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はじめての外国 2
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王妃様、とっても機嫌がよさそうですが、何がヒットしたのかわかりません。私、何かしたかしら。何だったんだろう? 不思議。
「ああ、ずるい。私もいただきます」
「ええ、ラティファも召し上がれ」
ラティファ様はカトリーヌ様とリリアーヌ様のお相手をすっとやめて、こちらに顔を向けました。
「……」
あからさまに無視されたリリアーヌ様とカトリーヌ様がお立ちになります。
ラティファ様、ちょっとあからさま過ぎやしませんか。私の方がハラハラするんですけど。
「では、私たちは帰らせていただきますわ」
「え? でも……食べたい」
カトリーヌ様は私たちの前にあるケーキを見て、がっかりしたお顔をされました。
わかります。食べたいですよね……。でも、私の立場上、おすすめはできません。
私の方を見ないで……。何もしてあげられないから。
カトリーヌ様の視線が痛いです。
「ごきげんよう」
リリアーヌ様はカトリーヌ様の袖を引っ張って、引きつった笑顔で退出されました。
ふう、静かになりました。
王妃様は何事もなかったように澄ました顔で、ケーキを召し上がっています。
「その本の続きでしたら、私、ありますわよ。一冊差し上げますわ」
王妃様は御付きの女性に頼みました。
「え! よろしいのですか。では、よかったらぜひ、お借りできればうれしいです。王都で帰りに買うので、少しだけでも読ませてもらえれば……」
まさか王妃から本を借りるとか、もらうとか、あり得ないけど……。いいのかな。欲望が顔を出します。
「まあ、そんなことおっしゃらずに……。たくさんあるので、お持ちください」
え? たくさんある? 王城でもブームなのかしら。
「最新刊はこれですわ」
王妃はニコニコしながら、私に本を渡してくれました。表紙を捲ると、サインが描いてある! 可愛いイラスト付きです。
「こんな、サイン本とか、よろしいのですか?」
恐る恐る確認すると、王妃様は大きくうなずきました。
ここで断るのも、無礼にあたるのかしら。ああ、お母さまが隣にいてくれたら、正解が分かるのに……。でも、でも、私は欲しい!
よし、一か八か、もらうことにします。
「ありがとうございます! 家宝にします」
王妃は私の様子を見て、照れ臭そうに笑っていました。
トントン
「今日は来客が多いわねえ。アリス様とゆっくりご本のこととかおしゃべりしたかったのに……」
王妃がぶつぶつ呟きます。
「アリス! 来ていると聞いて、急いで戻ったんだ」
王子が一目散に、私の方に歩いてきて、ギュッと抱きしめます。
女子だけの会に外の風が吹き込んできました。
は! 王妃様とラティファ様がいるんですよ!
ちょっと、何するんですか。
ジタバタしていたら
「あら、仲良しでよかったわね、ホッとしたわ」
王妃様は扇をパタパタ。
「うちの兄の結婚相手と思ったのに……」
「アンソニーがアリスは渡さないと思うわよ」
叔母と姪っ子が冷ややかな攻防をしつつ、互いに笑みを浮かべています。あの、私はどうしたらいいのでしょう。
「アリス、ああ、久しぶり……、充電中」
背中をトントンされています。王子の腕の中から抜けられません。そして、もう逃れられない気がします。
ふう、そういう時は……、諦めてそのままでいましょう。あがいても無駄なのです。
王子からはシトラス系の良い香りがします。
はっ!
私はどんな匂いなんだろう。
初めて自分の香水について考えました。香水かぁ、大事なんですねえ。自分の匂いをくんくんと嗅いでいたら
「アリスはユリの匂いかな。爽やかなフローラルだね」
王子がにっこりとしました。
クンクンがバレました。チョー恥ずかしい。でも、ナイスです、ブラウン。ありがとう、ブラウンさま。本当に感謝します。これからは香水もちゃんと考えます。淑女っていうやつは、全方位で隙がないようにしないといけないんですねえ。
女子力の大切さを思い知ったのでした。
「私たち、今、本の話をしていたのですよ」
王妃がコホンと咳払いします。
「え?」
王子は少し表情が曇ります。
なんですか、その表情。この本、面白いんですよ? 読んだことあるんですか?
