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来なくていいのに 2
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「お母さま……。教会や王家に見つからないようなタイミングを考えております。今回は……、私とマカミだけで開拓できる土地を探しに行くつもりです」
「そうねえ……。移動の禁止に引っかかるものね。見つかると罰金、それで済めばいいけど、収監とか……。恐ろしいものね」
お母さまは肩をすくめた。
「私にはマジックポケットもあるし、空間切り裂き魔法もありますから、移住したとしても、移動の禁止に引っかかることはないと思います」
「そうね、あなたはそれができるから……」
お母さまは顎に手を当てた。お母さまもいろいろ考えてくれているみたい。
「問題は住民の移動の時ですが、そちらも一応、時期や方法など考えているのですが……」
「ちゃんと考えているね。えらいわ、アリス」
お母さまはにこりと笑いました。
そうです、私はやればできる子なんです。ふふふ。
「お父さま……。これは何かあった時のための剣だ。隠し持っておきなさい」
お父さまが部屋に入ってきて、私の手に新しい短剣を握らせました。
「ええええ! 短剣!」
柄は金と銀でできており、繊細で優美の彫り物がほどこされています。鞘には同じように金と銀で彫り物がされており、サファイアを中心に宝石がちりばめられて……。刃は鋭くよく切れそうです。窓から入ってきた日差しを反射して刃がきらめきました。
「こ、この彫り物って……犬? 狼? マカミ? マカミですよね? お父さま、ありがとうございます!」
でもなあ……、これ、もったいなくて使うなんてできませんよ。マカミまで彫ってあるなんて!
しかも、美しさと言ったら……。お父さまのことだから、きっと、職人に作らせた最高級な品物なんだろうな。すいませんとありがとうで心がいっぱいです。
うん? ってことは、護身用以外の用途が、他にも何かあるってこと?
私がじっと見ていたら、お父さまは微笑んだ。
「使う機会がなければいいが、やむなく使う時があるかもしれないだろう? 常に身につけておきなさい。金がなければ売ることだってできるし、身を守ることだってできる。いざという時にきっと守ってくれるはずだ」
お父さまは私に約束するように促した。
「はい。ありがとうございます。この宝石って……」
「うちの領地で採れたものだ。この土地の護りがお前にあるように……」
お父さまは言葉に詰まっている。
私はうなずきました。
「ところで……、いつ出発するつもりだ?」
「明日か、明後日にでも……」
「早いな」
お父さまは目を伏せた。お父さまのまつ毛が濡れている。
お父さま、泣かないで。
「すいません。探査はなるべく早く、季節がよいうちに済ませたいのです」
「アリスは我々のために行くんだ。謝ることはないよ」
「……」
私の目にも涙がたまってきます。
お父さま、お母さま……。アリスは頑張ってきますから。
フィリップは私のドレスをちょっとだけ握ってきた。
「すぐ帰ってね! 約束だよ?」
フィリップの上目遣い、強烈です。お姉ちゃんがぎゅーしてあげましょうね!
あれ? 逃げないの?
珍しいね。
うう、なんだか私も寂しくなってきました。
「旦那様」
執事が部屋を激しくノックしています。
あれ? いつも冷静なセバスが若干焦っている?
「どうした?」
お父さまはセバスの様子から、ただ事ではないと感じ取ったみたい。
セバスが言いづらそうにしている。
私にはいつもずばずば言うくせに……。なんて思ってはいけませんね。
でも、なんかいやぁな予感がします……。気のせい?
「あの……。約束をしているとおっしゃっている、高貴そうな、ええ、とっても高貴そうな……、若い男性なのですが、なんといえばいいのでしょうか。お忍びのようなのです。うちの奥にあった肖像画、そっくりの方で、おそらく……」
一生懸命セバスが説明する。
「げげげ!」
ピンときた私はお母さまの顔を見た。
「はあああ」
お母さまは大きく息を吐き、お父さまは苦い顔をした。
まさか、まさかだよね。きのうの今日だよ? まだ朝、いや、もう昼に近いけど……。いやいや、そういう問題じゃなくて……、おかしくない?
