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はじめての外国 3

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お茶が終わったとおもったら、すぐに豪華なディナーとなりました。
「いつもより肉が分厚い。魚もある……。きょうは品数が多いな」
「最近、質素だったからな」
王子とタウルスさまがコソコソ言い合っています。

「今日はゲストがいるんですからね、当然です。明日からはまた質素生活ですよ」
王妃は涼しげに答えます。

「まだ城は食べ物があるから恵まれているのでしょうね……。王はいったい何を考えているのか」
王子が呟くと、テーブルが一気に暗くなりました。

ご飯は楽しく、美味しく食べないといけません。質素でもみんなで食べると美味しいですよ。それに、私から言わせると、とても豪華です!

何か明るくなる話題はないでしょうか。
四苦八苦していると、

「アリスは、食べ物で何が好きなのですか?」
王妃様が尋ねてくださいました。

「そうですね、やはり美味しいものですかね。好き嫌いはありません」
「甘いものも?」
「はい、大好きです」
王妃はニコリと微笑みます。気遣いといい、大人の感じが素敵です。

「私も好き! 今度スイーツ巡りしよう?」
ラティファ様がお誘いくださりました。
「あら、いいわねえ」
王妃様は温かく見守ってくださります。

香ばしい香りをさせたステーキに、クリーミーなポテト。新鮮な魚のフライに色とりどりのフルーツ。

あれもこれも食べたくなってしまい、目移りして困ってしまいます。
さっきサロンでケーキも食べたのに、今日だけで絶対2キロは太ったと思います……。

楽しいディナーも終え、王妃様が「食後の散歩よ」と、離れに案内してくれることになりました。

ブラウンも一緒です。スーパー侍女・ブラウンがいれば、大抵のことは何とでもなりますからね。ブラウン、よろしくね。

ディナーは王妃様と王子、タウルス様にラティファ様も一緒で、緊張していたのかもしれません。とっても美味しかったし、満腹になったはずなんですけれど、なんだか食べた気がしないのです。

もう小腹が空いてきています。あとでマジックポケットから何か出してこよっと。

離れと言っても、大きさは城1個分です。さすが王家。
「昔からある、古い建物だけど、アリス様は平気かしら」
王妃様が心配そうに尋ねます。

「はい、大丈夫です」
内心大喜びです。きっと素敵な蔵書があることでしょう。探検したいと思います。

「実はね、こっちの方も出るという噂です」
王妃はいたずらっ子そうな顔をして、両手を前にブランとさせました。

「ええええ!」
「ほほほ。……なんてことはないので、くつろいでくださいね。出るのは夜らしいですわ」
どっちなんですか……。怖いんですけど。意味深に笑いながら、王妃様は去っていきます。

私は王妃様が見えなくなるまでお見送りです。
「ほんとうにお化けいるのかな」
やだ、無駄な動悸がするんですけど。

「いるとしたら、どこにでもいます。いまさらですよ」
そばにいたブラウンは慰めにもならない言葉をつぶやきました。

離れと王妃が言ってましたが、内装はシックで落ち着いた色合いでまとめられています。
でも、階段の手すりや、柱など細かい細工が施されていて、最高級品と分かります。

足元にはフカフカの絨毯が弾かれています。ヒールの足が歩くとふわっと沈みます。
気持ちいですね。歩き心地がいい。王城ですから、しっかり掃除が行き届いていますけど、これをですね、私の究極魔法でちょいちょいっと……。

ふと気がつくと、ブラウンが私を白い目で見ていました。
脳みそのつぶやきが漏れていた? えええ? 独り言とか言ってませんよ。
焦っていたら、

「お嬢さまが考えることは、お見通しです。いいですか、やりたくても、究極魔法で掃除とかしないでくださいよ。壊したら、一生王城から出られません。ずーと永遠に働かせられますよ」
やばい。それはやばい。

「わかりました」
シュンとちゃいます。

「それと、お嬢さま。お部屋に入ったら、軽く何か召し上がりますか?」
ブラウン! なんて素敵なの。ありがとう。
「食べます。お腹が空いて……、このままじゃ眠れない」

「そうだと思いました。突然、王家の皆様と食事では、慣れないですからねえ。マジックポケットにパンとスープ、あとは……、フルーツ、プリンぐらいはあると思います」

ブラウンは在庫を確認中。
これで私のお腹の問題は解決しました。

夜半過ぎ。私はフカフカしたベッドの中にいます。
興奮して眠れない。こんないいベッドなのに……。
もう少し私が幼ければ、きっとベッドでピョンピョン跳ねていましたよ。やりませんけど。隣の続きの部屋にブラウンもいますし。怒られちゃいます。