「ふふふ」
王妃が不敵に笑います。
「まさか、エドワード…?」
王子は「はあ」とため息です。王妃さまが流行りの本を読んでいるのがお嫌だったのでしょうか。いいじゃないですか。王宮ラブストーリー、きゅんきゅんですよ。
「その本、どんな本なんですか」
ラティファ様がお尋ねになります。
「これはですね、エドワード王子の恋物語なんですよ。エドワード王子は初恋の人と結婚すべく奮闘するんです。こんなふうに愛されたい女性続出でして……、新刊は予約しないと手に入らないくらいなんです」
「へえ」
ラティファ様がパラパラと手に取りました。
「ラティファはこういうのは苦手だろ? 読まなくていいよ」
王子は無理矢理取り上げます。
「あー、何するの? 私も読みたい」
「やめておけよ。それより、俺の愛読書『世界の農業全集』を貸してやるから。それとも『ヘカサアイ王国の秘密』とか、『ピュララティス王国~海の民が行く~』でもいいぞ」
「面白くなさそう……」
ラティファ様はうげえという顔をします。
ああ、それ、私が読みたいです!
目をキラキラさせて、王子に訴えていたら、「あとでね」と言われました。
わーい。王家の本だから、私の持っている本より詳しく載っているかもしれません。新領地の農業改革、交易を担う私としてはいろいろ勉強したいのです。
「タウルス様もいらっしゃいました」
御付きの女性が王妃の耳元で話す。
「まあ、タウルス様もこちらに……」
王妃様は驚いています。
「サロンは苦手と言って、めったに参加されない人が来るなんて……。アンソニーといい、タウルス様といい、みんなアリス様とお話ししたいのねえ。若いっていいわあ」
王妃は目を輝かせて、興味津々です。
「母上……」
王子は呆れたようにたしなめます。
「いいじゃないの。若者の恋模様……」
王妃様はムッとされました。
「そうそう、母上。それどころじゃないです。王都では異変が起きています」
「……」
王妃様は真剣な面持ちです。
「王都の教会に食料や金属類が集められ、異教徒の教会には武器が積まれているのを確認しました。父上は、おそらくご存知ですよね……」
王子は顔をしかめています。
「え? まさか……。そんなはずないです。なぜですか。どうして教会に物が集まっているのですか?」
私が言い淀むと
「そのまさか、かもな」
タウルス様もうなずきます。
「俺も見てきたよ。王都全体の食料も不足しているな。民たちが騒ぎ始めているぞ。この国の食料や資源は、どこへ行ったんだろうな」
「そうか……、残念だよ。本当に。」
王子はタウルス様の顔を見て、悲しそうに肯きます。
「きょうはもう遅い故、アリス様はこちらに泊まればよい。離れは、いま誰も使っていないから……」
王子が静かに微笑みます。悲しそうな顔です。大丈夫でしょうか。
「でも……」
口ごもる私に
「いま泊まると、新刊の生原稿と、未発表の原稿もついてくる」
王妃はボソっとつぶやきます。
新刊生原稿? 未発表の原稿?