私が予想しているのは、昨日の人です。勝手に友人となった人ですね。私がいなくても、たっくさんの御友人をお持ちだと思うのです。わざわざ瑕疵つきの私を選ばなくても……。
というか、ほんと、うちの領土に来なくてもいいんだけど。ついでに来るって言っていたけど、ちっともついでじゃないじゃないよ。わざと来たんでしょ。ぜったいわざだ。
「ああ、わかった。セバス、ありがとう。応対の準備を頼む」
お父さまは玄関ホールへ速足で急ぎます。お母さまもささっと御髪を直し、ブラウンに私の服を取り返させるよう命じました。
ブラウンの眼がキランとしていますよ。ええ? また着替えるの?
「ねえ、ほんとうに私、着替えるの?」
これから旅の準備をするというのにから、動きやすくて汚れてもいい服を着たのに。なんて無駄なことをしたんだ。この労力、返せといいたいですが、王子相手じゃね……。ため息が出ちゃいます。
「ほら、着替えますよ。さあさあ、急いでください。お嬢さまは、いつも手を抜き過ぎるんですよ」
ブラウンは嬉しそうに鼻歌を歌いながらクローゼットのなかを探しています。
クローゼットから来客応対用のドレスを持ってきてくれました。それでも着心地がいいやつだったので、ホッとしました。
さすが私のことをわかってる!
神業さく裂で1分で着替えます。
ブラウン、ありがとう……。着せ替えしやすいやつを選んでくれて。
きょうは準ドレスです。日常生活よりも少しランクが上で、昼間用の服です。薄グリーンの薄い生地が重なっていて、優雅な感じを演出。
急なご訪問と言うことで、コルセットはなしで、ゆったり目のデザインのものです。
宝石のネックレスというのも、仰々しいかなと思い、小さな花のブローチを胸にあしらいました。
ブラウンのコーディネートだけどね。すごいスピードで完成されました。
ふう。汗が出るわ。こういうのやめてほしい。鏡をみて、ブラウンの顔色を確認します。
ブラウンからOKがでました!
慌てて玄関ホールへ駆けつけると、王子が帽子をとって、お父さまとお母さまに優雅なご挨拶をしていました。
何とか間に合ったかな。
「ようこそ。おいでくださり、光栄です」
私はカーテンシーをする。
玄関ホールの一部に旅の荷物が置いてあるんだけど、見つかってないわよね。
セバスに視線を送ると、セバスの顔色が若干変わった。小さくうなずいて、王子たちを荷物が目立たないように立ち位置を変えて、サロンへ通し始めた。
私は急いで調理器具や食料の詰めたある木の箱をマジックポケットにしまったけど……。
見た? 王子、見ちゃった? セ、セーフだよね?
うーん。やっぱりフライパンとか鍋、見えちゃったよね……。ま、いっか。王子だし、どうせ何に使うかわからないでしょ。もしかしたら、フライパンってもの自体、知らないかもしれないし。だって、王子さまだもの。
うんうん、きっと大丈夫。
さて、私もサロンへ急なきゃ!
「ああ、正式なご挨拶は結構です。非公式に、ただ町の様子を見せてもらおうと来たのですから……。雨も上がり、晴れてきましたしね。散策にはもってこいですね」
王子はニコニコしている。
おい、うちの都合も考えろ。
と言いたいが……。王子だもんね。言えない。これも言ってはいけないやつ。どうしてこんなやつが王子なんだろう。
冷たい視線を送るが、王子はニコニコしている。
ニコニコしているけど、目が笑ってない……。こいつ、もしかしてわざとなのかも。
でも……、なぜうちに来たの? 本当に散策目的? まさか、フィリップの落書きがばれた?
