婚約破棄されましたが、もふもふと一緒に領地拡大にいそしみます

百道みずほ

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王家のご招待 4

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「アリスさま」
王妃様が私を見る。

「アリスとお呼びください。王妃様」
私は王妃様を見つめた。いい人じゃん、王妃様。こんなきれいな人が義理母だったのかもしれなかったんだね。結婚したらうまくやっていけたかもしれないなってチラッと思ってしまった。ご縁がなくて残念だけど。

「アリス……、ほんとうにごめんなさい」
「いえいえ、いいんです。大丈夫ですから(これからの人生楽しみますから)」
王妃は私の手を握った。

「こんな可愛らしい子を苦しめるなんて……」
王妃様、ちょっと王様への視線が怖いんですけど。

ほんと、婚約破棄されてムカついてはいましたが、傷ついてなどいません。アリスはこれからもたくましく生きていきますよ。

「アンソニー、あなたもこちらに来て、なにかおっしゃい」
「はい……」

何しゃべるんだろう。私たち、しゃべることないよね。
王子は黙っている。

もう婚約者でもないし、話すことなんてない。そもそも今日初めて会ったし。

きまずい空気が流れます。誰か、この空気を止めてください。

「アリス……」
うわ、なんか話す気だよ、この人。元婚約者と。黙っていればよかったじゃないか。そうしたら、親たちが気を使って終わったのに。

「はい」
「君っておもしろいよね。お菓子はお土産にあげるから心配しないでね」
お父さまとお母さまは王子の言葉に苦笑いしている。

王妃は慌てて扇子をたたみ、王子の膝をたたいた。
「失礼でしょ」
「……まあ。そうですか。ああ、そうですねえ……」
王子は上を向いて何か考えている。

「僕たち、友だちになれませんか? いい考えでしょ」
「えええええ!」
思わず顔がひきつる。
どの辺がいい考えなんでしょうか。教えてほしいんですけど。

「アリス、声に出ています」
お母さまが扇子で顔を隠して私を注意した。

いったいどうしたらいいの?
こんな会話、想定してません。
貴族会話集にも載ってない! 教わってないわ。

お母さまの顔を見るけど、お母さまは失礼に当たらないよう王妃様の顔を見ているし、お父さまを見たら、お父さまは固まっていた。

えー、縁談断ったくせに、どういうこと? ここはご縁がなかったねで終わりでいいじゃないか! 速やかにお互いの人生を保全すべく、離れるのが最善では?

「僕と、友だちはいやですか?」
王子が上目遣いで私を見た。

くそぅ、無駄にイケメンパワー使いやがって。フィリップの方が可愛いし。こんな攻撃効かないよ。

嘘です。王子ですから。断れません。
ねえ、誰か助けて。

「め、滅相もございません。もったいなさすぎて……、即答できなかっただけです。おーほほほほ」
やけくそです。史上最大のやけくそです。

「うちは何もないところですけれど……、よかったら遊びに来てください」
お母さま、ナイスアシスト! お父さまもうなずいています。さあ、貴族的ご挨拶も終わったし、帰ろう!!

「ラッセル領は王都の台所。一度自分の眼で見て見たかったのです。今後ともよき友人として仲良くしていただけると……」
社交辞令だってわかっているはずなのに、王子はしれっと返してきます。

お父さまもお母さまも絶句です。私だって社交辞令ってわかるよ。
「そうですか……」
次の言葉が言えません。

「近々そちらのほうへ伺う予定があるので、寄っても構いませんか」
王子はさらに話をすすめる。

「まあ、そんなに突然言ったら、ご迷惑よ」
王妃が王子を止めた。

「アンソニー王子、よ、喜んで歓迎します」
お父さまはニコニコ笑って応対してます。もしかして、お父さまもやけっぱちですか?

王子だし、あちらも社交辞令ですよ。きっと、どうせ、たぶん来ないと思ってますよね。王都から遠いし。

「行くときはお忍びでまいりますので、平常通りで……お願いしますね。そうだ、アリスにはラッセル領の町を案内してほしいな」

おい、なぜ貴様がアリスと呼ぶ。私は許可した覚えはないぞ。どうして右に首をかしげて、可愛らしさを演出しとるんだ。私は騙されないぞ。
お父さまもお母さまもお忍び宣言をきいて、驚いている。

