リモート刑事 笹本翔

資産家令嬢誘拐事件

資産家令嬢誘拐事件２『信号』

「スマホの電源は完全に切られている……」

　優斗は、苦い表情で美夏のスマートフォンの信号を確認していた。

　犯人は徹底的に用意周到だ。

　痕跡を残さないように、スマホの電源は切られ、他の電子機器の使われた形跡もない。

　時間が過ぎれば過ぎるほど、美夏の命は危険にさらされる。

　その時、佐伯健二が声を上げた。

「待て……もしかしたら、まだ使えるかもしれないものがある……」

　佐伯は、ふと美夏が小学生だった頃のことを思い出していた。

　あの頃、心配性だった彼は、美夏にGPS内蔵のキーホルダーを持たせていたのだ。

　鍵に付けておくタイプで、万が一の時のためにと渡していたものだ。

「鍵に付いていたGPSキーホルダー……もしかしたら、まだ持っているかもしれない」

　優斗はその言葉にハッとし、すぐに翔に連絡を取った。

「翔さん、佐伯さんから重要な情報です。美夏さんが持っていた鍵にGPSキーホルダーが付いていたかもしれないそうです。小学生の頃から使っていたもので、もし今も使っているなら位置情報が確認できるかもしれません。調べてもらえますか？」

「GPSか……その可能性は大きいな。すぐにアクセスしてみる」

　翔はすぐにリモートでGPSデータを追跡する準備を始めた。

　時間との勝負だ。

　誘拐から数時間が経ち、犯人が居場所を変えている可能性も高い。

　優斗は手元のメモを確認しながら、心の中で祈るような気持ちだった。

「どうか……頼む、まだ使えていてくれ……」


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　数分後、翔から連絡が入った。

「優斗、反応があった。GPSはまだ動いている。位置を特定した……」

「どこですか？」

「廃工場だ。都心から少し外れた場所にある古い工場の中だ。すぐに座標を送る」

　優斗は心臓が跳ねるのを感じた。

　ついに美夏の居場所が判明した。

　しかし、それは同時に新たな危険を意味する。

　犯人は何らかの理由でこの場所を選んでいるはずだ。

　慎重に動く必要がある。

「ありがとう、翔さん。すぐに特殊犯捜査係に連絡を入れます。」


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　捜査本部は一気に慌ただしくなった。

　美夏の居場所が判明したことで、警察はすぐに特殊犯捜査係（SAT）を投入することを決定した。

　優斗も現場に向かう準備を整え、廃工場に急行することとなった。

「時間がない……」

　犯人がこの事実に気づけば、美夏の命が危険にさらされる可能性がある。

　優斗は自分を落ち着かせようとしながらも、スリリングな展開に胸が高鳴っていた。

　だが、焦りは禁物だ。

　冷静に、慎重に動かなければならない。


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　廃工場の入り口で、特殊犯捜査係の突入準備が整えられていた。

　現場は古く錆びついた鉄骨と荒れ果てた施設が広がり、長い間使われていないことが一目でわかる。

　優斗は工場を見つめながら、次の指示を待っていた。

「翔さん、現場に着きました。中の様子はわかりますか？」

「内部のカメラはないが、周辺には動きがない。おそらく、犯人は美夏さんと共にここに潜伏しているはずだ。捜査員の準備が整い次第、慎重に突入を開始した方がいい」

　優斗は特殊犯捜査係の隊長に目を向け、合図を送った。突入まであとわずか――。

「必ず助け出す……」

　優斗は強く心に誓い、作戦の開始を待った。


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　つづく


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