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海辺の町リマー 5

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「……、ね? そろそろアリス、冷えてきたからおしまい」
王子は静かに窓を閉めます。それからポットから温かいホットミルクを注いでくれました。

「これはガイソンからの差し入れ。体が温まるよ」
王子も自分のカップに注ぎました。

「ありがとうございます」
ナディにもガイソンにも、ブラウンにもバレていたとは……。みんなありがとう。

王子にも感謝です。

「もう温かくなったかな」
王子は私の両手をそっと包み込むように手で覆い、体温を確かめ、それから私の指に唇を落としました。

ちらっと王子は上目遣いで私を見ます。
やめて……、見ないで。恥ずかしいから。
顔がみるみるうちにまた熱くなっていくのが分かります。

王子は嬉しそうにニヤッと笑いました。
この……、腹黒!
二人の間に甘い空気が流れます。

夜もだいぶ更けたので、自室に入ろうと、階段をそっと降りてきました。宿はシーンとしています。

私は王子の方を振り向きました。最後におやすみのあいさつをしなくてはね。

「王子、きょうは星空まで付き合ってくださり、ありがとうございます」
礼儀正しく、あいさつしたつもりですが、王子はにっこりと黒のほほ笑みをすると、私の腕を軽く引っ張りました。
「きゃ」

前のめりになった私を王子が軽く抱きしめます。
「やっぱり、前から抱きしめたほうが僕は好きだな」
「王子……。もう……」

せっかく冷えたのに、また顔が赤くなります。なんか距離が、距離が近いんですよ。きょうはずいぶん積極的ですね……。

「ゆっくりお休み。よい夢を」
王子は一瞬躊躇して……、それからそっと頬にキスしていきました。
「王子も……、おやすみなさい」

私が王子の顔を見ると、王子も私をじっと見ています。二人の間に濃密な空気が漂っています。離れがたくて……、私たちはしばらくそのまま抱き合っていましたが、やがてそれぞれの自室へ戻ったのでした。

部屋に入って、ベッドにダイブです。マカミが振動で薄目を開けましたが、また寝ています。

あんなにバックハグされて、はぐされて、眠れるわけないですよね。
ええ、わたしは興奮状態ですよ。

ベッドでゴロゴロしていても、さっきの抱きしめられたことや、後ろからささやかれたことを思い出しては、足をバタつかせてしまいますを

だめだ、眠れない。かといって、一人でまた屋根裏部屋に行ったら、足音でバレて絶対怒られます。

明日は空間切り裂き魔法を使って、シタラとマイヤのところに戻り、お父さま、お母さまたちのいる屋敷まで移動します。リマーともお別れです。

部屋の窓におでこをつけて、外を見ます。ガラスでおでこが冷えて気持ちがいいです。

早出の漁師たちが数人、懐中電灯をもって家を出るところでしょうか。港に向かって歩いていきます。まだまだ空は真っ暗ですが、あと数時間後にはオレンジ色に染まり始めるでしょう。

なんだか視線を感じて、街灯の方を見ると、男たちが数人、私の部屋を見ていました。ええ? 見張られてる?? あの人たちって……、赤マントたちだ。

しつこいなあ。この部屋まで監視するって、何が目的なんだろう。領地開拓の監視ってわけでもなさそう。それに、あの人たちって、誰が裏で糸を引いているんだろう。

不思議です。あの赤、ヘカサアイ王国の民族衣装の赤っぽいんですよね。

仮にヘカサアイ王国の暗殺部隊だったとして……。やだ、なんで私が暗殺されないといけないの? ヘカサアイ王国の人に?? なんかしちゃった? というか関わりすらないんですけど。

他に考えられるのは、うーん、うーん。ほら、王子の現在の婚約者。あの方くらいしか、私のことを嫌う方はいないと思うんです。

私、辺境の地の公爵令嬢ですからね……、上位貴族のお友達って少ないんですよ。

いっそ、犯人をあぶりだすために……。なんて考えていたら、まぶたが重くなっていました。

明日も朝から頑張ります!
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