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大移動、決行します! 6
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「おかえり! お姉さま」
フィリップが突然現れた私を見て大喜びしています。
「わーい、マカミもおかえり!」
ムギューっとフィリップはマカミを抱きしめました。ちょっと、お姉さまにハグは? どこに消えたの?
ちょっぴり寂しい気持ちになります。なぜ、マカミなんですか……。
マカミをジーッと見ましたが、マカミは私と視線を合わせません。
「こちらの方は?」
フィリップは紹介されるまできちんと待っています。おお、すごい、貴族教育の賜物です。
「ピュララティスのラティファ様です」
「お初にお目にかかります。ラッセル公の嫡男のフィリップと申します」
フィリップは膝を折って正式なご挨拶です。
わお! フィリップのご挨拶、初めてみた! 大きくなったのねえ。よちよちしていたのに。
感慨深いです。
ラティファ様はそっと手を差し伸べ、手の甲にフィリップの額を寄せることを許します。
さすが、美男美女。すごい絵になる! こういうところを絵姿に残すべきよね。
「ラティファとお呼びくださいね」
「光栄です。私のことはフィリップと」
無事面通しが終わって、ホッとしたのでした。
「ラティファ様!」
お母様が慌てて近寄ってきました。まさか、うちの屋敷の庭に隣の国の王女が出現とは思わなかったのでしょう。
息を切らしています。
そのあとをお父様がほぼ駆け足でやってきます。
あははは。大パニックです。思念波で会話しておけばよかったですね。今ごろ気がつきました。ごめんなさい、お父様、お母様。
貴族たるもの、万事万全であれ。
お父様とお母様は、ラティファ様の前に立つと、額に汗をかきながら、涼しい顔をしてご挨拶です。
「突然になってしまい、申し訳ございません。非公式ゆえ、堅苦しいことはなしでお願いします」
ラティファ様は申し訳なさそうに微笑みました。
「どうして急にラティファ様が?」と私の顔をお父様とお母様が見ます。
「実はタウルス様とラティファ様が私の領地にいらっしゃったのです」
お父様とお母様は顔がみるみるうちに青くなっていきます。
「タウルス様は、ご用事があるとかで、すでに出立されています。ラティファ様をこれから王都へお送りしようかと思います」
お父様はうんうんと頷きました。
「そろそろ午後のお茶の時間ですから、ラティファ様に軽く召し上がってもらいましょう」
お母様が微笑みます。女神の笑みは、健在です。
「そのあと、私が馬車でラティファ様を王都までお送りします。今夜は王都で一泊して、朝に戻りますね。お父様、お母様よろしいですか」
お父様は少し不安そうに頷きます。
「もちろんです。誰かお供につけましょう」
「ブラウンを連れて行きますから、大丈夫です」
私の答えにお母様はホッとしたようにうなずき、ラティファ様の手を取り、我が家の中へお誘いしました。
「私が王城へお送りしたかったのだが、今、ちょっと問題があるからなあ」
お父様が渋い顔で私に呟きます。
「どうしたのですか」
「町に物がなくなったのだ」
「はあ? それって……」
「食料も鉄製品、銅製品、材料もその場で取り上げだ」
「うちの地下の、隠し備蓄庫にいくらかあるとはいえ、緊急事態になってきた。私は町の惨状をなんとかしなければいけない」
「私のことは心配ご無用です。付き添いはブラウンがいますし、マカミも連れて行きますから」
笑顔でいうと、お父様はまだ心配そうにしています。
「こんな時に王都へは行かせたくないが、しかたない。早く帰っておいで。お前は無茶をするからなあ」
そういうと、私の持っていた遠見の珠を取り、細工し始めました。
「これをもっていきなさい」
魔法の術式が複雑に付与されています。
「あの、持っていればいいのですか」
「ああ、ただ持っていればいい。お前を守ってくれるから」
お父様は不安そうに微笑みました。
「わかりました。いつでも、持っていきます」
「うん、そうしておくれ。少なくともこの件が片付くまでは……」
お父様は大きくため息をつきました。
フィリップが突然現れた私を見て大喜びしています。
「わーい、マカミもおかえり!」
ムギューっとフィリップはマカミを抱きしめました。ちょっと、お姉さまにハグは? どこに消えたの?
