婚約破棄されましたが、もふもふと一緒に領地拡大にいそしみます

百道みずほ

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道がないなら、作ります 3

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しばらく歩くとまた川があった。先ほどと同様、細くて頼りない、簡易的な橋が架かっている。

橋を作る大工が同じなんだろう。もしかすると、何度も橋が流されているってことなんだろうか。

私は周りを見渡した。ここもさっきのシタラのところの集落とさほど変わらなかった。地面は何となく湿っていていて、岩や木には泥の線がついている。

少し歩いていくと、青々とした葉がある畑が続いていた。

「すいません。この集落のまとめ役にお会いしたいんですけど」
畑にしゃがみこんで作業していた若い男性に私が声をかけると、男性は立ち上がって「あっちに行くと、茶色の屋根の家がある」と教えてくれた。

「こんにちは。この集落の……、まとめ役だと聞いて来たんですが」
ドアをノックしてみました。

ちょうど休憩していたみたい。皺が深く刻み込まれていた初老の男性マイヤがドアを開けて対応してくれました。

「あんた、どっかでみたことがあるな……。トラウデンの町で……、あんた、ラッセル公爵の娘だろう」
マイヤが私を見つめました。

「……はあ、よくご存じで」
「先々月、トラウデンへ行ったからなあ。税金を払いに」
マイヤは苦々しそうに言いました。

「すいません。恐れ入ります」
ちょっと遠いですよね、ここからトラウデンの町は……。

「そん時、あんた、町をぶらついていただろう。町の人が教えてくれたよ」
「ここのところ、水害で悩まされていると聞いたのですが……」
王子が話を切り出しました。

「ああ、山が崩れてからか、最近山から水が勢いよく流れてくるんだ。エコメ川が反乱を起こしてなあ……。メコイ川も同じだから、隣の集落のシタラにも聞くがいいよ」
「はい、シタラのところは、先に聞いてきました」
「そうか、この辺りは……育てても、水のせいでなかなか収穫できなくてなぁ」
私が応えると、悲しそうにマイヤはうなずいた。

「ところで、お前ら、ここにいったい何しに来たんだ? ここにいても何もないぞ、貧乏だからな」
「視察です」
王子がきっぱりと言うと、マイヤは顔をしかめた。

「視察か……。お前らに何かできるとは思えないけどな。まあ、王都へ報告して、何とかしてもらってくれ」

失礼な言い方だなあと思いましたが、それくらい切羽詰まった状況なのかもしれません。

家の中も薄暗く、なんとなく湿っています。
「先週も川の氾濫があり、運悪くここも浸水して……。ようやくこの家から泥をかきだしたばかりだよ」
マイヤは大きなため息をつきました。

「何かお手伝いすることはありますか?」
「ラッセル公爵のお嬢さんには何もできないよ」
けんもほろろに断られました。

がーん。
私、けっこう頑張れば何かできると思うんですよ。
しかし、お父さまの名にかけて、これは何とかしないといけません。

私たちは実際川を見てみることにしました。

川は下流に少しいくと2本がまとまって、川岸も広がり緩やかな流れに変わっていました。

うーむ、下流はここまで来ると、そう氾濫することもないかもしれませんね。
ゆったりと水が流れています。でも、少し濁ってるかな。綺麗な水になったら釣りをしたり、水遊びができそうです。

やはり問題は上流にあるようです。

今度はどんどん川をのぼってみることにしました。エコン川もエコメ川もかなり蛇行していて……、大きな岩が流れを変えていました。

もともとエコン川とエコメ川も一つの川が源流です。うーん、どうしたらいいでしょう。

「なるほど、たくさんの大きな岩が山から落ちてきたから……、川の流れが2つに分けられたというわけだ」

王子は大きな岩の上に腕を組んで立っています。銀色の髪が山からの風にそよいでいます。
なんか、ヒーローに見えないこともないですが……。

いえいえ、これ以上突っ込まないでおきます。王子が調子に乗るのも癪です。

河原には、王子の身長よりも大きな岩が何十個と転がっています。ここで、大規模な山崩れがあったことを物語っています。

私たちは山歩きに疲れて、岩の上に座りました。
ブラウンがマジックポケットからうちの厨房長が作ってくれたマドレーヌと麦茶を出してくれました。
甘くておいしい。疲れた体に糖分が染み渡る……。
冷たいお茶、最高です!

お茶を飲みながら、ぼーっと川の流れを見ていると、意外に泥水で濁っていました。

「まだ、地盤が緩んでいるのかもしれませんね」
ブラウンが心配そうに山の方を見ます。激しい雨が降ったり、長雨になったら、また地滑りがあるかもしれません。

もとは1本の川なんだから、中流もまた1本にすればいいかな。どうなんだろう。最近とは言え、やっぱり2本になっているから2本の方がいいの? やはり一本のほうがいいよね。

「まずあの岩たちが、邪魔なんだよね」
王子は指を指した。

「そうですね。あの岩がなかったら……。少しは水の勢いが収まるでしょうか」
椅子にしている岩をペシペシと叩いてみた。いい音がしますね、なんてね。あれ、なんか動いた?

いやいや、私はそんなに力持ちじゃないですよ。ほんとに。偶然です。きっと、岩が動いたのは。

「いくらか流れは変わると思うけど……、岩をどかしただけじゃ、やっぱりダメだと思う。こんなに急に曲がりくねった川なら……、この蛇行している部分を解消しない限り、2本の川はこのままずっと氾濫しつづけるだろうね」
王子は渋い顔をする。

「いつか、大雨が降って、エコン川もエコメ川も同時に氾濫したら……、この2つの集落は飲み込まれてしまう可能性がありますね」
ブラウンが地図を広げた。

「じゃ……、蛇行をゆるやかにして、1本にしたら、どう? 川の流れを変えればいいだよね」
私は考えていることを提案してみた。

一本にするって、ダメ? 川の流れを変えられそうだけど。ねえねえ、どう思う?
私は王子とブラウンの顔をみくらべます。

やっぱり使うなら究極魔法土? それとも水魔法? たぶん、できるはず。

「それは……、一本にした方がいいとけれど……。時間も人手もかかるぞ、本気か?」
王子は眉をしかめました。

「うん、……わかった。じゃあ、まとめ役のシタラとマイヤを呼んできてくれる? 計画するわ」
王子も賛成してくれたし! あとはなんとかなるでしょう!!

ブラウンがピーッと指笛すると、マジックポケットの中から、ブラックナイトが出てきて……。ブラウンはどうやらブラックナイトに乗って、集落まで行くみたい。

王子は苦笑しています。
「僕の馬が乗っ取られたぞ」

「すいません、王子、馬を借りて行きます」ブラウンはブラックナイトの背に跨ると、颯爽と駆けていきました。

ブラウン、カッコいい!

さてと。
どういう川の流れがいいかな。

ブラウンから受け取った地図で、理想の川の流れを見つけます。
うーん、この辺りでしょうか。指で辿っていきます。それとも、このラインがいい?

「ねえ、アリス、川を1本にするって言ったけどさ……」
「はい。言いましたけど」
私は王子の顔を見る。

「できるの? というか、アリス1人でやるの? そんな魔法量あるの? 大丈夫なの?」
王子は不安そうにしています。

「大丈夫ですよ。たぶん、すぐできます」
「え? アリスが倒れたり、ケガをしたりなんて、僕はいやだよ」

「ぜんぜん、ほんと、大丈夫ですから」
王子は私の目を見つめて、髪に指を通して漉きました。




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