リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴

文字の大きさ
上 下
33 / 53
資産家令嬢誘拐事件

資産家令嬢誘拐事件9『告白』

しおりを挟む


 薄暗い別荘の中、佐伯は椅子に座り、冷たい汗を額から流していた。

 目の前の椅子の上には小さなモニターが設置され、そこに映るのは自分自身。

 犯人が別荘に仕掛けたカメラが、佐伯の姿を映し出していた。

「佐伯、罪を告白しろ。お前が何をしたか、全てだ。ネット中継は始まっているぞ。」
 モニター越しに、犯人の冷酷な声が響く。

 佐伯は背筋を凍らせながら、画面に映る自分の顔を見つめた。

 まさか、このような形で自分の罪が暴かれることになるとは――。

 彼は目の前のモニターに、信じられない現実が映し出されていることを受け入れるしかなかった。

 別荘に仕掛けられたカメラが、全ての様子を捉えていた。

 しかも、それはただの映像ではなく、生中継。

 犯人はネットを通じて、この告白を全世界に配信している。

「告白しろ……さもなければ、娘の命はない。」

 その声が再び響く。

 佐伯の手は椅子の肘掛けを強く握り締め、呼吸が浅くなっていた。

 犯人の意図は明白だった――。
 佐伯に自らの過去を白日の下に晒させ、その罪を世界中の人々に見せつけること。

 佐伯は葛藤していた。

 告白すれば、全てが終わる。

 家族も、会社も、自分の人生そのものが崩壊するだろう。

 しかし、告白しなければ娘の命は――。

 彼の頭の中はその二つの選択肢が激しくぶつかり合い、冷静な判断を失いかけていた。


 ---

 その頃、ネット上では中継が始まったことで、視聴者たちがざわつき始めていた。

 佐伯の告白とは何なのか、誰もが固唾を飲んで見守っている。

「これって佐伯会長じゃ www」

「まさか誘拐事件の裏で……」

「どういうこと? www」

 コメント欄は炎上し、疑念や驚きの声が次々と投稿されていく。

 まるで、この瞬間を楽しんでいるかのように、世間は佐伯の告白に注目していた。


 ---

「佐伯、時間がないぞ……白状しろ!」

 モニター越しに犯人の冷酷な声が再び響いた。

 佐伯は震える手で口元を押さえ、重い声で口を開いた。

「……私は、罪を犯しました……」

 その言葉を口にした瞬間、佐伯の全身から力が抜け落ちた。

 彼は長年隠してきた罪を、とうとう告白する決断をしたのだ。

「20年前……私は、経営が破綻しかけていた時、ある人物から1億円の運転資金を借りました。しかし、返済の目処が立たず、私はその人物を……殺しました。その遺体は、この別荘の裏山に埋めた……」

 その告白がモニター越しに流れ始めると、ネット民の反応はさらに過熱していった。

 コメント欄は瞬く間に炎上し、佐伯への非難と驚愕の声が広がっていく。


 ---

 一方、優斗は車の中でハンドルを握りしめながら、猛スピードで別荘に向かっていた。

「優斗、今すぐモニターを確認しろ。佐伯が罪を告白している。映像が配信されているんだ……」
 翔からの緊急連絡が入る。

 優斗はハンドルを切りながら、車のモニターに目を移した。

 そこには、苦悩する佐伯の姿が映し出されていた。

「……私はあの時、他に選択肢がなかった……」
 佐伯の震える声が車内に響き渡る。

 その声には、深い後悔と罪の意識がこもっていた。

 彼はこれまで築き上げてきた成功の裏に、血のような罪が存在していたことを隠していた。

 だが、今、その全てが暴かれようとしていた。

「……だが、その後、私はヒット商品を開発し、会社は急成長した……すべて、あの1億がなければありえなかったことだ……」

 モニター越しに映る佐伯の表情は、悲痛だった。

「……彼とは、伊豆急下田駅で待ち合わせし……わかばという喫茶店で一息ついてから、この別荘に来て……私は……」

「……そういうことか。」
 佐伯の言葉に、優斗はさらにアクセルを踏み込んだ。

 佐伯がこのような形で全てを告白するとは想像もしていなかったが、それ以上に、美夏の命が危険にさらされていることが気になっていた。

「人質の利用価値がなくなるとまずい。急がないと……」

 優斗は歯を食いしばりながら、車を別荘に向かって車を疾走させた。


 ---

 つづく


 ---


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

処理中です...