私が奥をちらっと見て、セバスを確認する。セバスはブンブンと首を横に振った。
どうやらバレてないらしい。
じゃあ、私が婚約破棄されて、常日頃ぶつぶつ言っていたのがバレた? バレてないよね? そんなの知っていたら、怖すぎる……。
私は首を傾げた。
王子は笑みを浮かべている。王子は我がままおバカ説を唱えてみたいけれど……、どうやら違う感じ。なんか得体の知れない怖さがあるよ。
「あ、お姉さまの元婚約者の! そうそう、王子、アンソニー王子様だったけ?」
フィリップは無邪気を装って、王子に言葉のナイフを突き刺しにいきました。
姉の代理で先手必勝とばかりに、てへっとフィリップは笑っている。
何かあっても小さい子だから許してもらおうという魂胆でしょ。フィリップの悪意は、私にはわかるのよ。でも……、しまっておけ、その悪意。あぶないぞ。
フィリップ、気をつけるんだ! あれはボンクラ王子じゃない気がする。返り討ちに合うかもよ。
「今は大親友だよ。君はアリスの弟の……、フィリップ君かな。君はお姉さまが大好きなんだねえ」
王子は眼光は鋭かったが、笑顔のまま、フィリップを見た。
でもフィリップも負けてません。睨んでます、睨んでます。でも10歳、可愛い。好戦的な目もなかなかフィリップ、いいじゃない。
「そうねえ……。移動の禁止に引っかかるものね。見つかると罰金、それで済めばいいけど、収監とか……。恐ろしいものね」
お母さまは肩をすくめた。
「私にはマジックポケットもあるし、空間切り裂き魔法もありますから、移住したとしても、移動の禁止に引っかかることはないと思います」
「そうね、あなたはそれができるから……」
お母さまは顎に手を当てた。お母さまもいろいろ考えてくれているみたい。
「問題は住民の移動の時ですが、そちらも一応、時期や方法など考えているのですが……」
「ちゃんと考えているね。えらいわ、アリス」
お母さまはにこりと笑いました。
そうです、私はやればできる子なんです。ふふふ。
「お父さま……。これは何かあった時のための剣だ。隠し持っておきなさい」
お父さまが部屋に入ってきて、私の手に新しい短剣を握らせました。
「ええええ! 短剣!」
柄は金と銀でできており、繊細で優美の彫り物がほどこされています。鞘には同じように金と銀で彫り物がされており、サファイアを中心に宝石がちりばめられて……。刃は鋭くよく切れそうです。窓から入ってきた日差しを反射して刃がきらめきました。
「こ、この彫り物って……犬? 狼? マカミ? マカミですよね? お父さま、ありがとうございます!」
でもなあ……、これ、もったいなくて使うなんてできませんよ。マカミまで彫ってあるなんて!
しかも、美しさと言ったら……。お父さまのことだから、きっと、職人に作らせた最高級な品物なんだろうな。すいませんとありがとうで心がいっぱいです。
うん? ってことは、護身用以外の用途が、他にも何かあるってこと?
私がじっと見ていたら、お父さまは微笑んだ。
「使う機会がなければいいが、やむなく使う時があるかもしれないだろう? 常に身につけておきなさい。金がなければ売ることだってできるし、身を守ることだってできる。いざという時にきっと守ってくれるはずだ」
お父さまは私に約束するように促した。
「はい。ありがとうございます。この宝石って……」
「うちの領地で採れたものだ。この土地の護りがお前にあるように……」
お父さまは言葉に詰まっている。
私はうなずきました。
「ところで……、いつ出発するつもりだ?」
「明日か、明後日にでも……」
「早いな」
お父さまは目を伏せた。お父さまのまつ毛が濡れている。
お父さま、泣かないで。
「すいません。探査はなるべく早く、季節がよいうちに済ませたいのです」
「アリスは我々のために行くんだ。謝ることはないよ」
「……」
私の目にも涙がたまってきます。
お父さま、お母さま……。アリスは頑張ってきますから。
フィリップは私のドレスをちょっとだけ握ってきた。
「すぐ帰ってね! 約束だよ?」
フィリップの上目遣い、強烈です。お姉ちゃんがぎゅーしてあげましょうね!
あれ? 逃げないの?
珍しいね。
うう、なんだか私も寂しくなってきました。
「旦那様」
執事が部屋を激しくノックしています。
あれ? いつも冷静なセバスが若干焦っている?
「どうした?」
お父さまはセバスの様子から、ただ事ではないと感じ取ったみたい。
セバスが言いづらそうにしている。
私にはいつもずばずば言うくせに……。なんて思ってはいけませんね。
でも、なんかいやぁな予感がします……。気のせい?
