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新・領地生活! 充実させるには…… 5

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「ただいま帰りました」
王子を連れて、私が屋敷に帰ると、お母さまとフィリップが出迎えてくれました。お母さまは相変わらずキレイで、優雅です。なんか腰の辺りとか、前よりも細くなりましたか? 思わず自分の腰のあたりに手を当ててみました。

「ようこそ、王子。おかえりなさい。アリス」
お母様は簡単に王子に挨拶して、私をぎゅっと抱きしめます。王子は非公式の、秘密の訪問で、何度もこちらにいらしているからです。

「王子、ようこそわが家へいらっしゃいました。お姉さま、おかえりなさい」
フィリップも抱き着いてきました。
家族って、いいものですね。お母さまとフィリップのぬくもりと感触
……。

「当家の主人はあいにく……王都から来客中でして……。ごめんね、アリス。二人をお父さまも出迎えたかったんだけどね……」
「王都? 来客?」
王子はピクっと眉を動かします。

「ええ、王都からの使者で……、たぶんそろそろおかえりになると思うんですけど」
お母様はちらっと王子の顔を見ました。

王子はあわてて正面から姿が見えないように位置をずらしました。
「王子、アリスと一緒にいてくださり、本当にありがとうございます」
お母さまは小さな声で言いました。

「当然のことです。アリス一人では危ないですから」
王子とお母様は顔を見合わせて、お互い口角をあげました。

バン。
「とりあえず、ラッセル公には伝えましたから」

使者は逃げるように部屋から飛び出ると、階下のホールにいた私たちに軽く礼をして立ち去りました。

うわ、お父様の機嫌がすっごく悪そうな予感がします。

バン。
また2階で大きな音がしました。

お父様がやけくそに書斎のドアを扱ったに違いありません。

おお、怖い! いつも冷静で、穏やかなお父様が、腹立ち紛れにドアを強く閉めるなんて、ただごとではありません。

お母様のこめかみがピクっと動きました。フィリップは嵐を感じ、私の方へすり寄ってきます。
ドンドンと階段を乱暴に降りる音がします。

お父様のやり切れない気持ちが伝わってきました。

ホールは、お父様を慮って静まりかえっています。
王子は2階から降りるお父様の方をまっすぐに見ました。お父様も王子の視線に気がついたようで、慌てて階下に降りてきます。

「王子、この度は娘がお世話になりました。いろいろご不便をおかけしたかと思いますが、元気にお戻りになられて、幸いでございます」

「いや、お世話というほどのことはしていないよ。アリスはとても優秀な開拓者で、パワフルだからね」
お父様は王子に開拓を知られたので、頬が引きつっています。

王子はにっこりと笑い、
「大丈夫、僕からは王家に開拓の報告しないよ。ラッセル公、安心してください」
「……、ありがとうございます。お気遣い感謝します」
お父様は首を垂れました。

「さあ、顔を上げてください。婚約した仲なんですから」
王子がしれっと言うと、ホールには、婚約破棄されたけどね……という微妙な雰囲気が流れました。

王子、冗談になってませんよ。

「うううん、まあ、王子がそうおっしゃるなら……」
お父様がモヤモヤとした空気を割りました。

お父様は心配そうに私と王子を見比べます。私たちの現在の関係性を思案しているようです。とりあえず、ケンカはしていなさそうだと判断したのでしょう。

安堵の様子がみてとれました。

「さきほどの、王都から使者は、何と言ってきたのですか」
王子が真剣な顔で問います。

「……、副教皇と王から、小麦の在庫をあるだけ差し出せと……」
「は?」
王子は驚いて聞き返します。

「トラウデンはここ数日で物価が急上昇しています。値段を下げるため、昨年の備蓄用の小麦の放出を考えていたのですが……。備蓄用も差し出せというのです。そして、足りない分は人員をよこせと……。」
王子は深刻そうな顔をしています。

「金属も召し上げられ、金属加工職人たちも王都へ召し上げられていきました。その上、備蓄用食料の要求です。王都では、いったい何が起こっているのですか。良き前触れとは思えません」

お父様は言葉を選んで王子に説明を求めます。

「まるで、徴兵……ですね」
王子はぶつぶつとつぶやきました。

徴兵……? それって、戦争ってこと?

「ええ、不穏な空気を感じます」
お父様は王子を不安そうに見つめました。

「ご報告、ありがとうございます。僕はこれから急いで王都へ戻ろうと思います。真相をつかみ、事態の解決を目指そうと思います」

「それがいいと思います。お気をつけてお帰り下さい。ちょうど王都は、2日後の王の誕生祭の準備で、混んでいる頃でしょう」
お母様は道の渋滞を指摘しました。

「わかりました。ブラックナイトで裏道を駆け抜ければ、さほど時間はかからないと思います」
王子は一礼して、踵を返します。悲しそうな、寂しそうな顔でした。

王子の、不安そうな気持ちをなんとかしてあげたい。一緒にいてあげたいなんておもってしまいましたが、私には、何もできません。

空間切り裂き魔法で王子とブラックナイトをお送りしてもいいのですが、それでは王子の帰還としてはまずいのです。

考えてもみてください。視察に出ていた王子が元婚約者の空間切り裂き魔法で帰還なんて、スキャンダルのほかありません。

何とも歯がゆい気持ちで王子を見送ることになりました。

王子は挨拶をして、ブラックナイトに乗ると、急いで王都へ戻っていきました。
飛ぶような、すごい速いです。さすがです。無事、城までつくといいのですが……。

あっという間に見えなくなり、王子の背中を探しても、見ることはできませんでした。私はため息をついて、家に戻ります。

お父様が「おかえり」と抱きしめてくれました。
「小麦も金属も召し上げられているのですか……」
町で見た光景を確かめようとお父さまに確認します。
「ああ、ひどいもんだよ。いよいよな感じだな」
お父様は腕を組みます。

「お父様、こんな時に申し訳ないのですが、こちらも火急なので……。実は、新しく開拓したところで、人員が不足しておりまして……」
「おお、そうか。それは頑張ったね」
「はい、塩の精製所、原油の汲み出し、温泉施設などを回すためにも人が欲しいのです。トラウデンの町から募集してもよろしいですか?」
お父様の顔色を見ました。
「ああ、ちょうどいいのかもしれないな」
お父様は苦い顔をしています。
「……」
「失業している人員はいなくなる。つまりだ、王からの徴兵にやる人員はないというわけだ」
「なるほど……」
教会、王さまとの対立なんてうちの領民には関係ありません。ましては愛人問題です。小麦も金属も持っていったんだから、もう町の人には手を出してほしくありません。

「副教皇は教会税を増やして、王と対立しようとしてるようだな」
「そんな……。じゃあ金属は? まるで戦争じゃないですか」
「可能性はあるね。食料を集め、金属を集め、人員を集めるなんて、それしかありえない。どこと戦争をするつもりなんだか……。貴族たちの間でもうわさが飛んでいるよ」





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