それ、読みたいです! ぜひ、泊まらせてください。
「え? ほ、本当ですか。ええ、ではお言葉に甘えて……」
ぱーっと明るくなった私。
変わり様に王子が苦笑しています。
だって、ファン垂涎の代物ですよ。ぜったい読まなくちゃ。
「アリス様、では、私にその本の魅力を教えてくださいませ」
ラティファ様が食いついてきました。
王妃様が原稿をサロンに準備してくださいます。
わーい。生原稿! こんなきれいな字を書くんですね。字が綺麗って大事。
私の字はミミズのような字なので、比較しないでください。読めて、分かればいい程度になっております。
この本の作家さんは、想像力豊かで字も綺麗。非の打ち所もなく、憧れちゃいます。身分や個人情報は一切明かされていない、匿名の作家さんなんです。
いつかお会いできればいいな。
ラティファ様も王妃様から1巻を借りて読んでいます。
「まあ、とっても素敵な王城! でも、この装飾とか、どこかの建物に似ているような……。この主人公ってまさかね……」
ぶつぶつラティファ様が独り言です。
「どうしたんですか」
面白いのになあ……、ダメですか? ファン心理として、この本を布教したいのです。ラティファ様の趣味に合いませんか? 心配になって声をかけます。
ラティファ様が顎に手を当てて、考えています。
「ラティファ様?」
王妃様がジロっと見つめます。
「ああ、ええ、そういうこと……」
ラティファ様は苦笑されています。
「どういうことですか?」
全くわかりませんけど。
首をかしげる私を抜いて、お二人は楽しそうです。
「まあ、そのうち分かるから……。なるほどねえ」
ラティファ様は笑いをこらえておいでです。
王妃様は扇をパタパタ。
うーん、危険な話題でしたか? わかりません。もしかして高貴な人の会話ってやつなのかもしれません。あとでこそっとラティファ様に聞いてみたいと思います。
「このエドワード王子が、また一途でいいですよね」
私が同意を求めると、
「へえ。アリスはこういうのが好みなんだ……、うちの兄も一途だと思うけど」
「はい? タウルスさまもたしかに素敵ですけど(社交辞令)……。エドワード王子はとってもかっこいいと思いませんか?」
「……。まあ、そうなのかな。私のタイプとはちょっとちがうけど」
ラティファ様がニヤニヤしています。
「こういう素敵な人と結婚出来たらって思いますよ。まあ、今となっては無理ですけど……。これからは、楽しい独り身生活目指しますわ」
私のボヤキにラティファ様が大笑いです。
失礼ですねえ。
私、真剣ですよ。1人で生きていけるだけの準備は整ってきてますからね!
「アリスなら、いつでも結婚できるから、心配しないでいいって。アンソニーもいるし、私の兄もいるから」
「……」
本気で言っているとは思えないけど、慰めてくれているのでしょう。とりあえず愛想笑いをしておきました。
「本気にしてないでしょ? みんな本気だからね」
ラティファ様の目がキランと光ったようにみえました。
なんだか恐ろしい言葉を聞いた……。婚約破棄されたばかりだし、私に夢を持たせないでください。私って、ほら、ガラスのハートで傷つきやすいんですよ。
領地開拓をガンガンして、町を発展させ、究極魔法にいそしむ人生プランで行かせていただきます。ある程度町が育ったら、外国へ視察してもいいななんて思ってるけど……。
「ああ、ずるい。私もいただきます」
「ええ、ラティファも召し上がれ」
ラティファ様はカトリーヌ様とリリアーヌ様のお相手をすっとやめて、こちらに顔を向けました。
「……」
あからさまに無視されたリリアーヌ様とカトリーヌ様がお立ちになります。
ラティファ様、ちょっとあからさま過ぎやしませんか。私の方がハラハラするんですけど。
「では、私たちは帰らせていただきますわ」
「え? でも……食べたい」
カトリーヌ様は私たちの前にあるケーキを見て、がっかりしたお顔をされました。
わかります。食べたいですよね……。でも、私の立場上、おすすめはできません。
私の方を見ないで……。何もしてあげられないから。
カトリーヌ様の視線が痛いです。
「ごきげんよう」
リリアーヌ様はカトリーヌ様の袖を引っ張って、引きつった笑顔で退出されました。
ふう、静かになりました。
王妃様は何事もなかったように澄ました顔で、ケーキを召し上がっています。
「その本の続きでしたら、私、ありますわよ。一冊差し上げますわ」
王妃様は御付きの女性に頼みました。
「え! よろしいのですか。では、よかったらぜひ、お借りできればうれしいです。王都で帰りに買うので、少しだけでも読ませてもらえれば……」
まさか王妃から本を借りるとか、もらうとか、あり得ないけど……。いいのかな。欲望が顔を出します。
「まあ、そんなことおっしゃらずに……。たくさんあるので、お持ちください」
え? たくさんある? 王城でもブームなのかしら。
「最新刊はこれですわ」
王妃はニコニコしながら、私に本を渡してくれました。表紙を捲ると、サインが描いてある! 可愛いイラスト付きです。
「こんな、サイン本とか、よろしいのですか?」
恐る恐る確認すると、王妃様は大きくうなずきました。
ここで断るのも、無礼にあたるのかしら。ああ、お母さまが隣にいてくれたら、正解が分かるのに……。でも、でも、私は欲しい!
