上 下
45 / 83

一時帰還して……作戦会議 3

しおりを挟む
この白い大地はどこまで続いているのでしょう?
私たちは確認するためにエルメシュ山脈のほうへ歩いていきます。

白い土地はだんだん薄くなって、塩が少なくなり、普通の茶色の土になっていきます。ぽつりぽつりと草が生え始め、とうとう山のふもとまでたどり着きました。

ここはエルメシュ山脈のふもとですね。青々と草木が茂った山並みが近く見えます。
「とりあえず、この辺りまでにしておきますか?」
ブラウンと王子に同意を求めると、2人は大きく頷きました。

「では、ここまでアリス・ラッセルが領地とすることを宣言します」

私が述べると、賛成とばかりに白い大地から小さな旋風が起こりました。見えざる土地のもの、この土地の先祖たちも反対はないってことね。よかった……。

さて、次は塩の精製施設と温泉施設の準備もしないと……。ならば、最初にここにも拠点になる、私の屋敷も作っておいた方がいいかもしれませんね。
やることが多すぎてめまいがしそうです。

お父様に頼んで、建築を手伝ってもらいましょうか。それとも王子に……。王子は頼ってはだめです。いい人っぽいし、優しいし、面白いけど……、でも王室の人ですからね。それに、婚約者もいるし。

でも、でも……、今すぐに建てたい。完成させたい。ああ、どうしたらいいのでしょう……。

はっ。
そういえば、私、レンガも作れるかもしれません。焼き物ができるんですから、レンガも作れるはずです。

「ねえ、ブラウン、ちょっとだけここに滞在してもいい?」
「はあ、いいですけど」
ブラウンは土を掘り始め、塩水を汲み始めました。

「ここのあたりに、3棟ほど建物、建ててくるね」
「……」
ブラウンは黙って私をみつめ、ため息をつきました。

「いいですか、危ないことはしないでくださいよ」
「はい」
「なら、自由にしていいですよ。ここはお嬢さまの領地になさるんでしょ? 善は急げです」
ブラウンは苦笑しています。

ブラウンからお許しも出たところで、さあ、やりますか!

「究極魔法・土、レンガ成型、窯成型」
私は大きく手をふるいます。ちょっと遠くから土を運んでくるため、動作も大きくなります。

この辺の土は塩が混じっているので、シタラとマイヤのところで出た泥や粘土を使うことにしたのです。
この土たちはどんどんレンガの形に並んでいきます。

「究極魔法・風、一気に乾燥」
レンガの水を抜いて、窯で焼きます。究極魔法・火で細く長時間焼きます。

大型建物3棟分ですからね、いったい何個レンガがいるんでしょうか。死にそうです……が、頼れるのは己のみ。邁進です。

超スピードで仕上げていきます。
どうでしょう……。レンガはもういけるかな。
がんがん積み上げていきます。

あとは内装の木材ですね。木を切ってこないと。インテリアはゆっくり考えればいいでしょうか。とりあえずできること、できるものをやっていきます。

できたら水道もひきたい……。温泉もひきたい……。欲望と野望が入り交じり、忙しすぎて笑うしかありません。

3日後。
終わりました。できました。

カッコいいでしょ? レンガ造りの建物ですよ。温泉施設もこの建物を起点に発展すればいいですし、塩精製設備のための建物もできました。この領地もうまくまわせると思います。

ほっとしたら眠くて死にそうになりました。魔力が半分ほど減りましたよ。ちょっとふらふらするんで、ご飯を食べて、少し寝せてもらいますね。

ブラウンのパンとスープ、おいしい……。
目が……、瞼が……、開けていられません。どこか遠くから幻聴が聞こえます。

「アリス、アリス?」
王子が甘く優しく呼んでいます。

瞼をこすりながら目を開けると、王子の顔がありました。ヤバいです。幻聴の他に幻視です。体力の限界が来ています。

「大丈夫? 食べながら寝ちゃ……、危険だよ」
王子はぐにゃぐにゃの私を支えてくれました。

あったかい……。王子がいるはずはないんですけど……。
思わずぎゅーと抱きしめてしまいました。

「アリス……」
王子の顔が近づいてきます。

すいません。もう無理です。おやすみなさい。
ばたんと後ろに倒れそうになった私を王子が支えてくれました。

それからそっとマジックポケットのベッドに運んでくれました。ありがとう……。王子……。

幸せな夢から覚めると、ブラウンとマカミ、それと王子が私の様子を伺っていました。

あまりにも爆睡していたので、心配していたとのことです。すいません、すいません。

「あの、ご飯の時にいたのは……」
「王子です」
ブラウンはベッドメイキングを始めました。私はさっさとベッドから出るよう促されます。

「ベッドに連れて来てくれたのは……」
「ふふふ。王子ですよ」
ブラウンは瞳をキランとさせ、口角を上げました。

「……」
不覚です。ほんとうに油断していました。

「王子に横抱きに抱かれて、ほんと、素敵な光景でしたよ。お嬢さまが寝こけてなければもっと素晴らしかったですけど」
顔から火が拭くほど恥ずかしくて、身体中の血が沸騰しそうです。

ショック……。いわゆるお姫様抱っこじゃないですか。やっぱり王子、いたんですね。幻聴、幻視じゃなかった……。

「よだれも拭いてあげるし、いつでもアリスのことをベッドに運んであげるよ」
嫌がらせでしょうか……。王子は底意地の悪そうな笑いをしています。

ひーん。夢の中に王子がいると思って、思わず抱きしめちゃったことも……、現実ですよね。
ああ、消えてなくなりたい。
死の大地の風が私を慰めるように流れて行きました。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...