「あの……。約束をしているとおっしゃっている、高貴そうな、ええ、とっても高貴そうな……、若い男性なのですが、なんといえばいいのでしょうか。お忍びのようなのです。うちの奥にあった肖像画、そっくりの方で、おそらく……」
一生懸命セバスが説明する。
「げげげ!」
ピンときた私はお母さまの顔を見た。
「はあああ」
お母さまは大きく息を吐き、お父さまは苦い顔をした。
まさか、まさかだよね。きのうの今日だよ? まだ朝、いや、もう昼に近いけど……。いやいや、そういう問題じゃなくて……、おかしくない?
私が予想しているのは、昨日の人です。勝手に友人となった人ですね。私がいなくても、たっくさんの御友人をお持ちだと思うのです。わざわざ瑕疵つきの私を選ばなくても……。
というか、ほんと、うちの領土に来なくてもいいんだけど。ついでに来るって言っていたけど、ちっともついでじゃないじゃないよ。わざと来たんでしょ。ぜったいわざだ。
「ああ、わかった。セバス、ありがとう。応対の準備を頼む」
お父さまは玄関ホールへ速足で急ぎます。お母さまもささっと御髪を直し、ブラウンに私の服を取り返させるよう命じました。
ブラウンの眼がキランとしていますよ。ええ? また着替えるの?
「ねえ、ほんとうに私、着替えるの?」
これから旅の準備をするというのにから、動きやすくて汚れてもいい服を着たのに。なんて無駄なことをしたんだ。この労力、返せといいたいですが、王子相手じゃね……。ため息が出ちゃいます。
「ほら、着替えますよ。さあさあ、急いでください。お嬢さまは、いつも手を抜き過ぎるんですよ」
ブラウンは嬉しそうに鼻歌を歌いながらクローゼットのなかを探しています。
クローゼットから来客応対用のドレスを持ってきてくれました。それでも着心地がいいやつだったので、ホッとしました。
さすが私のことをわかってる!
神業さく裂で1分で着替えます。
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ブラウンからOKがでました!
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見た? 王子、見ちゃった? セ、セーフだよね?
うーん。やっぱりフライパンとか鍋、見えちゃったよね……。ま、いっか。王子だし、どうせ何に使うかわからないでしょ。もしかしたら、フライパンってもの自体、知らないかもしれないし。だって、王子さまだもの。
うんうん、きっと大丈夫。
さて、私もサロンへ急なきゃ!
「ああ、正式なご挨拶は結構です。非公式に、ただ町の様子を見せてもらおうと来たのですから……。雨も上がり、晴れてきましたしね。散策にはもってこいですね」
王子はニコニコしている。
おい、うちの都合も考えろ。
と言いたいが……。王子だもんね。言えない。これも言ってはいけないやつ。どうしてこんなやつが王子なんだろう。
冷たい視線を送るが、王子はニコニコしている。
ニコニコしているけど、目が笑ってない……。こいつ、もしかしてわざとなのかも。
でも……、なぜうちに来たの? 本当に散策目的? まさか、フィリップの落書きがばれた?
私が奥をちらっと見て、セバスを確認する。セバスはブンブンと首を横に振った。
どうやらバレてないらしい。
じゃあ、私が婚約破棄されて、常日頃ぶつぶつ言っていたのがバレた? バレてないよね? そんなの知っていたら、怖すぎる……。
私は首を傾げた。
王子は笑みを浮かべている。王子は我がままおバカ説を唱えてみたいけれど……、どうやら違う感じ。なんか得体の知れない怖さがあるよ。
「あ、お姉さまの元婚約者の! そうそう、王子、アンソニー王子様だったけ?」
フィリップは無邪気を装って、王子に言葉のナイフを突き刺しにいきました。
姉の代理で先手必勝とばかりに、てへっとフィリップは笑っている。
何かあっても小さい子だから許してもらおうという魂胆でしょ。フィリップの悪意は、私にはわかるのよ。でも……、しまっておけ、その悪意。あぶないぞ。
フィリップ、気をつけるんだ! あれはボンクラ王子じゃない気がする。返り討ちに合うかもよ。
「今は大親友だよ。君はアリスの弟の……、フィリップ君かな。君はお姉さまが大好きなんだねえ」
王子は眼光は鋭かったが、笑顔のまま、フィリップを見た。
でもフィリップも負けてません。睨んでます、睨んでます。でも10歳、可愛い。好戦的な目もなかなかフィリップ、いいじゃない。
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