ちょっぴり寂しい気持ちになります。なぜ、マカミなんですか……。
マカミをジーッと見ましたが、マカミは私と視線を合わせません。
「こちらの方は?」
フィリップは紹介されるまできちんと待っています。おお、すごい、貴族教育の賜物です。
「ピュララティスのラティファ様です」
「お初にお目にかかります。ラッセル公の嫡男のフィリップと申します」
フィリップは膝を折って正式なご挨拶です。
わお! フィリップのご挨拶、初めてみた! 大きくなったのねえ。よちよちしていたのに。
感慨深いです。
ラティファ様はそっと手を差し伸べ、手の甲にフィリップの額を寄せることを許します。
さすが、美男美女。すごい絵になる! こういうところを絵姿に残すべきよね。
「ラティファとお呼びくださいね」
「光栄です。私のことはフィリップと」
無事面通しが終わって、ホッとしたのでした。
「ラティファ様!」
お母様が慌てて近寄ってきました。まさか、うちの屋敷の庭に隣の国の王女が出現とは思わなかったのでしょう。
息を切らしています。
そのあとをお父様がほぼ駆け足でやってきます。
あははは。大パニックです。思念波で会話しておけばよかったですね。今ごろ気がつきました。ごめんなさい、お父様、お母様。
貴族たるもの、万事万全であれ。
お父様とお母様は、ラティファ様の前に立つと、額に汗をかきながら、涼しい顔をしてご挨拶です。
「突然になってしまい、申し訳ございません。非公式ゆえ、堅苦しいことはなしでお願いします」
ラティファ様は申し訳なさそうに微笑みました。
「どうして急にラティファ様が?」と私の顔をお父様とお母様が見ます。
「実はタウルス様とラティファ様が私の領地にいらっしゃったのです」
お父様とお母様は顔がみるみるうちに青くなっていきます。
「タウルス様は、ご用事があるとかで、すでに出立されています。ラティファ様をこれから王都へお送りしようかと思います」
お父様はうんうんと頷きました。
「そろそろ午後のお茶の時間ですから、ラティファ様に軽く召し上がってもらいましょう」
お母様が微笑みます。女神の笑みは、健在です。
「そのあと、私が馬車でラティファ様を王都までお送りします。今夜は王都で一泊して、朝に戻りますね。お父様、お母様よろしいですか」
お父様は少し不安そうに頷きます。
「もちろんです。誰かお供につけましょう」
「ブラウンを連れて行きますから、大丈夫です」
私の答えにお母様はホッとしたようにうなずき、ラティファ様の手を取り、我が家の中へお誘いしました。
「私が王城へお送りしたかったのだが、今、ちょっと問題があるからなあ」
お父様が渋い顔で私に呟きます。
「どうしたのですか」
「町に物がなくなったのだ」
「はあ? それって……」
「食料も鉄製品、銅製品、材料もその場で取り上げだ」
「うちの地下の、隠し備蓄庫にいくらかあるとはいえ、緊急事態になってきた。私は町の惨状をなんとかしなければいけない」
「私のことは心配ご無用です。付き添いはブラウンがいますし、マカミも連れて行きますから」
笑顔でいうと、お父様はまだ心配そうにしています。
「こんな時に王都へは行かせたくないが、しかたない。早く帰っておいで。お前は無茶をするからなあ」
そういうと、私の持っていた遠見の珠を取り、細工し始めました。
「これをもっていきなさい」
魔法の術式が複雑に付与されています。
「あの、持っていればいいのですか」
「ああ、ただ持っていればいい。お前を守ってくれるから」
お父様は不安そうに微笑みました。
「わかりました。いつでも、持っていきます」
「うん、そうしておくれ。少なくともこの件が片付くまでは……」
お父様は大きくため息をつきました。
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