上 下
7 / 83

跡継ぎは弟へ。だってわたしにはむかないもの

しおりを挟む
「やはり、これ以上の教会税も領地税も払うのはきついな」

屋敷で過ごすいつものリラックスした服に着替えたお父さまは眉をひそめている。

そこ、皺になるよ、お父さま。イケオジの皺は素敵だからいいけど、でも老けて見えちゃうかもよ。

お父さまはお母さまの肩に手を置いた。
「あなた……」
お母さまはお父さまの手を握った。

お父さまはきょうも王都に行っていたみたい。かわいそうに、目の下に青黒いクマができている。お母さまは心配そうに見つめた。

ここのところ毎日王と教会に別々に呼ばれて、話し合いを進めているんだって。

私は王さまと教会と貴族政治は苦手。お父さまもお母さまもすごいと思う。

だから、可愛らしいけれど、少し腹黒い弟の方が公爵は向いていると思うのよ。でも、私が長女だから、私が継ぎたいなら私でもいいってお父さまもお母さまもフィリップも思っているみたい。

私が継いでいい理由として、君子危うきに近寄らずの性質が素晴らしいからってお父さまが言っていたけど。

なんかちょっぴり悪意を感じるのは気のせいかしら。
よく言えば、危機察知能力が高いってことかしら。

でも、領地をさらに発展させるとか、中央と一緒に政治に関わるとか、そんなは私にはできないと思うの。

だから、婚約破棄された今、なんとか自活の道を探らなきゃいけない。

王都へ行って研究所に入るか、うちの領地のどこかに研究所を建てるか。そのあたりが無難だと考えてる。お父さまに折を見て話そうとは思っているんだけど。

「もし教会税や領地税を今以上に払ったら、領地の運営に支障が出ると主張したが、あいつらは聞く耳を持たない。うちの領地で農作物の大不作が起きたらどうするつもりなんだ。品物が流通しなくなったら、王都はたちゆかなくなるだろうと言っているのに……。目先の金と権力に取りつかれている」
お父さまがはああああと大きく息を吐いた。

「そうですよ。教会も王も何を考えているのでしょう」
お母さまは慰めた。

「そうしたら、奴ら、なんて言ったと思う? 金を稼げる方法はいくらでもあるだろうだというのだ」

「まあ……」
お母さまもあきれ顔。

「王都に品物を送らず、他国への輸出を増やせってことだろうか。金がすべてと言うなら……。でもこの国のためにならないとわかっているのに自らそれをやるのは気が引ける」
お父さまは悲しそうにつぶやいた。

教会や王様が新たに徴収しようとしている税金って、ちょっとおかしいの。うちでは払えないわけじゃないけど、払っちゃうと冬の厳しい時期とか、変な病気がはやった時の町の体力がなくなってしまう。予備費とか医療費とかにあてる分がなくなるの。

食料も備蓄はしているから、教会や王へ納めることはできるけど、全部納めてしまったら飢饉が起きた時の対処ができなくなってしまう。

それに、教会や王の要求に屈したら、あと何度増税されるかわからない。
だからお父さまは必死に抵抗してる。

町の人たちもお父さまたちを応援してるけどやきもきしてるみたい……。相手が悪い。だって教皇様と王様だよ。どうにかならないものかねえ。

教皇様も王様も、絶対太っていて、背が低くって、極悪人面で油でテカったような顔をしているんだよ、きっと。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...