よし、一か八か、もらうことにします。
「ありがとうございます! 家宝にします」
王妃は私の様子を見て、照れ臭そうに笑っていました。
トントン
「今日は来客が多いわねえ。アリス様とゆっくりご本のこととかおしゃべりしたかったのに……」
王妃がぶつぶつ呟きます。
「アリス! 来ていると聞いて、急いで戻ったんだ」
王子が一目散に、私の方に歩いてきて、ギュッと抱きしめます。
女子だけの会に外の風が吹き込んできました。
は! 王妃様とラティファ様がいるんですよ!
ちょっと、何するんですか。
ジタバタしていたら
「あら、仲良しでよかったわね、ホッとしたわ」
王妃様は扇をパタパタ。
「うちの兄の結婚相手と思ったのに……」
「アンソニーがアリスは渡さないと思うわよ」
叔母と姪っ子が冷ややかな攻防をしつつ、互いに笑みを浮かべています。あの、私はどうしたらいいのでしょう。
「アリス、ああ、久しぶり……、充電中」
背中をトントンされています。王子の腕の中から抜けられません。そして、もう逃れられない気がします。
ふう、そういう時は……、諦めてそのままでいましょう。あがいても無駄なのです。
王子からはシトラス系の良い香りがします。
はっ!
私はどんな匂いなんだろう。
初めて自分の香水について考えました。香水かぁ、大事なんですねえ。自分の匂いをくんくんと嗅いでいたら
「アリスはユリの匂いかな。爽やかなフローラルだね」
王子がにっこりとしました。
クンクンがバレました。チョー恥ずかしい。でも、ナイスです、ブラウン。ありがとう、ブラウンさま。本当に感謝します。これからは香水もちゃんと考えます。淑女っていうやつは、全方位で隙がないようにしないといけないんですねえ。
女子力の大切さを思い知ったのでした。
「私たち、今、本の話をしていたのですよ」
王妃がコホンと咳払いします。
「え?」
王子は少し表情が曇ります。
なんですか、その表情。この本、面白いんですよ? 読んだことあるんですか?
「ふふふ」
王妃が不敵に笑います。
「まさか、エドワード…?」
王子は「はあ」とため息です。王妃さまが流行りの本を読んでいるのがお嫌だったのでしょうか。いいじゃないですか。王宮ラブストーリー、きゅんきゅんですよ。
「その本、どんな本なんですか」
ラティファ様がお尋ねになります。
「これはですね、エドワード王子の恋物語なんですよ。エドワード王子は初恋の人と結婚すべく奮闘するんです。こんなふうに愛されたい女性続出でして……、新刊は予約しないと手に入らないくらいなんです」
「へえ」
ラティファ様がパラパラと手に取りました。
「ラティファはこういうのは苦手だろ? 読まなくていいよ」
王子は無理矢理取り上げます。
「あー、何するの? 私も読みたい」
「やめておけよ。それより、俺の愛読書『世界の農業全集』を貸してやるから。それとも『ヘカサアイ王国の秘密』とか、『ピュララティス王国~海の民が行く~』でもいいぞ」
「面白くなさそう……」
ラティファ様はうげえという顔をします。
ああ、それ、私が読みたいです!
目をキラキラさせて、王子に訴えていたら、「あとでね」と言われました。
わーい。王家の本だから、私の持っている本より詳しく載っているかもしれません。新領地の農業改革、交易を担う私としてはいろいろ勉強したいのです。
「タウルス様もいらっしゃいました」
御付きの女性が王妃の耳元で話す。
「まあ、タウルス様もこちらに……」
王妃様は驚いています。
「サロンは苦手と言って、めったに参加されない人が来るなんて……。アンソニーといい、タウルス様といい、みんなアリス様とお話ししたいのねえ。若いっていいわあ」
王妃は目を輝かせて、興味津々です。
「母上……」
王子は呆れたようにたしなめます。
「いいじゃないの。若者の恋模様……」
王妃様はムッとされました。
「そうそう、母上。それどころじゃないです。王都では異変が起きています」
「……」
王妃様は真剣な面持ちです。
「王都の教会に食料や金属類が集められ、異教徒の教会には武器が積まれているのを確認しました。父上は、おそらくご存知ですよね……」
王子は顔をしかめています。
「え? まさか……。そんなはずないです。なぜですか。どうして教会に物が集まっているのですか?」
私が言い淀むと
「そのまさか、かもな」
タウルス様もうなずきます。
「俺も見てきたよ。王都全体の食料も不足しているな。民たちが騒ぎ始めているぞ。この国の食料や資源は、どこへ行ったんだろうな」
「そうか……、残念だよ。本当に。」
王子はタウルス様の顔を見て、悲しそうに肯きます。
「きょうはもう遅い故、アリス様はこちらに泊まればよい。離れは、いま誰も使っていないから……」
王子が静かに微笑みます。悲しそうな顔です。大丈夫でしょうか。
「でも……」
口ごもる私に
「いま泊まると、新刊の生原稿と、未発表の原稿もついてくる」
王妃はボソっとつぶやきます。
新刊生原稿? 未発表の原稿?
