51 / 83
海辺の町リマー 5
しおりを挟む
「……、ね? そろそろアリス、冷えてきたからおしまい」
王子は静かに窓を閉めます。それからポットから温かいホットミルクを注いでくれました。
「これはガイソンからの差し入れ。体が温まるよ」
王子も自分のカップに注ぎました。
「ありがとうございます」
ナディにもガイソンにも、ブラウンにもバレていたとは……。みんなありがとう。
王子にも感謝です。
「もう温かくなったかな」
王子は私の両手をそっと包み込むように手で覆い、体温を確かめ、それから私の指に唇を落としました。
ちらっと王子は上目遣いで私を見ます。
やめて……、見ないで。恥ずかしいから。
顔がみるみるうちにまた熱くなっていくのが分かります。
王子は嬉しそうにニヤッと笑いました。
この……、腹黒!
二人の間に甘い空気が流れます。
夜もだいぶ更けたので、自室に入ろうと、階段をそっと降りてきました。宿はシーンとしています。
私は王子の方を振り向きました。最後におやすみのあいさつをしなくてはね。
「王子、きょうは星空まで付き合ってくださり、ありがとうございます」
礼儀正しく、あいさつしたつもりですが、王子はにっこりと黒のほほ笑みをすると、私の腕を軽く引っ張りました。
「きゃ」
前のめりになった私を王子が軽く抱きしめます。
「やっぱり、前から抱きしめたほうが僕は好きだな」
「王子……。もう……」
せっかく冷えたのに、また顔が赤くなります。なんか距離が、距離が近いんですよ。きょうはずいぶん積極的ですね……。
「ゆっくりお休み。よい夢を」
王子は一瞬躊躇して……、それからそっと頬にキスしていきました。
「王子も……、おやすみなさい」
私が王子の顔を見ると、王子も私をじっと見ています。二人の間に濃密な空気が漂っています。離れがたくて……、私たちはしばらくそのまま抱き合っていましたが、やがてそれぞれの自室へ戻ったのでした。
部屋に入って、ベッドにダイブです。マカミが振動で薄目を開けましたが、また寝ています。
あんなにバックハグされて、はぐされて、眠れるわけないですよね。
ええ、わたしは興奮状態ですよ。
ベッドでゴロゴロしていても、さっきの抱きしめられたことや、後ろからささやかれたことを思い出しては、足をバタつかせてしまいますを
だめだ、眠れない。かといって、一人でまた屋根裏部屋に行ったら、足音でバレて絶対怒られます。
明日は空間切り裂き魔法を使って、シタラとマイヤのところに戻り、お父さま、お母さまたちのいる屋敷まで移動します。リマーともお別れです。
部屋の窓におでこをつけて、外を見ます。ガラスでおでこが冷えて気持ちがいいです。
早出の漁師たちが数人、懐中電灯をもって家を出るところでしょうか。港に向かって歩いていきます。まだまだ空は真っ暗ですが、あと数時間後にはオレンジ色に染まり始めるでしょう。
なんだか視線を感じて、街灯の方を見ると、男たちが数人、私の部屋を見ていました。ええ? 見張られてる?? あの人たちって……、赤マントたちだ。
しつこいなあ。この部屋まで監視するって、何が目的なんだろう。領地開拓の監視ってわけでもなさそう。それに、あの人たちって、誰が裏で糸を引いているんだろう。
不思議です。あの赤、ヘカサアイ王国の民族衣装の赤っぽいんですよね。
仮にヘカサアイ王国の暗殺部隊だったとして……。やだ、なんで私が暗殺されないといけないの? ヘカサアイ王国の人に?? なんかしちゃった? というか関わりすらないんですけど。
他に考えられるのは、うーん、うーん。ほら、王子の現在の婚約者。あの方くらいしか、私のことを嫌う方はいないと思うんです。
私、辺境の地の公爵令嬢ですからね……、上位貴族のお友達って少ないんですよ。
いっそ、犯人をあぶりだすために……。なんて考えていたら、まぶたが重くなっていました。
明日も朝から頑張ります!