ほんと、絶対、王子は来ませんから、大丈夫ですよ。だって、王子ですからね。お忙しいでしょうし。来ないでくださいね。よろしくお願いします。

ううん? なんか廊下がガヤガヤしている。
大きな声でガハハハッ言っているこの声は……。
そして、このパターン。私は知っています。まさかね……。

「ロドニエル王、王さま!……」
ばーんとドアを開け放ち、見知らぬ女性がご登場しました。妖精のように華奢な方です。

後ろには副教皇とカトリーヌさまもいらっしゃる。うわぁ、来ちゃったよ、この人たちも……。

「なんですか、突然。きょうはリリアーヌ様をご招待したつもりはございませんけど」
王妃がブリザード攻撃。先手です。

「王様。リリアーヌ、寂しくってきちゃった」
リリアーヌ様は王妃の攻撃をかわして、王へラブラブ攻撃。

王はリリアーヌが駆け寄ってきたのでうれしそうに抱きしめた。
リリアーヌ様……、王のご寵妃。

でも、王妃の前でそれやるの? ひどくない? わざとだよね。

リリアーヌ様、初めて見ましたよ。
小さな顔に黒いつぶらな瞳、赤い唇、黒く長い髪はくるんくるんとしたくせ毛で、エキセントリックな雰囲気で可愛いらしい……。

リリアーヌ様の魅力は、王様に遺憾なく発揮されていて、王様はデレデレです。リリアーヌ様の雰囲気だから許される、カラフルでど派手なご衣装……。王様の残念なファッションセンスの持ち主はリリアーヌ様のセンスだったのね。

「王妃様、これは手厳しい。失礼は私に免じてご容赦を。こちらに婚約破棄されたはずの御令嬢、アリスさまがいらしゃっているということなので、私たちといっしょにリリアーヌもはせ参じた次第です。実はアリス殿とは、きのうカトリーヌが友達になりまして……、アリス様は悪女という噂を聞いてましたが、ほんとうはとってもいい子なのとカトリーヌが言うものですから」
副教皇が王様の顔を見た。

王様、にやりと悪い顔をしています。
うわあ、いやな感じ。もしかして私を陥れようとしてます? 私、悪女なんですか? 悪役なんですか?

というか、いつ、私カトリーヌ様と友達になりました? とてもいい子って、どこからの目線でしょうか。

これは社交辞令でしょうか。もう私にはまったくわかりません。

お父さま、お母さま。アリスは疲れました。キャパシティを超えました。
もう魂の抜け殻です。帰るとき、お声をかけて、連れて帰ってくださいまし。

リリアーヌ様がべたべたと王様の手を触ると、王はリリアーヌ様の腰を抱きました。
「もう、それはあ・と・で!」
リリアーヌ様がうれしそうにたしなめると、王様は満面の笑みです。

こら、何が「あ・と・で!」なんだよ。
私でも突っ込みたくなりました。部屋の中は大変微妙な空気になっております。

王妃はすくっと立ち上がった。
「もう、ご公務のお時間でしょ。ご退出なされた方がよろしいんじゃありませんか」
王に向かって王妃様はあきれたように言い、王とリリアーヌ様を追い出してしまいました。

これで少しは混乱が落ち着くかと思ったら……。
副教皇とカトリーヌ様は堂々と居座って、お茶をメイドに要求していました。

あんたらも帰っていいですよ。もう信じられない。どうしてそんなにずうずうしいの。いや、この場合、私が帰るべき? うーん、私は招待されてるから、やっぱりあっちがご遠慮するべきよね。

「ああん、王子さま~ん。おひさしぶりです」
カトリーヌ様が甘い声で王子に近づくと、王子は一歩下がります。

「昨日もお会いしましたね……」
王子、にこやかに否定します。
「そんな……。一日もお会いできなかったんですよ。私、寂しくて」
カトリーヌ様が手を近づけようとすると、王子はそっと手を払います。

こわ! なにこれ。恋愛する人たちは、こんな攻防戦をしているの? びっくりです。

というか、こんなにあからさまに王子から嫌がられても、カトリーヌ様はまったく気にしていないのですか。すごくメンタル強い。

感心してしまいました。あれぐらい神経がないと、恋愛はできないのかもしれません。私には無理無理。

王子が私を見ますが、私は何もできませんからね。
ほら、元婚約者ですし、悪女ですから、私に期待しないでください。
私のことは、いないものとして、ほおっておいてくださって結構です。

「実は、アリスと僕は友だちになったんだ。とても仲がいいんだよ」
王子はわざとらしいキラキラ笑顔で、カトリーヌ様に私を紹介します。

いえいえ、王子と友だちじゃありませんのよ。仲良しでもなんでもないですから。カトリーヌ様、睨まないで!

ほんと、ほんとうに、何の関係も一切ございませんから。私のことなど気になさらず。
私はプルプルと小さく首を横に振って全否定しました。

「実は私たちもお友達ですの。意気投合しましたのよ」
カトリーヌ様も攻めます。

お父さま、私、帰りたいです。もうおうちに帰ろう。
お父さまをちらりと見ると、お父さまは副教皇に教会の窮状を訴えられていて、うんざりの御様子。

お、お母さま。頼みの綱はお母さまです。ここはバシッと帰りましょうと言ってください。

お母さまを確認すると……
お母さまは王妃様の愚痴を聞いておりました。
どんなお茶会だよ。大混乱だよ。

王子にもカトリーヌ様にも私たちお友達じゃありませんと言えたら……、どんなにスッキリするでしょう。でも、言ったら貴族社会での立ち位置なくなるから……。言えない。言えない。貴族社会で私、抹殺されちゃうから。
うっすらと笑うしかできない私。

もういいや。お菓子でも食べよう。もうマナーとか気にしないことにします。くちに物が入っていれば、しゃべらなくてもいいし、聞いてなくても仕方がありませんよね。

ここのお菓子、食い尽くしてやる!

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