しかし、枕を何度ひっくり返しても……、目を閉じても、閉じても、夢の国へ出発できないんです。決して、王妃様の言っていたお化けのせいではありませんよ。ブラウンもマカミもいるので大丈夫。

本でも読もうか、水でも読もうかと、部屋の中をうろうろしていたら、ブラウンが、ドアを少し開けて「早く寝なさい」と怒りました。
すいません。

「怖いなら、ここを少し開けておきますね」
「こ、怖くないもん」
「はいはい。怖くなんかないですね」
ブラウンは私を適当にいなして、自分のベッドに戻って行きます。

マジックポケットにいた大きいマカミにお願いして、小さくなってもらって、私のベッドに入ってもらいました。奥の手です。これで安心です。

大きいマカミの毛があちらこちらにあると、王家の人たち(城で働く人たちも含めて)に守護神連れてやってきた、ちょっと危ないやつと認識されてしまいますからね。

小さいマカミの、ベッドについた短い毛は、朝になったら、バレないようにちょっとだけ掃除すればいいし。

マカミは眠そうにベッドの上に丸くなりました。いいなあ。眠れて。その睡眠、分けてください。

ごろんごろんと寝返りを何べんも打っていたら、ブラウンが呆れたように様子を見に来ました。ご心配をおかけしております。

「まだ、お嬢さま、寝ないんですか? 城で寝坊ってどうなのか、考えてみてください」
「だって……、王城で寝るなんて、ちょっと緊張して……」

「明日は本屋に行って、魔法道具屋に参りましょう。それから甘いもののお店に行きましょうか。トラウデンのお屋敷にも帰れますし、大丈夫ですよ」
ブラウンが優しく私に言います。

「それから王都の人たちの生活を見てみたいな。何か気配があるかもしれないし」
「そうですねえ。無理なさらない程度でよろしくお願いしますね」

ブラウンがマジックポケットを開けて、中へ入っていきました。たぶん、ホットミルクを作ってくれているのかも。眠れないときにいつもブラウンはホットミルクを作ってくれるのです。これで眠れる気がします。

……クッキーもついていればいいな。

乙女は太るから夜中にお菓子は食べないのが正解。でも、私は眠れないからいいのです。ザ・特例です。

ブラウンが声をかけてくれるまで、ベッドでマカミをなでなでしておきます。ふわふわで温かいマカミの寝息を聞いているうちに、なんだか瞼が重くなってきましたよ……。

バリン。
小さな、ガラスが割れる音がして、私ははっと目が覚めました。私のベッドにもぐりこんでいた小さいマカミも唸り声をあげています。

いつのまにか、寝ていたみたい。油断していたわ……。窓から数人が忍び込んできました。薄っすら瞼を開けると赤マントです。しびれを切らして、接触しに来たんでしょうか。

ブラウンはどこ?
クッキーとミルクは? 
がーん。食べ損ねた。
ショックの頭を正常にしつつ、マカミに静かにとお願いします。

いま、究極魔法で男たちを捕まえてしまうというのもできますが、それでは何も解決しないような気がします。最近、ずっと誰かに後をつけられていたしね。

私には、マカミもいるし、究極魔法も使えるので、なんとかなるでしょう。男たちが何がしたいのか、確かめてみることにしましょう。

「おい、そっとだぞ」
男たちは私の両手と両足を結んでいます。どうしよう。やっぱり、ここで起きて暴れた方がいいのかな。それとも……、このまま様子見た方がいいかな。迷うわ。

男たちの計画が知りたくて狸寝入りをしていますが、これが正しい選択かと言われたら、自信はありません。というか、お父様とお母様に怒られるの必至と思われます。

私が迷っているうちに小さなマカミはますます小さくなって、スカートのポケットに入り込みました。
すごーい、マカミ。ポケットに入るんだ。今度またやってもらおう。

はっ。違うことに感動してしまった。いまは決断しないと。うーん、決着をつけたいなら、ここは拉致られるべきですかね。
仕方ない。あまり気乗りはしませんが……。

ええっと、ブラウンはどこかな。ブラウンも、おそらく、マカミの唸り声やガラスの音で気がついたと思います。私が騒いだら、乗りこんでくるつもりで、待っているのかもしれません。

ブラウンとお父さまたちに「赤マントの人たちと決着をつけに行きます」と思念波を送ります。
ブラウンは「マジックポケットにいます」と返信をくれました。
ブラウンもいれば、問題は起きないでしょう。


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