王子は静かに窓を閉めます。それからポットから温かいホットミルクを注いでくれました。
「これはガイソンからの差し入れ。体が温まるよ」
王子も自分のカップに注ぎました。
「ありがとうございます」
ナディにもガイソンにも、ブラウンにもバレていたとは……。みんなありがとう。
王子にも感謝です。
「もう温かくなったかな」
王子は私の両手をそっと包み込むように手で覆い、体温を確かめ、それから私の指に唇を落としました。
ちらっと王子は上目遣いで私を見ます。
やめて……、見ないで。恥ずかしいから。
顔がみるみるうちにまた熱くなっていくのが分かります。
王子は嬉しそうにニヤッと笑いました。
この……、腹黒!
二人の間に甘い空気が流れます。
夜もだいぶ更けたので、自室に入ろうと、階段をそっと降りてきました。宿はシーンとしています。
私は王子の方を振り向きました。最後におやすみのあいさつをしなくてはね。
「王子、きょうは星空まで付き合ってくださり、ありがとうございます」
礼儀正しく、あいさつしたつもりですが、王子はにっこりと黒のほほ笑みをすると、私の腕を軽く引っ張りました。
「きゃ」
前のめりになった私を王子が軽く抱きしめます。
「やっぱり、前から抱きしめたほうが僕は好きだな」
「王子……。もう……」
せっかく冷えたのに、また顔が赤くなります。なんか距離が、距離が近いんですよ。きょうはずいぶん積極的ですね……。
「ゆっくりお休み。よい夢を」
王子は一瞬躊躇して……、それからそっと頬にキスしていきました。
「王子も……、おやすみなさい」
私が王子の顔を見ると、王子も私をじっと見ています。二人の間に濃密な空気が漂っています。離れがたくて……、私たちはしばらくそのまま抱き合っていましたが、やがてそれぞれの自室へ戻ったのでした。
部屋に入って、ベッドにダイブです。マカミが振動で薄目を開けましたが、また寝ています。
あんなにバックハグされて、はぐされて、眠れるわけないですよね。
ええ、わたしは興奮状態ですよ。
ベッドでゴロゴロしていても、さっきの抱きしめられたことや、後ろからささやかれたことを思い出しては、足をバタつかせてしまいますを
だめだ、眠れない。かといって、一人でまた屋根裏部屋に行ったら、足音でバレて絶対怒られます。
明日は空間切り裂き魔法を使って、シタラとマイヤのところに戻り、お父さま、お母さまたちのいる屋敷まで移動します。リマーともお別れです。
部屋の窓におでこをつけて、外を見ます。ガラスでおでこが冷えて気持ちがいいです。
早出の漁師たちが数人、懐中電灯をもって家を出るところでしょうか。港に向かって歩いていきます。まだまだ空は真っ暗ですが、あと数時間後にはオレンジ色に染まり始めるでしょう。
なんだか視線を感じて、街灯の方を見ると、男たちが数人、私の部屋を見ていました。ええ? 見張られてる?? あの人たちって……、赤マントたちだ。
しつこいなあ。この部屋まで監視するって、何が目的なんだろう。領地開拓の監視ってわけでもなさそう。それに、あの人たちって、誰が裏で糸を引いているんだろう。
不思議です。あの赤、ヘカサアイ王国の民族衣装の赤っぽいんですよね。
仮にヘカサアイ王国の暗殺部隊だったとして……。やだ、なんで私が暗殺されないといけないの? ヘカサアイ王国の人に?? なんかしちゃった? というか関わりすらないんですけど。
他に考えられるのは、うーん、うーん。ほら、王子の現在の婚約者。あの方くらいしか、私のことを嫌う方はいないと思うんです。
私、辺境の地の公爵令嬢ですからね……、上位貴族のお友達って少ないんですよ。
いっそ、犯人をあぶりだすために……。なんて考えていたら、まぶたが重くなっていました。
明日も朝から頑張ります!
0
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる