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ホームレス殺人事件
ホームレス殺人事件11『打切』
しおりを挟む再開発地区の立ち入り禁止エリアに立ち入る許可を得た優斗は、現場の状況を改めて確認するため、朝から現場を歩き回っていた。
取り壊されずに残っている古い家屋や、いまだに人が住むアパートを一軒一軒見て回り、わずかな手がかりを探していた。
「速水さんがこの場所に何を残したのか…。必ず見つけてみせる。」
優斗は自分にそう言い聞かせながら、廃墟となった家々を注意深く観察していた。
彼の頭には、速水が隠したと言われる証拠の存在が常にちらついている。
だが、探せば探すほど、その手がかりは霧の中に隠されているかのように見つからない。
そんな時、ポケットの中のスマートフォンが振動し、大沢課長からの着信が表示された。
優斗は周囲を見渡し、少し人気のない場所に移動して電話に出た。
「優斗、今どこにいる?」大沢の声はいつも以上に鋭く、焦りの色を帯びている。
「再開発地区にいます。現場をもう一度調べて…」
「すぐに署に戻ってこい。お前に報告しなければならないことがある。」
その言葉に、優斗の心臓が一瞬止まるような感覚を覚えた。
報告しなければならないこと。
嫌な予感が胸をよぎるが、彼はそれを振り払うように深く息を吸い込んだ。
「わかりました。すぐに戻ります。」
優斗は電話を切ると、すぐに再開発地区を後にし、警察署へ向かって車を走らせた。
---
捜査本部に到着すると、大沢課長はいつもの会議室ではなく、自室で待っていた。
彼の顔にはいつになく険しい表情が浮かんでいる。
優斗がドアをノックし、中に入ると、大沢は書類を手にして立ち上がった。
「課長、何があったんですか?」
大沢は黙って優斗に手で椅子を勧め、自分もデスクの前に座り直した。
そして、手にしていた書類を優斗の前に差し出した。
「優斗、今しがた、ある男が出頭してきた。名前は高橋信也。薬物中毒者だ。彼が速水聡と藤原の殺害を自供した。」
その言葉に、優斗は言葉を失った。
信じられないという表情を浮かべたまま、書類に目を落とす。
そこには、薬物依存の前科を持つ男のプロフィールが記されている。
「高橋信也が…?なぜ彼が…?」
大沢は重い口調で続けた。
「彼の自供によると、再開発地区で速水と藤原に出会い、些細な口論がエスカレートして、二人を殺害したと言っている。動機は、肩がぶつかったぶつからないという些細な喧嘩が発端だそうだ。」
「そんな馬鹿な…。速水さんも、藤原も、そんな理由で殺されるような人じゃない!そもそも、あの二人が一緒にいたなんて、今までそんな話は出ていなかったはずです!」
優斗の声は強い反発を示していたが、大沢は手を挙げてそれを制した。
「お前の言いたいことは分かる。だが、上からの指示で、この男の供述を基に捜査を終わらせるようにという命令が下りた。捜査本部も解散しろということだ。」
「そんな…」
優斗は椅子から立ち上がり、大沢を睨みつけた。
「あの事件にはもっと大きな陰謀が絡んでいるはずです!速水さんが残した証拠、楽譜に隠されたメッセージもまだ解読できていないのに、なぜここで捜査を打ち切るんですか!」
大沢は深くため息をつき、疲れた表情で優斗を見た。「俺だって、お前の言うことは理解している。だが、これは俺たちの手に負えるものじゃない。お前にこれ以上深入りさせるわけにはいかないんだ。」
「課長…」
優斗は言葉を失い、力なく座り直した。
ここまで来て、手を引かなければならないという理不尽さが、彼の心を蝕んでいく。
「俺たちにできるのは、今のところこれが限界だ。だが、諦めるな。今は情報を集め続けろ。俺たちが動ける状況になるまで、絶対に止まるな。」
大沢はそう言いながら、優斗の目をじっと見つめた。
優斗はその言葉の裏にある意図を理解し、ゆっくりと頷いた。
「わかりました、課長。でも、俺はあきらめません。速水さんと藤原の無念を晴らすためにも、必ず真実を突き止めます。」
大沢はわずかに微笑み、優斗の肩を軽く叩いた。
「それでいい。だが、気をつけろよ。お前一人じゃ手に負えない相手だ。」
優斗は深く頭を下げ、課長室を後にした。
廊下を歩きながら、彼の心には、怒りと無念、そして強い決意が渦巻いていた。
「打ち切りだと…ふざけるな。俺は絶対に諦めない。」
優斗は再び拳を握りしめ、速水が残した真実を追い求める決意を新たにした。
その背後で、大沢は複雑な表情を浮かべながら、そっと窓の外を見つめていた。
---
つづく。
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