リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴

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資産家令嬢誘拐事件

資産家令嬢誘拐事件1『誘拐』

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「佐伯美夏が行方不明になった。」

 その報せが警視庁に届いた瞬間、捜査一課全体が一気に緊張感に包まれた。

 外食チェーン「グリル佐伯」の創業者、佐伯健二の娘美夏が、中学校帰りに突然姿を消したという。

 この事件はすぐに大きな社会的な反響を呼びそうだ。

 優斗は、急いで現場に向かうよう指示を受けると、車に飛び乗った。

 走りながらスマートフォンを手に取り、リモートで捜査をサポートしている翔に連絡を入れる。

「翔さん、優斗です。誘拐事件です。佐伯健二の娘、美夏が学校からの帰りに姿を消しました。周辺の防犯カメラの映像を確認できませんか?」

「優斗、すぐに調べる。現場の位置は?」

「住宅街です。カメラの数は少ないですが、いくつか確認できると思います。現場に着き次第、詳しい位置を伝えますが、先にできる範囲でチェックしてもらえますか?」

「了解。すぐに周辺をスキャンする。現場に着いたら追加情報を送ってくれ」


 ---

 捜査チームと現場に到着した優斗は、周囲を見渡し、すぐに防犯カメラの位置を確認した。

 暗い住宅街で、街灯の光がぼんやりと道路を照らしている。

 特に争った痕跡は見当たらず、静かな夜の中に不穏な空気が漂っていた。

「翔さん、防犯カメラの位置を確認しました。いくつかありますが、微妙な位置です。」

「優斗、いくつかの映像を確認したが、映っている車のナンバープレートは隠されている。どうやら意図的に隠したようだ」

「計画的な犯行ですね……他に何か映っていますか?」

「車の側面にロゴのようなものがぼんやりと映っている。工事車両のロゴに似ているが、まだ不鮮明だ。他のカメラ映像も確認しているが、手がかりは少ない」

「了解しました。引き続き、調査をお願いします」

 優斗は奥歯を噛んだ。犯人は計画的に動いている。

 美夏が狙われた理由が金銭目的なのか、他の動機なのかはまだわからない。

 しかし、これほど周到に動いている以上、何か目的があるのは確実だった。


 ---

 佐伯家の居間は、緊張感と沈黙に支配されていた。

 佐伯健二は、スマートフォンを手に握りしめ、深く思い悩んでいた。

 娘が消えたという現実をまだ受け入れきれていない様子だった。

「美夏……一体どこに……」

 佐伯の声はかすれていた。

 彼の頭を過るのは、自分の過去だった。

 成功を掴むために手を染めた黒い影。

 それが娘の身に降りかかっているのではないか――そんな恐怖が彼の心を締め付けていた。

 その時、スマートフォンが震えた。

「……!」

 佐伯は一瞬息を呑んだ。画面には、短いが恐ろしい内容が表示されていた。

「娘は預かっている。警察に話せば、命はない。」

 そのメッセージは、佐伯を奈落の底に突き落とした。

 冷たい汗が流れ、心臓が狂ったように脈を打つ。

 どうするべきか。犯人の指示に従うのか――選択肢が頭の中でぐるぐると回る。

 手が震えながらも、佐伯は覚悟を決め、優斗に伝えた。


 ---

「刑事さん……犯人から連絡が来た……メールに……」

 佐伯の声は震えていた。

 優斗はすぐに落ち着いた声で答えた。

「佐伯さん、落ち着いてください。内容を見せてください」

「『娘を預かっている。警察に話せば命はない』と……どうすれば……」

「大丈夫です。警察はすでに動いています。娘さんを救い出すために、私たちが全力で対応します」

 優斗は佐伯をなだめ、すぐにその内容を捜査本部に報告した。

 そして、再び翔に連絡を入れる。

「翔さん、犯人から連絡が来ました。メールで『警察に話せば命はない』と。発信元を追跡できそうですか?」

「時間稼ぎのための常套手段だ。プロキシを使っているだろうが、できる限り追跡してみる。少しでも手掛かりを掴む必要がある」

「急いでください。犯人は次の指示を送る前に、こちらの動きを封じ込めようとしている可能性があります」

「わかっている、優斗。全力で解析する」


 ---

 その夜、捜査本部は緊張した空気に包まれていた。

 優斗は翔の解析を待ちながら、美夏がどこかで無事であることを祈るように考え続けていた。

 犯人の目的はまだ見えてこない。

 その時、佐伯のスマートフォンが再び震えた。

 画面に表示されたのは、またもや犯人からのメッセージだった。

「金を用意しろ。次の指示は明日、夕方に送る。警察に話せば娘は戻らない。」

 短く、冷酷なメッセージ。
 佐伯は再び動揺したが、すぐに優斗に伝えた。

「私はどうしたら……警察に知らせるなと言っているが……」

 優斗はその場で即答した。
「犯人はこちらを牽制しているだけです。私たちが必ずお嬢さんを救い出します。」

「……頼む、どうか犯人を刺激しないでくれ……」

 佐伯の声は震えていたが、警察の手に委ねるしか選択肢がなかった。


 ---

 優斗はすぐに捜査チームに状況を報告し、次の行動を打ち合わせた。

 犯人は明日の夕方にさらなる指示を送るつもりだ。

 その時間までに、どれだけ多くの情報を集められるかが事件解決の鍵となる。

「翔さん、明日の指示までに犯人の足取りを掴めますか?」

「やるしかない。明日までに必ず何か手掛かりを掴む」

 優斗は翔の言葉に深く頷き、犯人との次の攻防に向けて動き出した。


 ---

 つづく


 ---
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