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資産家令嬢誘拐事件
資産家令嬢誘拐事件12『再会』
しおりを挟む麗子は美夏を抱きかかえ、無事に救出したものの、胸に広がる重い違和感を感じていた。
美夏を母親のもとへ連れて帰る道中、彼女の目はどこか遠くを見つめ、心からの喜びが感じられない。
麗子は美夏が無理に笑おうとしているのを見逃さなかった。
やがて、美夏の母親が駆け寄ってくる。
「美夏……無事でよかった……!」
母親の涙に濡れた声が響き渡る。
美夏は母の腕に抱かれながらも、表情は硬いままだ。
「お母さん……」
その一言に込められた感情は、再会の喜びというよりも、何か抑えたもののように麗子には感じられた。
「美夏ちゃん、無理しなくていいのよ」
麗子はそっと声をかけるが、美夏はそれに対して首を振るだけだった。
二人の再会は感動的であるべき場面だが、父親の不在が影を落としているのは明らかだった。
麗子は何か根深い問題がまだ残っていることを直感的に感じたが、その思いを言葉にすることはできなかった。
---
一方、警視庁では佐伯の取り調べが始まっていた。
優斗は深い緊張感を抱えながら取調室に入った。
佐伯は椅子に腰かけ、静かに優斗を見つめていた。
彼の目にはどこか達観したような冷たい光が宿っている。
「佐伯、すべて話してもらうぞ」
優斗は毅然とした声で問いかける。
佐伯は少し笑みを浮かべ、首を傾げる。
「すべて話します……それが私に残された最後の誠意ですから」
佐伯は深いため息をつき、静かに語り始めた。
「私は、かつて経営者としての成功を夢見ていました。しかし、思った以上に資金繰りが悪化し、会社は倒産寸前だった。あのとき、私は絶望の中で、田中一夫という男に出会いました。」
彼の声は淡々としていたが、その中には隠しきれない悔恨がにじんでいた。
「田中一夫は投資家として有名だった。私は、どうにか彼に会う機会を得て、泣きついた。彼に1億円の融資を頼んだ……いや、泣きすがったんだ。それで一時的に会社を持ち直せたかのように見えた。しかし、再び経営は行き詰まり、今度は完全に追い詰められた」
佐伯の手が震え、彼はその手をぎゅっと握り締める。
「伊豆急下田駅で田中一夫と再会し、別荘で話し合った。そこで……決裂したんだ。田中は、あの時にこう言った。『君のような無能に金を貸したことが、私の人生最大の過ちだ』……その一言が、私の中の何かを壊した」
優斗は静かに聞きながらも、心の中で強い怒りが沸き起こっていた。彼の拳も自然と固く握りしめられる。
「私はカッとなって、田中を殺してしまった。そして、彼の遺体を別荘の裏山に埋めた。誰にも見つからないように……」
佐伯の声は震え、後悔と狂気が交じり合っていた。
「その後、奇跡的にヒット商品が出て、会社は持ち直しました。しかし、私は一生、この秘密を背負って生きることになったんです。犯人が伊豆急下田駅と、わかばを指定した時に確信しました。わかばは田中と寄った場所です。それで犯人は田中の息子だと……。しかし警察には……話せませんでした。」
優斗はその言葉を聞き、田中勝也が父親の復讐を果たそうとしていたことを痛感した。
彼の胸には、複雑な感情が渦巻いていた。
佐伯の告白がすべて明らかになった今、真実が明らかになることで、何かが救われるのか――その答えはまだ見えない。
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捜査本部に戻った翔は、佐伯の供述を聞きながら、パソコン画面に映し出された美夏の資料をじっと見つめていた。
「……どういうことなんだ……」
翔は小さくつぶやきながらも、まだ一つだけ気になる点があった。
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そして、田中が銃を突きつけた時の冷静な美夏の表情……物語はまだ完全に終わっていない。
「佐伯の供述は重要だが、もう少し深く探らなければならないことがある。」
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続く
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