それ、読みたいです! ぜひ、泊まらせてください。
「え? ほ、本当ですか。ええ、ではお言葉に甘えて……」
ぱーっと明るくなった私。
変わり様に王子が苦笑しています。
だって、ファン垂涎の代物ですよ。ぜったい読まなくちゃ。
「アリス様、では、私にその本の魅力を教えてくださいませ」
ラティファ様が食いついてきました。
王妃様が原稿をサロンに準備してくださいます。
わーい。生原稿! こんなきれいな字を書くんですね。字が綺麗って大事。
私の字はミミズのような字なので、比較しないでください。読めて、分かればいい程度になっております。
この本の作家さんは、想像力豊かで字も綺麗。非の打ち所もなく、憧れちゃいます。身分や個人情報は一切明かされていない、匿名の作家さんなんです。
いつかお会いできればいいな。
ラティファ様も王妃様から1巻を借りて読んでいます。
「まあ、とっても素敵な王城! でも、この装飾とか、どこかの建物に似ているような……。この主人公ってまさかね……」
ぶつぶつラティファ様が独り言です。
「どうしたんですか」
面白いのになあ……、ダメですか? ファン心理として、この本を布教したいのです。ラティファ様の趣味に合いませんか? 心配になって声をかけます。
ラティファ様が顎に手を当てて、考えています。
「ラティファ様?」
王妃様がジロっと見つめます。
「ああ、ええ、そういうこと……」
ラティファ様は苦笑されています。
「どういうことですか?」
全くわかりませんけど。
首をかしげる私を抜いて、お二人は楽しそうです。
「まあ、そのうち分かるから……。なるほどねえ」
ラティファ様は笑いをこらえておいでです。
王妃様は扇をパタパタ。
うーん、危険な話題でしたか? わかりません。もしかして高貴な人の会話ってやつなのかもしれません。あとでこそっとラティファ様に聞いてみたいと思います。
「このエドワード王子が、また一途でいいですよね」
私が同意を求めると、
「へえ。アリスはこういうのが好みなんだ……、うちの兄も一途だと思うけど」
「はい? タウルスさまもたしかに素敵ですけど(社交辞令)……。エドワード王子はとってもかっこいいと思いませんか?」
「……。まあ、そうなのかな。私のタイプとはちょっとちがうけど」
ラティファ様がニヤニヤしています。
「こういう素敵な人と結婚出来たらって思いますよ。まあ、今となっては無理ですけど……。これからは、楽しい独り身生活目指しますわ」
私のボヤキにラティファ様が大笑いです。
失礼ですねえ。
私、真剣ですよ。1人で生きていけるだけの準備は整ってきてますからね!
「アリスなら、いつでも結婚できるから、心配しないでいいって。アンソニーもいるし、私の兄もいるから」
「……」
本気で言っているとは思えないけど、慰めてくれているのでしょう。とりあえず愛想笑いをしておきました。
「本気にしてないでしょ? みんな本気だからね」
ラティファ様の目がキランと光ったようにみえました。
なんだか恐ろしい言葉を聞いた……。婚約破棄されたばかりだし、私に夢を持たせないでください。私って、ほら、ガラスのハートで傷つきやすいんですよ。
領地開拓をガンガンして、町を発展させ、究極魔法にいそしむ人生プランで行かせていただきます。ある程度町が育ったら、外国へ視察してもいいななんて思ってるけど……。
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