ。
悲しくて、寂しい気持ちが胸に訪れます。
王妃様は王様がただ黙していることにショックを受けているようでした。王妃様の顔色は青白というよりも、真っ白になっています。
「……否定はなさりませんのね。とても残念です。また、王家の護符の損傷から、リリアーヌ様があなたに魅了の魔法をかけていたのは明白です。魔法の痕跡が残っています。それでも、リリアーヌ様をお庇いになりますか」
王妃は傷がついた護符を見せました。
「そこまで、オリヴィスは知っていたのか……」
王は寂しそうに言いました。
「ええ、教皇様がお持ちでした。副教皇に証拠を隠滅させられる前に保管しておいてくれたのです」
「魅了をかけられたのは最初だけだ。私も気がついていた。護符があるから、はじいてくれたしな」
王は寂しげに笑います。
「父上……、そんなことをされても、リリアーヌ様がお好きなのですか!?」
王子は悲痛ともいえる声を出して問います。
「ああ、リリアーヌを愛している。もう魅了など小賢しい真似はしないと約束させた。ヘカサアイがハトラウスを狙っているのも知っている。カトリーヌがアンソニーを好いて、手に入れようとしたのも。ただ……、被害を最小限にして、みんなが丸く収まるにはこれしかなかった」
王は一拍置いて「アンソニー、すまない」と目を伏せた。
「宗教を変え、僕の婚約者を変えさせ、母上と離婚し、ヘカサアイの侵略を許すのが、被害最小限? 国民を大混乱へと導き、それが平和への第一歩というわけですか?」
王子は拳を震わせます。
「勝手と思うだろうが、それしかなかった」
王は悲痛な面持ちで俯いた。
「リリアーヌは王に魅了をかけ、カトリーヌは私に毒を盛ったというは事実。ヘカサアイの縁者が王と私に危害を加え、王家転覆を図っていたと見做されますが、それでよいですか」
王子は王に詰め寄ります。
「そして、王は、ハトラウスの王はそれに加担したと……、そう見做していいのですね」
「……」
王様は目を伏せています。
「父上……、私のことが嫌いでしたか? 母上のことが嫌でしたか? 私達は、この国は、そんなに恨まれていたのですか」
王子は小さくつぶやきます。
「そなたたちを疎ましく思ったことなどない。ただ、愚かにも恋に落ちただけだ」
「宗教改革、国家転覆、ヘカサアイの侵攻の一端を担っていたことは、王として許されることではない。父上には王の座を退いていただきます」
王子は悲しそうに告げました。
「ああ、覚悟はできている」
王は肯きました。
「あなた、バカね……。リリアーヌは、もう逃げたかもしれないわよ」
王妃は呆れたようにつぶやきます。
「カトリーヌとリリアーヌはヘカサアイに戻っただろう」
王は吐露した。
「副教皇もですよ……おそらく」
王子はため息をつきました。
「信じられないわ……、バカ、バカよ。あなたは……」
王妃様は扇子を広げ、扇ぎます。王妃様の目には涙が浮かんでいます。
「母上は父上のことが許せるの?」
王子は王妃様を見つめます。
「家族だからね……。小さい時から一緒だもの。何をしでかしても、見捨てられないわ」
王妃は仕方ないと微笑みます。
「僕は……、父さんのことは、いまは許せないよ。信じられない。信じられなかったよ。僕は父上のことを尊敬していたんだ……。僕らはいつまでも仲の良い家族だって思っていたかった……」
王子の目にも涙がたまっています。
「最後に、王として、父としての仕事がしたい」
王は王妃と王子の顔を見ます。
「ここにカトリーヌとの婚約は無効を宣言する。さあ、アンソニー、アリスと幸せになるといい」
王子の顔が一瞬、綻びます。でもすぐに厳しい顔になりました。
「父上……」
「ああ、アンソニー、わかっている。辛い仕事をさせてすまんな」
王はアンソニーを優しく見つめます。
「これより王は遠隔地で療養にはいる。私、アンソニーが王位を継承するとここに誓う」
王子は王を真っ直ぐに見つめます。
「大丈夫だ、アンソニー。お前ならできる。オリヴィスとともにハトラウスを頼んだぞ。それから、幸せになってほしい」
王は私を見て、微笑みました。
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